桜桃の味の紹介:1997年イラン映画。イラン映画界の巨匠アッバス・キアロスタミ監督が手掛け、カンヌ国際映画祭にてパルムドールを今村昌平監督の『うなぎ』と共に受賞した人間ドラマです。人生に失望し、自殺を決意した中年男が道中で知り合ったトルコ人の老人との出会いがきっかけで“何か”が変わり始めようとしていました…。
監督:アッバス・キアロスタミ 出演者:ホマユン・エルシャディ(バディ)、アブドルホセイン・バゲリ(バゲリ)、ホセイン・ヌーリ(神学生)、アフシン・コルシッド・バフティアリ(兵士)、サファー・アリ・モラディ(兵士)ほか
映画「桜桃の味」ネタバレあらすじ結末と感想
映画「桜桃の味」のあらすじをネタバレ解説。予告動画、キャスト紹介、感想、レビューを掲載。ストーリーのラストまで簡単に解説します。
桜桃の味の予告編 動画
映画「桜桃の味」解説
この解説記事には映画「桜桃の味」のネタバレが含まれます。あらすじを結末まで解説していますので映画鑑賞前の方は閲覧をご遠慮ください。
桜桃の味のネタバレあらすじ:起
イラン・テヘラン。中年男のバディ(ホマユン・エルシャディ)はどこか虚ろな表情をしながら車をゆっくりと走らせていました。人気の少ないスラム街へと差し掛かったバディは、工事現場付近の公衆電話で借金の工面について話し合っている青年を見かけ、「金が必要なら俺が相談に乗ろう」と声を掛けましたが、バディを不審に思った青年は誘いには乗りませんでした。
続いてバディは道端でゴミを拾っては金に換えている青年に遭遇し、良い仕事があると持ちかけましたがこれも断られました。
やがてバディはヒッチハイクをしているクルド人の若い兵士と遭遇し、彼を助手席に乗せることにしました。この日は休日だったという兵士は兵舎に戻る途中であり、バディに色々と身の上話をしてきました。給料の安さを愚痴る兵士に、バディは良い仕事があると持ちかけ、そんなに時間はかからないし終わったら兵舎に送ると言って強引にとある場所へ連れて行きました。不安になった兵士はバディに仕事の内容を尋ねましたが、バディは簡単な仕事としか答えませんでした。
やがて車は小高い丘の上にある1本の木のところで止まりました。そこには大きな穴が掘られており、バディは兵士に「明日の朝、この穴の中で寝ている私に向かって名前を呼んで欲しい。もし返事があれば私を穴から助け出し、返事がなければ土をかけて埋めて欲しい」と依頼してきました。金は車に20万トマン用意してあるからというバディでしたが、兵士は依頼を断って逃げ出していきました。
桜桃の味のネタバレあらすじ:承
バディは号令を掛けながらランニングをする兵士の列を見ながら来た道を戻りました。途中でバディの車は溝にはまって動けなくなってしまい、周囲の人々に助けられました。
やがて丘の砕石工事現場に差し掛かったバディは、現場の小屋でミキサー車の見張りをしているアフガニスタン人の青年に声をかけ、外の空気を吸いに行こうと誘いました。アフガニスタン人青年は結局はバディの依頼を断りますが、たまたま休日でこの地を訪れていたアフガニスタン人青年の友人である神学生(ホセイン・ヌーリ)に声をかけ、疑うことをしない神学生を車に乗せることには成功しました。
貧しい生活のため夏休み期間中の仕事を探しているという神学生に、バディは以前兵士に依頼したように自殺幇助を依頼してきました。すると神学生はバディの話には耳を傾けながらも「自殺をするのは過ち」と説き始め、バディはそれでも自分の意見を無理やり通そうとしました。
やがて車は丘の上の大きな穴に到着し、バディは神学生に手順を教えましたが、神学生は自殺は人殺しであり手伝うことはできないと依頼を断りました。
桜桃の味のネタバレあらすじ:転
バディは続いて、たまたま道中で出会ったトルコ人老人のバゲリ(アブドルホセイン・バゲリ)に仕事を依頼しました。バゲリは息子が白血病を患っており、治療費が必要でしたが、バディの依頼を聞くなり「悩み事も打ち明けず黙ったままでは、誰も君を助けてやれない。悩みがあるからと言って死んでしまったら人間は全滅だよ」と諭すように語りかけると、“美しい景色”をバディに見せるために一旦自分の職場へ向かわせることにしました。
職場に向かう途中、バゲリは自らの過去を語り始めました。それはバゲリが若かった頃、結婚したばかりのバゲリは生活苦から自殺を考え、自宅近くの果樹園にある桑の木にロープをかけて首を吊ろうとしたのです。その時、熟れた桑の実がバゲリの手に触れ、バゲリはふとその実を食べてみると、そのあまりの美味しさに目の前の景色がガラリと美しく変わり、なぜか幸せな気持ちになったバゲリは一転して生きることを選択したのです。
桑の実に命を救われたというバゲリの話を聞いていたバディもさすがに黙り込みました。バゲリは続けて「夜明けの太陽、夕陽、星空、満月をもう一度見たくないのか? 目を閉じてしまうのか? 全てを拒み、全てを諦めてしまうのか? 桜桃の味を忘れてしまうのか? 諦めないでくれ」と呼びかけました。
桜桃の味の結末
バディとバゲリは、バゲリの勤め先である自然史博物館に到着しました。バディから依頼内容を聞かされたバゲリは息子のためじゃなければ絶対にやらないと言い張り、きっと全ては上手くいくと伝えると金を受け取ることなく職場へと入っていきました。
しばらく車を走らせていたバディは、通りすがった少女からカメラのシャッターを押してほしいと頼まれました。少女から感謝されたバディは再びバゲリに会いたくなり、元来た道を引き返して再び博物館へと向かいました。
バディはバゲリを呼び出すとバディは、「明日の朝、もし私が返事をしなかったら小石を2個投げ入れてくれないか。もしかしたら、寝ているだけかもしれないから。肩を揺すってくれ。目を覚ますかも」と伝えました。バゲリは「死んでも約束は守るよ」と依頼を引き受け、帰宅したバディは睡眠薬を飲むとタクシーで深夜の穴のところへ向かいました。バディは煙草を吸い、街の景色をしばらく眺めた後で穴の中に入り、静かに月を眺めながらゆっくりと目を閉じていきました…。
ここで画面は暗転、程なくして本作の撮影の様子が映し出されました。スタッフに指示を出すアッバス・キアロスタミ監督、バディを演じるホマユン・エルシャディ、エキストラ、スタッフたちの様子が映し出されていきます。
以上、映画「桜桃の味」のあらすじと結末でした。
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