アスの紹介:2019年アメリカ映画。アデレードは少女時代に遊園地で不思議な体験をしてから、口もきかず両親を心配させます。成人し、結婚して子供にも恵まれますが、なぜか少女時代に訪れたサンタクルーズの遊園地に行くことに恐怖を感じます。アデレードはサンタクルーズに行きますが、そこに現れたアデレードに似たレッドという女は、なぜかアデレードとの不可解な関係を語り、アデレードの家族を襲います。レッドの正体と目的とは?本作『アス』は『ゲット・アウト』で大きな注目を浴びたジョーダン・ピール監督の最新作、レッドの正体をめぐり最後まで目が離せないホラー映画です。アメリカの映画批評サイトRotten Tomatoesで多くの支持を集め、興行的にも大成功しています。本作は欧米では古くから小説、神話、都市伝説の題材となっている「ドッペルゲンガー」(自分自身の姿を自分で見る幻覚の一種で、自己像幻視とも呼ばれる)を題材にしています。
監督:ジョーダン・ピール 出演:ルピタ・ニョンゴ(アデレード・ウィルソン/レッド)、ウィンストン・デューク(ゲイブ・ウィルソン/アブラハム)、エリザベス・モス(キティ・タイラー)、ティム・ハイデッカー(ジョシュ・タイラー)、シャハディ・ライト・ジョセフ(ゾーラ・ウィルソン/アンブラ)、エヴァン・アレックス(ジェイソン・ウィルソン/プルートー)、カリ・シェルドン(ベッカ・タイラー)、ノエル・シェルドン(リンジー・タイラー)、ほか
映画「アス」ネタバレあらすじ結末と感想
映画「アス」のあらすじをネタバレ解説。予告動画、キャスト紹介、感想、レビューを掲載。ストーリーのラストまで簡単に解説します。
アスの予告編 動画
映画「アス」解説
この解説記事には映画「アス」のネタバレが含まれます。あらすじを結末まで解説していますので映画鑑賞前の方は閲覧をご遠慮ください。
アスのネタバレあらすじ:起・アデレードの恐怖体験とサンタクルーズへの旅
カルフォルニア州のサンタクルーズ、幼いアデレードは父ラッセルと母レインに連れられて遊園地にいます。ラッセルはゲームでスリラー(マイケル・ジャクソンのヒット曲)のTシャツを当て、アデレードにプレゼントします。父はゲームに熱中、母はトイレに行き、アデレードは迷子になります。
アデレードは旧約聖書「エレミヤ書11章11節」(だから、彼らに災いを下す。それから逃げることはできない。あわれみを叫び求めても、わたしは耳を貸さない。)と書かれた紙を持った男を見ます。ファンハウス(遊園地のアトラクション、びっくりハウス)に紛れ込んだアデレードは、驚きの表情、何かが起こったようです。
(オープニングミュージックとともに、多くのうさぎの映像が流れます。)
年月が過ぎ、成人したアデレード(ルピタ・ニョンゴ)は、ゲイブ・ウィルソン(ウィンストン・デューク)と結婚し、娘ゾーラ(シャハディ・ライト・ジョセフ)と息子ジェイソン(エヴァン・アレックス)の2人の子供がいます。ゲイブはサンタクルーズに行くことを提案しますが、アデレードはなぜか恐怖を感じるものの、行くことにします。
(アデレードの少女時代の回想シーン)遊園地での出来事以降、アデレードは孤独を好み、家族を心配させます。
アデレードはゲイブに「サンタクルーズには明るいうちに行こう」と言います。家では子ども達はふざけますが、アデレードは楽しそうでありません。ウィルソン一家は、サンタクルーズへの道中、音楽を聞いて楽しい時を過ごしますが、アデレードは、事故により救急車で運ばれる男が昔、遊園地で旧約聖書「エレミヤ書11章11節」と書かれた紙を持っていた男と同一人物だと分かり、少女時代を思い出します。
アスのネタバレあらすじ:承・3人を襲うアス(わたしたち)の恐怖
アデレードたちウィルソン一家はサンタクルーズのビーチに到着します。友人のタイラー家の家族に会い、ゲイブはジョシュ・タイラー(ティム・ハイデッカー)と、アデレードはキティ・タイラー(エリザベス・モス)と談笑します。息子ジェイソンはビーチを歩きますが、手を広げた異様な人物、そして母が恐怖体験をしたファンハウスを見ます。恐怖を感じたアデレードはジェイソンを探し、抱きしめます。
その夜、ウィルソン一家は家に戻りますが、アデレードは引き続き恐怖を感じ、落ち着きません。アデレードは少女時代にファンハウスで会った“自分に似た女”に襲われる恐怖を感じていることを話します。そこへ、停電が起こり、一家は恐怖を感じます。ゲイブは窓の外に数人の集団を見ます。アデレードはゲイブに無視するよう言いますが、ゲイブはバットを持ち、警戒しながら声をかけます。すると集団は家に乱入します。
(映画は以後、アデレードに似たレッド、ゲイブに似たエイブラハム、ゾーラに似たアンブラ、ジェイソンに似たプルートーが一家を襲います)
レッドはハサミを持ち、アデレードと思われる少女には彼女と連結した影の人間がいるという話をします。アデレードはレッドに手錠をはめられます(以降アデレードは手錠をはめられたまま)。ゲイブはエイブラハムに連れ去られ湖に落ちます。ゾーラは逃げ出しますがアンブラに追いかけられます。ジェイソンはプルートーと対面、プルートーはジェイソンの動作を真似します。ゲイブはボートで家族を助けようとします。ジェイソンは逃げ出し、アデレードと外に出てゾーラと再会します。ゲイブはボートで家にたどり着き、アデレードら3人と再会し、逃げます。
アスのネタバレあらすじ:転・アスとの戦い
タイラー家ではキティが異変を感じます。しかし、ジョシュは気にしていない様子で酒を飲んでふざけます。そんな両親に娘のベッカとリンジーが声をかけますが、赤い服を着たキティに似ている女に襲われて殺されます。キティは彼女に似たその女に殺され、そしてジョシュも赤い服を着た彼に似た男に殺されます。
ゲイブたちはボートでタイラー家に着きますが、一家は家に連れ込まれます。ゲイブはジョシュに似た男に襲われます。家の中では、ゾーラがキティに似た女に襲われますが倒します。ゲイブはジョシュに似た男を外で殺します。一家はテレビで ”赤い服を着てハサミで襲う集団” のニュースを見ます。一家は車で遠くへ逃げることを決めますが、キティに似た女がアデレードを襲います。アデレードは死闘の末、その女を刺殺します。
車で逃げる一家。今度はアンブラが襲ってきますが、一家はアンブラから逃げます。翌朝、車の中のウィルソン一家は車が燃えているのを目にします。ジェイソンはプルートーを見ます。ジェイソンはプルートーからアデレードを守ろうとしますが、ジェイソンは消え去ります。
アデレードはジェイソンを探しますが、手を広げた赤い集団を目撃し、少女時代に訪れたファンハウスに向かいます。ファンハウスの地下深くへ向かうアデレードは、たくさんのウサギを目撃します。ゲイブとゾーラは停まっていた救急車に避難します。
アスの結末:レッドの正体は?
アデレードはレッドと対面します。レッドは地下室の秘密を語り、アデレードの少女時代を回想します。アデレードはレッドとの対決を決意、二人は武器を持って戦います。大激闘の末、アデレードはレッドを殺します。アデレードは手錠を壊し、ジェイソンを見つけ、ファハウスの外へ出ます。アデレードは救急車にいるゲイブとゾーラに会い、自ら救急車を運転します。レッドを倒したアデレードは、少女時代を回想します。
(アデレードの少女時代の回想シーン)ファンハウスで倒れ、何者かに連れ去られ、ファンハウスの地下室で手錠をはめられ、閉じ込められます。アデレードはスリラーのTシャツを奪われますが、奪った少女はアデレードに似ています。
どうやらレッドの正体は、少女時代にファンハウスで誘拐されたアデレード本人でした。アデレードになりすました偽のアデレードは少女から大人になり、夫と子供と共にサンタクルーズのファンハウスに来たため、地下室に閉じ込められた本物のアデレードが復讐を始めたようでした。
ジェイソンはどうやら母親の正体に気づいたようです。映画の最後、山に手を広げた赤い集団が見えます。
以上、映画「アス」のあらすじと結末でした。
私は20代の初頭、深刻な神経症に煩悶する辛い日々を送っていた。40年以上も前のことである。連日のように悪夢に悩まされて寝ても地獄、起きても苛酷な現実が横たわっていた。何と言っても自分から電話が掛かって来る夢が一番恐ろしかった。ドッペルゲンガー。鏡の中の自分、ゲシュタルト崩壊など。この映画は深刻な格差社会の問題などを様々な手法・映画的言語(暗喩・メタファー)を駆使して丁寧に描いている。だから私の個人的な感想はこの作品の本質的な核心からは外れるものであろう。併し敢えて精神病理的な見地から語りたいと思うのである。自分とは一体何物であるのかと言うこと。幼い頃の朧げで曖昧な記憶の正体(真相)は何だったのか。自分と他者の違いを正確に認識しているのか。人間にとっての絶対的な価値観は存在するのか。正邪についての認識は?等々。暗い庭に4人家族のシルエットが浮かび上がり、呼び掛けにも答えず暫し固まっている映像。暗すぎて顔形などのディテールが不明瞭だが、どうやらウィルソン一家らしい雰囲気を漂わす演出。夫のゲイブは呼び掛けに応じないシルエットに次第に恐怖感を募らせてゆく。これらのシーンが余りにも怖すぎて冷気と悪寒が身体を覆いつくし凍てついてしまった。更に家屋へ浸入した自分の分身と対面する狂気と恐怖は尋常では無くホラー映画史上屈指のハイライトである。正邪と言ったが換言すれば本物と偽物との区別ともいえる。自分と他者の違いと言ってもよい。どちらのアデレードが本物だったのか。その認識一つで一瞬にして立場が真逆になる。この価値観の逆転現象というのもまた、この作品の真骨頂ではないだろうか。我々の認識は常に脆弱な側面を孕んでいるのだ。「アス」は単純なホラー映画では無く濃密にして数多くのメッセージが込められた野心作であり高く評価している。個人的には哲学的に掘り下げた上で精神病理学的なメスを入れて評価したいと考えた訳である。