それからの紹介:1985年日本映画。独自な視点をもつ映画監督として、オリジナル脚本も多く手がけた森田芳光監督が、文豪夏目漱石の本格小説に挑みます。主人公の代助と三千代は、本心を偽った過去を「自らへの復讐」と呼んで「それから」を生きますが、再開を機に忍ぶ生き方を捨て、自身の声に従順な生き方を選択します。抑制の利いた演技をみせる松田優作に力を得た森田監督、全盛時の腕が冴えわたります。
監督:森田芳光 出演者: 松田優作(長井代助)、藤谷美和子(平岡三千代)小林薫(平岡常次郎)、笠智衆(長井得)、中村嘉葎雄(長井誠吾)、草笛光子(長井梅子)、森尾由美(長井縫)、美保純(佐川の令嬢)、羽賀健二(門野)、一の宮あつ子(女中)、イッセー尾形(寺尾)、風間杜夫(菅沼)ほか
映画「それから」ネタバレあらすじ結末と感想
映画「それから」のあらすじをネタバレ解説。予告動画、キャスト紹介、感想、レビューを掲載。ストーリーのラストまで簡単に解説します。
それからの予告編 動画
映画「それから」解説
この解説記事には映画「それから」のネタバレが含まれます。あらすじを結末まで解説していますので映画鑑賞前の方は閲覧をご遠慮ください。
それからのネタバレあらすじ:起
明治時代。長井代助(松田優作)は、明治の小説家が「高等遊民」と名づけた種に属するひとりです。東京に生まれた彼は、帝大を卒業して親元を離れますが、経済的な自立はせず、市内に居を構え、女中(一の宮あつ子)ひとりと書生の門野(羽賀健二)を置くほかは、人の出入りを制限し、とくに何を期待することなく毎日を送っていました。
その暮らしぶりが、つまり30歳になる今日まで、代助が貫き通した生き方です。人と交われば、何かと世俗に巻き込まれ、面倒を負います。面倒が嫌いかと訊ねられれば、決してそうではなく、ただ面倒は少ないほうが身のためだと彼は考えます。代助の身辺が波立ちはじめたのはそんな折でした。大学時代の友人、平岡(小林薫)が代助を訪ねてきます。
帝大を代助と同期で卒業した平岡は、共通の友人、菅沼(風間杜夫)の妹、三千代(藤谷美和子)を妻にします。銀行へ就職し、その後関西の支店で揉まれますが、社内の金銭問題に巻きこまれて辞職を余儀なくされました。三千代は慣れない地で気苦労を強いられ流産します。かつて三千代を愛した代助は、平岡の話す「それから」に三千代の面影を追わずにはいられません。
それからのネタバレあらすじ:承
平岡は、経済界に有力な知己をもつ代助の兄(中村嘉葎雄)、または父親(笠智衆)に就職を斡旋してもらう気でいます。世慣れた平岡は、友人の親類は大切な伝手だと信じています。確かに代助の背後には強い力が控えています。「それを放っておくのは勿体ない」。そう言いたげな平岡の狡猾な口調に代助も苦笑せずにはいられません。
平岡夫婦は、代助の家からほどない地にある宿屋に身を寄せています。代助が訪ねた日、ふたりは諍いをしていました。語気荒く叱る夫の脇で妻は小さな抵抗を口にします。代助の日常にはない光景を見て身をひるがえしますが、しかし三千代は確かにそこにいました。代助の来訪に目を瞠った三千代も代助の視線をしきりに追ってきます。
しばらくした昼下がり、三千代が代助を訪ねてきます。三千代はかつて代助を愛した女でした。そのため、三千代ひとりの訪問は勇気ある行動です。代助と三千代の間に、平岡と三千代の間にはない空気が流れます。借金を請いに現れた三千代にも代助は柔和に応じます。三千代が関西でどんな生活を強いられていたのか、およそ察しがついてきます。
それからのネタバレあらすじ:転
代助の父親は、明治維新によって財をなした人物です。帝大出の次男を誇りに思う父親は、ならばと、代助にも財界での活躍を期待しました。本人にその気がないと見てからも、縁談の話を向けて翻意を促しつづけました。しかし埒が明かないとみるや、ついに腹を据え、父親自ら縁談の相手を選び、おまえも恥を知るならと襟を正すことを求めてきます。
兄は代助から持ちこまれた借金の申し出を断ります。「俺に借金を泣きついた連中でも、いまはどうにかなっている、そんなもんだ!」。財界人の荒っぽい気質そのままの兄は、平岡を裁断し、就職の斡旋にも応じません。代助はしかたなく、よき理解者と頼む兄嫁の梅子(草笛光子)に事情を話し、三千代の請う500円のうち200円を借り受けます。
その頃、政財界では、「日糖事件」が明るみに出つつありました。代助の兄から就職斡旋を袖にされたあと、新聞記者になった平岡にとって、贈収賄事件は格好の新聞ネタです。兄や父の身辺が騒がしくなるなかでも、代助は三千代との逢瀬を重ねます。3年にわたる歳月の遠慮が消えると、ふたりの胸にはおのずと若い頃の選択を悔やむ思いが広がってきます。
それからの結末
「義姉さん、わたしには好いた女がいます」。代助は信頼するその人に真実を話すことで、縁談を断り、三千代に言うべき言葉を反芻します。いっぽうでは借金を負いながら外に女をつくる平岡がいます。代助は平岡を見限ります。三千代を保護するのは自分以外にない、そう悟った代助は、家を移った先の三千代を平岡不在の時間に訪ねます。
「ぼくにはあなたが必要だ」。代助は三千代に承認を求めに来ています。三千代はしかし、4年前にその言葉を聞きたかった、そう言って貞淑を隠れ蓑にします。しかし代助の熱い口ぶりからその先を察しています。さらに悔恨さえも払拭しようとしてくれる実の深さに、「しようがない、覚悟を決めましょう」と三千代は呟き代助を受け入れます。
いまさら嫉妬してもしょうがないことだと知りながら、平岡は代助が持つすべてに怒りを覚えます。とくに社会へ出ても来ない男への生理的な嫌悪感が日増しに強くなっています。夫のもつ怒りは、つまりコンプレックスなのだと三千代には分かっています。自分をぶって、手籠めにして気が済むなら。夫の仕打ちに三千代は抵抗するつもりがありません。
平岡からの返事だという手紙が代助の父宛に届きます。友人でありながら自分の妻と関係をもったと、新聞記者らしく仔細な説明を加える手紙は、さぞ被害者意識を強調した内容だったに違いありません。長井の家を追われた代助は行き場を失います。市街へ出、いまはまだそれしか術がないかのように、暮れ往くもある曇天の町筋を巡って行きました。
以上、映画「それから」のあらすじと結末でした。
笠智衆と松田優作の共演が観れますね。