ラストエンペラーの紹介:1987年イタリア,イギリス,中国映画。中国清王朝最後の皇帝である愛心覚羅溥儀の自伝「わが半生」を原作とし、中国共産党政府の全面協力の元で作られた本作は、アカデミー賞9部門にノミネートされ、その全ての受賞を達成するなど高く評価された。有名な観光スポットである紫禁城で撮影が行われたことで大きな話題を呼び、長い歳月をかけてイタリア、イギリス、中国が合作した歴史大作である。
監督:ベルナルド・ベルトリッチ 出演者:ジョン・ローン (愛心覚羅溥儀)、ピーター・オトゥール(レジナルド・ジョンストン)、坂本龍一(甘粕正彦)、ファン・グァン(溥傑)、ジョアン・チェン(婉容) ほか
映画「ラストエンペラー」ネタバレあらすじ結末と感想
映画「ラストエンペラー」のあらすじをネタバレ解説。予告動画、キャスト紹介、感想、レビューを掲載。ストーリーのラストまで簡単に解説します。
ラストエンペラーの予告編 動画
映画「ラストエンペラー」解説
この解説記事には映画「ラストエンペラー」のネタバレが含まれます。あらすじを結末まで解説していますので映画鑑賞前の方は閲覧をご遠慮ください。
ラストエンペラーのネタバレあらすじ:起
1908年の北京。幼き愛心覚羅溥儀は、母と離れ離れになり、乳母のアーモと共に紫禁城に連れていかれ、そこで西太后と出会います。皇帝が亡くなったことを聞かされた溥儀は、西太后から新たな王朝の君主になるよう命じられ、父や大勢の人々が彼の前にひざまずくのでした。紫禁城での生活が始まり、家に帰りたいと乳母にせがむ溥儀はやがて実の母と弟の溥傑と再会し、溥儀は弟と仲良く遊びます。ある日、弟と些細なことで喧嘩をした溥儀は、弟から共和国の大統領の存在を知り、自分の地位が城に出たとたん通用しなくなることを悟り、不安になります。癒しを求め、アーモに会いに行く溥儀でしたが、用済みとなった彼女は城から追い払われてしまい、溥儀は悲しみに暮れるのでした。
ラストエンペラーのネタバレあらすじ:承
1919年、家庭教師としてレジナルド・ジョンストン(ピーター・オトゥール)が城にやって来ます。共に昼食を取り、心を通わせる溥儀(ジョン・ローン)は、多くの人々が弾圧により殺されていることを知り、外の様子を見られないことに腹を立てます。ある日、母がアヘンによって自殺したことを知った溥儀は外出を試みますが失敗に終わります。そして、視力が弱まった彼は、レジナルドのおかげで皇帝として初めて眼鏡をかけて生活し始めます。第一皇妃の婉容(ジョアン・チェン)と第二皇妃の2人を妻とする溥儀。ある日、保管庫が火事になり、宦官による隠ぺい工作だと感づいた溥儀は、宦官全員の追放を命じます。1924年、共和制が崩壊し、溥儀は国事犯として軍の監視下に置かれます。多くの人々から疎外された彼は、日本の大使館に身を寄せますが、第二皇妃は離婚したいと大使館を去ります。
ラストエンペラーのネタバレあらすじ:転
侵略する日本から満州国のことを守ろうとしない中国の姿勢に腹が立った溥儀は、自分の国を作ろうと満州へ向かい、自ら満州国の皇帝に即位します。しかし、婉容がアヘン中毒になってしまい、彼女からこの国の真の支配者は、満州映画撮影所の所長である甘粕正彦(坂本龍一)だと言われてしまいます。1935年、日本から帰国した溥儀は会議で、満州と日本との友好について熱く語りますが、甘粕をはじめとする聴衆は聞く耳を持ちません。日本に行っている間に、溥儀の運転手との間に子を身ごもった婉容は、のちに出産しますが、すぐに赤ん坊を殺され、大使館から追い払われてしまいます。溥儀は日本が押し付ける一方的な書類に署名し、自分がただ利用されている存在だと悟り、愕然とするのでした。1945年、日本がポツダム宣言を受諾して降伏したことを知った甘粕は、拳銃で自殺します。
ラストエンペラーの結末
1950年、ソ連に捕まった溥儀は、一度は自殺を図るものの未遂に終わり、戦犯管理センターで尋問を受けます。そして、別れた家庭教師のレジナルドが、その後ロンドン大学の教授になり、東洋研究に勤しんだことを知るのでした。それから9年間の拘束期間を経て釈放された溥儀は、庭師として弟の溥傑(ファン・グァン)と共に暮らします。ある日、世話になったセンターの所長がデモ行進で辱めを受けている姿を目撃した溥儀はデモ隊員を説得しますが、聞き入れてもらえません。その後かつて住んでいた紫禁城を訪れた溥儀は、守衛の少年に、玉座に隠してあったコオロギの入った入れ物を見せ、かつて自分が皇帝だったことを証明します。そして1967年、溥儀はその激動の一生を終えるのでした。
「ラストエンペラー」感想・レビュー
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中国の歴史を描いた映画は数多くありますが、この「ラストエンペラー」は映画史に残る傑作中の傑作と言って良いと思います。20世紀初頭からの激動の時代に、中国国内で、あるいは周辺国との国際関係のなかで、どのように歴史が動いていったかのか。それが、歴史的建造物等が惜しみなく映し出される迫力満点の数々のシーンによって描き出されます。主演のジョン・ローンの演技も、皇帝の心の細部まで丁寧に表現する素晴らしいものです。
受験勉強で世界史を選択する方も多いと思いますが、教科書だけでは単調になってしまう学習も、この映画を観れば歴史の真の興味深さ、ダイナミックさを知ることができて、良いのではないでしょうか。 -
実際に劇場のスクリーンでみたらさすがの迫力でした。夏になると必ず戦争の物語が上映されますが、やはり歴史が違います。また地上波で放送されること期待します。
中国の歴史は人類の歴史でもある。私はそう認識しているのです。現在でも世界最大の人口を誇る超大国ですが、後に列強の理不尽な侵攻による半植民地とされる発火点とされたアヘン戦争の頃には既に4億人もの人口を抱えていました。中国最後の王朝である清朝は漢民族ではない満州族の貴族階層を頂点とする強大な官僚制度によって広大な国土と膨大な人民を支配していました。その一万年帝国も列強の手による蚕食と虐げられた来た民草が蜂起することによってついに瓦解の時を迎えました。末代皇帝である宣統帝・愛新覚羅溥儀の時代です。彼は小説でもあり得ないような波乱万丈の生涯を送りました。清朝の事実上の支配者であった西太后に死期が迫り、病弱な身ゆえに実子のいなかった幽閉状態の光緒帝の死と共に傀儡の幼帝として祀り上げられました。彼の悲劇はここから始まるのです。アジア最大の帝国も幼帝が三代続いたところに苦しい台所事情が見える気がします。垂簾聴政が常態化すればさしもの大帝国も官僚の堕落腐敗が広がり、度重なった天災と人災、さらには外憂も加わって既に末期的状態でしたから。溥儀の最大の悲劇の原因は、自らの手で何事も決めらなかった、ということになるはずです。生涯に三度も帝位に就くということも異例でしたが、満州国皇帝となったのも自らの意志というよりは復辟(再び帝位に就くこと)を強要された、という部分の方が大きかったのではないかと私は思うのですが。でもこの皇帝の座は全て実権の伴わないものに過ぎませんでしたが。「皇帝」という尊称を賜っただけの生きた人形のようでしたね。限ら得た血統の男子の中で条件にさえ合致すれば誰でもよかったはずなのです。宮廷という魔窟に閉じ込められて一般社会と隔絶された中での生活を強いられれば誰でも溥儀のような生き方しかできなくなるとは自明の理でした。その点は正しく悲劇の人でした。満州国の実質的支配者だった新興・日本も第二次世界大戦で敗北し、満州の広大な土地の支配を巡っての新たな争奪戦が始まり、旧勢力の象徴だった溥儀達はその座を追われ、戦争責任を問われることに。自らの意志ではないにせよ、皇帝であったことを理由に溥儀は有罪となりますが、生命を奪われることはなく、人格改造を経て、一市民として市井に居を置くこととなりました。文化大革命の嵐が吹き荒れる最中にその人生を終えることとなりました。この映画では特に晩年のことには重点が置かれておらず、その点は不満です。中国側が制作した映画『火龍』では市井の人となった溥儀と最後の妻とのその後の顛末が描かれているので、こちらも観てもらいたいのですが。私は最晩年の溥儀氏のモノクロの穏やかな表情を浮かべている写真を目にした時、人間がここまで変われるのかと感動しました。中国で特に珍しい愛新覚羅という四つの文字の呪縛から解放されて、少なくとも人間らしく生きられたことに救いを感じたのです。未だ中国との行き来が現在ほど活発ではなかった時代では、中国をそして近現代史をよく識る手段として重宝したことに懐かしさも覚えている作品のなのです。一部史実と異なる点もありますが、得難い名作ですよ。