チャイナタウンの紹介:1974年アメリカ映画。フィルム・ノワールを現代に蘇らせたポランスキー監督の傑作。ロバート・タウンの書いたオリジナル脚本はハードボイルド作家ロス・マクドナルドからの強い影響を受けたもので、アカデミー賞脚本賞を受賞した。
監督:ロマン・ポランスキー 出演:ジャック・ニコルソン(ジェイク・ギテス)、フェイ・ダナウェイ(イブリン・モーレイ)、ジョン・ヒューストン、バート・ヤング、ペリー・ロペス、ほか
映画「チャイナタウン」ネタバレあらすじ結末と感想
映画「チャイナタウン」のあらすじをネタバレ解説。予告動画、キャスト紹介、感想、レビューを掲載。ストーリーのラストまで簡単に解説します。
チャイナタウンの予告編 動画
映画「チャイナタウン」解説
この解説記事には映画「チャイナタウン」のネタバレが含まれます。あらすじを結末まで解説していますので映画鑑賞前の方は閲覧をご遠慮ください。
チャイナタウンのネタバレあらすじ:1
1937年のロサンゼルス。私立探偵のジェイクは今日も調査結果を顧客に報告していました。今回の客はある中年男。彼は妻の浮気現場の写真を見せられて落ち込みます。彼を元気づけて送り出し、次の客を迎えます。イブリン・モーレイと名乗ったその女性は、夫であるホリスの身辺調査を依頼。ホリスはロサンゼルス市の水道局の主任技師です。早速ジェイクは彼を尾行。ホリスは灌漑用水路を眺めたり、一人の老人と口論したりしています。そして若い女性と会ってキスも。ジェイクはそのキス現場の写真を撮ります。依頼主に渡したその写真は翌日の新聞に載せられ、スキャンダルに。そしてある美しい女性がジェイクを訊ねてきて、自分こそ本物のイブリン・モーレイだと言います。同じ名前を名乗った前の女性とは全くの別人です。
チャイナタウンのネタバレあらすじ:2
ジェイクは自分が騙された事に気づきます。改めてホリスに会って事情を聞こうとしますが、彼はその前に放水溝で溺死していました。さらに調査をすすめる中、水道局で何かおかしな動きがあることがわかります。毎夜灌漑用の水が捨てられて、土地が干上がっているのです。陰謀があることを証明するように、調査中のジェイクはチンピラに脅され、鼻を切られます。それにもめげずにホリスの周辺を洗うと、彼は妻の父親であるノア・クロスという人物とかつて共同事業を行っていた事が判明。ジェイクはノアと会います。ノアはジェイクがホリスを尾行していた時口論をしていた相手でした。
チャイナタウンの結末
ノアに絡んでイブリンと何度か会っているうち、ジェイクは彼女と親密に。そして事件の事情も分かってきます。ノアは郊外の土地を買い占めていて、ホリスに命じてその砂漠地への灌漑用の水路を作らせることで大儲けを狙っていたのです。ホリスはその不正に反対して結果的に消されたのでした。おまけにノアは実の娘であるイブリンを十数年前にレイプ。彼女に自分の子供を産ませていました。ノアの手から逃れるためにイブリンはメキシコに逃げ出そうとしますが、警官が誤射してしまいます。彼女の乗った車のドアを開けると、イブリンは死んでいました。
以上、映画「チャイナタウン」のあらすじと結末でした。
“レイモンド・チャンドラー、ロス・マクドナルドへのオマージュを込めたハードボイルド探偵映画の傑作「チャイナタウン」”
この映画「チャイナタウン」の舞台となっている1930年代のロサンゼルスは、アメリカ社会が東海岸から西海岸へと発展の波を広げて行った時期に、太平洋岸最大の近代都市を形成しつつありました。
だが、そうした急速な膨張の反面には、かなりの無理がまかり通って来るもので、当然の事ながら、そこには不当な利権や醜い政治的な裏取引が蔓延して来ます。
この映画はそのような時代背景の中に、それぞれの数奇で不条理な宿命とでも言うべき運命を背負って、哀しみの中で生きる人間たちの苦悩、葛藤をスリリングに、尚且つドラマティックに描いています。
レイモンド・チャンドラー、ロス・マクドナルドという二人のハードボイルド・ミステリー作家へのオマージュを込めて、しかも、ロバート・タウンのオリジナル脚本によって、それまでのどの映画よりも1930年代のロサンゼルスのハードボイルド探偵映画らしく映画化されていて、複雑で錯綜する話の内容をハードボイルド的なサスペンスでたたきこんでゆくので、一時たりとも画面から目が離せません。
ストーリーや当時の風俗やしぐさが、それらしいだけではなく、この映画製作に携わった人々は、”ハードボイルド的世界の精神”をきちんとつかんでいるし、主役の過去を秘めた虚無的な私立探偵ギテスを演じるジャック・ニコルソンの”シニシズムと人間臭さ”がまた映画好き、探偵小説好きにはたまらない魅力があります。
そしてロバート・タウンは、ジャック・ニコルソンとは長年の親友で、彼を念頭に置いてこの脚本を書いたと言われるだけに、ジャック・ニコルソンの魅力を十二分に引き出していると思います。
この映画は、1930年代のロサンゼルスの陽光きらめく太陽の底に淀む、退廃的なムードと虚無感に満ちた、陰湿な世界が展開されていますが、脚本のロバート・タウンは、そのレイモンド・チャンドラー的ハードボイルドの世界を見事に再構築していると思います。
監督は「戦場のピアニスト」、「ローズマリーの赤ちゃん」の名匠ロマン・ポランスキーで、彼は1933年生まれのポーランド系ユダヤ人で、第二次世界大戦中にその子供時代を過ごし、母親をナチスの強制収容所で失うという、悲惨で哀しいトラウマを抱えた過去を持っています。
「私の最も辛かった時期は子供時代である。—-ドイツ兵がゲットーを一掃した頃から、私は肉体的苦痛と恐怖のギリギリを味わって来たのだ。—-そして私は人生の早い時期に、政治的思想を持ち行動にも参加した。だが私は信じられないような多くの失望を味わった」と語る彼の言葉は、この映画の持つ”戦慄と人間不信”の背景となっているような気がします。
そして彼の妻は、彼の子を身籠ったまま、狂信的なヒッピーに惨殺されたあの女優のシャロン・テートであり、その恐ろしい事件の地、ハリウッドに再び戻ってこの映画を撮りました。
彼はこの映画に冷酷な殺し屋の一人として特別出演していて、存在感のある演技も披露しています。
この映画はラストの30分の思いがけない意表を衝く結末については、これは有名な話ですが、監督のポランスキーと脚本のロバート・タウンで意見が分かれ、ポランスキーの主張する不幸な結末でなければ、この映画のテーマが台無しになってしまうという意見が通り、この結末になったそうですが、やはりラストはこの結末以外には考えられません。
警察も手が出せない政財界の大物であるクロス(ジョン・ヒューストン)が、「時と所を得れば人間は何でも出来るのだよ」という神をも恐れぬセリフは、ポランスキー監督の人間不信の言葉でもあるような気がします。
このクロスを「マルタの鷹」等のハードボイルド映画の監督でもあるジョン・ヒューストンが、実に憎々しげでアクの強い人間像を演じて見事です。
そして、クロスの娘であり、また女でもあるという”複雑で哀しい宿命を背負い、妖気と虚無的で退廃感の漂う”人妻イブリンを演じるのが、フェイ・ダナウェイで、彼女が十字架として背負う哀しい宿命は、彼女の左の緑の瞳の中の小さな黒点として象徴されています。
彼女の瞳の中にその黒点を認めた時、共に暗く哀しい過去を持つギテスとイブリンは宿命の糸に結ばれます。
しかし、その愛はほんの束の間で、急速に回転し出した運命の歯車は、一気にカタストロフィへ突き進んで行きます。
車でロサンゼルスから逃れ去ろうとするイブリンを背後から撃った警官の銃弾が撃ち抜いたのは、彼女の左目である事を我々観客は見落としてはいけないと思います。
映画の題名である”チャイナタウン”が、この映画の舞台になるのは、この最後の10分程の短いラスト・シークェンスにすぎませんが、なぜ、このチャイナタウンを映画の題名にしたのかという事を考えると、”チャイナタウン”は、アメリカの街の中の異境であり、迷路のようなこの街の中に、ポランスキー監督は、ポーランドでのゲットーと同じ安らぎを見出し、併せて、自分の妻のおぞましい惨劇を引き起こしたアメリカへの批判をしているとしか思えてなりません。
紙屑が舞い、野次馬が去って行く薄汚いチャイナタウンの夜のシーンは、哀しさと怒りを込めた、静かな中にも深く、優しさに溢れた名ラストシーンだと思います。
なおこの映画は、1974年度の第47回アカデミー賞の最優秀オリジナル脚本賞を受賞し、同年の第32回ゴールデン・グローブ賞の最優秀作品賞、最優秀監督賞、最優秀主演男優賞、最優秀脚本賞を受賞し、同年の英国アカデミー賞の最優秀監督賞、最優秀主演男優賞、最優秀脚本賞を受賞し、同年のニューヨーク映画批評家協会及び全米批評家協会の最優秀主演男優賞を受賞しています。