ポセイドン・アドベンチャーの紹介:1972年アメリカ映画。豪華客船ポセイドン号はニューヨークを出発、一路ギリシャへの航海に出たが、その途中海底地震から発生した津波に飲まれ転覆する。浸水が迫る船内の中、一部の乗客達は救助を受ける可能性を高める為に機関部を目指す。船内に待ち受ける様々な障害を乗り越え生き残ろうとする人々のドラマを描く、名作ディザスタームービー。
監督:ロナルド・ニーム 出演者:ジーン・ハックマン(フランク・スコット牧師)、アーネスト・ボーグナイン(マイク・ロゴ刑事)、レッド・バトンズ(ジェームズ・マーティン)、キャロル・リンレー(ノニー・パリー)、ロディ・マクドウォール(エイカーズ)、ほか
映画「ポセイドン・アドベンチャー」ネタバレあらすじ結末と感想
映画「ポセイドン・アドベンチャー」のあらすじをネタバレ解説。予告動画、キャスト紹介、感想、レビューを掲載。ストーリーのラストまで簡単に解説します。
映画「ポセイドン・アドベンチャー」解説
この解説記事には映画「ポセイドン・アドベンチャー」のネタバレが含まれます。あらすじを結末まで解説していますので映画鑑賞前の方は閲覧をご遠慮ください。
ポセイドンアドベンチャーのネタバレあらすじ:起
豪華客船ポセイドン号はニューヨークを出航、一路ギリシャへの航海を続けていました。嵐の中、機関部からエンジン不調の報告を受けるブリッジに、少年ロビンが飛び込んできます。船長は叱りますが、ロビンはいつ来ても良いと前に言われたと抗弁します。ロビンはサーフィンをやっていると言って、船乗り然として波の高さを読み取ります。船長はそれを若干修正して彼をブリッジから退出させました。船長はロビンが去った後、乗り合わせている船主代理人に、寄航した際燃料を補給しなかったのでバラスト不足で危険だと文句を言います。嵐は酷く、マイクは弱っている妻リンダの為に船医を呼びます。船医は、リンダを他の乗客と同じ船酔いだとあっさり診断し、薬を出して去って行きます。それに心配性のマイクは怒号を上げますが、その通りだとリンダはうんざりした声を出します。嵐が抜け、マーティンは早速ウォーキングの日課を再開させます。マニーとベルのローゼン夫妻はそれを見送り、寄航先で孫と会える事を楽しみにしていました。神父のスコットは、共に乗船している同僚の神父と信仰について語り合います。スコットは、神と信者の関係に関して教会とは違う主張をした為、アフリカへ左遷させられましたが、自由を得たとそれを喜んで居ました。嵐を無事抜けましたが、船長の不安は拭えませんでした。しかし代理人は、速度を上げて早く目的地に向かう事を船主の代理権限で命じます。この船は既に解体が決まり、航行の遅れは経費を余分に加算させていたのでした。船長は渋々従います。そんな船の中、歌手ノニーの歌に、給仕のエイカーズは聞き惚れて居ました。ロビンにはスーザンという姉が居ました。彼女は両親不在のこの船で弟の面倒を甲斐甲斐しく見ていました。そのスーザンは、ロビンを連れてスコットのミサに出席します。スコットは、人は神に頼るだけでなく、自らの力で為し遂げるという事を熱弁していました。航海は順調に続き、日付は大晦日になります。船では晩餐会が催されます。元娼婦のリンダはその晩餐会に出席するのを嫌がり、マイクを困らせていました。給仕の中に昔の客が居るのを見付けたからです。マイクは気にするなと言い、もう商売させない為に逮捕して結婚したんだと彼女を引っ張って行きました。乗客達は晩餐会を楽しみます。しかし、航路の先で海底地震が起きます。その地震は大波を生み、ポセイドン号はその波に飲まれ転覆していしまいました。
ポセイドンアドベンチャーのネタバレあらすじ:承
上下がひっくり返った船内で、人々は負傷者の手当て等に勤しみます。パーサー長は、船の浸水対策は万全なので会場に留まり救助を待ってくれと言います。しかし、一部から救助は船底、現在は船の最上部から来るから移動した方が良いという意見も出ます。船の事を機関士などから聞いているロビンも、プロペラシャフトから脱出できる可能性を口にします。スコットは、上の方で取り残されて降りて来れないエイカーズの協力を得て、ツリーを模したタワーを梯子にしてこの会場を脱出、機関室を目指す為先導を始めます。ロビン、スーザン姉弟、リンダ、マイクの夫婦、宝石の装飾品を孫への形見にしてと夫を送り出そうとした妻を説得したローゼン夫妻、マーティンが一緒に乗船していた兄を失って悲しんでいたノニーを連れて、そしてスコットがタワーを登って会場を後にしようとします。しかし他の乗客達は、パーサー長の言葉もあり、動こうとしません。その時爆発が起き、会場に海水が流れ込んできて乗客達は我先にとタワーを登ろうとしますが、その重みに耐え切れず、タワーは落ちてしまいます。脱出方法を失った乗客は阿鼻叫喚を上げます。なす術のないスコットは、歯軋りをしながら先に行った9人を追い船底に向かいました。一行は、火災が発生しているキッチンを抜け、ブロードウェイと呼ばれる従業員通路を抜ける事にします。以前ロビンが、そこを抜けて機関室に行った事があると保障したからです。
ポセイドンアドベンチャーのネタバレあらすじ:転
船を登る一行ですが、道が塞がっていたので排気筒を使い進む事にします。その間も水はどんどん入ってきて船が沈んでいるのが実感できます。排気口に入り、排気筒を目指します。最後のマーティンが入る頃には、水が押し寄せて来て居ました。排気筒に出てスコットが先に上がります。皆それに続き、階層を一つ上がって行きます。しかし、その最中また爆発が起こり、エイカーズが落ちてしまいました。マイクが助けに行こうとしますが、救えず彼も階層を上がります。押し寄せる水にノニーが怯えますが、マーティンがそれを優しく宥め、先に進ませます。先を進むスコットの前に他の生存者達が現れました。彼等は先程の爆発で機関室が駄目になったと思い、船首に向かっていたのでした。スコットは船首は浸水していると訴えますが聞き入れられません。そこにマーティン達が合流し、エイカーズが死んだ事を伝えられます。スコットはマイクに当り散らします。そんなスコットにマイクは、船首に向かうのが正解かもしれないと怒鳴り返します。そう言われたスコットは船尾の確認してくるとを言い出し、マイクは15分だけ待つと約束を交わします。そんなやり取りを見て動揺する一行にマーティンは、落ち着かせるように何か役立つものを探しましょうと提案し皆散って行きます。スーザンはスコットに着いて行って居ました。スコットの行く先は道が塞がっていて、落胆を隠せません。助かりますよねと縋るスーザンにスコットは、道は他にもあると立ち直って見せます。先を進んだスコットはハッチを開け、スーザンに5分で戻らなかったマイクの所へ戻れと言い残し奥へ向かいました。他の皆はお互いを勇気付けながら時間を過ごします。約束の時間が経過し、スーザンが帰って来てスコットが戻らないと訴えます。それを聞いたマイクは先に進もうとしますが、もうちょっと待とうというマーティン達と言い争いを始めてしまいます。そこにスコットが戻ってきて、道を見つけたと吉報を持って来ました。いざ機関室へ向かおうとすると、ロビンが居ない事に気付きます。更にはまた爆発が起き、水が押し寄せて来ました。スコットは皆を先に行かせ、はぐれたロビンを見付け出し、皆と合流しました。
ポセイドンアドベンチャーの結末
更に奥に進む一行ですが、道は水没していました。スコットはロープを持ち道を付けると潜ろうとしますが、ベルが女子水泳協会会員だとメダルを掲げ、潜水の記録を作った事があると志願します。しかし危険だと言う事でスコットが行く事になりました。最初は順調でしたが途中スコットは瓦礫に挟まれてしまいます。ロープが止まり混乱する皆を尻目に、ベルは迷わず水に飛び込んで行きます。彼女はスコットを助け、泳ぎ切って見せました。マニーは水があれば妻は別人だと自慢します。しかしベルは水から上がった直後、突然倒れてしまいました。自分の死を悟った彼女は、メダルを夫に手渡してくれとスコットに託し、命は大事だと事切れます。スコットはこの人までも召されるのかと慟哭します。合図が返って来ないのでマイクが向かいます。辿り着く彼はベルの死を知り驚きます。スコットはマイクに、マニーには何も言わず、皆を連れて来てくれと指示を出します。マイクはベルの勇気を賞賛し、皆の所へ戻ります。戻ったマイクにマニーは妻の事を聞きますが、彼女はやり遂げたとしか言われません。何かあった事を察したマニーは慌てて水に潜って行きます。ロープを伝って行けと指示するマイクに、ノニーが自分は泳げないと告白したのでマーティンが手を引いて水に入ります。マニーは水から上がり、妻の亡骸と対面し、悲しみに打ちひしがれます。他の皆も上がって来て、ベルの死を知ります。そんな彼等にスコットは、後少しだと先へ進む事を促します。流石のマイクもデリカシーがないと彼を注意しますが、先へ進む事がベルの意思を継ぐ事だと言い切ります。スコットはマニーにベルの遺言とメダルを渡します。彼は別れを惜しむ時間が欲しいと願います。スコットは1分待つと告げました。一行はパイプの上を渡り、プロペラシャフトまで後一歩の所まで近付いていました。しかしその時、駄目押しのような爆発が起こり、震動でリンダが炎の中に落ちてしまいました。そして激しく高温の蒸気が噴出し、道を塞ぎました。マイクは嘆き悲しみ、最愛の人を奪ったとスコットを激しく責めます。スコットはその罵声を聞きながら、神に頼らずここまで来た自分達をまだ邪魔すのかと声を上げます。そしてまだ生贄が欲しいのかとバルブに飛び付き、宙に浮いた状態で死んで言った者達の名を上げながら自分を殺せとバルブを閉じます。蒸気は止まりましたが、足掛かりもなく彼はもう戻れませんでした。スコットは皆の方を振り向き、マイクに皆を連れて行けと叱咤します。そして彼は自ら炎の中へ身を投じました。スコットの死に動揺が広がります。マーティンは後を託されたマイクに泣き言ばかり言っていないで先導してくれと声を上げます。マイクは立ち上がり、プロペラシャフトまで皆を連れて行きます。しかしそこは行き止まりでした。驚く皆にロビンは、ここの鋼板は薄い場所だから見付け易い筈だと説明します。その時、何かを叩く音が聞こえたような気がします。皆は慌ててそこら中を叩き生存を知らせますが反応がなく、ノニーは膝を崩してもう止めてと絶望します。しかしマーティンはスコットならやめないと音を出し続けました。そして、確かな反応が返って来ました。鋼板が切り裂かれ、一同は遂に救助隊と出会います。マイクはスコットの正しさを認めますが、死んだ者達の事を憂います。救助隊は船首側は駄目だったと話し、彼等を救い上げます。生存者達を乗せたヘリは、漂う船底から舞い上がり、船を離れて行きました。
以上、映画ポセイドンアドベンチャーのあらすじと結末でした。
「ポセイドン・アドベンチャー」感想・レビュー
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「タワーリング・インフェルノ」と同じ時期に作られた映画です。何回も見てますが、おそらく今見てもハラハラドキドキしそうな気がします。
ジーン・ハックマン演じる牧師が、主人公なのに亡くなってしまうシーンは衝撃でした(主人公が死ぬ映画はその時初めて見たかもしれません)が、今考えると非常に牧師的な生き方だと思います。シェリー・ウィンタースが、女性で結構年配なのに他の人を救うため泳いで結果的に亡くなるシーンは、今思い出しても悲しいです。原作者が「雪のひとひら」や「ジェニー」を書いたポール・ギャリコなのですが、「雪のひとひら」とはかなりイメージが異なることに驚きました(「ジェニー」はまだ読んでませんが、猫好きなので読んでみたいです)。もしかしたら、原作はアクション寄りではない話なのかもしれません。 -
この映画は、人間としての原罪と贖罪の意味を問う、宗教的な寓意を秘めたパニック映画の娯楽超大作だと思います。
1970年代のアメリカ映画は、グランドホテル形式の「大空港」を皮切りに、次々とパニック映画の大作が製作されるようになり、この「ポセイドン・アドベンチャー」がハリウッド映画の伝統である、”スペクタクル劇”の魅力を全編に盛り込み、その大きな決定打となり、その後に続く「タワーリング・インフェルノ」などの一連のパニック映画の大きな潮流を作りました。
この一連のパニック映画を興業的に大成功させたのは、ハリウッドの大プロデューサーであるアーウィン・アレンの功績によるもので、1960年代以降、興業的に衰退の一途を辿っていたアメリカ映画界を甦えらせる大きな起爆剤的な役割を果たしたと思います。
そして、これらのパニック映画は、アメリカ社会の1960年代の経済的な繁栄と精神的な頽廃への人間的な反省を呼び覚ます警鐘としての意味を持っていたのだと思います。
この映画の題名の”ポセイドン”とは、ギリシャ神話の海の神、地震の神の名前で、青銅のひづめ、黄金のたてがみの名馬に戦車を引かせて海に臨むと、どんな大波も鎮まったと言われています。
しかし、この海の神と地震の神という、二律背反的な特質が、そのままこの映画のストーリーと直結しているため、まさしく象徴的で暗示的な題名になっていると思います。
アメリカ映画の題名の付け方のうまさに、いつも感心してしまいます。原作はポール・ギャリコ、脚色は人間の心理探求の描写に抜群の冴えをみせるスターリング・シリファントとウェンデル・メイズ、そしてこの超大作を監督したのが、私が愛してやまないミュージカル映画の秀作「クリスマス・キャロル」のロナルド・ニームという素敵なメンバーが集結しました。
映画の筋書きは簡単明瞭で、要するに「真っ逆さまに転覆した大型の豪華客船からの決死の脱出行」という直線的な構成です。
地中海をアテネに向けて航行する1,400人の乗客を乗せた8万トンの豪華客船”ポセイドン号”、それは”一つの孤立した社会”でもありました。
この”ポセイドン号”が、ニューイヤー・イブの賑やかなパーティの真っ最中に、突然の海底大地震の大津波によって、一瞬にしてひっくり返ります。華やかで幸福に満ちた平和から一転、逆さ地獄へと突き落とされていきます。
この”ポセイドン号”は、アメリカ西海岸のロング・ビーチにあるクィーン・メリー号で映画のロケーションをしたとの事ですが、この”ポセイドン号”が真っ逆さまに転覆する時のダイナミックでハラハラ、ドキドキする大スペクタクルのシーンには、まさしく手に汗握る迫力があって、一瞬たりとも画面から目が離せません。
当時のアメリカの新聞で、「セシル・B・デミルのスペクタクル精神と、ウォルト・ディズニーのファミリー・ピクチュアの健全さを併せ持つ、アメリカ映画の伝統を生かした最も見事な傑作」と大絶賛されたのがわかるような気がします。
特等室の乗客が集まっていた上甲板の、豪華な天井の高い大食堂が、天地を逆に、海中へとひっくり返る上下逆転する場面の迫力は物凄く、着飾った紳士淑女が、今や真上になったフロアーから、足下の天井のシャンデリアに向かって、真っ逆さまに墜落していくシーンをワンショットで見せるロナルド・ニーム監督のスペクタクル演出の腕が冴え渡っています。
その後、静寂が戻り、この巨大な、そして逆転した密室からの決死の脱出行が始まります。
この、いわば極限状況での乗客たちの行動は、3つのグループへと分かれていき、その各グループ毎にリーダーが決まっていきます。船底(大食堂の天井)には、事務長を中心に集まるグループがいて、彼等はそのままじっと動かずに、海底に面した甲板からの救出を待とうとします。
この考え方は、このような異常な状況の下では、通常の救助方法のように思われますが、過去の慣例が染み込んだ思考方法の事務長には、それ以上の別の判断が出来ません。
この既成の、保守的な、そして職業的で画一的な判断は、多くの無気力で、事なかれ主義の乗客たちを、この事務長の周囲に引き寄せます。一方、人間臭く、現実的で異端的なスコット牧師(ジーン・ハックマン)—-左遷されて北部の教会から、更にアフリカの新しい任地に向かっていたスコット牧師は、その強引とも思える指導力で9人の乗客たちを引きづって、上部(船底の機関室)に向かって皆を先導して、必死になってよじ登って行きます。
この9人の乗客を演じるのが、ニューヨーク警察のアーネスト・ボーグナインとその妻のステラ・スティーヴンス、船客係のロディ・マクドウォール、独身セールスマンのレッド・バトンズ、初老夫婦のジャツク・アルバートソンとシェリー・ウィンタース、歌手のキャロル・リンレイ、幼い弟と旅行に来たパメラ・スー・マーティンとエリック・シーアというワクワクするような面々で、特に、シェリー・ウィンタースが危機打開のため、危険を顧みず自らの命をかけて、果敢に水中に飛び込んで行く、その体当たりの演技には心からの拍手と、そして溢れる涙を禁じえませんでした。
そして、スコット牧師の数々の難関にぶち当たっての的確で迅速な判断は、今回の航海中に好奇心から船の事に詳しくなった、賢いロビン少年によって助けられたりしますが、まるで、この少年はその背中に翼を持ったエンゼルでもあるかのように描かれていて胸が熱くなります。
そして、このスコット牧師はまるで、西部劇の中の幌馬車隊を率いるリーダーのようでもあり、恐らく、製作者たちの意図するその原型は、”「ノアの箱舟」を導く神であり、モーゼであり、彼のその最期はイエス・キリスト”そのものであると思います。
この決死の脱出行の途中で、彼と全く同じ性格のロゴ刑事(アーネスト・ボーグナイン)と再三再四、グループの指導権をめぐって争うスコット牧師の姿に、”指導者の苦悩と全責任”が集約されているようで、指導者、リーダーの在り方について非常に考えさせられます。
そして、スコット牧師のグループが、脱出行の途中で出くわすのが第三のグループで、彼等は、水面に近くなった下甲板の二等室の乗客のグループだと思われますが、船医に導かれて、まるで亡霊のように出口のありようが無い船首の方向へと歩いて行きます。
恐らく、船医は船の爆発音から考えて、機関室は既に破壊されていると勝手に判断していて、それを確かめてはいないのだと思います。
ここにも、人間の運命の一つの決まり方をみるようで、ゾッとするような戦慄を覚えます。そして、これら3つのグループの内、スコット牧師のグループだけが、プロペラ・シャフト・トンネルを通って、船尾に活路を見出すのですが、映画のラストシーン近くで、スコット牧師が他の生き残ったグループのメンバーを助けるために犠牲的な行動をとる時に、「私たちは自力でここまで来た。あなた(神)に感謝などするものか。いったいどこまで邪魔をしたら気がすむのか、これ以上の犠牲をお望みか」とイエス・キリストを暗示させる姿で叫ぶ、この言葉の中に、”人間としての原罪と贖罪の意味を問う宗教的な寓意”を秘めた、映画史の中でいつまでも記憶に残る、優れた名場面になっていると思います。
なお、この映画は1972年度の第45回アカデミー賞で最優秀歌曲賞を主題歌の「モーニング・アフター」が受賞し、特別業績賞(視覚効果)も受賞し、同年の第30回ゴールデン・グローブ賞でシェリー・ウィンタースが最優秀助演女優賞を受賞し、同年の英国アカデミー賞でジーン・ハックマンが最優秀主演男優賞を受賞しています。
本作の公開から以降、パニック映画がブームとなりました。その記念すべき第一作です。老朽化した豪華客船が解体されるための最後の航海で起こった悲劇が描かれています。様々な境遇の老若男女が、閉ざされた空間(転覆による上下反転)という絶望的な状況からの脱出行が大きなテーマです。興味深いことに本作は実際に引退した豪華客船「クイーン・メリー号」(ロングビーチに現存)でロケが行われ、現在のようにクルーズ客船が多数就航していなかった当時の、旅情を溢れさせてくれる作品となったことも看過してはいけませんよね。常識を覆す設定が見事でした。上下が反転するだけで、快適な船内が摩訶不思議な迷路と化す状況がとても面白かった。ただ、現実には船には復元性があり、浸水しない限り転覆しないと聞かされた時には安心もしたけれど、少し残念な気もしたことをよく覚えています。後年の『タイタニック』とはまた違った逃避行が楽しめる内容なので、格安で買ったVHS(懐かしい!)を書棚の奥から引っ張り出して現在でも楽しんでいる作品なのです。牧師が皆の生命を救うために自ら進んで犠牲となった場面に多くの人が心打たれた点も懐かしく思い起こすのです。コンピュータで簡単に制作または合成された映像とは一味違うことを多くの方に観てもらいたいですよ。映画の伝統的な技法と特撮が見事に合致した秀作でしたからね。時代を経ても色褪せない作品なのです。