かくも長き不在の紹介:1960年フランス映画。ゲシュタポに囚われたまま戻らぬ夫を10年以上も待ち続けるカフェの女主人が、ある時夫に瓜二つのホームレスに出会ったことでことの真相を知る。カンヌ映画祭パルム・ドール受賞。
監督:アンリ・コルピ 出演:アリダ・ヴァリ、ジョルジュ・ウィルソン、ジャック・アルダン、シャルル・ブラヴェット、ほか
映画「かくも長き不在」ネタバレあらすじ結末と感想
映画「かくも長き不在」のあらすじをネタバレ解説。予告動画、キャスト紹介、感想、レビューを掲載。ストーリーのラストまで簡単に解説します。
かくも長き不在の予告編 動画
映画「かくも長き不在」解説
この解説記事には映画「かくも長き不在」のネタバレが含まれます。あらすじを結末まで解説していますので映画鑑賞前の方は閲覧をご遠慮ください。
かくも長き不在のネタバレあらすじ:起・カフェの女主人
バカンスに入り閑散とするパリの街。カフェの女主人テレーズを常連の運転手ジャックがバカンスを共に過ごそうと誘っていた。しかし16年前にゲシュタポに囚われ収容所に送られたまま行方知れずの夫アルベールを待ち続けるテレーズは店を離れる気になれない。
そんな時テレーズは店の前で歌を口ずさみながら通り過ぎるみすぼらしい身なりの男にはっとする。夫によく似たその男が気になったテレーズは店のウェイトレスに男を店に招き入れるよう頼む。店にやってきた男にウェイトレスと常連客が話しかけ、その様子をテレーズは店の奥からうかがっていた。その話の内容から男は記憶を失っているいることを知り、テレーズは衝撃を受ける。
かくも長き不在のネタバレあらすじ:承・よく似た人
テレーズは男のあとをつけ、セーヌ河沿いに建てられたバラックにたどり着く。テレーズはそこから立ち去ることが出来ず夜を明かし、朝、小屋の中を覗いて男の寝顔を見つめる。起き出した男に声をかけ、2人は初めて会話をかわす。男は午前中は収入を得るために屑拾いをし、雑誌の切抜きを趣味にしていた。
テレーズはカフェに夫の叔母と甥を呼び、店内に夫の好きなオペラの曲をかけて、男に雑誌を渡す口実で呼び寄せる。男が店内にいる間、テレーズは男に聞こえるように叔母らとかつて住んでいた場所や家族の話をする。その雰囲気に漠然とした不安を感じた男は雑誌を置いたまま店を後にする。叔母らは別人だというが、テレーズは夫だと確信していた。
かくも長き不在のネタバレあらすじ:転・記憶のかけら
雑誌を持ってバラックを訪れたテレーズは男に、かつての知人で行方知れずの人に男が似ていることを話し、時々食事をともにして話ができるとうれしいと告げる。男がテレーズの元を食事に訪れ、テレーズは夫が好きだったチーズを出すと、男は記憶を失いながらもその味を覚えていた。そのことに一縷の望みを見たテレーズは記憶を失った頃の様子を聞くなどしてなんとか記憶を取り戻そうと試みるが、男からは直る見込みがないと医者に言われたことを聞かされる。男の後頭部には収容所で受けた脳手術の痕が生々しく残っていた。
テレーズは夫と2人でよく歌った曲をかけ、こみ上げる思いをおさえながら男と踊る。曲が終わり、こらえきれず涙するテレーズと感謝の思いをこめた握手をかわした男は店を出る。
かくも長き不在の結末:待ち続ける日々
店を出た男の姿にテレーズは夫の名を呼びかける。無反応な男の様子に見ていた近所の人々が口々に夫の名を男に呼びかける。すると男はふと立ち止まり、そのままゆっくりと両手を上げる。しかしその後、我に返った男は怯えたようにその場から走りだす。そんな男を近所の人々が追って行くと、男の目の前にトラックヘッドライトが迫る。大きな衝撃音にショックを受けたテレーズは呆然とするが、ジャックから男は無事だと聞かされ安心する。町を出て行ったから諦めろというジャックに、自分は性急過ぎたのだと話すテレーズ。放浪の季節が過ぎた冬にまた男は戻ってくることを信じて待つのだった。
「かくも長き不在」感想・レビュー
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この映画「かくも長き不在」は、1961年度カンヌ国際映画祭グランプリ受賞作品。
バリの郊外で、カフェを営むテレーズは、ある日、店の前を通った浮浪者を見て驚愕する。
第二次世界大戦中、ドイツ軍に連れ去られたまま、帰って来ない夫にそっくりなのだ。その日以後テレーズは、何かにつけて、この浮浪者に会うにする。
彼は過去の記憶を喪失しているが、夫に間違いないと確信した彼女は、記憶を取り戻させようと努力する。そして、彼を食事に招待して、夫の好きだったレコードをかけ踊っている時、彼の後頭部に傷跡を発見する。
その瞬間、彼はテレーズから逃げるように、店を飛び出した。
テレーズの前から逃げ出そうとする浮浪者を、彼女が呼び止めると、彼はおどおどした様子で、両手を挙げる。彼が思い出した唯一の記憶は、ドイツ軍に銃を向けられたことだけなのか?
浮浪者を演じるジョルジュ・ウィルソンの、いつも不安そうにしている表情が、この作品の怖さを大きくしていると思う。
最後の方、テレーズは、彼を店に食事に招待すると、彼はゲシュタポに囚われる前に好きだったチーズの味を覚えていた。
2人でダンスを踊る。
テレーズは、彼の後頭部に大きな傷跡があるのにショックを受ける。それまでは、被っていた帽子のせいで気づかなかったのだ。
恐らくそれは、収容所で受けた人体実験の痕だった。
彼の記憶は戻らないのか? 幸せだった過去を思い出したり、何かの拍子に過去に気づくことはないのか?
テレーズは思わず彼に向かってそう声を荒げてしまい、そして謝るが、彼はテレーズを思い出すことなく店を後にする。
暗い、霧の中を彼は去っていく。
テレーズは夫の名を叫ぶ。
「アルベール!」
付近にいた、テレーズの友人たちも叫ぶ。
「アルベール!」
男は、思わず反射的に両手を高くあげた。
簡単な感想で申し訳ないが、静かに、切々と恐怖と残酷を語りかけるデュラスの脚本と、アンリ・コルピの演出は、作品に対する深い誠実さを感じさせる。
カンヌ映画祭でパルムドールを受賞している。