ラヂオの時間の紹介:1997年日本映画。普通の主婦・鈴木みやこが書いた脚本が、初めてラジオの生ドラマで放送される。しかし、主演女優のわがままで、舞台が日本からアメリカ、はたまた宇宙にまで元の脚本とはかけ離れてしまう。最後の結末はどうなるのか。しっちゃかめっちゃかのコメディー映画です。
監督:三谷幸喜 出演:唐沢寿明(工藤学)、鈴木京香(鈴木みやこ)、西村雅彦(牛島龍彦)、戸田恵子(千本のっこ)、井上順(広瀬満俊)、細川俊之(浜村錠)、奥貫薫(永井スミ子)、梶原善(大田黒春五郎)、モロ師岡(バッキーさん)、近藤芳正(鈴木四郎)、布施明(堀ノ内修司)、藤村俊二(伊織万作)、並樹史朗(保坂卓)、田口浩正(辰巳真)、梅野泰靖(古川謙十郎)、小野武彦(野田勉)、市川染五郎(斎明寺公彦)、遠藤久美子(一之瀬弥生)、渡辺謙(大貫雷太)、桃井かおり(中浦たか子)他
映画「ラヂオの時間」ネタバレあらすじ結末と感想
映画「ラヂオの時間」のあらすじをネタバレ解説。予告動画、キャスト紹介、感想、レビューを掲載。ストーリーのラストまで簡単に解説します。
映画「ラヂオの時間」解説
この解説記事には映画「ラヂオの時間」のネタバレが含まれます。あらすじを結末まで解説していますので映画鑑賞前の方は閲覧をご遠慮ください。
ラヂオの時間のネタバレあらすじ:本番開始前、走り回る牛島。
あるラジオ局「ラジオ弁天」のスタジオで、ドラマのリハーサルが行われていました。ラストシーンが終わり、ナレーターは最後に「ドラマスペシャル『運命の女』、作・鈴木みやこ、出演・千本のっこ、浜村錠、広瀬光俊、野田勉、案内役は、私、保坂卓がお送りしました。…」と語り、リハーサルは終了しました。スタジオには、プロデューサーの牛島龍彦、彼のアシスタントの永井スミ子(スミちゃん)、ディレクターの工藤学、効果マンの大田黒春五郎、ミキサーの辰巳真、千本のっこのマネージャーの古川清十郎、そして、このドラマの作家・鈴木みやこがいました。
リハーサルが終わると、牛島は「いいじゃない」と工藤に言い、作家のみやこに「本番はもっとおもしろくなりますから」と励ましました。録音ルームから出てきた出演者に、牛島は真っ先に駆け寄り、忙しそうに声をかけていました。牛島は千本のっこが出てくると、作家のみやこを呼びました。のっこに牛島は「もう完璧でした」、みやこも「よかったと思います」と褒めました。ただ、のっこは不満そうです。次に丸山神父役の野田勉が「もう少し声のトーンを落としたほうがいいんじゃないかと…」と訊いてきました。みやこは「いいと思います」と答えました。ナレーターの保坂が「台本で2,3、気になったところがあるんですが」と牛島に声をかけてきました。広瀬は「スミちゃん、何か食べるものない」と永井を呼びました。牛島は永井に「常識だろ」と言い、1万円札を渡して何か適当に買ってくるように指示しました。
牛島とみやこは、局内の廊下の打ち合わせ場所で、保坂の意見を聞きました。保坂は「基本的には大変良くできた作品だと思います。ただ言葉の使い方で2、3、気になったところがあったものですから…」と言い出しました。保坂は「台本の…『上を見上げた』」というところ、「これは言葉の重複です。『頭痛が痛い』と同じです」と指摘しました。みやこが隣の牛島に目をやると、牛島は廊下でゴミ清掃をしている音のほうが気になっているようで、清掃係に「静かにやってくれ」と怒鳴りました。みやこは保坂に反論しましたが、保坂は「いいません。『上を見た』に変えさせていただきます」と言い、「次…」と気になったところを指摘しました。
その頃、スタジオでは永井が買い物を終えて、戻ってきました。永井はたくさんの食べ物を買っていました。工藤は、永井に使わなかったCDを保管庫に返してくるよう指示して、効果マン・大田黒と将棋を始めました。保坂との打ち合わせを終えた牛島は、みやこを食堂に連れていき、保坂の指摘に釈然としないみやこを慰め、「僕の持論ですけど。ラジオドラマにはTVドラマにない良さがある。…人間に想像する力がある限り、ラジオドラマには無限の可能性がある。僕は好きだな、ラジオドラマ」とみやこに言いました。そして、スタジオに戻る途中、みやこに放送作家のバッキーさんを紹介し、好調に放送中のDJ・中浦に手を振り、自分たちのスタジオに戻りました。
スタジオに二人が戻ると、のっこのマネージャー・古川から電話がかかってきました。牛島は古川に会いに出ていきました。永井はみやこに「ステキなお話ですね。私、泣いちゃいました。ヒロインのモデルはいるんですか。自分だったりして」と尋ねると、工藤は「ああいうのいい話っていうんだ」と水を差し、みやこはこの作品にはモデルはなく「私はこんな自由な生き方は」と否定しました。工藤はみやこに「初めてだよね。…あのシナリオコンクール、この人1人だけだったらしいよ」と暴露しました。みやこは少しがっかりしました。古川の申し出は、のっこが演じるヒロインの名前でした。「律子は曰く因縁の名前で…名前だけでも変えてほしい」と言う要求でした。牛島はスタジオに戻り「冗談じゃない。…」と呟き、心配したみやこには「先生には関係ないことです」とその場はとりつくりました。
そこに編成の堀ノ内が差し入れを持ってやって来ました。牛島は堀ノ内に、のっこが役名変更の件を相談すると、堀ノ内は「そうしないとまずいでしょ」と指示しました。みやこは冒頭の作家のコメントの録音に入りました。工藤の指示出しに合わせて、緊張した少し上擦った声で用意したコメントを読み上げました。それを終えたみやこに、牛島はのっこの役名変更の件を相談し、候補の名前をあげますが、のっこは拒否しました。結局、牛島はみやこに無断で彼女の役名を「メアリー・ジェーン」にしました。その事を廊下の打ち合わせ場所に集まっている出演者に説明すると、ヒロインの相手役を演じる浜村が「どうして彼女がメアリー・ジェーンで、僕は寅造なんだ!だいたい、彼女だけ控え室で、僕らは十把一絡げなんだ!」と怒りだしました。そんな浜村を、広瀬は「まあまあ、あちらさんは盛りを過ぎたとはいえ、一応はスターさんだから」と宥めますが、浜村の怒りは収まらず、自分も外人にするように求めました。
牛島は仕方なくそれを受け入れ、スタジオに戻り、「役者は我が儘ですよ。自分の事しか考えてない…」と愚痴をこぼし「こりゃ~もう、設定を外国にするしかない。…内容は一切変わらない。設定を熱海からNYに変えましょう。…」と言い、みやこは「全部外人に?」と戸惑いますが、修正を了承し、夫に電話をかけ、考え始めました。牛島は、この段階での新人素人の作家では無理だろうと、全部自分で考えた新しい役名を書いたものを、人数分、永井にコピーさせました。考えぬいたみやこは牛島に「どうしても無理がでるんです。NYにパチンコ屋ありますか?…この物語はパチンコ屋でバイトしてる主婦が恋に落ちるというところに意味があるんです」と主張しました。工藤も「あとあと、おかしなことになってくる」とみやこの意見を後押しします。悩んだ牛島は堀ノ内に相談に行きました。
牛島は堀ノ内とのっこの控え室に行きます。堀ノ内にのっこの説得を任せていると、古川が牛島に「のっこの新曲、お願いしますよ」と1枚のCDを渡してきました。のっこは堀ノ内に「私、このままじゃ、やれないな。…私、女弁護士がいい。…バリバリの」と言ってきました。堀ノ内に促された牛島はしぶしぶ承諾します。そして、直ぐバッキーのところに行き、「あと4分で、ヒロインを女弁護士に直してほしい。そんな事できるのは世界であんただけだ」と頼みます。バッキーは引き受け、やってしまいます。牛島はその新しい台本を持って、バッキーとスタジオに戻り、その台本を至急コピーするように永井に指示します。駆け寄るみやこに牛島は「メアリー・ジェーンでいきます。…若干、設定を変えました。時間がなかったのでこちらで直しました。…メアリーは女弁護士になりました。NYで働くバリバリのキャリア・ウーマンに。…心配には及びません。ちょっとナレーションで入れるだけですから」と告げました。みやこは唖然としました。牛島はコピーした新しい台本を出演者に渡し、浜村さん・マイケル・ピーター、広瀬さん・ハインリッヒ、野田さん・マルチン神父と、役名変更を発表しました。するとナレーターの保坂が「これはどういうことですか。ヒロインが女弁護士になっている」と説明を求めました。困る牛島に、浜村は「また、あの女か…もういい…帰らせてもらう」と怒って帰ろうとしました。牛島は必死で「5分待って下さい。相談してきます」と彼を止めました。
牛島はへとへとになり、のっこのところには行かず、永井に「俺が好きでこんなことやってると思うな…」と呟き、甘えます。5分が経ち、牛島は浜村のところに行きました。浜村は「さっきはついかっとなってあんなことを言ったが…条件がある。村の漁師じゃ、釣り合いがとれない。パイロットでいきます」と言い出しました。頭を抱える牛島でしたが、何とかなったので、嬉しくなり、永井と抱き合います。
その頃、スタジオでは、バッキーの裁判シーンから始まる台本に、工藤は「これ複雑過ぎるよ」と言いましたが、バッキーは「マシンガンの音がほしいな。バイオレンスは、この作品のテーマだ」と言って聞きません。大田黒はすぐSEのCDをとりに行きました。工藤はみやこに「ここにいる奴らは誰もいいものを作ろうと思ってない。…もし、あんたが人を感動させるものを作りたいと思うなら、この仕事は辞めたほうがいいと思うよ」と助言しました。その時、みやこの夫・四郎が赤いバンダナを持ってきました。四郎はスタジオに戻ってきた牛島、ナレーターの保坂に「車のセールスやってます」と言い、名刺を渡し、挨拶しました。みやこは牛島にバンダナを見せ「いつも本を書くとき、これを巻いてるんです。…手遅れでしたね」と残念そうに言うと、牛島は「ご安心ください。これ以上、1字1句変えさせません。アドリブ禁止条例出しました」と言いました。そして、気がついたように牛島は頼まれていたのっこの新曲CDをラストにかけるよう、嫌がる工藤に指示しました。
ラヂオの時間のネタバレあらすじ:いよいよ本番・生放送開始
休憩時間が終わり、出演者たちが続々とスタジオに入ってきました。工藤は「そろそろスタンバイお願いします」と指示しました。いよいよ本番・生放送が始まります。午前0時、保坂の「ドラマスペシャル『運命の女』。この作品はラジオ弁天ドラマコンクールで優勝した。鈴木みやこさんの…」という紹介の後、みやこのコメントが流れました。その時、太田黒がマシンガンのCDがないと言って戻ってきました。工藤はコメント後にテーマ曲をいれる指示をし、マシンガンの音で相談します。永井が、守衛さんが昔、効果マンだったことを言うと、工藤と太田黒は守衛室に走っていきました。工藤は年老いた守衛に頼みましたが、彼は断りましたが、工藤は食い下がると、彼は「マシンガンでも色々あるよ。お好みは?」と言い、音の作り方を教えてくれました。工藤と太田黒は急いでスタジオに戻りました。
早速、太田黒は音を作る準備をしました。本編に入る直前、ミキサーの辰巳が「マシンガンと言えばシカゴだ」と言い出しました。急遽、設定はNYからシカゴに変更されました。「犯罪都市シカゴ、…」という保坂のナレーションにかぶせるように、太田黒がピスタチオを缶に落とし、マシンガンの音が出ました。成功です。物語はバッキーの脚本通り、裁判シーンから始まりました。のっこは弁護士・メアリー役、バッキーは被告人役を演じました。バッキーは熱くなって、勝手にアドリブでしゃべっています。工藤は彼の声を絞っていきながら、CMに入るよう指示しました。「時間がおしてますよ。どうします?」と工藤が言うと、古川が神父の場面をカットする案を出し、そうなりました。
CM後、本編の続きが進行します。保坂の「ハインリッヒは中古車のセールスマンだった」というナレーションを聞いた夫・四郎は「言ってくれれば色々教えてあげたのに」と残念そうにみやこに言いました。永井がヒロインは始めはパチンコ屋だったことを言うと、四郎はみやこも以前パチンコ屋でバイトしてたことを言いました。放送は順調に進んでいきました。CM中、録音ルームで牛島は、マルチン神父の場面は3回から2回に減らすことを、出演者に指示します。みやこは「台詞も変わってきますね」と言い、台本を書き直すことになりました。牛島たちスタッフが録音ルームを出たとき、保坂が「この話には無理がある。…シカゴには海がない」と言ってきました。当初台本ではヒロインは海で遭難し、寅造と出会うことになっていたのを、設定を変えたため、矛盾が出てきたのです。スタッフは知恵を出し合います。
その時、バッキーが「1つだけ手はある。…ダムを決壊させるんだ」と言い、原稿を書き出しました。工藤は永井に時間稼ぎのためのニュース原稿を報道から貰ってくるように指示します。工藤と太田黒はまた、守衛室に行き、守衛に助けを求めると彼は「昔はみんな手作りだった。…儂らの時代は誰も教えてくれなかった。自分で考えた」と言い断ってきました、工藤は「そんな状況じゃないんだよ!」とくってかかり、音の作り方を強引に聞き出し、トイレの水を流す音を収録します。そしてスタジオに戻り、雨の降る音、ダムの決壊音を作る用意をみんなにさせます。その間、牛島は出演者たちに「海辺のシーンがカットになり、代わりに山道で迷ったメアリーがダムの決壊に遭遇するという大スペクタクルシーンになります」と説明し、深夜のパーソナリティを10年務めたベテラン・広瀬にSEが揃うまでハインリッヒで何とか時間をつないでくれと頼みます。広瀬はハインリッヒのプロフィールを話しました。
何とかSEの準備が揃いました。保坂のナレーションに合わせて、太田黒は雨を降らし、空のカップをつぶし、トイレの音は流す速度を変えて、ダムが決壊と土石流の音を流しました。のっこ以外の出演者は村人になり、メアリーが土石流に遭うシーンが放送できました。この後はいよいよヒロイン・メアリーと恋の相手が出逢うシーンです。恋の相手を演じる浜村がマイクの前に立ち、「久しぶり。こんな形で再会できるとは思わなかった。僕の名前は“ドナルド・マクドナルド”。パイロットだよ。」と言いました。
ラヂオの時間のネタバレあらすじ:どんどん変わる脚本
再びCMに入り、のっこは牛島に「マイケル・ピーターじゃなかったの?…覚えられないわよ!…」と怒ります。牛島は「あれは浜村さんが勝手に…」と弁解し、浜村に話に行きましたが、浜村は開き直っていました。生放送なので修正はできず、このままでいくしかありませんでした。それに全部、設定を変えないといけなくなりました。パイロットが山中にいる訳がないからです。バッキーは「ドナルドが乗っていた飛行機がハワイ上空で消息をたつ、遺体は見つからない」という提案をします。牛島はスタッフに確認をとり、それでいくようにバッキーに原稿を依頼します。そして、牛島はみやこにマルチン神父の場面を1つにして、「短くて強烈な印象を残す」場面にしてほしいと頼みます。みやこは了承し、考え始めました。
CMが終わり、ナレーションが「恋にいきる女、やがて彼女は決断する。家族を捨て、ドナルドのもとに行くことを…」と流れました。このドラマを最初から聴いていたタンクローリーの運転手は、「バカ…」と言いつつ、運転をしていました。スタジオでは夫はこの作品が自分たち二人の事と勘違いし、みやこに作った意図を訊きますが、みやこは否定し、「仕事中なんですけど」と言って、席を移しました。本編は進み、メアリーはハインリッヒと別れ、ドナルドのもとに行きました。しかし、そこに1通の電報が届きました。その電報には「ドナルド・マクドナルド、ハワイ上空で消息をたつ」というものでした。のっこは号泣するメアリーを演じます。ここでCMを入れました。
永井は牛島に「スポンサー、大丈夫?」と聞いてきました。牛島は航空会社が入っていたのをすっかり忘れていました。スタッフに八つ当たりする牛島に、堀ノ内から電話がかかってきました。先方はすぐに苦情の電話をかけてきたらしく、相当怒っているようでした。堀ノ内から怒られた牛島はがっくりします。その状況を見ていたバッキーは「まだ、手はある!宇宙飛行士もパイロットだ。宇宙で消息をたつということにしたらどうだ!」と提案しました。牛島は「宇宙だって、ハワイ上空だ」とその案に飛びつきました。バッキーはそれで原稿を書き始めました。また、新たなSEが必要です。工藤と太田黒はまた守衛に助けを求めに行きました。
守衛は「私はね、めったに有り物は使わないの。使うのはここ」と頭を指し、「はい、ロケット」と言い、掃除機を渡しました。録音ルームでは、出演者たちに牛島と工藤がバッキーの書いた新台本を渡しながら、「CMあけて、遭難シーンからやります」と打ち合わせをしていました。そこにみやこがマルチン神父の場面を仕上げた原稿を持って入ってきました。みやこはその説明を聞いて、「宇宙で遭難するってことは、もうドナルドさんは戻って来ないってことですか。…そんなのダメです。ドナルドさんは戻って来ないとダメなんです。戻ってきてメアリーと一緒にならないといけないんです!」と訴えました。工藤は牛島に「奥さんが正しい」と言い、牛島はバッキーに八つ当たりし、口論になりました。「ねえ、ねえ、私」とのっこが割り込んできました。「私…平気よ。この人戻って来なくても。…旦那も捨て、恋人は死んで、メアリーは1人逞しく生きていく」とのっこは提案しました。みやこはシナリオの根幹を覆すのっこの案に断固拒否しましたが、堀ノ内がそこに入ってきて「それでいこうよ。時間ないよ」という言葉で、牛島もそれでいくことにしました。
浜村は「僕はラストシーンに出られない」と言って怒ります。工藤も仕方なさそうに、みやこに「今回は我慢してくれ」と言いました。みやこは「私に次はないんです!」と言い返しました。すると保坂が「奥さん、これ以上、ヒロインと自分をだぶらせるのは辞めて貰いたい。それに轢き吊り回される我々の身にもなってほしい」と言いました。みやこは頭にきて「どっちの台詞ですか!皆さんの都合で寄って集って、私の本、無茶苦茶にしておいて、よくそんな事が言えますね!」と怒りました。スタッフ・出演者は沈黙、場は嫌なムードになりました。広瀬は明るいムードにしようとしますが、マルチン神父役の野田が「俺らにとっては百の中の1つかもしれないが、この人にしてみれば一生に一度のことだ。…この本に悲しい結末は似合わない。…マルチン神父も忘れないように」と言いました。みやこは牛島に頭を下げお願いしますが、牛島は「まだ、わからないのか。千本のっこが嫌がってるからだ。…」と言いました。みやこは手元にあったはさみでミキサーの配線を切り、録音ルームに鍵をかけて閉じこもりました。
「お願いですから、本の通りに…」と訴えるみやこに、牛島は「あんた何も分かってない。…満足いくもんなんて、そう作れるもんじゃない。妥協して妥協して自分を殺して作品を作り上げていくんです。…我々は信じてる。いつかはそれでも満足のできるものができるはすだ。その作品に関わった全ての人とそれを聴いた全ての人々が満足できるものが。ただ、今回はそうじゃなかった。…悪いが名前は読みあげますよ。なぜなら、これはあんたの作品だからだ。…」と語りました。それを聞いて、帰ろうとするみやこに、後ろにいた浜村が「今、帰ったらあんたの負けだ。あんたも作家の端くれなら、最後まで聴いていくことだ」と言いました。
鍵を開け、出演者が入ってきました。工藤は牛島に「これ以上やったら、あの人の本じゃなくなる。我々にそこまでする権利はない」と言い、口論になり、牛島は工藤を解任し、ミキサーの辰巳に工藤の代わりを頼みました。工藤は怒って、スタジオを出ていきました。CMばかりでなかなか本編にならないので、苛ついたタンクローリーの運転手がチャンネルを変えようとすると、本編が始まりました。ドナルドが宇宙で遭難する場面から始まりました。ドナルド役のはその場面の収録が終わると、帰っていきました。牛島は堀ノ内に「スポンサーにはこれで…」とお願いしました。
ラヂオの時間のネタバレあらすじ:工藤の作戦。帰ってきたドナルド。
解任された工藤はスタジオの外で考えていました。太田黒を呼んで、何とか録音ルーム内と連絡をとれないかと相談しました。メイン調整室からそれが可能であることを知った工藤は、永井と太田黒、辰巳に考えた案を教え、メイン調整室に行き、バッキー、みやこ、広瀬に連絡をとります。そして、保坂に連絡をとりました。保坂は「無茶だ」と呟きました。太田黒は帰ろうとしている浜村を捕まえて、強引にスタジオに連れて行きました。
工藤の案はドナルドを連れ戻すものでした。のっこは1人、望み通りの台本になり、気持ちよさそうに台詞を呼んでいました。ハインリッヒとの別れを告げるメアリーに、夫・四郎は、思わず「そんなの我が儘だ!…」と大声を上げてしまいました。アドリブでのっこが「誰?」と言うと、四郎はマイクの前に立ち、「ジョージと言います」と言いました。広瀬は無理矢理、四郎を後ろの席まで連れて行きました。しかし、「ハインリッヒが車ごとミシガン湖に飛び込んだ」というナレーションを聞き、四郎はまた思わず「ハインリッヒ~!」と叫び、広瀬は四郎の頭を台本で叩き止めました。スタジオのスタッフはため息をつきました。守衛も守衛室でラジオを出し、このドラマを聞いていました。
太田黒が浜村を連れて来ました。永井のサインで、辰巳が牛島を押さえつけました。するとスタジオのドアが開き、工藤が戻ってきました。工藤は「責任は俺がとります。…」と言って指揮を再会しました。ナレーションの保坂は上着を脱ぎ、台本を閉じて、アドリブで「その時だった!大空の彼方からシカゴの街に向けてひとつの物体が飛来してきた。…1人の男がまたがっていた。彼こそが我らがドナルド・マクドナルド!」と叫びました。浜村を強引にマイクの前にみんなで連れていきます。のっこは怒りました。保坂は出演者の状況を見ながら、「そして、ドナルドが大地に降り立った。そして、愛しい人の名前を叫んだ!」と言いましたが、浜村は走って逃げ回ります。みんなでマイクの前に立たせ、無理矢理、台詞を言わせました。ついに浜村は「メアリー、メアリー・ジェーン。」と叫びました。保坂は「そして、メアリーは」と言うと、もう後ろの席に座ってすねていたのっこを、広瀬が強引にマイクの前に立たせました。
スタッフ、出演者が固唾を飲んで、のっこの一言を待ちました。のっこは「お帰りなさい」と言いました。スタッフ、出演者はほっとしました。放送を聴いていたタンクローリー運転手は涙を流しました。工藤は「よし、これで台本55ページに戻った」と言い、ラストシーンの花火の音が出る場面になったのですが、機械の故障でSEが出ません。いつの間にか、見学に来ていた守衛が「50円玉ない?」と聞き、50円玉を持って、録音ルームに入り、見事に打ち上げられる花火の音をつくり出しました。そして最後の最後にやっとマルチン神父の出番が来ました。野田はマイクの前に走り、「愛の力を信ぜよ。愛を信じる者のみ、愛によって救われる」と叫び、ドラマ本編は終了しました。
ラヂオの時間の結末:無事終了した生放送。
生放送はこれで無事終了しました。千本のっこは「結構、おもしろかったわね」と喜んで、車で帰っていきました。牛島は堀ノ内に謝りました。堀ノ内は彼を許しました。スタジオでは、守衛が工藤に「今度はいつやるの、ラジオドラマ。…あんまり、頼らないほうがいいよ。機械に」と言ってスタジオを出ていきました。みやこは夫・四郎に「あれは空想のお話だから。…今の生活で満足しているし、十分幸せよ、だから安心して」と言うと、四郎はみやこのおでこに軽くキスしました。みやこは工藤にお礼を言い、堀ノ内さんから続編を作る依頼をされたことを告げ、「その時もまたディレクター、工藤さんにお願いしたい」と頼むと、工藤は「本を読んでからだな」と言って帰っていきました。
工藤は局の玄関前で牛島に謝罪しました。牛島は「明日、始末書持ってこい」と工藤に命じ、「俺は時々虚しくなる。…何がやりたいんだ、俺は」と愚痴をこぼしました。工藤は牛島に「自分で言ってたじゃないですか」と答えました。
バッキーが自転車に乗ってきました。そこに、タンクローリーが1台入ってきました。降りてきた運転手は、工藤と牛島に「局の人?」と訊くと、「良かったよ、今夜のドラマ…良かったメアリー・ジェーン」と言って泣き崩れました。その姿を見て、牛島は工藤に「ハインリッヒの車なんだけど、あれ、水陸両用車だったってのはどうかな。…」と話し、二人は帰っていきました。
「ラヂオの時間」感想・レビュー
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ラジオの時間は、毎日繰り返される深夜放送の1日に着目し、その中でどれだけのドタバタばあるのかを紹介した映画です。鈴木京香さん演じるパーソナリティーなどが、臨機応変に危機に対応することで、見かけ上異常がないように放送を進めていく様は痛快です。この放送の様子はリスナー支店でも描かれていて、事情を知らないトラックドライバーなどが、涙しながら放送を聞きいる様はとても痛快です。
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才人・三谷幸喜が、ドライな感覚のシチュエーション・コメディに挑み、三谷ワールド全開の初監督作品が「ラヂオの時間」だ。
この映画「ラヂオの時間」は、ご存知、三谷幸喜の初監督作品で、ラジオドラマ「運命の女」を生放送する深夜のラジオ局が舞台。
本番になって、主役の女性タレントが、役名をリツ子からメアリー・ジェーンに変えろとゴネ始めたから、さあ大変———。その時、調子のいいプロデューサーが、この些細な我儘を受け入れたために、何と物語の舞台が熱海からニューヨークへと変更され、物語の辻褄がどんどん合わなくなっていくのです。
もう、とにかく、無茶苦茶、支離滅裂な展開へ———。生放送のラジオドラマという「時間的な制約」と、スタジオという「空間的な制約」を設ける事で、収拾がつかない大混乱に対処しようとする”人間模様”に面白味が増幅していくのです。
この映画は、全く見事な”シチュエーション・コメディ”の傑作なのです。考えてみれば、それまでの日本映画には、このような”シチュエーション・コメディ”が、ほとんどなかったような気がします。
“ウェットな人情喜劇”が大半の日本映画にあって、ビリー・ワイルダー監督を尊敬してやまない三谷幸喜監督が持ち込んだ、”ドライな感覚の喜劇”は、非常に新鮮に感じました。
加速度的に目まぐるしく変わりまくる、のっぴきならない状況に、巧みな人物造型が織り重なり、”三谷ワールド”が構築されていくのだと思います。
この映画に登場する、それぞれのキャラクター達は、かなり誇張され、そしてデフォルメされてはいるものの、実際、こんな奴って自分達の周りに確かにいるなと、思わず頷いてしまうようなタイプばかりで、非常におかしくもあり、お腹を抱えて笑ってしまいます。
そんな、おかしな面々が、ハチャメチャな状況を収束させようと、必死になって、懸命に動き回るのだから、もう楽しすぎます。
とにかく、登場人物の全てが、皆、生き生きとして見えるのだから、これは、本当に凄いドラマなのです。三谷幸喜の初監督作に賭ける意気込みは、カメラワークの工夫などにも見られ、スタジオを徘徊しながら、登場人物をノーカットで紹介していく冒頭のワン・カットでの撮影は、とにかく見応え十分で、三谷監督、やってるなあと感心してしまいます。
恐らく、この物語には、三谷監督自身がテレビドラマの脚本家として、ディレクターの横やりなどにストレスをためてきた、苦い経験が活かされているのではないかと思います。
とにかく、この三谷幸喜の初監督作は、実に三谷らしい、一本のシナリオに賭ける情熱のほとばしりが、よく伝わってきて、観終えて、爽快な気分に浸る事が出来ました。
みやこの書いた台本が、出演者のワガママや製作者の都合でどんどん変えられていく過程は、仕事をする者は形は違えど何らかの形で経験していることで、心が痛みます。どれだけ自分が誠実に思いを込めて仕事をしても、それが通らないことってありますよね。
でも、あくまでこれはコメディ映画。観る者を嫌な思いにさせて終わることはありません。ドタバタの末に最後にラジオドラマは、プロデューサーの牛島が目指した、作品に関わった人も聴いた人も満足できるものになったと言えます(すべての人が満足した、とは言えないと思いますが)。
いろいろあるけど、自分もがんばって仕事に取り組もう、と思える映画です。