さらば愛しき大地の紹介:1982年日本映画。主人公のユキオは、農家の長男として生まれますが、もう少しおおらかな気持ちになれないものかと、呆れてしまうほど劣等感の強い人間です。兄弟間の待遇の違いを訴えて母親に歯向かいますが、覚せい剤に手を出したことをきっかけに、自ら破滅へと向かいます。肩肘張らずに役柄のその人になりきった根津甚八、また主人公を取りまく人間模様も、出演俳優ひとりひとりの持ち味がケレン味なく活かされています。1983年キネマ旬報ベストテン2位。第6回日本アカデミー賞「優秀監督賞(=柳町光男)」「優秀主演男優賞(=根津甚八)」「優秀助演女優賞(=山口美也子)」ほか各賞受賞作品。監督であり作者の柳町光男が移りゆく故郷の景色に万感の思いをこめます。
監督:柳町光男 出演者:根津甚八(山沢幸雄)、秋吉久美子(順子)、山口美也子(文江)、矢吹二朗(明彦)、日高澄子(幸雄の母親)、奥村公延(幸雄の父親)、草薙幸二郎(幸雄の叔父)蟹江敬三(大尽)、佐々木すみ江(順子の母親)ほか
映画「さらば愛しき大地」ネタバレあらすじ結末と感想
映画「さらば愛しき大地」のあらすじをネタバレ解説。予告動画、キャスト紹介、感想、レビューを掲載。ストーリーのラストまで簡単に解説します。
映画「さらば愛しき大地」解説
この解説記事には映画「さらば愛しき大地」のネタバレが含まれます。あらすじを結末まで解説していますので映画鑑賞前の方は閲覧をご遠慮ください。
さらば愛しき大地のネタバレあらすじ:起
石油精製所や製鉄所の明かりに浮かぶ茨城県「鹿島臨海工業地帯」。その陸路の先には広々とした田園風景が連なっています。日の暮れ時。静かな大地がより静かな夜を迎える時刻です。
農家の庭隅に1台の大型ダンプが駐車しています。その持ち主の声なのか、軒を揺るがす怒鳴り声が木造の家屋を突き破って聞こえてきました。
家の中では、柱にきつく縛られた男(根津甚八)が、野良犬のような息を吐いてわめき散らしています。男の目の前には転げた膳、欠けた茶碗や小鉢、総菜を入れた皿が散乱しています。そこで何が起きたのかは、黙々と片づけに専念する身重の妻、文江(山口美也子)や片隅で身を縮める父親(奥村公延)の様子から、おおよその察しがつきます。
「晩のおかずに嫌えな納豆ば、突ン出したって、暴れ出してな」。男を抑えつけた男の叔父(草薙幸二郎)に母親のイネ(日高澄子)が説明します。暴れん坊の甥っ子を叔父が止めにきた。なるほど叔父は屈強な男をふたり従えています。
帯で縛られた男、山沢幸雄は、農家の長男です。幸夫は、専業では「食べていけない」農家の家計をダンプカーの運転手をして助けています。しかし働き者だと言われる反面で、気分の落差が激しく、冗談口ひとつ利くにも気づかいの必要な人間です。事あるごとに、母親が弟ばかりを可愛がると言っていじけ、酒に酔うと気を荒くして暴れる。
そんな幸雄に味方するのが、3歳と4歳になる息子たちです。幸雄自身、子供を溺愛し、連帯意識を強めていることから、双方ともに庇い合い、よき理解者になっていました。
さらば愛しき大地のネタバレあらすじ:承
ある夏の日の午後、山沢の家へ暗雲が忍び寄ってきます。いつものように幸雄がダンプを駆って勤めに出ていた日、妻の文江が目を離した隙に、子供たちは近くの沼へ遊びに出、沼の深みにはまって溺れます。消防団が捜しに出たときにはすでに遅く、ふたりは死地へ旅立ったあとでした。
夕立の雨の中、幸雄は文江を引きずり回し、殴る蹴るの暴行をはたらきます。運命の仕業とはいえ、留守中に子供を奪われた無念が幸雄の心を苛みます。
野辺送りを終えたあとも、文江の神経を錐で揉みこむような憎悪を緩めません。さらには、弟のかつての恋人、順子(秋吉久美子)と深い関係になります。夫婦の営みが絶えていた幸雄は、たまたまそばにいた順子に惹かれ、本能の赴くままに順子を引き寄せたのです。
文江は、同じ地区にある実家へ避難します。父母亡きあと、実家は兄夫婦が支えていました。文江は兄に訴えます。いままでも散々嫌な目に遭った、けど今度ばかりは簡単ではないと。葬儀のあと幸雄は背中へ刺青を彫り、菩薩の脇に子供の戒名を入れました。「母親のオメエは、どんな苦しみを負ってんだ?」と幸雄は妻に言い寄ります。その身勝手に文江は深く傷ついています。
しかし兄は文江を突っぱねます。「嫁に行ったら、そこがオマエの家だへ」。文江は考えこみます。「自分は一家の大きな働き手になり、嫁として根を張っている、さらにこれからは舅姑の面倒をみる身だ」。
亭主に出ていけと言われたくらいでへこたれている時ではない、文江は考えを改めます。文江に強い意志が芽生えます。そして晩のおかずにと鶏を1羽貰い、家路につきました。
さらば愛しき大地のネタバレあらすじ:転
山沢の子供たちの事故から3年目の夏がやってきます。東京から幸雄の弟、明彦(矢吹二朗)が戻ってきました。それ以前に幸雄は実家を去り、順子との間にまり子をもうけています。文江の体にいた俊也ももうすぐ3歳です。
明彦を呼び戻したのは母親のイネでした。「家に男手がないと困るでなぁ」というイネのたっての願いを明彦が聞き入れたのです。
明彦はすぐにダンプの仕事に就いて、疎遠だった兄との仲を修復します。気をよくした幸雄も、兄として、またダンプの先輩として、よく明彦の面倒をみますが、幸雄の無軌道ぶりを見る明彦の目がしだいに険しくなくなってきます。
「男つうのは・・・」と明彦は切り出します。しかし頭ごなしにものを言われることを幸雄は最も嫌います。ましてや、自分よりも世故に長けた弟であるならば。まともに反抗されてはと、明彦もしばらくは放っておくことにしました。
幸雄は「体の疲れをごまかすため」と称して覚せい剤に手を染めています。幸雄とおなじ理由で覚せい剤を常用する者がダンプの運転手には多くいます。しかし「ほどほどならば」と安易に手を出したダンプ仲間のひとり、大尽(蟹江敬三)は、量を過ごして精神科への入院を余儀なくされました。
幸雄にとっても、覚せい剤は、自分の身から離せないものになっていきます。
さらには幸雄の近辺に、高利貸しや闇金の取立て屋がうろつくようになりました。実家を顧みない幸雄。荒れた生活で順子の苦労を増やす幸雄。中毒症状を頻繁に起こす幸雄。ダンプ仲間とも疎遠になってゆきます。
さらば愛しき大地の結末
幸雄とは反対に、明彦はその後、持ち前の利発さと堅実な仕事ぶりで、ダンプを引退し、建設会社の社長となって第1歩を踏み出しました。かつてのダンプ仲間を会社へ雇い入れ、会社の事務員と婚約も整い、順風な日々を過ごしていました。そこへ順子が金を借りに現れます。
幸雄はいまダンプを動かす資金もなく、仕事にあぶれています。代わりに順子が近くのキャバレーへ勤めに出、なんとか生活を維持している状態です。
明彦は順子に50万円用意します。しかし胸中は複雑です。誰よりも幸せになってもらいたい元恋人。しかし自分の兄との縁によって苦労を強いられています。
明彦の結婚式の日、覚せい剤を打って式場へやってきた幸雄は、明彦を恐れ「明彦が俺ば殺しに来る」と言って式場へ入れません。凶器の包丁を明彦が強引に取り上げると、幸雄は式へ参加せず、とぼとぼと歩いて家路につきました。覚せい剤に溺れる幸雄は、さらに順子が自分を「殺す」という幻聴におびえ、順子を背後から刺し殺し、逃亡中の田んぼの中で警察官に逮捕されました。
幸雄の刑期が「8年」と決まった日、幸雄の実家では、文江の子、俊也と順子の子、まり子が、仲良く豚小屋の子豚と戯れていました。そこへ幸雄の父親、明彦、ダンプ仲間の大尽が裁判の傍聴を終えて帰ってきます。
「お茶でも」とイネが言う間もなく、子豚たちが逃げ出てきます。おそらく豚小屋の錠をかけ忘れていたのでしょう。庭を逃げ惑う子豚たち。はしゃぐ子供たち。慌てる大人たち。山沢の家に絶えて久しいなごやかな空気が戻りつつありました。
以上、映画「さらば愛しき大地」のあらすじと結末でした。
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