ハリーの災難の紹介:1955年アメリカ映画。森の中で見つかった死体を巡って巻き起こる騒動を描いたブラックコメディ。監督はサスペンス映画の神様と称される巨匠アルフレッド・ヒッチコック、「アパートの鍵貸します」などで知られる名女優シャーリー・マクレーンの映画デビュー作としても有名です。
監督:アルフレッド・ヒッチコック 出演者:エドマンド・グウェン(アルバート・ワイル)、ミルドレッド・ナトウィック(アイビー・グレブリー)、ジョン・フォーサイス(サム・マーロウ)、シャーリー・マクレーン(ジェニファー・ロジャーズ)、ロイヤル・ダノ(カルビン・ウィッグス)ほか
映画「ハリーの災難」ネタバレあらすじ結末と感想
映画「ハリーの災難」のあらすじをネタバレ解説。予告動画、キャスト紹介、感想、レビューを掲載。ストーリーのラストまで簡単に解説します。
ハリーの災難の予告編 動画
映画「ハリーの災難」解説
この解説記事には映画「ハリーの災難」のネタバレが含まれます。あらすじを結末まで解説していますので映画鑑賞前の方は閲覧をご遠慮ください。
ハリーの災難のネタバレあらすじ:起
幼い男の子アーニーが森の中で遊んでいます。すると銃声が3発鳴り響き、アーニーは恐怖から身をかがめます。アーニーが銃声の聞こえたほうに進んでみると、額から血を流した男の死体が横たわっていました。アーニーは驚いてその場を立ち去りますが、今度は銃を持ったワイル船長が死体を発見します。先ほどの銃声はワイル船長がウサギを捕らえようと撃ったものでしたが、船長はその弾で男を撃ち殺してしまったのかもしれないと慌て出します。死体を埋めてしまうべきかと思案しているとそこに年増の女性ミス・グレヴリーが現れ、死体を目にしてしまいます。ワイル船長は事情を説明し、なんとかこのことは黙って欲しいと懇願します。ミス・グレブリーは快く了承し、仲良くなった二人は昼食を一緒に取る約束をします。
ハリーの災難のネタバレあらすじ:承
ワイル船長が死体を運ぼうとしているとアーニーが母のミス・ロジャースを連れて戻ってきます。ミス・ロジャースは死体をハリーと呼び、狼狽した表情を浮かべますが、アーニーを連れて引き返していきます。茂みに身を隠していたワイル船長が再びハリーに死体に近づこうとすると今度は流れ者の男が現れます。流れ者の男はハリーが動かないことを確認すると、履いていた靴を盗み、満足気にその場を立ち去っていきます。ワイル船長は死体を監視しているうちに木にもたれかかれ、つい居眠りを始めてしまいます。ウィギーが営む町の商店に画家のマーロウが買い物にやってきます。さらにミス・グレブリーがワイル船長との昼食に出すコーヒーカップを買いにきました。若い娘のように浮足立つミス・グレブリーにマーロウは髪形を変えてイメージチェンジをすべきだとアドバイスします。その後森にやってきたマーロウがハリーの死体を発見しますが、驚くどころか死体のデッサンを開始します。目を覚ましたワイル船長はマーロウに銃殺したのは自分だと告白し、死体を埋めるのを手伝ってくれないかと頼みます。マーロウは死体の名を知っていたミス・ロジャースが警察に通報するかどうか見極めてからならば手伝ってもいいと返答します。マーロウはミス・ロジャースの様子を探るため、彼女の家を訪ねます。一方ワイル船長は約束通りミス・グレブリーの家へ行き、一緒に昼食を楽しみます。
ハリーの災難のネタバレあらすじ:転
マーロウがハリーとどういう関係なのかと尋ねると、ミス・ロジャースは自分の夫であることを告白します。アーニーの妊娠中に前夫を亡くしたミス・ロジャースに優しくしてくれたのがハリーであり、二人はそれが縁となり結婚します。しかしその後ハリーが星占いに従って行動を決めるような男だと知ったミス・ロジャースはアーニーを連れて彼のもとから逃げ出し、今の家に越してきたのだと言います。しかし二人の居場所を突き止めたハリーが家に押しかけてきたので、牛乳瓶で頭を殴り撃退したとミス・ロジャースは打ち明けるのでした。アーニーが死んだウサギを持ち歩いているところを見てマーロウは違和感を感じ始めます。森に戻ってそのことをワイル船長に話すと、船長が撃った弾は3発、そのうちの1発は缶に当たり、1発は看板に命中、そしてもう1発はウサギに命中していたことが明らかになってきます。死体を再び掘り起こしてみると、額の傷は弾の跡ではなく、鈍器で殴られた跡だと判明します。ワイル船長は自宅にミス・グレブリーを招きます。するとミス・グレブリーは神妙な顔つきでハリーを殺したのは私だと告白します。ミス・グレブリーは道を歩いていたところを突然ハリーに襲われ、争った末靴のかかとで頭を殴ってしまったのだと打ち明けます。ハリーはミス・グレブリーと妻であるミス・ロジャースを間違って襲ったのでした。ミス・グレブリーはワイル船長とともに再び遺体を掘り起こします。そしてミス・ロジャースの家を訪ねると警察に行ってすべてを告白すると言い出しますが、マーロウは犯行が発覚すればミス・ロジャースの噂が町中に知れ渡ってしまうことになるとミス・グレブリーを説得します。4人は再び遺体を埋めます。
ハリーの災難の結末
マーロウの絵をすべて買い取りたいという大富豪が現れ、4人はウィギーの店に集まります。マーロウは得たお金でミス・ロジャーズやミス・グレブリー、ワイル船長にプレゼントを買ってあげたいと富豪に申し出ます。さらにマーロウはミス・ロジャースにプロポーズをします。そこへハリーの靴を持った保安官代理のカルビンが入ってきます。カルビンは死体から頂いたという流れ者の証言に基づき、死体を探しに行ったものの見つからなかったと明かします。それを聞いた4人は事件が発覚するのではないかと慌て始めます。ミス・ロジャースはマーロウのプロポーズを受け入れました。しかし二人が結婚するためにはミス・ロジャースが自由の身であることを証明する必要がありました。4人が再びハリーの遺体を掘り起こしていると、そこに偶然医師が通りかかります。4人は医師に死因の特定をしてもらうため、ハリーの遺体をミス・ロジャースの家に運びます。そこへカルビンが訪ねてきて、マーロウの描いたハリーのスケッチが流れ者が供述した遺体の顔の特徴とよく似ていることを指摘します。どこで書いたものか問い詰められるマーロウでしたが、眠っている男をイメージして描いたもので特定のモデルは存在しないとシラを切り通しました。そしてハリーの死因は心臓発作であることが判明しました。誰も殺害に関わっていなかったことが分かり4人は胸をなでおろします。翌朝4人は何もなかったかのようにハリーを元の場所に戻し、アーニーに遺体を発見させるのでした。
以上、映画「ハリーの災難」のあらすじと結末でした。
この映画「ハリーの災難」は、”サスペンス・スリラーの神様”アルフレッド・ヒッチコック監督の趣味というか、悪い冗談が最も色濃く発揮された、ブラック・ユーモア調で綴られる、間違えられた男の物語だ。
死体という”御馳走”を前にして、舌なめずりしているヒッチコック監督の姿が目に浮かぶようです。
ヴァーモントの紅葉した森に、ハリーという名の男の死体が転がっている。
兎を撃ちに来た老人(エドモンド・グウェン)は、誤って自分が殺してしまったものと思い込む。
次にオールド・ミス(ミルドレッド・ナトウィック)は、その男に襲われそうになった時、靴のかかとで殴ったのが死因だろうと考えてしまう。
そして、愛想をつかして夫のもとから逃げて来たハリーの妻(シャーリー・マクレーン)は、突然現れた夫の頭を牛乳ビンで殴ったので、それがもとで死んだのだろうと思ってしまう。
こうして、間違いが交差して、憐れにもハリーの死体は埋められたり、掘り出されたりという、”死体版・間違えられた男”をめぐる、奇妙な味のブラック・コメディになっているのだ。
そこでは、”ハリーだった”男の死体が、まずもって、もの言わぬ主役であり、これを埋めたり、掘り返したり、あちこち動かしたり、裸にしたりと、すったもんだしたあげくに、元の場所に戻される一日の”空騒ぎ”が描かれるのです。
よくよく考えてみると、死体を冗談のネタにするなんて、何とも悪趣味としか言いようがありません。
でも、こうアッケラカンとやられると、我々観る者も、いつの間にかクスクス笑いを浮かべていたりして—-、そんなところにヒッチコック監督の”悪趣味の洗練された上品さ”があると思うのです。
不思議の国のアリスは、時計を持った兎に導かれて、不思議の国へ行くことになりますが、中年男のハリーもまた、兎によってとんでもない不思議の村に入り込み、一日の大旅行を”寝たまま”することになってしまうのです。
美しい田舎の、のんびりした風景の中に、長々と寝そべったハリー、それは死体というにはあまりに心地よげで、死は永遠の眠りというのにふさわしいように見えてきます。
ともかく、ヒッチコック監督は間違いや偶然から生じる混乱を、まず設定しておいて、それから映画ならではのサスペンスと冒険の世界へと、我々観る者を引きずり込んでいく名人だったのです。