クラウドアトラスの紹介:2012年アメリカ映画。6つ異なる時代とストーリーを生きる一人の男性が、悪人から時を経て地球の人々を救う人物へと変わっていく様を描いた群集劇。登場人物はそれぞれの時代で別々の人物を演じており、彼らが繰り返し巡り合うことによって起きる奇跡が壮大なスケールで描写される。独特の世界観や数多くの名優の起用で話題となり、エンドロールの映像の中で、それぞれの俳優がどの時代にどんな人物を演じていたかが分かる仕掛けになっている。
監督:トム・ティクヴァ、ラナ・ウォシャウスキー、アンディ・ウォシャウスキー 出演者:トム・ハンクス(ヘンリー・グース、ダーモット、ヴァリーズマン・ザックリー ほか)、ハル・ベリー(ルイサ・レイ、メロニム ほか)、ジム・ブロードベント(ヴィヴィアン・エアーズ、ティモシー・キャベンディッシュ ほか)、ジム・スタージェス(アダム・ユーイング、ヘジュ・チャン ほか)、ほか
映画「クラウドアトラス」ネタバレあらすじ結末と感想
映画「クラウドアトラス」のあらすじをネタバレ解説。予告動画、キャスト紹介、感想、レビューを掲載。ストーリーのラストまで簡単に解説します。
クラウドアトラスの予告編 動画
映画「クラウドアトラス」解説
この解説記事には映画「クラウドアトラス」のネタバレが含まれます。あらすじを結末まで解説していますので映画鑑賞前の方は閲覧をご遠慮ください。
クラウドアトラスのネタバレあらすじ:起
1849年、アメリカの弁護士であるアダム・ユーイング(ジム・スタージェス)は奴隷貿易の契約を終えて帰港する途中で、寄生虫の病にかかります。そんな中、彼らの乗った船で密航していた奴隷のオトゥアが現れ、助けを求められた彼は、船長に頼み込み、彼を水兵として働かせることに成功します。その後、アダムの医師であるヘンリー・グース(トム・ハンクス)は、金に目がくらんで彼を毒殺しようとしますが、オトゥアが助けたことで一命をとりとめ、奴隷に対する考えを改めます。故郷に帰ったアダムは、奴隷商人の義父と決別し、最愛の妻と共に奴隷解放運動に身を投じるのでした。1931年、作曲家の卵でゲイの青年ロバート・フロビシャー(ベン・ウィショー)は、大作曲家であるヴィヴィアン・エアーズ(ジム・ブロードベント)の採譜係として雇われます。彼の家で見つけた「弁護士アダム・ユーイングの航海日誌」を愛読書としていた彼は、やがて自分の交響曲を作り始めますが、エアズは才能溢れる彼の全てを奪おうとします。これに激怒したフロビシャーは誤って銃でエアズを撃ってしまったため、警察から追われる身になってしまいますが、その中でやっと「クラウド・アトラス六重奏」を完成させます。そして、恋人の男性に遺書を残し、拳銃自殺してしまうのでした。
クラウドアトラスのネタバレあらすじ:承
1973年、物理学者となったかつてのフロビシャーの恋人は、ひょんなことからゴシップ記者のルイサ・レイ(ハル・ベリー)と出会います。彼は、自分が従事している原子力発電所の欠陥を告発しようと、ルイサに報告書を託そうとしますが、不正が暴かれることを恐れる企業側が雇った殺し屋に射殺されてしまいます。かろうじて、彼が肌身離さず持っていたフロビシャーからの遺書を手にしたルイサは、殺し屋に追われますが、彼の姪であるメーガンから報告書を手に入れたことにより企業の不正は明るみになりました。2012年、編集者であるティモシー・キャベンディッシュ(ジム・ブロードベント)は「ルイサ・レイ事件」という新人作家の原稿を持っていました。キャベンディッシュの出版元の作家であるダーモットは、自らの出版パーティーで、彼を酷評する批評家を殺してしまったことで一躍、時の人となり、ダーモットの小説がベストセラーになります。大儲けしたキャベンディッシュでしたが、ダーモットの舎弟から金銭を要求されてしまい、悩んだ末に双子の兄で富豪のデニーに助けを求めます。しかし、デニーの企みにより、彼は暴力が常態化している老人介護施設に入所させられてしまいました。看護師の暴力に耐えかねた彼は、施設の仲間と共に車で施設から脱走することに成功し、その後、自伝小説「キャベンディッシュの大脱走」を書き上げました。
クラウドアトラスのネタバレあらすじ:転
2144年、純血種の人間が遺伝子操作で作られた人間のクローンを労働力として扱う時代。クローンであるソンミ451(ペ・ドゥナ)は、同僚に誘われて「キャベンディッシュの大災難」という映画を鑑賞し、自らの置かれている境遇に疑問を抱きます。ある日、逃げようとした同僚が殺され、ソンミを守ろうと革命家のヘジュ・チャン(ジム・スタージェス)が現れ、ソンミを外に連れ出します。彼から、かつて解放されたはずのクローン仲間たちが、実はその後すぐに殺されてクローンたちの食料になっている事実を知らされた彼女は、チャンら革命家たちと共に政府軍と戦いますが、遂に捕らえられ、処刑されてしまいます。
クラウドアトラスの結末
2321年、文明が崩壊した島ではソンミを女神として崇めていました。人食い族に仲間を殺されたヴァリーズマン・ザックリー(トム・ハンクス)はある日、「昔の人」の技術を持つプレシエント族のメロニム(ハル・ベリー)に出会います。地球の汚染による人類滅亡を防ぐために、地球外コロニーへの救難信号を発信すべく、現地の人々が恐れて近づかない「悪魔の山」のガイドを探していた彼女は、ザックリーの姪の病を治すことを条件に、ザックリーをガイドにします。無事に救難信号の送信を終え、村に帰ったザックリーは、人食い族に襲われて壊滅状態になっている村の惨状を見て絶望しますが、生き延びた彼の姪とメロニムに助けられ、3人でプレシエント族の施設へと向かいます。そして25年後の2346年、地球から遠く離れた惑星で、ザックリーとメロニムは、子供たちに囲まれて仲睦まじく暮らしているのでした。
「クラウドアトラス」は6つの時代を繋ぐ壮大な叙事詩を映像化した貴重な作品となっている。個人的には、S・キューブリックの「2001年宇宙の旅」やD・リンチの「デューン/砂の惑星」のような重厚で荘重な作品を期待していた。しかし壮麗なオペラにしてしまうとワーグナーの楽劇の様に一般受けせずに興行的なリスクが増すであろう。アクションシーンが満載で適度にコメディ調であるからこそ映画ファンを飽きさせないと言うことになっているのだ。時間(或いは時代)に関する概念が循環的(円環的)時間論に基づいており、転生輪廻などチベット仏教やニーチェの思想に影響されている点が如何にも現代的だ。時空は何処までも広がるがみな繋がっており、時間は循環し人間の営みは延々と繰り返される。キリスト教的世界観を否定したニーチェと、多神教的宇宙論を基軸としたチベット密教が世界的なトレンドの一つになっている。西欧社会における市場原理型資本主義や株主資本主義へのアンチテーゼとして仏教的な概念が導入されたのであろう。トム・ハンクスお得意の七変化がこれでもかと炸裂してお腹いっぱいになる一方で、ハル・ベリーの可愛さも安定しているので見どころは満載である。複数のストーリーの膨大な数のシーンを繋げて一つの作品に仕上げた点は高く評価できる。好き嫌いや賛否はあれど、「よくぞここまで頑張った!」っと労いの言葉を掛けてあげたい。