サードの紹介:1978年日本映画。殺人事件を犯してしまった高校3年生のサード。彼は甲子園を目指して3塁を守る実直な野球部員だった。サードは言う「べつに野球は上手くないけど、そう下手というわけでもない」。事件後に彼はまだ、帰るべきホームベースが見つからない。サード役に新人の永島敏行。脇を固める若手女優陣に森下愛子、志方亜紀子。個性溢れる若い演技者たちを集めた少年院生活がみずみずしい1978年『キネマ旬報』日本映画ベストワン作品。
監督:東陽一 出演者:永島敏行(サード)、森下愛子(新聞部)、志方亜紀子(テニス部)、吉田次昭(ⅡB)、若松武(オシ)、池田史比古(アキラ)、西塚肇(短歌)、片桐夕子(赤いセーター)、内藤武敏(裁判官)、峰岸徹(ヤクザ)、島倉千代子(サードの母)ほか
映画「サード」ネタバレあらすじ結末と感想
映画「サード」のあらすじをネタバレ解説。予告動画、キャスト紹介、感想、レビューを掲載。ストーリーのラストまで簡単に解説します。
サードの予告編 動画
映画「サード」解説
この解説記事には映画「サード」のネタバレが含まれます。あらすじを結末まで解説していますので映画鑑賞前の方は閲覧をご遠慮ください。
サードのネタバレあらすじ:起
俺の名まえは妹尾新次(永島敏行)、高校3年生だ。野球部で3塁を守っている。仲間たちは、だから俺のことをサードと呼ぶ。まあ、野球の腕はたいしたことはない、けれど、下手というわけでもない。
俺はいま、少年院に入っている。正式には「関東朝日少年院」といって、ここには塀の向こう側で、ちょいとばかりイタズラが過ぎた連中が集まっている。俺も人をひとり殺して、いまここにきている。
俺以外にも、オシは婦女暴行、短歌は万引き、異論は恐喝、小指は窃盗と、世間から「タチの悪い奴だ」と決めつけられて、ここへやってきた。見た目も性格も奴らは悪くない。だけど、凶器を隠し持っているっていうのか、頭に血が上ると抑えのきかない人間になっちまう。すると、まるで別人格だ。これが厄介なんだよな。
俺も血が熱い。この間も同僚のクソ生意気なアキラとやらかしてしまって、院内の「静思寮」にまだ閉じ込められている。今日は母さん(島倉千代子)が面会にきた。新聞部(森下洋子)はどうしているかと訊ねたけれど、どんな娘か覚えていないという。ちぇ、せっかく最新の情報を仕入れようとしたのにな、「もう帰れよ、母さん」。
サードのネタバレあらすじ:承
少年院の日常は、単調な毎日をいかに過ごすかだ。規則にしばられている点では高校生活と変わらないけれど、ここには檻がある。高校生活には放課後があるけれど、ここには行動の自由がない。つまり「遊び」は禁じられているんだ。俺たちの自由といえば、せいぜいが、妄想を逞しくして、思いっきりセンズリをかくことだけだろう。
少年院へ好き好んで慰問にやってくる連中がいる。慈善団体や婦人会、社会奉仕団体のSBC。いったい何が楽しくて来るんだろう、こいつら。つまるところ、退屈しているんだ、単調な毎日に。だから刺激を求めて、俺たちのところへ「遊び」にくる。自分たちの世界には見つからない得体の知れない者たち。つまり、怖いもの見たさなんだろ、結局は。
俺の仲間のⅡB(吉田次昭)が少年院へ入ってきた。あいつ、窃盗をやらかしたらしい。じつは俺とⅡB、ここにはいない新聞部、テニス部(志方亜紀子)は、おなじ高校のクラスの同級生だ。俺たちは、退屈よりは少しマシな毎日を送っていた。けれども金が無かった。金を稼ぐために4人はツルんだ。金があれば将来、町を出ることもできたからだ。
小さな町だった。目立ったことをすれば、すぐに目につく。喫茶店ひとつないこんな町は早く出たい。新聞部とテニス部、ふたりの女は、すでに金儲けを企んでいた。ふたりとも、普通よりいい暮らしがしたいようだった。俺とⅡBはその話に乗った。女たちは売春婦に、俺たち男はポン引きになった。
サードのネタバレあらすじ:転
小さな町から俺たちはいくつもの駅をまたいで街へ出た。子どもの頃に母さんに連れられて買物に出た街だ。「1回、2万円」。現役の高校生だって聞くと、金のある中年男たちはみんなやりたがる。公園で、ホテルで、クラスの女子がオヤジたちと絡んでいるのを、俺とⅡBはひたすら待つ。
週末ごとに街へ出た。仕事帰りは当然遅くなる。とくに女たちは疲れを溜めこんで家路につく。けれども、それが女の性なのか、慣れてくると、後ろめたさを通り越して自ら客を選ぶようになった。新聞部がポン引きの俺を捉まえて「あの人(がいい)」と客を指示した。
その男は、バリバリのヤクザ(峰岸徹)だった。すぐに「あれは危ない」と感づいたけれど、新聞部は乗り気だった。性にめざめた女のコスさを抑えつけることができず、俺はヒモに似た悲哀を味わった。ヤクザは自室に新聞部を連れこみ、何度もイカせているらしかった。
新聞部が男の部屋に消えてから3時間が経っていた。ⅡBとテニス部が約束の場所に現れたけれど、新聞部の「営業」はまだ終わっていなかった。俺はふたりに背中を押されて男の部屋へ踏みこんだ。刺青の男と全身を上気させて横たわる新聞部を見て、俺は逆上した。部屋にあった鈍器で何度もヤクザの頭を打ちつけた。
サードの結末
よせばいいのに、ⅡBがまた俺のもとへ戻ってきた。しかも犯罪者の真似ごとをして。少年院は奴の柄じゃあない。俺も犯罪者だけど、少年院の体質は性に合っている。なぜなら、ここは運動部の体質と一緒だから。アイマイさを嫌って白か黒かを決めたがる。ここでは、ある限られた思考だけが許されている。自由を求める思考は塀の外のものなんだ。
オシが逃亡し首を吊って死んだ。塀の外の世界に飽きてここへ来たアイツは、ここでも倦怠を感じたらしい。おなじ日、ⅡBも逃亡を企てたが、捕まって戻ってきた。俺は腹が立ってⅡBを思い切り殴った。教官は、俺をあまり叱らずに罰だけを与えた。グラウンドを倒れるまで周回するのだった。
そうだ、倒れるまで走ればいいのだ。行き着く場所は、まだ俺にはない。俺はホームベースのないランナーだった。帰るべき場所は、いまはない。だから、ひたすら走るだけ。自分の速さで。これからも。そして一歩一歩地面を踏みしめて。
以上、映画「サード」のあらすじと結末でした。
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