アメリカの夜の紹介:1961年イタリア映画。映画タイトルの『アメリカの夜』(原題:DAY FOR NIGHT)とは、かつてハリウッドが開発した撮影技法であり映画表現です。映画フィルムの感度がまだ鈍く、夜景の光をカメラで映し撮れなかった時代、カメラレンズに特殊フィルターをかぶせ、昼間の風景を疑似夜景として撮影したことからはじまります。そんな時代のハリウッド映画をフランソワ・トリュフォー監督がリスペクトしたタイトルです。物語は「グランドホテル形式」。映画づくりの現場に集う人たちを裏側から細かく描写し、言うに尽くせぬ面白さでその綾を織りこみます。少年期・思春期をパリの映画館で過ごしたフランソワ・トリュフォー監督の、いわばハリウッド映画へのオマージュともいえる作品です。1973年アカデミー外国語映画賞受賞作品。
監督:フランソワ・トリュフォー 出演:フランソワ・トリュフォー(監督フェラン)、ジャン・ピエール・レオ(男優アルフォンス)、ジャクリーン・ビゼット(女優ジュリー)、ジャン・ピエール・オーモン(男優アレキサンドル)、ヴァレンティナ・コルテーゼ(女優セブリーヌ)ほか
映画「アメリカの夜」ネタバレあらすじ結末と感想
映画「アメリカの夜」のあらすじをネタバレ解説。予告動画、キャスト紹介、感想、レビューを掲載。ストーリーのラストまで簡単に解説します。
映画「アメリカの夜」解説
この解説記事には映画「アメリカの夜」のネタバレが含まれます。あらすじを結末まで解説していますので映画鑑賞前の方は閲覧をご遠慮ください。
アメリカの夜のネタバレあらすじ:起
地下鉄駅まえの広場です。秋の陽ざしを浴びて行き交う人々。スーツ姿の若い(ジャン・ピエール・レオ)男が地下鉄の駅から出てきます。広場を歩き出した男の視界に、年嵩の男(ジャン・ピエール・オーモン)が現われます。身なりの行き届いた紳士です。紳士は若い男に気づかずに舗道を歩いてきます。ふたりが知り合いだとわかります。その途端、若い男が紳士の顔へいきなり平手を上げました。
「カット!」。監督(フランソワ・トリュフォー)の声が大きく響くと、広場を歩く通行人、街の人たちの間からため息が漏れました。広場全体が見渡せます。クレーンカメラが宙を舞う様子から、一見して映画の撮影だということがわかります。しかし監督は、このカットがお気に召しません。スタッフや俳優、エキストラは、「やれやれ」と、仕切り直しの準備にかかります。
いまニースのビクトリーヌ撮影所では『パメラを紹介します』の撮影が行われています。パリからこの地へ乗りこんできた監督、俳優をはじめ撮影隊は、現地のホテルへ泊まりこんで合宿生活を送っています。
一日の撮影が終わると、すぐに翌日の撮影の準備にかかる者、緊張感を和らげようと気晴らしを求める者、各々オフの過ごし方は様々ですが、監督のフェランにとって「映画製作とは駅馬車の旅にも似ている、日一日と期待は消え、目的地にたどり着くことだけが目的になる」ようです。
アメリカの夜のネタバレあらすじ:承
さらにフェランは続けます。「映画監督とは、あらゆる人間たちから質問を浴びせられる人種である」と。事実、ホテルから撮影所の試写室へ行くまでの間に多くのスタッフがフェランに声をかけてきます。進行係、大道具係、小道具係、制作主任・・・、彼らの求める答えは監督が持っています。これが映画監督の毎日です。枚挙にいとまがありません。
試写室です。現像されたばかりのラッシュフィルムが映写機にかけられています。スタッフたちはそれぞれ自分のポジションから撮り終えたシーンを見つめます。そこへ、パリの現像所から急報です。地下鉄駅前の群衆シーンが現像所の停電でNGになったと。試写室に暗雲が垂れこめます。金のかかるシーンをふたたび撮影しなければならなくなりました。
出演俳優たちの内情もしだいに明かされます。アルフォンスの両親役のアレキサンドルとセブリーヌ(ヴァレンティナ・コルテーゼ)は、幾度か映画で共演し、私生活も共にしたことのある元ハリウッドスターです。また、パメラ役の女優でハリウッドスターのジュリー(ジャクリーン・ビゼット)は精神科医の夫を従えての出演です。その他の俳優たちもスネに傷を持ちながら、輝かしい装いで傷をひた隠しての出演です。
アメリカの夜のネタバレあらすじ:転
フランスの映画人らしく、撮影現場での恋愛が絶えません。俳優のみならず、撮影の最中の心労を和らげるためか、若いスタッフにとって、恋愛は一服の清涼剤になっています。主演男優のアルフォンスも、結婚相手と目するスプリクターの尻の軽さに翻弄される毎日です。テスト中もスプリクターが気になって仕方なく、男好きのする相手への嫉妬心を抱え身もだえします。
撮影は順調に進んで行きますが、アルフォンスはイギリス人スタントマンに女を寝盗られます。アルフォンスの落胆は大きく、母親役のセブリーヌが撮影現場を去る日も、部屋にこもったまま送別の席に現れません。恋人役のジュリーが気を揉むと、気をよくしたのか、今度はジュリーに懐いてきます。
しかしアルフォンスは映画の製作現場にうんざりしたらしく、「映画よりも人生だ」と言って荷物をまとめ始めています。「それだけはだめ!」と、ジュリーは映画の完成までは絶対に留まるよう、アルフォンスを引き留めます。
すでに深夜です。このままアルフォンスが去ってしまったら、映画の完成さえ危ぶまれ、監督やスタッフの苦労が水の泡となりかねません。フェラン組の一員として映画製作に情熱を注ぐジュリーは一計を案じることになりました。
アメリカの夜の結末
翌朝、ジュリーは自室に戻りませんでした。アルフォンスの部屋で一夜を共に過ごしたのです。自らが持つ精神の不安定さを乗り越えつつある彼女は、かつての自分に重なるアルフォンスの精神の脆さをよく理解できています。女に捨てられたアルフォンスを母性で包みこむように、ジュリーは一夜の情事に彼を導き、文字通り体を張って彼の離脱を防ぐ手段に出たのでした。
ジュリーの仕組んだ絵空事だとはついぞ考えることなく、アルフォンスはその朝、起き抜けのベッドの上から電話でジュリーの夫へ事実を打ち開けます。驚いたジュリーの夫は、折り返しジュリーに電話をかけてきますが、ジュリーの精神状態はその後、悪化します。事の経緯を知ったアルフォンスは撮影現場から逃亡を企てます。
イギリスに帰国していたジュリーの夫ネルソン博士がジュリーを救いに現れた日、アルフォンスは逃亡先からスタッフに連れ戻され撮影は再開されました。
監督のフェランは、主演男優と主演女優の間に起きたこのできごとを冷静に見つめ、劇中の男女間のセリフとして巧みに活かします。やがて悲劇『パメラを紹介します』は大団円を迎えます。映画の結末にアメリカの夜(=デイフォーナイト)の技法を取り入れ、映画づくりの現場ならではの喜ばしくも悲しい幕を閉じることになりました。
以上、映画「アメリカの夜」のあらすじと結末でした。
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