堀部安兵衛の紹介:1936年日本映画。いまでこそ堀江安兵衛は、歌舞伎や講談の世界だけの人になっていますが、江戸末期から戦前の日本、とくに少年たちにとっては紛れもないヒーローのひとりでした。安兵衛の名が広く世間に知れ渡るのは「高田馬場の決闘」です。現在の東京都新宿区高田馬場(実際は西早稲田三丁目)において、侍18人(実際の数は不明)を倒して勝利を収めた話がいまに残ります。その後、赤穂の四十七士に名を連ね吉良邸へ討ち入りし処刑されます。享年33歳。侍としての本分に身を置いた人であれば、若死も無理からぬところです。しかしそういう星の下に生まれたのか、生前から何かと世間の注目を浴びた人でした。剣の達人であるゆえに、堀部安兵衛はどこか人とは異なった、一風変わった魅力を放っていたようです。
監督:増田晴夫 出演:黒川弥太郎(堀部安兵衛)、横山運平(堀部安兵衛・彌兵衛)、花井蘭子(娘・八重)、実川延一郎(菅野六郎左衛門)、井田兼美(中津川佑範)、市川百々之介(村上佑次郎)、小松みどり(おかん婆)、市川正二郎(浅野内匠頭)、佐賀志津子(同・奥方)、市川小文治(大石内蔵之助)、山田好良(吉良上野介)、上田吉二郎(小林平八郎)、沖津麗子(おみつ) ほか
映画「堀部安兵衛」ネタバレあらすじ結末と感想
映画「堀部安兵衛」のあらすじをネタバレ解説。予告動画、キャスト紹介、感想、レビューを掲載。ストーリーのラストまで簡単に解説します。
映画「堀部安兵衛」解説
この解説記事には映画「堀部安兵衛」のネタバレが含まれます。あらすじを結末まで解説していますので映画鑑賞前の方は閲覧をご遠慮ください。
堀部安兵衛のネタバレあらすじ:起
冒頭、映画のタイトルバックが流れる中を安兵衛(黒川弥太郎)は走っています。眉を吊り上げ、血相を変えて、どこへ向かうのでしょうか。元禄7年(1694年)2月11日。江戸郊外の宿場町、内藤新宿に近い高田馬場です。そこでいま果し合いが行われています。血気を持て余した若い侍同士が意地の張り合いです。安兵衛は道場の同門、菅野六郎左衛門(実川延一郎)の助太刀に向かいます。
菅野六郎左衛門と村上庄左衛門。果し合いの場に立つふたりは、ともに伊予の国、西条藩の江戸詰め藩士です。些細な口論から「表へ出ろ!」とけしかけた菅野に、村上は助太刀として中津川佑範(井田兼美)を従えています。噂を聞いて集まった多くの観衆が見守るなか、菅野が斬られます。安兵衛が馬場に到着した折には、すでに菅野は絶命していました。遅れてきた安兵衛が村上勢を相手に闘います。
敵は村上以下18名。安兵衛は縦横無尽に馬場の中を走り、二刀流でバッタバッタと敵をなぎ倒していきます。村上勢はどう見ても安兵衛の相手ではありません。追い詰められた村上三郎右衛門が薙刀で安兵衛に向かいます。しかし、俊敏で動きの勝る安兵衛の前にあえなく倒れます。大喜びする観衆を他所に、村上三郎右衛門の弟、佑次郎(市川百々之介)がひとり、兄の屍を抱き止めます。
堀部安兵衛のネタバレあらすじ:承
この決闘の一部始終を聞いた江戸市民は大騒ぎです。瓦版が出回り、人が辻で出会えば安兵衛の話題で持ちきりです。ご満悦なのが安兵衛の通う道場主、堀内源太左衛門です。道場の名が江戸の町に知れ渡りました。祝い酒を振る舞い、門人たちも安兵衛に樽酒を贈呈します。酒に目がない安兵衛は、しばらく百軒長屋の自宅にこもり美酒に酔っていました。そこへ赤穂の侍、堀部彌兵衛が訪れてきます。
堀部彌兵衛は、実際に「高田馬場の決闘」を目にしたひとりです。大勢の侍を相手にひるむことなく敢然と立ち向かった安兵衛の豪胆さにその日から惚れ込んできました。彌兵衛には美人の誉れ高い娘、八重がいます。「貴殿を娘の婿殿として迎えたい」と、直談判に現れたのでした。
浪人の身であるなら誰もが飛びつきそうな話に、しかし安兵衛は全く興味を示しません。安兵衛は百軒長屋を住まいとしていますが、長屋の住人たちからは「安さん」の愛称で呼ばれ、以前から親しまれています。安兵衛自身、規律のうるさい侍の世界よりも気安い人たちとのつき合いを愛しています。頼まれてもここを離れるつもりはありませんでした。
そこをたっての願いと彌兵衛に乞われて、安兵衛は条件を付けました。「たとえ親子となりたるも中山安兵衛を名乗ること」。これを堀部彌兵衛に突きつけたところ、渋々と承知させることができました。安兵衛も「この人ならこれからも口うるさいことは言うまい」と婿入りすることに決めました。
祝言の日、安兵衛は長屋の連中が引く大八車に乗って堀部の屋敷へ参上します。長屋でたっぷりと祝い酒を浴びてきたため、立って歩くことができません。しかたなく彌兵衛が背中に負って屋敷へ入ります。あまりの情けなさに花嫁は泣き出します。彌兵衛は決まり悪さから玄関を避けて庭へまわり、大切な婿を直接自室へ上げました。婿入りから醜態をさらす安兵衛ですが、「とうとう手中に収めることができた」と彌兵衛は酔いつぶれた剣豪を宝物のように扱います。
堀部安兵衛のネタバレあらすじ:転
殿中へお披露目の日、ここでも安兵衛は酒好きが高じて失態を晒します。「殿の前で何たること」と、酔いに身を任す安兵衛にさすがの彌兵衛も穴があったら入りたい境地になりました。しかし、ところ変われば安兵衛の剣の腕に衰えはありません。「高田馬場の敵!」と闇討ちを仕掛けてきた村上三郎右衛門の弟、佑次郎をあえなくいなし、「もっと強くなってからまた来なさい」と情けを示します。また、百軒長屋にも足しげく通うなど、安兵衛の言動は常人には理解できないスケールです。
ところが酒が過ぎる安兵衛の惨状を見るにつけ、彌兵衛は婿に迎えた日を後悔するようになっていきます。「我が婿は御家の恥」と自ら自刃に追い込む彌兵衛を止めたのは安兵衛です。安兵衛が義父の遺言状を窺うと、そこには娘・八重への愛情に加えて安兵衛へのたっぷりな愛情が認められています。その日から安兵衛は堀部を名乗る覚悟を決めました。
こののち、元禄14年3月14日(1701年)に堀部安兵衛の主君、浅野内匠頭(あさのたくみのかみ)が江戸城の大廊下で吉良上野介(きらこうずけのすけ)に斬りかかる事件が起きました。浅野内匠頭はその日のうちに処罰され、藩は改易、さらに播磨の赤穂城は明け渡しと沙汰が下りました。家来である安兵衛は血気にはやります。早馬を飛ばして赤穂城へ向かいます。
播磨では、将軍家の処罰に対して異を唱える者が続出しています。主君の処罰と藩の改易を伝えるために筆頭家老の大石内蔵助(市川小文治)が藩士全員の前に立ちます。しかし城の明け渡しで意見はまとまりません。断腸の思いで城を明け渡すことを明言する大石と、このままでは引き下がれないと抵抗する強硬派の藩士らとの間でもみ合いが続きます。
堀部安兵衛の結末
江戸へ戻った堀部安兵衛は、町人に扮して吉良上野介の動向を探っています。強硬派の先鋒である安兵衛は、主君の敵討ちに一意専心しています。ある時は八百屋、またある時は大工、ある時には酒屋に成りすまして、小林平八郎(上田吉二郎)らを剣客として雇うようになった吉良邸を見張り続けます。
赤穂城を開城して浪士となった大石内蔵助も、元赤穂藩士を率いて秘かに江戸へ入っていました。吉良上野介を討つことを決意してからの大石は武人としての相貌に変わり、逸る思いを押し隠しています。吉良邸ではある会談が持たれていました。そこには、安兵衛のかつての師匠、堀内源太左衛門も参加していました。「12月14日」。堀内は親密さを装って吉良邸で催される茶会の日を確認しました。
その夜、覆面の武士として、安兵衛の前に堀内が現れます。すでに赤穂浪士の決起を知る堀内は、安兵衛の武運を祈って吉良在宅の茶会の日を知らせます。この知らせを受けて赤穂浪士47名が本所松坂町の吉良邸に討ち入ります。
夜半、雪が降り、降り積もるなか、大石内蔵助以下堀部安兵衛ら決起隊は、屋敷の一隅に潜んでいた吉良上野介を見つけ出して、主君の無念を晴らしました。
以上、映画「堀部安兵衛」のあらすじと結末でした。
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