見知らぬ乗客の紹介:1951年アメリカ映画。見知らぬ男に交換殺人をもちかけられたテニスプレーヤーの男性が、彼の異常性に追い詰められていくサスペンスで、テニス試合の場面など視覚的な演出効果が際立つ傑作。
監督:アルフレッド・ヒッチコック 出演:ファーリー・グレンジャー、ロバート・ウォーカー、ルース・ローマン、レオ・G・キャロル、パトリシア・ヒッチコック、ほか
映画「見知らぬ乗客」ネタバレあらすじ結末と感想
映画「見知らぬ乗客」のあらすじをネタバレ解説。予告動画、キャスト紹介、感想、レビューを掲載。ストーリーのラストまで簡単に解説します。
見知らぬ乗客の予告編 動画
映画「見知らぬ乗客」解説
この解説記事には映画「見知らぬ乗客」のネタバレが含まれます。あらすじを結末まで解説していますので映画鑑賞前の方は閲覧をご遠慮ください。
見知らぬ乗客のネタバレあらすじ:突然の提案
アマチュアながらテニスプレーヤーとして名を知られるようになったガイ。しかしその私生活は、上院議員の娘アンと恋愛関係にあり、浮気相手の子を身ごもった妻ミリアムとの離婚協議中という悩ましい状況だった。ミリアムとの離婚話のためワシントンから故郷メトカフへ向かうガイは、列車の中で見知らぬ男から話しかけられる。ブルーノと名乗るその男は、ガイにとって邪魔な存在の妻と、自分にとって邪魔な存在の父親を、誰にも疑われることなく排除するために“交換殺人”をしよう、と持ちかける。ガイは取り合わずに列車を降りるが、そこにアンから贈られたイニシャル入りのライターを置き忘れてしまう。
見知らぬ乗客のネタバレあらすじ:実行された殺人
メトカフに着きミリアムと対面したガイがだったが、ミリアムはガイが有名になったことで一転して離婚することを拒否、激しい言い争いとなる。話が公になればスキャンダルになりアンとの仲も壊れると脅されたガイはアンへの電話で勢いミリアムへの殺意を口にする。その夜、男性2人を伴って遊園地で遊び歩くミリアムの近くにはブルーノの姿があった。彼は人気の少ない場所でひとりになったミリアムを絞殺する。ワシントンの自宅に戻ったガイはミリアムが殺されたことを知り、アリバイの証明として帰りの列車の中で話しをした大学教授の存在を警察に話すが、その大学教授は泥酔していたためガイを覚えていなかった。動機がありアリバイが証明できず、その日言い争っていたのを目撃されていたこともあってガイは容疑者として監視されることになった。
見知らぬ乗客の結末:明かされた“交換殺人”
一方でブルーノが「早く約束を守って父親を殺せ」とガイに執拗につきまとい、自宅の鍵と銃を送りつけてくる。事情を知ったアンと共にブルーノの親に彼の異常性を訴えようとするが失敗に終わり、ガイが父親殺害を実行する気がないと悟ったブルーノは、ミリアム殺しをガイの犯行に見せかけるため、ガイのライターを犯行現場に置いてくることを画策する。そのことを知ったガイは遊園地までブルーノのあとを追って2人はもみ合いになる。ガイを追ってきた警察官もやってきたが、そこで犯行当時、現場から去るブルーノを目撃していた遊園地の職員によって犯人はブルーノだったことが発覚する。もみ合いの末、事故によってブルーノは息絶えるが、その手からガイのライターが発見されて彼の企みが証明されたのだった。
古今東西のスリラー映画の王道を行く傑作である。主人公のガイにとっては見知らぬ乗客のブルーノがまるでストーカーのように執拗に付きまとう。ブルーノは礼儀知らずでふてぶてしくて、他人の聖域に土足で入る不快な男。大富豪の一人息子で母親から一身に寵愛を受けてぬくぬくと育ったブルーノ。いつも同じBrunoのネクタイピンを身に着けている点。他人を見下したかのような振る舞い。自分はこうだから相手もそうに違いないという身勝手な思い込み。これらを合わせてみれば、ブルーノは典型的なパラノイアである。偏執病であり妄想性パーソナリティ障害である。某国の独裁者によく見られる症状であり、自分こそが正しくて他者や世の中の方が間違っているのだと決め付けてかかる。こういう人とは絶対に出逢いたくはないし関わり合いなどは御免被りたい。この作品のカギを握る小物(アイテム)の存在もまた面白い。ライターにタイピンに女性用のセル眼鏡。そしてブルーノの異常行動がエスカレートしてゆき、パーティーの席上では貴婦人の首を締めに掛かる。このシーンにはシニカルな冷笑とシリアスな恐怖が込められており大変に興味深い。チャップリンの「殺人狂時代」のワンシーンを彷彿とさせる名場面でもある。この映画には他にも沢山の名場面があって盛り沢山の見所満載。列車のシーンや電話での会話などこれでもかと迫って来る。ガイ役のファーリー・グレンジャーとアン役のルース・ローマンもまた、古き良きハリウッドを象徴する美男美女コンビなのであります。ただ、ブルーノ役を熱演したロバート・ウォーカーが撮影後に急逝したのが誠に残念。彼が30代の前半で夭折したのは本人にとっても映画界にとっても大きな痛手ではなかったかと。ヒッチコックの映画の特徴は見終わってから面白さが腹の底から湧きあがり、その価値が倍増する点にあると私は思う。「見知らぬ乗客」は数あるヒッチコック映画の中でもその頂点に位置する正に傑作中の傑作であると断言する。