さらば、わが愛/覇王別姫(はおうべっき)の紹介:1993年香港映画。リー・ピクワーの同名小説を原作とし、1920年代から70年代に渡る中国の激動の歴史を京劇の古典「覇王別姫」を演じる二人の役者の視点から描いた超大作です。第46回カンヌ国際映画祭で最高賞のパルムドールを受賞。2008年には日本でも東山紀之主演で舞台化されています。
監督:チェン・カイコー 出演者:レスリー・チャン(程蝶衣)、チャン・フォンイー(段小楼)、コン・リー(菊仙)、リゥ・ツァイ(關師傅)、グォ・ヨウ(袁四爺)、ファン・フェイ(老師爺)、トン・ディー(張公公)ほか
映画「さらば、わが愛/覇王別姫」ネタバレあらすじ結末と感想
映画「さらば、わが愛/覇王別姫」のあらすじをネタバレ解説。予告動画、キャスト紹介、感想、レビューを掲載。ストーリーのラストまで簡単に解説します。
さらば、わが愛/覇王別姫の予告編 動画
映画「さらば、わが愛/覇王別姫」解説
この解説記事には映画「さらば、わが愛/覇王別姫」のネタバレが含まれます。あらすじを結末まで解説していますので映画鑑賞前の方は閲覧をご遠慮ください。
さらば、わが愛/覇王別姫のネタバレあらすじ:起
1925年、中国・北京。当時まだ9歳だった少年・小豆子(マー・ミンウェイ)は娼婦をしている母(ジアン・ウェンリー)に連れられ、孤児や貧しい子供たちが預けられる京劇俳優養成所へとやってきました。小豆子は指が6本ある多指症であり、行ったんは入門を断られますが、母は小豆子の指を切断すると我が子を捨てるようにして置き去りにしていきました。
小豆子は同じような境遇の子供たちと共に虐待にも等しい過酷な修行の日々を送ることになります。子供たちから娼婦の子と言われていじめられる小豆子を庇ってくれたのは子供たちのリーダー格であった小石頭(フェイ・ヤン)でした。やがて小豆子は小石頭に恋愛感情ともとれる想いを抱くようになっていきました。
ある時、過酷な日々に耐えかねた小豆子(イン・チー)は仲間の小癩子(リー・ダン)と共に養成所から脱走しました。折しもこの日は京劇の人気役者が北京に公演のため訪れており、小豆子は小癩子と共に芝居を観に行き、すっかり魅力されて再び役者を目指す気持ちが湧いてきました。しかし、養成所に戻った小豆子と小癩子を待ち受けていたのは、二人の脱走を許したとして師匠から激しい体罰を受ける小石頭らの姿でした。小豆子は自ら願い出て小石頭らの代わりに壮絶な体罰を受けますが、その一部始終を目の当たりにした小癩子は恐れをなして稽古場で首吊り自殺を遂げてしまいます。
さらば、わが愛/覇王別姫のネタバレあらすじ:承
時は流れ、女形として徹底的に鍛え上げられた小豆子は“”程蝶衣”(レスリー・チャン)、小石頭は“段小楼”(チャン・フォンイー)という芸名を名乗り、舞台『覇王別姫』 で共演し一躍大好評を博しました。しかし終演後、蝶衣は芝居好きな金持ちの老人に慰み者とされてしまいます。その帰り道、蝶衣は捨て子の小四(リー・チュン)を拾って養成所へと連れ帰りました。
やがて蝶衣と小楼の演じる『覇王別姫』は北京の人々から深く愛され、二人は名実共に人気役者への道を歩み始めました。そんな時、小楼は遊郭で見初めた女郎の菊仙(コン・リー)と婚約しますが、小楼への秘めた想いに加えて菊仙が自分を捨てた母と同じ娼婦出身であることから蝶衣は激しい嫉妬心を抱き、また蝶衣の小楼への想いに気付いていた菊仙も彼に敵意を抱くようになりました。蝶衣は自分と同じく同性愛者である京劇界の重鎮・袁四爺(グォ・ヨウ)を頼り、小楼との関係は悪化していきました。
さらば、わが愛/覇王別姫のネタバレあらすじ:転
1937年。日中戦争は激化の一途を辿り、やがて北京は日本軍の占領下となりました。蝶衣の妖艶ぶりは日本軍の将校をも魅了しましたが、小楼は楽屋に乱入してふざけていた日本兵と喧嘩となり逮捕されてしまいます。菊仙は蝶衣に小楼と離別することを条件に、蝶衣を気に入っている日本軍将校の青木(チー・イートン)に取り入るよう懇願、引き受けた蝶衣は将校らの前で歌と踊りを披露、その甲斐あって小楼は釈放されました。小楼は日本軍に取り入った蝶衣を許せず、菊仙と結婚して蝶衣とのコンビを解消しました。小楼は一度は完全に芝居の世界から離れるも、賭博に夢中になり、かつての舞台衣装も売り払う程の堕落した生活を送っていました。やがて役者としての再起を決断した小楼はアヘンに溺れていた蝶衣と和解、二人で再び養成所の門を叩き、芝居の世界に舞い戻りました。それから程なくして師匠は他界、養成所は解散となり子供たちはそれぞれの実家に戻っていきました。蝶衣は捨て子のため帰る家のない小四(レイ・ハン)を弟子に迎えました。
やがて日中戦争は日本の敗戦に終わり、北京は中華民国軍の支配下となりましたが、小楼ら舞台関係者は中華民国兵の態度に腹を立てて乱闘沙汰となり、小楼の子を身籠っていた菊仙は流産してしまいます。
さらば、わが愛/覇王別姫の結末
中国は中華民国と共産党(後の中華人民共和国)との対立が激化、共産党思想に染まった小四は時代に合わせたモダンな演劇スタイルを志向、伝統を死守する蝶衣と対立するようになっていきました。やがて中国全土に文化大革命の嵐が吹き荒れ、小四はトップスターへと駆け上がる一方で京劇は堕落の象徴として弾圧され、失望した蝶衣は自らの衣装を燃やしてしまいます。やがて蝶衣と小楼は共産党員によって広場に引きずり出され、民衆から恥辱を浴びせられてしまいます。心の折れてしまった小楼は蝶衣が日本軍に招かれていたことなどを批判、二人は互いに罵り合いの口論となり、遂には菊仙が娼婦だった過去をも暴かれ、小楼は心ならずも愛していないと口走ってしまいます。その直後、全てに絶望した菊仙は婚礼の衣装を身にまとって首吊り自殺を遂げました。
文化大革命の嵐が過ぎ去った1977年。11年ぶりに再会を果たした蝶衣と小楼は学校の体育館を訪れ、二人だけで『覇王別姫』を演じ始めました。全てが終わった後、蝶衣は小楼が腰に差している剣を抜き、これまで自らが演じてきた劇中の虞美人と同様に自らの喉を突き刺しました。驚いた小楼は小さな声で「小豆」と呟きました。
以上、映画「さらば、わが愛/覇王別姫」のあらすじと結末でした。
「さらば、わが愛/覇王別姫」感想・レビュー
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こんばんは!この映画若いときにレンタルで見たんですが、内容がよく分からなくてもうすぐ4K版が公開するので今度は解説を読んでから視聴したいと思いアクセスさせていただきました!
大スクリーンでの視聴が楽しみになりました!
アジアの映画で、これほどダイナミックで、圧倒的な美しさと力強さを持った作品を私は知らない。
物語は、1920年代から70年代にかけての中国の時代背景とともに、京劇の名作「覇王別姫」を演じる女形で同性愛者の蝶衣と、男役の小楼、それに元娼婦の小楼の妻を通して、愛と憎しみを正面から描いた大作だ。
この映画は、何よりもカメラワークが素晴らしい。構図や色彩は勿論、その鮮烈で生き生きとした画面の動きが、作品に稀有の躍動感を与えている。
そして女形の、当時人気絶頂だったレスリー・チャンと、中国のトップ女優コンリーなど、出演者たちの魅力も特筆に値する。
同性愛の方は、これを見てレスリー・チャン演じる蝶衣の苦悩と嫉妬、孤独と愛に特に深く共感されるのではないだろうか。
物語を簡単に書くと、娼婦をしている母親が、9歳の少年蝶衣を京劇の俳優養成所に連れてくる。少年は指が6本ある多指症のため、入門を断られるが、母親は無理やりその指を一本切り落とし、養成所に置いていってしまう。
養成所では毎日想像を絶する厳しい訓練が行われていたが、その中で少年蝶衣は、男らしい少年小楼に何かとかばわれ、面倒を見てもらい、いつしか愛情に似た気持ちをいだいていく。
やがて大人になった2人はコンビを組み、京劇「覇王別姫」で大成功を収める。
しかしその直後、蝶衣は金持ちの老人に犯されてしまう。
2人の「覇王別姫」は、北京で大人気を得たにもかかわらず、この頃から小楼は芝居と実生活を切り離して考えるようになり、遊女である菊仙(コンリー)を妻にめとる。
蝶衣が激しい嫉妬に苦しんだことは言うまでもない。
やがて日中戦争、そして共産党の台頭、文化大革命へと変化していく時代の中で、日本軍の将校との関わりや、文化大革命の中での紆余曲折など、3人の愛と憎しみ、菊仙の流産、周りの人々との関わりとドラマが綴られていく。
いつか、激動の時代が過ぎ去り、平和がやってくるのだろうか。
この映画は、決して日本を悪く描いていないところにも好感がもてたし、こうした映画は、今の時代、もはや言論統制が厳しすぎてとても作れないと思う。
またいつか、こうした名作を作れる時が来るのだろうか?
カンヌ映画祭でパルムドールを受賞した。
同じアジアの名作という意味では、オススメの1本です。