第9地区の紹介:2009年アメリカ作品。南アフリカに銀河の彼方から難民として現れたエイリアンの集団と、それを抑圧する人間たちの対立を、エイリアンの物質に触れて自らもエイリアンと化してゆく一人の男の視線から描いたドキュメンタリータッチのSF作品です。
監督:ニール・ブロムカンプ 出演者:シャールト・コプリー(ヴィカス・ファン・デ・メルヴェ)、デヴィッド・ジェームズ(クーバス・ヴェンター)、ジェイソン・コープ(クリストファー・ジョンソン/グレイ・ブラッドナム)、ヴァネッサ・ハイウッド(タニア・ファン・デ・メルヴェ)、ジョン・ヴァン・スクール(ニコラス・ファン・デ・メルヴェ)ほか
映画「第9地区」ネタバレあらすじ結末と感想
映画「第9地区」のあらすじをネタバレ解説。予告動画、キャスト紹介、感想、レビューを掲載。ストーリーのラストまで簡単に解説します。
映画「第9地区」解説
この解説記事には映画「第9地区」のネタバレが含まれます。あらすじを結末まで解説していますので映画鑑賞前の方は閲覧をご遠慮ください。
第9地区のネタバレあらすじ:起
1982年3月、南アフリカ共和国・ヨハネスブルク。ある日、上空に巨大な宇宙船が出現しました。政府は上空で静止したままの宇宙船内部の調査を開始、その中からは銀河の難民となり弱りきった、エビに似た外見のエイリアンが大量に生息していました。エイリアンたちは政府が地上に用意した隔離地区「第9地区」に移されて居住することになりましたが、外見がエビに似ていることから一般市民からは「エビ」と呼ばれて差別されていました。エイリアンの管理と監視は民間企業MNU(マルチ・ナショナル・ユナイテッド)が請け負うことになりましたが市民とエイリアンとの対立は収まらず、またエイリアンを食い物にした商売や取引も横行、結局事態は好転することはありませんでした。
第9地区のネタバレあらすじ:承
エイリアンが第9地区に移住してから28年後、約180万人のエイリアンたちはスラム街と化した第9地区から、ヨハネスブルクから200km離れたところに新設された専用居住区域「第10地区」へ強制移住させられることが決定、エイリアンたちの立ち退き要請にMNU職員のヴィカス・ファン・デ・メルヴェ(シャールト・コプリー)が派遣されました。ヴィカスは強制的にエイリアンに対して立ち退きに同意させ、歯向かう者は容赦なく射殺していきましたが、ある住居で見つけた謎の液体を浴びてしまい、ヴィカスの身体は液体の影響を受けて突然変異を起こし、徐々にエイリアンのように変化していきました。妻タニア(ヴァネッサ・ハイウッド)に付き添われて病院に向かったヴィカスでしたが、事態を知ったMNUはヴィカスを捕えて実験室に送り人体実験の被験体にしようとしましたが、ヴィカスは実験室から脱走、クーバス・ヴェンター大佐(デヴィッド・ジェームズ)率いる傭兵部隊の追跡を逃れて第9地区に逃げ込み、クリストファー・ジョンソン(ジェイソン・コープ)という名のエイリアンに匿われます。
第9地区のネタバレあらすじ:転
クリストファーは20年ものの間、故郷に帰ることを目指して脱出用の指令船を組み立てるとともに宇宙船を起動するための燃料をかき集めており、ヴィカスが浴びた液体こそが宇宙船の燃料だったのです。燃料をMNUから取り戻し、宇宙船を起動すれば元の身体に戻せるとクリストファーから告げられたヴィカスは、クリストファーと共に武器を手にしてMNUに乗り込み、激闘の末に液体を奪還しますが、クリストファーは仲間たちが人体実験の材料にされているところを目撃してしまいます。ヴィカスは早速元の身体に戻してほしいとクリストファーに頼みますが3年待ってほしいと言われて逆上、指令船を奪って宇宙船に乗り込もうとしましたがクーバス大佐の部隊に撃墜され、ヴィカスとクリストファーは捕えられてしまいました。
第9地区の結末
MNUに護送されるヴィカスとクリストファーの前にエイリアンを食い物にして商売するギャング集団が現れ、危うく殺されそうになったその時、指令船に残っていたクリストファーの息子・リトルCJが起動させたロボット兵器を起動させてギャング集団を皆殺しにし、クリストファーは息子とともに宇宙船に逃れました。追ってきたクーバス大佐らはエイリアンの反撃を受けて全滅、クリストファーは3年後に助けに来ると約束して宇宙の彼方に飛び去っていきました。その後、ヴィカスは行方不明となり、エイリアンたちは予定通り第10地区へ強制移住が開始されました。ある日、タニアは自宅に廃材で作られた造花が置かれているのを発見、夫がしたことではないかと考えました。その頃、第10地区では、完全にエイリアンの姿と化したヴィカスがゴミをかき集めて造花を作っていました。
この映画「第9地区」は、ピーター・ジャクソン製作、ニール・ブロムカンプ脚本・監督で、公開以来大いに話題を呼び、作品賞枠が10本に拡大された米アカデミー賞にノミネートされて一躍名を上げた異色SF作品。
南アフリカ、ヨハネスブルグ上空に出現した巨大宇宙船からの「難民」であるエイリアンたちが、被差別民的に暮らすスラム街、第9地区。
このエイリアンたちを、別の専用居住地区へ強制移住させるための現場監督を任せられた職員を主人公にして、フェイク・ドキュメンタリーのタッチで現実社会における人種隔離や差別、文化の衝突を風刺的に描きつつ、B級魂が炸裂するアクション・アドベンチャーになっていると思います。
テーマ、スタイル、エンターテインメントのユニークな融合と、映画好きの心をくすぐるディテールや笑える設定、描写山盛りのサービス精神に思わず顔がほころんでしまう快作だ。
エイリアンと人類が共存する世界といえば、エイリアンを(ヒスパニック系の)移民になぞらえた「エイリアン・ネイション」を想起するのだが、この作品はもう、あからさまに、かつての南アフリカにおけるアパルトヘイト政策や、黒人たちの強制移住など、現実に起きた事件をなぞっていて、「エビ」と呼ばれて蔑まれている、エイリアンたちの人権なぞどこ吹く風という主人公の言動に、皮肉がパンチが効いていて面白い。
エイリアンの設定も、知能程度の高くない2級市民的な種族としていて、二重の意味で、被差別的な存在に置かれているあたりが、いいアイディアである。
彼らをコントロールする立場にあった、おそらく宇宙船や超絶兵器を使いこなす高等な種族が、事故か疫病でほとんど死滅したからこそ、辺境の星である地球で立ち往生する羽目になっているというわけだ。
謎の液体を浴びた主人公のDNAが変化をはじめ、「エビ」へと変貌してしまうあたりは「フライ」等へのオマージュだろうか。
今度は主人公の人権もなにもあったものじゃなくなり、当局に監禁され、実験台にされてしまう。
なぜ当局はそこまでするのか、といった動機付けの設定が、この作品で最高のアイディア。
エイリアンの持ち込んだ超絶的な武器、兵器類は、「エビ」のDNAで起動するので、人類は使用できないのである。
後半は、その設定を活かした大活劇になるのだが、あまり高尚ぶっておらず、良い意味で、なんでもありのB級展開である。
そういう部分がかえって清々しく、好印象のよくできた娯楽作品である。
SFチックな意味での避けがたいグロテスク描写が、ネックになって手を出さない人もいるかもしれないが、さしてハードなものではないので、よほどこういうのが苦手な人でなければOKなんじゃないだろうか。
グロ描写を理由に、この作品を避けるとしたら、ちょっともったいないと思うので、食わず嫌いをせず、手を出して欲しいと思います。