ナッシュビルの紹介:1975年アメリカ映画。巨匠ロバート・アルトマンが、アメリカの音楽事情を群像劇で皮肉たっぷりに描き出す。はたして最後にマイクを手にする歌手は誰か?
監督:ロバート・アルトマン 出演:ヘンリー・ギブソン、リリー・トムソン、ロニー・ブレイクリー、グウェン・ウェルズ、シェリー・デュヴァル、キーナン・ウィンバーバラ・ハリス、スコット・グレンほか
映画「ナッシュビル」ネタバレあらすじ結末と感想
映画「ナッシュビル」のあらすじをネタバレ解説。予告動画、キャスト紹介、感想、レビューを掲載。ストーリーのラストまで簡単に解説します。
映画「ナッシュビル」解説
この解説記事には映画「ナッシュビル」のネタバレが含まれます。あらすじを結末まで解説していますので映画鑑賞前の方は閲覧をご遠慮ください。
ナッシュビルのネタバレあらすじ:ナッシュビルにバーバラがやってきて一波乱
大統領予備選挙真っ最中のナッシュビルで、音楽祭が開かれる。ある場所ではヘブン・ハミルトンが歌の収録中、見知らぬ女性(自称BBCのクルーのオパールと名乗る)を息子に任せ自分のスタジオから追い出す。彼は隣のブースのゴスペル合唱団を紹介。黒人大学生の指揮を執るのは白人のリネア(夫は弁護士、二児の母)。空港には歌手が降り立ち、地元出身のバーバラ・ジーンの来訪を待ちわびる人々がいた。町をあげて歓迎する式を行う中、バーバラは空港の建物から式典を見ているファンの所へ歩いて行こうとした所で失神し運ばれてしまう。人々はバラバラにナッシュビルの町へ向かう。その途中の高速道路で玉突き事故がおき、車は立ち往生。オパールはカメラクルーがいないことを嘆きつつも、その場に居合わせた音楽関係者に取材を始める。また、別のトラックではカントリー歌手になりたいウィニフレッドが夫のトラックから逃げ出し、単独でナッシュビルに売り込みにいこうとしていた。空港のカフェで働くスーリーンは歌は下手なのだがバーで歌っていると、ショーの助っ人として呼ばれることに。
ナッシュビルのネタバレあらすじ:音楽業界と政治家の裏側
トムはゴスペルの指揮をしているリネアに個人的に会いたいと誘うものの、ことごとく断られてしまう。バーバラの入院した病院には続々と花が贈られた。マネージャーをしている夫バーネットが対応に追われる。同じ病院には、ミーハーな姪を持つミスターグリーンの妻も入院中。そのミスターグリーンは、バイオリンケースを持ったミュージシャンのケニーに空き部屋を貸す事に。オープリーのショーがあるため、ヘブンは関係者呼んでガーデンパーティーをしていた。そこにはオパールが紛れ込み、事務をしている息子に取材をしていた。ヘブンは大統領選でウォーカー氏のキャンペーンをしているトリプレットに次期知事の話を持ちかけられるが、オープリーのショーを見ろと暗に振られてしまう。そして、本来バーバラが出演するはずだったオープリーのショーには彼女の代わりにコニー・ホワイトが出演。それを病院でラジオで聞く夫にバーバラは消してという。妻の代わりに出演してくれたコニーにお礼をするためにも聞いておかないとという夫にバーバラは激怒。開場の裏側では夫から逃走中のウィニフレッドがスタッフのいる楽屋に入ろうとするが警備員に止められてチャンスはつかめなかった。
ナッシュビルのネタバレあらすじ:頓珍漢なバーバラは復帰できるのか?
教会では讃美歌の響く中、ミスターグリーンがケニーに戦死した息子の事を話す。オパールはBBCのクルーらしく産廃投棄場所でレポートを録音。サーキット会場にはウィニフレッドの歌う姿があるが車の爆音でまったく聞こえない。選挙のキャンペーンを盛り上げたいトリプレットは喧嘩中のビリーとメリーの元を訪れ、ショーの趣旨、カントリーバンドの中に彼らロックバンドがあることので名が売れるだろうことなどを説明する。バーバラは無事に退院してイベントに出ることに。一方同じ病院に入院していたミスターグリーンの妻は見舞いに来た時に亡くなってしまう。彼の自宅ではケニーが母親に電話をしており、マーサがバイオリンケースに触ろうとするとそれを怒った。オープリーのイベントでバーバラは復帰、二曲歌った所で次の曲に行こうとするもののMCのつもりが話がそれてしまいなかなか三曲目にいけない。見かねたバーネットが彼女を退場させ、仕方なくトリプレットに打診されていたウォーカーのイベントに出ることを聴衆に告げた。観客席にいたオパールはその場にいたアメリカ軍兵士にベトナム戦争に行ったかと取材開始。暑い所だったと兵士は答えた。リネアに再度アタックをかけるトムはライブにだけでも来てくれないかと頼み込む。リネアがいわれたライブハウスに行くと、トムは他の女性とテーブルにいたので仕方なく一番後ろの席に。トムはビリーとメリーの三人で歌った。続いてスーリーンも歌うがあまりの下手さに引っ込まされてしまう。盛り下がってしまった所でトムは一人でリネアにあてた恋の歌を歌った。再び盛り上がる中スーリーンが登場ケープ脱ぐとストリップでもするのかと野次を飛ばされながらもバーバラの歌と歌おうとするが、収集が着かなくなってしまう。この場を納めたらバーバラ・ジーンと競演させてやると言われ、仕方なくストリップをするスーリーンだった。
ナッシュビルの結末:政治色のある活動はしないと言ったのに
トムはリネアと一夜を共にしようとするが、事が済むとリネアはさっさと家に帰ろうとするので、あてつけのように別の女性に電話をかけた。スーリーンはライブハウスで彼女を見ていた男性に言い寄られモーテルまでやってくるが、同僚のウェイドに声をかけられ、難を逃れる。その時ウェイドからは別嬪だが歌手には向いていないとはっきり言われてしまう。翌日、ウォーカーのイベントに出演するための下見にやって来たバーネットは、政治色はないと言っていたのに、ステージにある候補者の幕に激怒する。それでも弾幕は今さら外せない。ミスターグリーンの妻の葬儀に参列していたマーサは、ウォーカーのイベントに行くため葬儀を抜け出した。バーバラとヘブンがデュエットで歌うイベントは盛況。ただしそこには音楽ファンに混じってウォーカーの支持者や取材を受けていたアメリカ軍兵士、ケニーも混じっていた。二人が歌い終わったところでバイオリンケースから銃を取り出したケニーが発砲。その場で取り押さえられるが、一つはバーバラに命中、一つはヘブンの腕をかすった。その場がパニックになりそうになる中、バーバラを助けるべく舞台裏に運びながら、誰か歌って、ナッシュビルは安全だから演奏を続けてと指示が出される。誰もが戸惑っているところ、ウィニフレッドがマイクを持ちアカペラで歌い始めると、彼女の歌声につられるようにゴスペルがそれに合わせ歌いだした。パニックが収まりエンドロールへ。
ナッシュビルのレビュー・感想:それぞれの人物にとっての音楽
この作品には音楽を生み出すアーティストと聴衆以外のマネージメントをする側、企画を立てる側など、色々な立場の人間模様を見る事が出来る。また、出てくるアーティストたちもそれぞれに個性が強く、特に地位に恵まれているが情緒不安定なバーバラ、チャンスは与えられるものの歌の才のないスーリーン、逆に実力はあるのにチャンスに恵まれないウィニフレッド、この三人のバランスが面白い。さらに発砲騒ぎがあったその場(しかも大統領予備選挙キャンペーン)で、ナッシュビルは安全だから演奏を続けてくれと言うのは、なんと逆説的なのだろう、ブラックユーモアを通り越していっそシュールにすら映る。そして、音楽と言う娯楽を主軸においているせいか、選挙キャンペーンも含めて、一つのお祭り騒ぎに見える。
“社会と人間を凝視したロバート・アルトマン監督の群像劇の秀作”
1975年の第48回アカデミー賞の作品賞は”精神病院を舞台に権力対個人、管理者対非管理者の問題を提起しながら人間の自由や尊厳とは何かを描いた「カッコーの巣の上で」(ミロス・フォアマン監督)、文豪サッカレーの原作をもとに18世紀のヨーロッパの貴族社会を流麗な映像美で再現した「バリー・リンドン」(スタンリー・キューブリック監督)、銀行強盗がマスコミによって一躍ヒーローと化す矛盾を描いた「狼たちの午後」(シドニー・ルメット監督)、巨大な人食い鮫と人間たちの壮絶な闘いをスリル満点に描いた「JAWS/ジョーズ」(スティーヴン・スピルバーグ監督)と並んで大統領選挙とカントリー&ウエスタンの祭典を巧みに絡ませた群像劇の「ナッシュビル」(ロバート・アルトマン監督)という史上稀にみる秀作が候補となった大激戦の年でした。
結果はご承知の通り、「カッコーの巣の上で」が大激戦を制して受賞しましたが、これらの候補作からもわかるように当時のアメリカ映画界がアメリカ社会の実態を内面まで鋭くえぐり出し、その将来を占うという意味での深い洞察力を秘めた質の高い映画が主流になっていたという事を示しています。
この映画「ナッシュビル」は第48回アカデミー賞の最優秀歌曲賞を”アイム・イージー”が受賞し、1975年度のニューヨーク映画批評家協会賞の最優秀作品賞、最優秀監督賞(ロバート・アルトマン監督)、最優秀助演女優賞(リリー・トムリン)を受賞しています。これらの結果からこの映画が当時、映画批評家から大絶賛を受けていた事がよくわかります。
映画の最初のほうでカントリー&ウエスタンの人気歌手のヘイヴン・ハミルトンがアメリカ建国200年記念のレコードを吹き込むシーンが出て来る事からもわかるようにこの映画はアメリカ建国200年を意識してシニカルな視点で製作された映画だと思います。
カントリー&ウエスタンのメッカといわれるテネシー州の州都のナッシュビルでの大統領選挙キャンペーン・コンサートまでの5日間における24人の歌手たちの動きを、カメラは記録映画のようなドキュメンタリータッチで何の脈絡もなく追って行き、そのまるで万華鏡的な展開で群像劇の名手であるロバート・アルトマン監督はスター歌手になる事への憧れ、情事、政治意識等を混在させながら、人気絶頂の男女の歌手への狙撃事件というクライマックスへ収斂させていきます。
そしてこの映画での演出上の狂言廻しとなっているのが、イギリスのBBCの女性アナウンサー(ジェラルデイン・チャップリン)であり、スピーカーのボリュームをいっぱいに上げて走り回る大統領選の選挙キャンペーンカーであるといえます。
憎いほどにうまいロバート・アルトマン監督の腕前が冴えています。
キャンペーンカーの選挙のスローガンは”巨大石油会社への挑戦、農業補助金の削減、教会への課税、議会からの弁護士出身者の追放、大統領選挙団体の廃止”等と当時の社会状況をうかがわせる興味深い内容になっています。
この映画の主題歌である”アイム・イージー”はアカデミー賞の最優秀歌曲賞を受賞していて、作詞・作曲が女ぐせの悪いトムを演じているキース・キャラダインで”君は自分で言うほど自由じゃない。けれど僕は気ままなんだ”というこの曲ももちろん心に沁みるいい曲ですが、それ以上に素晴らしいのは、歌にイカれて亭主を捨てた若妻(バーバラ・ハリス)が映画の最後の混乱の中でコーラスをリードして堂々と熱唱する”私は平気、気にしないで”は実に意味深い歌詞になっています。”そんなこと私には平気よ、私が自由でないとあなたは言うかもしれないけど、そんなこと私には平気よ”
この曲をもってきたロバート・アルトマン監督の意図はアメリカという国への愛情を込めたメッセージであり、当時のホワイトハウスでのウォーターゲート疑惑等で混迷していた社会状況の中でも”自由に対する自信をもつようにしよう”と訴えかけて来ているように思えてきます。
この「ナッシュビル」という映画を観終えて、あらためてロバート・アルトマン監督は24人の主要な登場人物ひとりひとりの性格やその人間ドラマを描きわけ、尚且つ混沌としたまま我々観客に投げかけ、1975年当時の悩めるアメリカの縮図を描こうとしているようです。今までの映画の常識を覆した奇抜で破天荒だが、奥行きの深い、社会と人間を凝視した群像劇の秀作だと思います。