天国と地獄の紹介:1963年日本映画。黒澤明監督の「野良犬」以来の刑事もの。エド・マクベインの「87分署シリーズ」のひとつである「キングの身代金」を大胆に脚色した。前半は会話中心の室内劇、後半はロケーションを活かした犯人追跡と、はっきりした二部構成となっている。
監督:黒澤明 出演:権藤金吾(三船敏郎)、戸倉警部(仲代達矢)、竹内銀次郎(山崎努)、ほか
映画「天国と地獄」ネタバレあらすじ結末と感想
映画「天国と地獄」のあらすじをネタバレ解説。予告動画、キャスト紹介、感想、レビューを掲載。ストーリーのラストまで簡単に解説します。
映画「天国と地獄」解説
この解説記事には映画「天国と地獄」のネタバレが含まれます。あらすじを結末まで解説していますので映画鑑賞前の方は閲覧をご遠慮ください。
天国と地獄のネタバレあらすじ:1
丘の上のモダンな邸宅。そこにナショナル・シューズの重役たちが集まっています。全員、現社長の方針に反対しており、彼らの考えた新しい靴の試作品を前にクーデターの相談をしているのです。邸宅の主である権藤金吾も同じ重役ですが、同僚とは考えが違い、品質を保った丈夫な靴を売らなければダメだ、と主張。試作品をバラバラにしてしまいます。重役たちが帰った後、権藤は秘書の河西に5000万円の小切手を持って大阪にゆくよう命令。
天国と地獄のネタバレあらすじ:2
実は権藤は自社株を密かに買占めて、次の株主総会で自分が経営の実権を握る計画でした。そこへ電話がかかってきます。権藤が出ると、「あんたの子供を誘拐した」と若い男の声。しかし、権藤の息子はちゃんと邸宅にいます。すると、住み込み運転手の青木がやってきて「私の息子を知りませんか?」。どうやら相手は権藤の息子と間違えて年格好の似た青木の息子をさらったらしいのです。相手は「それでもいい」と言い、やはり権藤に身代金3000万円を払うように要求します。現金はあるのですが買い占めのためであり、株を手に入れられないと会社を追われる羽目になり、身の破滅です。
天国と地獄のネタバレあらすじ:3
困った権藤は警察を呼びます。変装の上コッソリと邸内に入った刑事たちは続いての電話のやり取りを聞いてとりあえず権藤に現金を払うように言いますが、当然権藤は拒否。しかし、河西が裏切って重役へと事情を知らせてしまったため、身代金を支払うことに結局同意します。権藤と刑事たちは犯人の指示に従い、特急こだまに。車内でさらに電話がかかってきて、途中の鉄橋のところで金の入った鞄を落とせと言われます。指示通りに鞄を落とす権藤。青木の息子は無事に帰ってきますが、犯人は捕まらず、金は戻りません。警察の公開捜査が始まります。電話の録音から特徴のある電車の響きを聞き出し、場所を特定しますが、そこへゆくと共犯らしい男女が死んでいます。
天国と地獄の結末
二人ともヘロイン中毒者でした。警察は罠をかけ、共犯者は生きていると嘘を発表。さらに犯人に身代金の入った鞄を処分するように仕向けますが、その鞄には特殊な加工が施されていたため、燃やして出た煙に色がついていて、ようやく犯人の居所がつかめます。警察が目星をつけたのは、インターンの竹内銀次郎という男。警察はあえて竹内を泳がせ、さらに殺人を起こさせようとします。それによって確実に彼を死刑にするつもりなのです。竹内は麻薬中毒患者を殺し、生きていると思わせた共犯者のアジトへ来たところを逮捕されます。収監された竹内は権藤と面会。彼の丘の上の邸宅をいかに憎らしいと思っていたかを告白します。
「天国と地獄」感想・レビュー
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若き日の仲代達矢や山崎努といった俳優の方が観られるのも面白いです。黒澤明監督の映画を観たことがない人にも、初めて見る黒澤映画としておすすめです。身代金を受渡す用に用意されたカバンには仕掛けがされてあり、犯人を突き止めるために燃やすと色のついた煙が出るようになっているのですが、白黒映画でもそのシーンの煙の部分だけピンク色に加工されており、見る人をひきつける工夫がされています。
レンタルビデオで何回か観ました。
今観てもおもしろい、ということにまず驚きます。
次に、三船敏郎という役者の存在感が驚きです。
映画の中でこんなやりとりがあります。妻が「身代金を払ってあげて。貧乏になってもいいから」と言うと、三船演ずる権藤は「お前は貧乏を知らないからそんなことを言うのだ」となじります。ここまで、特に権藤が成り上がり者だという説明はないと思いますが、しかし、映画の最初から、この権藤という男は成り上がり者だと感じます。それは三船敏郎という役者が放つ存在感そのものです。セリフだけを聞くと、大根役者にすぎないのに、どうして黒澤監督が三船を主役に使ったのかといえば、そういったケモノのような野性的な存在感があるからだろうと思います。