バルカン超特急の紹介:1938年イギリス映画。列車という密室を舞台に奇怪な事件が起こる。高速で走る特急列車の中で、次々とスリリングな展開が繰り広げられていく。ヒッチコックのイギリス時代の代表作のひとつ。大ヒットし、ハリウッドのプロデューサー・セルズニックによってアメリカに招かれるきっかけとなった。その後何度かリメイクされている。
監督:アルフレッド・ヒッチコック 出演:マーガレット・ロックウッド(アイリス・ヘンダーソン)、マイケル・レッドグレイヴ(ギルバート)、ポール・ルーカス(ハーツ医師)、メイ・ウィッティ(ミス・フロイ)
映画「バルカン超特急」ネタバレあらすじ結末と感想
映画「バルカン超特急」のあらすじをネタバレ解説。予告動画、キャスト紹介、感想、レビューを掲載。ストーリーのラストまで簡単に解説します。
映画「バルカン超特急」解説
この解説記事には映画「バルカン超特急」のネタバレが含まれます。あらすじを結末まで解説していますので映画鑑賞前の方は閲覧をご遠慮ください。
バルカン超特急のネタバレあらすじ:起
ヨーロッパ大陸のある国。そこは冬の観光地の穴場としてイギリス人の注目を集めています。
休暇を終えた客たちがロンドン行の列車に乗ろうとしましたが、雪崩のために一時的に運休。仕方なく駅前の宿屋に泊まることになります。
異常なクロケット好きの男性2人組、数年海外で働いてきた老婦人・ミス・フロイなど、客たちは様々です。そんな客の1人に若い女性・アイリスがいました。彼女は音楽学者だという男・ギルバートと同じ部屋になって困惑。しかし一晩だけだと思い、諦めます。
バルカン超特急のネタバレあらすじ:承
翌朝になって列車は運行を再開することになり、客たちは車内へ。アイリスも車内へ入ろうとしますが、ミス・フロイが落とし物をしたため、彼女の元へ。
その時、上の窓から落ちてきた鉢植えを頭に受け、脳震盪を起こします。アイリスは一旦列車に乗り込むものの、すぐに気絶。気がつくといつの間にかコンパートメントに座っていて、向かいの席にはミス・フロイがいました。
コンパートメントには他の乗客もいるものの、英語の分からない外国人ばかり。フロイとアイリスは食堂車へ行き会話を交わします。また一緒に座席に戻った後、アイリスは再び就寝。そして起きてみると、フロイは姿を消しています。
バルカン超特急のネタバレあらすじ:転
心配になったアイリスは列車中を探し回るのですが、彼女はいません。フロイを見たと証言してくれる乗客もいないため、脳震盪の後遺症だと思われる始末です。
ただ1人、ギルバートだけは彼女を信じて捜索に協力しますが、やはり老婦人の居所は不明です。2人が困惑していると、列車が最初の停車駅に。そこで全身が包帯で覆われた患者が車内へ運ばれてきます。
誰も下車しないことを確かめて、アイリスたちはまたフロイの調査を再開。やがて、フロイトと称する婦人が現れるのですが、まるで別人です。
バルカン超特急の結末
何か陰謀だと知ったアイリスたちは、やがて運び込まれた患者に目をつけます。その包帯を取ると案の定、それはミス・フロイでした。
実は彼女はスパイで、情報をイギリスに運ぼうとしているところを敵に捕まったのです。彼女たちは何とか逃げようとしますが、敵国の諜報員がルートを変えたため、列車は軍隊の待ち構える場所に止まる羽目に。
事情を知った乗客たちは、自分たちの銃で敵軍と交戦し、その間にフロイは列車を抜け出してイギリスを目指します。やがてギルバートたちの活躍で再び列車は動き出し、ロンドンへ。
アイリスとギルバートが外務省へ行くと、フロイも無事にそこに来ていました。
以上、映画「バルカン超特急」のあらすじと結末でした。
この映画「バルカン超特急」は、列車内で消えた婦人の謎、走っている列車の外づたいに、窓から窓への移動とか、ラストの引き込み線でも撃ちあい、狭い車内での格闘、敵の内部での仲間割れ、等々のエッセンスは、後の列車が舞台となる無数のアクション映画(「007ロシアより愛をこめて」、「カサンドラ・クロス」、列車ではないが「エアフォースワン」もここに入れていい)に、直接、間接の影響を与えた作品だと思います。
やはり、走る列車というのは、極めて映画的な素材なんでしょうね。
ゴトンゴトンというスピード感を常に表現する音、狭い空間という敵味方とも自由に動けない枷、あと何分で駅(またはどこか)に着くというタイムリミット。
これらの要素は、映画的サスペンスを盛り上げるセオリーであり、いくらCGとかの技術が発展しようとも、これらの基本的セオリーは普遍のものだと思います。
ヒッチコックたちのような映画界の先駆者たちは、これらのセオリーを確立したんですね。
映像技術はいくら発展しようとも、これらの映画的セオリーが変わらない限り、古い作品だって、いつになっても観直す価値があると思います。
いや見習う素材はいくらでもあるので、現代風にアレンジして、もう一度リメイクしても十分、今でも通用する作品だと思います。(実際リメイクされていますね)
この映画の中で、「食堂車へ行ってお茶を飲みましょう」とミス・フロイがアイリスを誘う場面があります。
フロイが、「私がフロイです」と自己紹介すると、汽笛が鳴り続け、「フロイト?」と聞き返す、主人公のアイリス。
イギリスやアメリカにおいて、第一次世界大戦後、フロイトの翻訳本が出回りたくさん売れたそうです。
したがって、”精神分析”が当時のイギリスやアメリカでは大流行したというのが、アイリスのような若い娘にまで影響していたのかもしれませんが、ミス・フロイが、曇った車窓に”FROY”と書いてみせたりするあたりも、ヒッチコック流のフロイト解釈の一端で、なんでもない行動が、実は謎を解くカギを秘めていて、この”FROY”も、後で重要な役割を果たすことになるんですね。
そして、お話は急転直下、列車から忽然と消えてしまったミス・フロイの姿を探して、イギリス人の音楽研究家である青年とアイリスは、列車の中で唯一信頼できるハルツ医師に、相談を持ち掛けるのだが、このハルツこそ、ナチスを想わせる組織の片棒を担いでいる、フロイ誘拐の張本人なんですね。
なのに、二人が邪魔をするものだから、彼らを眠らせるべく、食堂車でしきりに、薬入りのブランデーを飲ませようとする。
テーブルの上のブランデー・グラスが、画面の半分くらいも占領しているほどの大きさに映っているんですね。
そしてその向こうに、ハルツの顔があり、時折、視線がグラスに走る。
別の車の揺れでこぼれそうになるのを、ひどく押さえたりするんですね。
こういうところが、やっぱりヒッチコックはうまいな、職人だなと思わせるし、グラスにも仕掛けがあるんですね。
このグラスは常に人物の手前に大きく映り続け、この映画を観る者の神経は、いやが上にもグラスに向けられる仕組みになっているんですね。
同じやり方が、「白い恐怖」にも、拳銃を持つ巨大な手として描かれていましたね。
ヒッチコック監督はイギリス人なのだから、彼の作品のどこかに、シャーロック・ホームズが出ていて欲しいなと思っていたら、ちゃんとこの「バルカン超特急」にあるんですね。
作曲家の青年とアイリスが、貨物車両にミス・フロイトを探しに行くと、そこには誘拐犯の手先のドッポ(実は手品師)の小道具があって、青年はまず鹿打帽をかぶり、例のパイプをくわえ、「五里霧中だね、ワトソン君」とアイリスとふざけるんですね。
この青年役のマイケル・レッドグレーヴは、「ジュリア」「裸足のイサドラ」のイギリスの名女優ヴァネッサ・レッドグレーヴの父親で、後に”サー”の称号を受けた、イギリスきっての舞台俳優なんですね。
この貨物車両でのドッポとの大格闘は、可笑しいほどのズッコケぶりで、ヒッチコックは、本当はコメディ専門の監督ではないかと思いましたね。