ゲット・アウトの紹介:2017年アメリカ映画。今でもアメリカに残る白人と黒人の対立、そんな中、優しい白人女性と恋仲になった黒人の写真家クリスは、彼女の実家で両親に紹介されます。歓迎する両親、しかし、クリスは催眠術にかけられ、不可解な体験をします。それは黒人を標的に、異常な手術をする、秘密組織の狂気の世界でした。果たして、クリスの運命は?伏線が綿密に張り巡らされている本作「ゲット・アウト」はアメリカで批評家から絶賛され大ヒットした映画です。
監督:ジョーダン・ピール 出演:ダニエル・カルーヤ(クリス・ワシントン)、アリソン・ウィリアムズ(ローズ・アーミテージ)、ブラッドリー・ウィットフォード(ディーン・アーミテージ)、ケイレブ・ランドリー・ジョーンズ(ジェレミー・アーミテージ)、スティーヴン・ルート(ジム・ハドソン)、キャサリン・キーナー(ミッシー・アーミテージ)、ほか
映画「ゲット・アウト」ネタバレあらすじ結末と感想
映画「ゲット・アウト」のあらすじをネタバレ解説。予告動画、キャスト紹介、感想、レビューを掲載。ストーリーのラストまで簡単に解説します。
ゲットアウトの予告編 動画
映画「ゲット・アウト」解説
この解説記事には映画「ゲット・アウト」のネタバレが含まれます。あらすじを結末まで解説していますので映画鑑賞前の方は閲覧をご遠慮ください。
ゲットアウトの考察:綿密に設計された物語の伏線を解説
ローズの実家であるアーミテージ家へ向かう途中でシカを撥ねます。ここで白人警官から身分証明書の提示を求められるクリスに対して、ローズがそれを拒みます。これはクリスがアーミテージ家へと向かう痕跡を残さないようにするために、そうしたのではないかと考えられます。
シカを轢いてしまうシーン、クリスの母親がひき逃げによって死亡していること、クリスがアーミテージ家から逃げ出す際、ジョージーナを轢いてなぜか助けてしまうシーン。この3つはいずれも車で轢かれることでリンクされています。クリスは母親のことがトラウマとなっていて、シカを轢いてしまうことでそれが思い出され、また催眠術にも利用されます。ジョージーナを轢いてしまった時、助けずにはいられなかったのは、トラウマや催眠が絡み合っていたのではないでしょうか。シカの剥製が部屋に飾られていることにも注目してください。
ローズの父ディーンがクリスに家の中を紹介する場面。ローズの祖父は陸上選手だったという紹介がありますが、これは、黒人庭師ウォルターがある夜、全力疾走しているシーンに繋がります。ウォルターにはローズの祖父の脳が移植されているということを暗示しているようです。
ディーンがクリスにジョージーナを紹介するシーン、母はキッチンが好きだったと言いジョージーナの様子が映し出されます。また、ジョージーナのセリフの中で、彼らは私たちに家族のように接してくれると言っています。黒人お手伝いジョージーナには、ローズの祖母の脳が移植されていることを暗示しています。
白人の年上女性と結婚していたパーティの参加者ローガン(映画冒頭で誘拐された黒人青年アンドレ)、彼は写真のフラッシュによって催眠が一時的に解け、クリスに「GET OUT(ゲットアウト)」と叫ぶ。映画タイトルにもなっているこのゲットアウトという言葉には、出ていけ!という意味があり、それはクリスに対して早くこの場から逃げろと言う意味や、アンドレ自身に別人の脳と催眠術よって支配されている状態から解き放たれたい(出ていけ)という気持ちが入っているのかもしれない。
ジョージーナとウォルターは頭にある傷跡を隠している。脳の移植によってできた傷跡を隠すため、ジョージーナは髪形を気にしています。また、ウォルターも夜なのに帽子をかぶっているなどの不自然な様子が見受けられます。
ジョージーナがクリスの携帯の充電を切っていたことについて。これはカメラのフラッシュによって催眠が解けることを知っているローズの祖母の意識が、催眠のかかっている人物の元の人格が目覚めることの無いよう、わざと携帯を使えないようにしたのではないか。その後ジョージーナは充電を切っていたことを謝りつつも涙を流しながら笑っているシーンがある。実は脳の移植と催眠が完全ではなく、ローズの祖母の意識と、クリスに危険を訴えたい元の人格が衝突しあっているのではないか。
クリスが帰り支度をしているとき、ローズの部屋で隠し扉の中から大量の黒人とのツーショット写真を見つけるシーン。なぜ鍵がかかっていなかったのか。これは、ジョージーナの元の人格によってクリスに危機を訴えたかったものと思われる。
脳の移植先になぜ黒人の肉体が選ばれたのか。それは黒人の身体能力の高さにあるのではないか。視力がよく、足も速い。そんな黒人の肉体を手に入れることで、永く生きようとしていたのではないだろうか。
ティーカップをスプーンでかき混ぜるときの音で催眠がかかること。映画の中でミッシーがこの音を立てるシーンがいくつか登場します。その時の周囲の人間の行動に不自然な現象が起きますが、これは元の人格と催眠のかかっている人格とで何かしらの衝突が起きているのではないでしょうか。
ゲットアウトのもう一つのエンディング。アーミテージ家を殺してしまったクリスが警察に逮捕されるラストシーンが作られていたが、劇場公開版ではハッピーエンドとして終わっている。当初はアメリカの人種差別を風刺する意味もあり、黒人であるクリスに罪が無くても逮捕されてしまう現実を突きつけるような結末となっていた。しかしアメリカでは警官による不当な黒人射殺という事件が相次いで起きていた頃で、あえてクリスが救われるラストとしたようだ。
ゲットアウトの代表的な伏線を挙げましたが、映画の中にはまだまだたくさんの伏線が張り巡らされています。セリフや登場人物の一つ一つの行動がストーリーに複雑に関係しているので、「ゲットアウト」を2度、3度と鑑賞するとなるほどと思えるシーンがたくさんあるのではないでしょうか。
「ゲット・アウト」感想・レビュー
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演技も物語の展開もよく出来ていて楽しめます。人種差別というとても痛みを伴うトピックをここまで面白く、そしてインパクトのある形で映画にできたのは素晴らしいと思います。ユーモアとホラーが両立している稀な映画。
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自分が思っていた展開とは全く違う方向に向かって行く物語に最後まで目が離せませんでした。
ラストに全てが明らかになった後に思い返してみると、それまでのいろいろなシーンでミスリードされていたことに気づき、その巧みな伏線に感心されられます。
ホラーではありますが、エンターテイメント性も高く、そしてアメリカに根強く残る黒人差別についても、改めて考えさせられるとても良い映画でした。 -
人種差別テーマの作品は登場人物が忌み嫌われる形のものが多い中、この作品は羨まれる形でターゲットにされるという点がユニークでした。そして主人公クリスや狂人一家の演技がよかった。笑顔で苦しそうに泣くジョージーナの演技は必見。
ハンサムなアフリカ系の青年と上流階級の白人の女性との恋愛模様を描き出していく1967年の名作「招かれざる客」のリメイク版かと勘違いしていたら、予想外のストーリー展開に驚かされました。永遠の若さと肉体を望んでしまう人間の心の弱さと、人種の壁を越えてお互いを理解し合うことの難しさについて考えさせられました。