ある画家の数奇な運命の紹介:2018年ドイツ映画。1930年代、 ナチ政権下のドイツ。幼いクルトは叔母エリザベトに連れられて美術館へ通い、芸術に触れる日々を過ごしていた。ところが精神のバランスを崩した叔母は病院へ送られたまま、政府の安楽死政策によって殺されてしまう。青年になったクルトは東ドイツの美術学校に進学し、そこで出会ったエリーと恋におちる。しかし彼女の父親は元ナチ高官で、叔母を死へと追い込んだ張本人だった。そんなことは誰も気づかぬまま2人は結婚することに…。主人公クルトのモデルは、生存する画家の作品として当時史上最高額で落札されたアーティスト、ゲルハルト・リヒター。本人への1か月にわたる取材の上、何が事実か事実ではないかを絶対明かさないことを条件に映画化。リヒターの代表作が誕生するまでの過程がドラマティックに描かれる。
監督:フロリアン・ヘンケル・フォン・ドナースマルク 出演:トム・シリング(クルト・バーナート)、セバスチャン・コッホ(カール・ゼーバント)、パウラ・ベーア(エリー・ゼーバント)、ザスキア・ローゼンダール(エリザベト・マイ)、オリヴァー・マスッチ(アントニウス・ファン・フェルテン教授)、ツァイ・コールス(幼少期のクルト)、イーナ・ヴァイセ(マルタ・ゼーバント)、ハンノ・コフラー(ギュンター・プロイサー)、イョルク・シュッタオフ(ヨハン・バーナート)、ヤネット・ハイン(ワルトラウト・バーバート)、ラース・アイディンガー(ハイナー・ケーステンス/展示ガイド)ほか
映画「ある画家の数奇な運命」ネタバレあらすじ結末と感想
映画「ある画家の数奇な運命」のあらすじをネタバレ解説。予告動画、キャスト紹介、感想、レビューを掲載。ストーリーのラストまで簡単に解説します。
ある画家の数奇な運命の予告編 動画
映画「ある画家の数奇な運命」解説
この解説記事には映画「ある画家の数奇な運命」のネタバレが含まれます。あらすじを結末まで解説していますので映画鑑賞前の方は閲覧をご遠慮ください。
ある画家の数奇な運命のネタバレあらすじ:起
1937年、ナチ政権下のドイツ。絵を描くことが好きだったクルト少年(ツァイ・コールス)は芸術を愛する叔母エリザベト(ザスキア・ローゼンダール)の影響で博物館に通い、絵画に強い関心を持っていました。
しかし、感受性の強いエリザベトはある日精神のバランスを崩してしまい、統合失調症と診断されてしまいます。
当時のヒトラー政権では、精神疾患の患者や障がい者は弱い遺伝子を持っているとみなされ、後世に弱者を作らないために安楽死政策が行われていました。
婦人科の名医で親衛隊の名誉隊員のゼーバント教授(セバスチャン・コッホ)のもとに送られたエリザベトは、容赦なく“無価値な命”と鑑定。
1945年2月、エリザベトはガス室で安楽死させられてしまいました。ドイツ降伏まであとわずか3ヶ月のところでした。
ある画家の数奇な運命のネタバレあらすじ:承
同年5月。ドイツが敗戦すると、ゼーバントはソ連軍に連行され、少佐から安楽死政策について尋問を受けます。しかし、少佐の妻が陣痛で苦しむ声を耳にしたゼーバントは手を貸すことを願い出て妻子の命を救い、幸運にも無罪放免となりました。
1951年。青年になったクルト(トム・シリング)は東ドイツのドレスデンにあるに美術学校に入学しました。期待と希望に胸を膨らませ未来に踏み出したクルトでしたが、ある夜突然、父(イョルク・シュッタオフ)が自殺してしまいました。家族のために自らの主義を曲げナチ党員になった父は、戦後それを理由に職を失い、生きる目的を失っていたのでした。
幼いころには叔母を、そして父親までも亡くしてしまったクルトは悲しみに沈み、作品制作に没頭することで癒そうとしていきます。
そんな時、同じ学校の服飾科のエリー(パウラ・ベーア)に出会いまいました。美しいエリーに亡き叔母の面影を見たクルトは、瞬時に情熱的な恋に落ちます。しかし、それには衝撃的な事実がありました。なんとエリーの父はクルトの愛する叔母に安楽死の決断を下した医師、ゼーバントだったのです。しかし、そんなことは誰も知る由がありませんでした。
ゼーバントは、画家であるクルトを蔑み、娘の相手として嫌悪を露わにしますが、2人はなんとか愛で切り抜けていきます。
ある画家の数奇な運命のネタバレあらすじ:転
1956年。卒業制作が評価されたクルトは歴史博物館の壁画を任されました。
やがて、エリーはクルトとの子を妊娠しました。ゼーバントは近頃のエリーの様子から既に娘の妊娠に気付いていました。そして中絶すれば、愛情も失せると考え、クルトに「すぐ胎児を取り出さなければエリーは死ぬ病気だ」と嘘をつき、自らの手で娘の子を殺めてしまいました。
しかし、2人の愛は変わることはありませんでした。
1957年、クルトとエリーは結婚を果たしました。
ゼーバントにとって許しがたい結婚ではありましたが、過去の安楽死の罪で逮捕される可能性が持ち上がり、西ドイツへ逃げなくてはならなくなったため、認めるしかありませんでした。
一方、クルトは依頼された壁画制作を行いながら、社会主義への疑問が深まっていき創作意欲を徐々に失っていました。
エリザベトの姿を最後に見たときに言われた「真実を見ろ」という言葉を思い出します。
真実を求めて、クルトはエリーと共に西ドイツへと渡りました。ベルリンの壁が築かれる直前1961年のことでした。
ある画家の数奇な運命の結末
ヂュッセルドルフ芸術アカデミーの入学を果たしたクルトは、ドイツアート界の伝説的存在、フェルテン教授(オリヴァー・マスッチ)の「自由があるのは芸術だけ」という言葉に鼓舞され、息を吹き返したように作品を制作していきます。
そんなある日のこと。学生の作品に全く興味のないフェルテン教授から、「君の作品を見せてくれ」と言われました。クルトが緊張しながら教授をアトリエに招くと、たった一言「これは君じゃない」と言い残し教授は去っていきました。
次の日クルトは全てをリセットし、真っ白なカンバスの前に座りました。ところが何も浮かんできません。次の日もその次の日もカンバスは白いまま。ゼーバントからも嫌味を言われ焦燥感だけが独り歩きをしている状態でした。
そんなクルトにひらめきを与えたのは、安楽死政策の最高責任者の逮捕を伝える新聞でした。何かにとりつかれたかのように、新聞に掲載された写真を夢中で模写していきました。
作品が完成したころ、クルトのアトリエに立ち寄ったゼーバントは、作品を見て青ざめ、激しく取り乱してしまいます。この時、ゼーバントだけが真実に気付いたのです。
クルトの作品はゼーバントを除き、多くの人に支持されました。
やがて子供を設け父親になってからも意欲的にフォト・ペインティングを制作していきました。個展や記者会見では、作品について多くを語らないこともかえって人々の興味を掻き立て、人気を不動のものにしていったクルトでした。
以上、映画「ある画家の数奇な運命」のあらすじと結末でした。
何処までが真実で何処からがフィクションなのか、不思議な魅力に溢れた作品である。大戦下のドレスデンと戦後の東ベルリンでナチスとソ連に翻弄される若き画家とその家族。これは事実に基づく物語なので、ただそれだけで説得力が充分だ。叔母のエリザベトが終生クルトの心の師であり続けたのが救いであり希望でもある。限られた時間ながら美の原点として或いは女神として、象徴的に描かれたエリザベトの存在に私は圧倒された。バスのクラクションを浴びるシーンも全裸でピアノを弾く姿も、ギリギリの美の極限が狂おしいほど感性豊かに表現されている。木登りで大地を見渡して「全てがみんな繋がっている」と悟る若き天才画家。彼の中ではこの時すでに未来の絵が完成していたのである。映画に登場する人物たちの濃い目のキャラが主人公の淡白な青年を盛り上げる変則的な演出が面白い。長時間に及ぶ力作なので上手く表現・評価ができないけれど、分かり易い映画でありながら一筋縄では捉えきれないとても不思議な作品であった。