音のない世界での紹介:1992年フランス映画。フランスのとあるコミュニティを通して描かれる、ろう者たちの生活。手話を交えそれぞれの過去や未来を展望するドキュメンタリー映画。1994年のボンベイ国際映画祭でグランプリに輝いている。
監督:ニコラ・フィリベール 出演:ジャン=クロード・プーラン、アブゥ、アン・トゥアン、フローラン、ほか
映画「音のない世界で」ネタバレあらすじ結末と感想
映画「音のない世界で」のあらすじをネタバレ解説。予告動画、キャスト紹介、感想、レビューを掲載。ストーリーのラストまで簡単に解説します。
映画「音のない世界で」解説
この解説記事には映画「音のない世界で」のネタバレが含まれます。あらすじを結末まで解説していますので映画鑑賞前の方は閲覧をご遠慮ください。
「音のない世界で」のネタバレあらすじ:起・「聞こえない」とは
ある男性の家族は彼の他は健聴者だったけれど、聞こえる人と聞こえない人との違いは感じず、一緒に暮せるものだと思っていた。母親に連れられ映画を良く見に行った彼は、役者を目指そうとしたが、近所の監督に頼みに行くと、聞こえない事を理由に断られ絶望したと語る。
ろうの子供たちの通う学校では、声を出し、母音や子音、音の強弱を音ではなく口の形や振動で教えていた。さらに文字を学び音と関連付け、聞こえなくてもフランス語で話す練習をしていた。給食の時間、子供たちはもっぱら手話で話している。
初めて補聴器をつけた時の事を、色々な音に混乱したと話す男の子は、家に帰り補聴器を外すと静かで安心すると言う。学校ではつける事を勧められるが、人によってその感じ方はそれぞれ。
とある老人は、子供の時に話せない、手話もできない状態のまま、聾学校へ連れて行かれた。周りは皆手話で話しており、そこで誰に教わるでもなく赤ん坊が言葉を覚えるように手話を覚えて行った。全寮制のその学校で、彼は休みの日に母からもらったお小遣いで映画館によく行った。帰ってくると皆が彼に映画の話をせがんだ。他の子は話せないがゆえに捨てられた孤児だった。老人は聞こえない子供がいても育てて欲しい。子供に教えるように教えて欲しい。聴覚の代わりに視力は発達しているのだからと願う。
役者になることを断られた男性は自ら手話の劇団を作り、今では拍手喝采を浴びている。
「音のない世界で」のネタバレあらすじ:承・偏見と希望
ある工場で働く三人のろうの女性たちはそれぞれ境遇が異なっていた。ある人は家族に内気で殻に閉じこもっていると勘違いされ、ある人は学校で友達が話すように話せない事で気づき、またある人は、家族の中で話しに入れず孤独にすごしたと語る。健常者の友人とは語彙に差があって話すのが大変だと言う人もいれば、新しい言葉の表現を学ぶのが楽しいと言う人もいる。
逆に家族五代がろう者で健聴者は親戚筋に従弟一人だけで気の毒という人もいる。
昔のフランスの学校では手話が禁じられていた。手を縛られ、無理矢理喋らせようとした。時代は変わったけど、今でも手話を禁じている学校がある。フランス語と手話のバイリンガルを推進する運動をしている男性は、今でも学校で権力を持っているのは健聴者だからと少し肩を落とした。
手話は万国共通ではなく、フランスにはフランスの手話があり、どの国にも独自の手話がある。けれど、ろう者たちは二日あれば他国のろう者と通じる事ができるのもまた事実だ。
健聴者の大人たちの中で育ったろうの女性は、なぜ大人は聞こえるのか、聞こえると長生きするのか、ろう者、ひいては自分は大人になれないのかと不安に思っていたが、バカンスでアメリカにろう者の大学がある事や、大人のろう者に出会い、生きていく自信を持った。
「音のない世界で」のネタバレあらすじ:転・変わらない営み
ろう学校に通うフローランは、母親に手話を教え、母親は彼に音を教える。
ある女性は子供の頃に持て余された挙句、精神病院に入れられた。両親は彼女が人並に働き生活できるとは思っていなかった。彼女にとって精神病院は人の権利はおよそなく、人間性を失う場所だった。健聴者はろう者の知能が遅れていると勝手に思い込んでいるのひどい話だと振り返る。
とある工場で働くろうの男性の結婚式は、健聴者と変わらず、市庁舎での結婚式の後、教会でも行われ、神父の話に手話通訳が付いただけで、二人は互いに近いの言葉を手話で読み、皆に祝福された。披露宴では歌う人もいれば手話で話す人達もいた。
また、とあるカップルの馴れ初めは手話の講師とその生徒だった。互いに離婚の経験があり、パリとリヨンでの遠距離だったが、互いに惹かれ合っていったと言う。
「音のない世界で」の結末:門出
ろうの学校では、年度末の成績表が手渡され、それぞれに評価とアドバイスがされ、記念品が渡された。バカンスに入り移動遊園地で遊ぶ彼らは、他の子供と何ら変わりない。
結婚したばかりのろうの夫婦は、新居を決め、暫くの後、二人の間には子供が誕生した。ろう社会に入った人には、愛称が付けられるそれは一生変わらないパスポートと同じ。
話はこれでおしまい。そして無音のエンドロールへ。
以上、映画「音のない世界で」のあらすじと結末でした。
「音のない世界で」のレビュー・考察:静かな言葉
作中で使われている手話は所々翻訳されていない。静寂の中で、また、雑踏の中で、彼らの手話による会話は行われている。手話に明るくない者にとってはそれが言語として認識されることは無く、彼らが何を話しているのか見当もつかないと言う場面がしばしばある。しかしこれが、ろうの人が往々にして体験しているのと同じことだと気づいた時、音のない世界で、彼の語る言葉がどれだけ豊かなのかを知る良いきっかけになる。
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