アニタ~世紀のセクハラ事件~の紹介:2016年アメリカ映画。「歴史を変えたたった一人の声」というコピーで、1991年にアメリカで実際に起きたクラレンス・トーマス判事のセクハラ事件を題材にした社会派ヒューマンドラマです。スターチャンネルのTVムービーで、ジュリア・ロバーツにオスカーをもたらした『エリン・ブロコビッチ』(2000年)の脚本家スザンナ・グラントが脚本を担当し、当時大きな論争を巻き起こした事件を丁寧に描きあげた作品です。
監督:リック・ファミュイワ 出演:ケリー・ワシントン(アニタ・ヒル)、ウェンデル・ピアース(クラレンス・トーマス)、グレッグ・キニア(ジョー・バイデン)、ジェフリー・ライト (チャールズ)、トリート・ウィリアムス(テッド・ケネディ)、グレイス・ガマー(ケネディ議員の秘書)、ほか
映画「アニタ 世紀のセクハラ事件」ネタバレあらすじ結末と感想
映画「アニタ 世紀のセクハラ事件」のあらすじをネタバレ解説。予告動画、キャスト紹介、感想、レビューを掲載。ストーリーのラストまで簡単に解説します。
映画「アニタ 世紀のセクハラ事件」解説
この解説記事には映画「アニタ 世紀のセクハラ事件」のネタバレが含まれます。あらすじを結末まで解説していますので映画鑑賞前の方は閲覧をご遠慮ください。
アニタ~世紀のセクハラ事件~のネタバレあらすじ:1.発端
1987年7月1日、アメリカ合衆国大統領ロナルド・レーガンは、最高裁判所陪席判事にロバート・ボークを任命しました。しかし、これに対して世論は賛成派と反対派に二分され、激論となりました。そして議会指名選挙でレーガン大統領の指名承認は否決されてしまいました。
1989年1月20日、レーガンに変わり、ジョージ・ブッシュが大統領に就任しました。
そして、1991年6月27日、1967年に黒人初の最高裁判事となったサーグッド・マーシャルが高齢のために引退を表明しました。これを受けて、ブッシュ大統領は1991年7月1日、最高裁判事に黒人のクラレンス・トーマスを指名しました。トーマスは南部の貧困家庭に育ち、マーシャルの偉業の恩恵を受けた人物でした。しかし、この指名に世論は再び、賛成派と反対派に二分されました。
アニタ~世紀のセクハラ事件~のネタバレあらすじ:2.告発
1991年9月10日、テッド・ケネディ上院議員の補佐官リッキー・サイドマンに1本の電話がかかってきました。それはトーマスがかつて部下を不当に扱っていたという件でした。その当事者とは、オクラホマ大学法律学教授のアニタ・ヒルという黒人女性でした。アニタは、かつての上司トーマスが最高裁判事に指名されたことを、内心苦々しく思っていました。世論と共に議会も二分されていましたが、トーマスの承認はほぼ間違いない状況でした。
そして、トーマスの公聴会の初日、アニタが公聴会でのトーマスの様子をテレビで観ていた時でした。一本の電話がアニタのもとにかかって来ました。それはサイドマンからでした。トーマスの経歴調査をしていると言うサイドマンに、アニタは「公聴会は始まってる。調査は手遅れでは?」とサイドマンに告げました。そんなアニタにサイドマンは、過去にトーマスから不当な扱いを受けなかったかと問いましたが、アニタはサイドマンに「私なら、嫌な思いをした被害者にこう助言する。名乗り出ない方がいい。こんな状況で名乗り出た人は、被害者なのに悪者にされる」と答えました。サイドマンは「最高裁の決定は、この先、女性の権利に大きな影響を与えます」とアニタに言い、彼女の証言を引き出そうとしました。アニタはテレビで堂々とスピーチするトーマスを観ながら、暫し考えました。そしてアニタは「委員会のためだけに話す。公表はしないで。政治的な発言として扱うのもやめて」と言い、サイドマンに自分が受けた不当な扱いをサイドマンに語り明かしました。
このアニタの証言を聴いたサイドマンは、すぐさま上司にあたるジョー・バイデン上院議員の補佐官キャロリン・ハートに「彼女はセクハラを訴えている」と言い、調査の依頼を訴えました。ハートはサイドマンの熱意に押される形で、バイデンに相談しました。バイデンはFBIに調査を要請しました。
翌日、アニタは「ホワイトハウスに連絡が行くなら、誤解がないように自分の言葉で伝えたい」と言い、自分がトーマスから受けたセクハラの実態を「宣誓供述書」として文書にし、ハートにFAXしました。ハートはそのFAXの文面を読み、息をのみました。その頃、FBIがトーマス、アニタの所に事情聴取にやって来ました。トーマスにとっては寝耳に水の出来事で、全く身に覚えがないと言う彼は、大きなショックを受けました。妻も支援者の議員も「これは政治的茶番」「セクハラのイメージは誰も気にしない」とトーマスをなだめますが、トーマスは「私は気にする。私はケネディと違い、黒人なんだ」と憤りました。
アニタの「宣誓供述書」は瞬く間に議員やマスコミに流布しました。そして、10月6日、アニタが訴えたトーマスのセクハラ事件が、マスコミによって報道されました。様々な物議が醸し出される中、この身に覚えのないアニタの訴えにトーマスは、反論の「宣誓供述書」を書き、アニタへの徹底抗戦の構えに出ました。マスコミではトーマス擁護派の人物たちのコメントが取り上げられ、アニタは不利な立場に追い込まれていきました。あらぬ噂まで流されたアニタは記者会見を開き、マスコミで一方的に流されている情報に対して、反論の意をしっかりと示しました。
アニタ~世紀のセクハラ事件~のネタバレあらすじ:3.泥仕合
その真摯なアニタの記者会見での姿は、世論を動かし、トーマス判事のセクハラ疑惑への怒りの電話が上院議員のもとに殺到しました。数少ない女性下院議員たちも声を挙げ、投票日を延期してトーマス判事の再調査と公聴会を開くように動き始めました。これを機に、当初、トーマス承認はほぼ確定していましたが、それは危うい状態に陥っていきました。こうした状況の中、トーマス承認派の議員たちも世論を無視することができなくなり、投票を延期して再度公聴会を開き、票をしっかりと獲得することにしました。トーマスは渋々、これを受諾しました。
トーマスが承諾したことにより、再度、公聴会が開かれることになりました。訴えを起こしたアニタも、その公聴会への出席を要請されました。それはアニタが政治的泥仕合の舞台に出ることになり、彼女が望んでいた形ではありませんでした。アニタは困惑しながらも、公聴会に出席することを決意しました。アニタは自身が選んだ親交の篤い人物を選び、対策チームを作り、ワシントンへと乗り込みました。既にワシントンでは、アニタを誹謗中傷する嫌がらせのロビー活動が動き始めており、アニタにとっては悲劇的な状況に陥っていました。
アニタの対策チームには、優秀な法律専門家で同じ黒人のオグルトゥリーも入ってくれました。彼はハーバード大の終身雇用の候補に挙がっており、当初はこの騒動に関わりたくないと言っていた人物でしたので、アニタにとって彼の参加は嬉しい誤算でした。
10月11日、遂に公聴会の初日が来ました。この公聴会は全米の注目の的となっていました。当初はアニタの証言から始まる予定でしたが、政治的な働きで委員長は、先にセクハラ疑惑で訴えられているトーマスの証言から始めました。トーマスは公聴会で堂々とアニタの訴えに驚愕し、傷つき、悲しく思い、彼女の訴えは事実無根であり、汚名をそそぎたいと証言しました。トーマスの証言の後、遂にアニタの証言が始まりました。アニタは緊張しながらも堂々と供述書を読みあげました。その内容は驚くべきものでした。アニタが約10年前、教育省勤務時代にトーマスがセックスやポルノ映画の話やそれを観るべきだと話をした、執拗に自分をデートに誘ってきた、自身のペニスの長さを自慢したという証言でした。そして、その証言の最後に、アニタは訴えました。「私は個人的な復讐など望んでいません。ただ委員会に対して、考慮に値する情報を提供しただけです。…望んで話したわけではありません。…頼まれた時に思いました。真実を話さなければならないと。黙ってはいられないと」と。そして、委員からのなぜその当時に訴えなかったのかという質問に対して、アニタは「その時は義務を怠ったのかもしれません。その意味では本当に残念に思います。しかし、その時はそれが最善の判断だと、謝った判断だとしても、不誠実ではありません」と明確に回答しました。
しかし、マスコミや委員たちはトーマス擁護の論調で、アニタに批判的な目を向けていました。公聴会でアニタは「仮に君の証言が事実だとしよう。…普通、そんな男と二度と話したいと思わないだろう?」という質問に、「私は判事からの報復を恐れていたんです。キャリアが傷つくことに怯えていました。」と答えました。その真摯なアニタの姿勢と生々しい訴えは、視聴者や議員の心に響きました。トーマスは次第に不利な状況に落ち込んでいきました。
アニタ~世紀のセクハラ事件~のネタバレあらすじ:4.泥仕合の果てに
これに対して、そのトーマス擁護派陣営は委員会にトーマスに反論の機会を与えるように圧力をかけてきました。委員会はそれを受け入れ、トーマスを再度、公聴会に呼びました。トーマスは落ち込みながらも公聴会で、毅然とした態度で、アニタの訴えを一つ残らず完全否定しました。トーマスは「この審査は茶番だ。…まるでサーカスだ。国の恥です。黒人として言わせてもらう。これは“ハイテク・リンチ”だ。上院司法委員会による絞首刑以上の制裁です」と言い放ちました。トーマスは憤っていました。
アニタはこのトーマスの反論を聞き、いつの間にか公聴会での審理が、セクハラを問う審理でなく、トーマスが最高裁判事として適任かどうかを問う審理にすり替わってしまっていることに気づきました。アニタは怒りをオグルトゥーにぶつけましたが、オグルトゥリーはアニタに「これは政治劇だ。彼は見事に演じた。…自分を守るため人種の切り札を出した。何がムカつくかわかるか? 彼は君が黒人であることを利用している」と言い宥めました。
その時でした。アニタとは全く面識のない別の被害者が現れました。彼女はノースカロライナ州の新聞社に勤めるアンジェラ・ライトという黒人女性でした。土壇場でハイデン委員長は彼女を公聴会に新たな証人として呼ぶことにしました。この新たな証人の出現にトーマス擁護派は驚嘆しました。そして、トーマス擁護派は新たな一手を打ってきました。アニタに恋愛妄想癖(エロトマニア)ではないかという嫌疑をかけてきました。アニタはその嫌疑を晴らすため、嘘発見器の検査を受けました。その検査結果は合格でした。しかし、トーマス擁護派のハッチ議員は「結果は担当官が調整できる。二流弁護士による浅はかな策略だ」と批判しました。
アニタとトーマスの意見は真っ向からぶつかり合い、世論は二分されました。公聴会はアニタを擁護する人物、トーマスを擁護する人物を召喚し、意見聞きました。アニタを擁護する人は「黒人女性は耐えることが多い。歯を食いしばり、我慢します」などと主張し、トーマスを擁護する人は「アニタの訴えはバカげており、判事の主義や人柄と全く相反する」などと主張しました。
そんな公聴会でようやくケネディ上院議員が重い口を開きました。ケネディは「もうこれ以上の下劣で聞くに堪えない批判は聞きたくない。ヒル教授への中傷も慎むべきだ。人種問題も持ち出すべきでない。本系の焦点は、人種問題ではなく、セクシャル・ハラスメントであり、その問題だけに目を向けるべきだ」と発言しました。このケネディの意見で、こんな泥仕合の公聴会は早急に収束すべきだという流れが強くなってきました。密かに背後で蠢くハッチ議員らの圧力から、バイデン委員長は苦悩の上、アンジェラ・ライトの供述宣誓書のみを議事録に挙げ、証人喚問は急遽、取りやめにしました。
このライトの証人喚問中止の一報を聞いたアニタたちは、落胆しました。アニタの対策チームに加わっていたオグルトゥーに対しても、政治的圧力がかかってきていました。アニタは「これは間違いだった。…ごめんなさい。もう証言しない。家に帰る」とチームのメンバーに呟きました。10月14日の午前2時2分、アニタとトーマスの両者がこれ以上の証言はしないと決断したことにより、この事件の公聴会は閉会となりました。3日間の衝撃的で答えの出ない公聴会での審理は、後味の悪い結果となりました。
10月15日、トーマス判事の最高裁判事への投票が行われました。結果は賛成52票、反対48票でトーマスは晴れて最高裁判事となりました。
アニタが大学に戻ると、自室には全米の女性たちから送られてきた手紙の山で一杯でした。アニタはその一通に目を通しました。そこには「私のために闘ってくれていると思いました。だから感謝を。」といったアニタの勇気ある行動への感謝の手紙でした。アニタは涙を流しました。
アニタ~世紀のセクハラ事件~の結末:5.事件後のアメリカ
アニタが訴えた世紀のセクハラ事件の後、EEOCへのセクハラ申し立ては倍増しました。そして、連邦議会に選ばれた女性議員の数は単独の選挙で過去最高となりました。その後、セクハラ問題への社会意識は飛躍的に伸び、女性上院議員の割合の低さや、公聴会にはびこっていた男社会も問題視されていき、改善されていきました。そうした世論の動きに後押しされる形で、ブッシュ大統領は公民権法案に署名し、女性や少数民族が差別や嫌がらせに対して、容易に告訴ができるようになりました。アニタのとった行動は、以後のアメリカ社会に大きな影響を与えたのでした。
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