ツィゴイネルワイゼンの紹介:1980年日本映画。内田百閒の『サラサーテの盤』に着想を得た鬼才・鈴木清順が映画化したミステリー作品で、ブルーリボン賞や日本アカデミー賞などの賞にも輝いた作品です。作曲家サラサーテの「ツィゴイネルワイゼン」のレコードを軸に、二組の夫婦が現実と夢の狭間の幻想的な世界に引きずり込まれていきます。
監督:鈴木清順 出演者:原田芳雄(中砂糺)、大谷直子(中砂園、小稲(二役))、大楠道代(青地周子)、藤田敏八(青地豊二郎)、真喜志きさ子(妙子)ほか
映画「ツィゴイネルワイゼン」ネタバレあらすじ結末と感想
映画「ツィゴイネルワイゼン」のあらすじをネタバレ解説。予告動画、キャスト紹介、感想、レビューを掲載。ストーリーのラストまで簡単に解説します。
映画「ツィゴイネルワイゼン」解説
この解説記事には映画「ツィゴイネルワイゼン」のネタバレが含まれます。あらすじを結末まで解説していますので映画鑑賞前の方は閲覧をご遠慮ください。
ツィゴイネルワイゼンのネタバレあらすじ:起
むさ苦しい恰好をした元学者の中砂糺(原田芳雄)は、友人でドイツ語学者の青地豊二郎(藤田敏八)と共に海辺の町を旅していました。中砂と青地は宿の女将に芸者を頼み、小稲(大谷直子)という芸者が二人の部屋にやってきました。小稲は芸を披露した後、先日自殺したという弟の壮絶な最期を語り出しました。宿の外では、老人と若い男女二人の盲目の門付芸人がうろついており、小稲は老人と若い女が夫婦で、若い男は弟子だと説明しました。小稲と心行くまで楽しいひと時を過ごした中砂と青地は駅に向かい、中砂はもう少し三人の門付芸人の様子が見てみたいと旅を続けることにし、中砂と別れた青地は湘南の家に戻っていきました。
ツィゴイネルワイゼンのネタバレあらすじ:承
歳月が流れ、中砂が結婚したと聞いた青地は彼の自宅を訪れると、そこにはかつての旅で出会った芸者の小稲と瓜二つの中砂の新妻、園(大谷直子(二役))の姿がありました。三人で夕食をとった後、中砂は青地に作曲家のサラサーテが自ら演奏している1904年盤の「ツィゴイネルワイゼン」のレコードを聴かせました。この盤にはサラサーテが伴奏者に何やら語り掛けているのがそのまま録音されているというのですが、青地には何を言っているのか全く理解できませんでした。やがて中砂は園を置いて再び旅に出て行き、青地は度々中砂の家を訪れては園と打ち解け、中砂もまた小稲の元を訪れては逢瀬を重ねていました。中砂は旅の合間にも度々青地の家を訪れ、青地の妻・周子(大楠道代)とも打ち解けていきました。中砂は周子の妹で入院中の妙子(真喜志きさ子)を見舞いに行き、妙子はそこで姉が中砂と逢瀬を重ねる姿を目撃してしまいました。
ツィゴイネルワイゼンのネタバレあらすじ:転
やがて園は豊子という女の赤ん坊を出産しましたが、悪性のスペイン風邪にかかって命を落としました。その知らせを聞いた青地が中砂の家に行くと、そこには何と小稲の姿がありました。中砂は小稲を乳母として雇い、そのまま再婚していたのです。その日の夜、青地と中砂、小稲は酒を酌み交わし、昔の思い出話にひたっていました。数日後、中砂は小稲と豊子を置いて再び旅に出ていき、そしてある春の日、中砂は旅先で麻酔薬のようなものを吸い過ぎて死亡してしまいました。やがて妙子が危篤に陥ったとの知らせを聞いた青地は病院に駆け付け、そこで中砂が周子と共に見舞いに来ていたことを知り、二人の関係を疑いました。それからというもの、中砂家と青地家の交流は次第に途絶えがちになっていきました。
ツィゴイネルワイゼンの結末
中砂の死から5年後、小稲は成長した豊子を連れて青地の元を訪ね、生前に中砂が貸した本を返して欲しいと求めてきました。それらの書名はいずれも難解なドイツ語の原書で、青地はなぜか小稲が本の名をすらすらと読めるのか不思議に思いました。それから数日後、また小稲が青地の家を訪れ、今度は「ツィゴイネルワイゼン」のレコードを返して欲しいと言ってきました。青地はレコードを借りた記憶はなかったのですが、実はそのレコードは周子が中砂から借りて隠していたことが分かり、数日後、青地はレコードを持って小稲の元を訪ねました。小稲は中砂が生きていた証を手元に残しておきたいのだといい、どうして青地が中砂から本を借りていたのかが分かったのは、豊子が夢の中で、顔を覚えていないはずの中砂と会話していた時に出てきたのだというのです。帰り道、青地は豊子に出会いました。豊子は「おじさん、いらっしゃい。生きている人間は本当は死んでいて、死んでいる人が生きているのよ。お父さんが待ってるわ、早く…」と青地を手招いていました。怖くなって逃げた青地の前に、白菊で飾られた小舟に乗った豊子が待ち構えていました…。
「ツィゴイネルワイゼン」感想・レビュー
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この映画「ツィゴイネルワイゼン」は、人間存在の不確実性を鈴木清順監督独特の美学で描き上げた映像が、儚く妖しく美しい。
どこまでが本当で、どこまでが嘘なのか、現実と幻想の合間を行ったり来たりして、浮遊している虚実皮膜の世界が、何とも言えない、この作品の魅力になっていると思う。
具体的にストーリーを追うのではなく、サラサーテの言葉が、レコードに録音されているという謎に触発されたイマジネーションの世界に遊び、玄妙な映像表現に浸りきる、何も考えることなく楽しめる、不思議な魅力に満ちたトリップ映画であると思う。
洋画も含めて我が生涯で出逢った最高の作品です。芸術というものは所詮趣味の世界なので、評価は各人により異なるものなのでしょう。私はこの極めて独創的で夢幻世界と迷宮仕掛けの怪談(怪異譚)に魅入られてしまいました。彼此10回近く観て居りますが、見る度に新たな発見と新鮮な印象を受け取る唯一の映画なのです。観るときはいつも美味い酒と料理を用意して映画の世界に溶け込むのです。私自身がこの作品の一部となってまるで空気のように姿を消して傍観しているのです。誠に不可思議な映画でメビウスの輪のようにエンドレスでキリがありません。観終わった後も決して満足感は得られず、また期間を経て映画の最初のシーンに舞い戻ってしまうのです。ですから私は一生この作品から離れることできないのです。古今東西あらゆる映画と出逢って幾多の名作を鑑賞してきましたが、ツィゴイネルワイゼンだけは別格で別物。映画と言う枠に収まらない魔性の魅力に溢れて居ります。次回もこの作品の世界に浸ることを心待ちにしているのです。本当にエンドレスです。