嘆きのピエタの紹介:2012年韓国映画。韓国映画史上初めてヴェネツィア国際映画祭の金獅子賞を獲得したバイオレンスな人間ドラマです。血も涙もない消費者金融の取り立て屋が、自分の母を名乗る人物に出会ったことから始まる奇妙な関係と衝撃の事実を描いています。
監督:キム・ギドク 出演者:イ・ジョンジン(イ・ガンド)、チョ・ミンス(ミソン)、ウ・ギホン(フンチョル)、カン・ウンジン(ミョンジャ)、クォン・セイン(ギターの男)ほか
映画「嘆きのピエタ」ネタバレあらすじ結末と感想
映画「嘆きのピエタ」のあらすじをネタバレ解説。予告動画、キャスト紹介、感想、レビューを掲載。ストーリーのラストまで簡単に解説します。
嘆きのピエタの予告編 動画
映画「嘆きのピエタ」解説
この解説記事には映画「嘆きのピエタ」のネタバレが含まれます。あらすじを結末まで解説していますので映画鑑賞前の方は閲覧をご遠慮ください。
嘆きのピエタのネタバレあらすじ:起
消費者金融の取り立て屋であるイ・ガンド(イ・ジョンジン)は幼い頃に家族に捨てられ、愛を知らずに育った天涯孤独の男です。ガンドは借金を返せない債務者に対して非情に凄惨な手口で取り立てを行う残虐な性格の持ち主で、債務者の足の骨を折ったり手を砕いたりして障害を負わせ、障害者保険の保険金で強制的に返済させてきました。この日もガンドは町工場に乗り込み、借金が返せない工場長の手を工場の機械で潰し、その妻をレイプしていました。その帰り、ガンドはミソン(チョ・ミンス)という謎めいた女性に声を掛けられました。ミソンは自らを生き別れたガンドの母だと名乗り、ガンドを捨てたことを謝罪してきました。ガンドはそんなミソンに冷たくあしらい、次の取り立てに向かっていきました。
嘆きのピエタのネタバレあらすじ:承
ミソンはガンドの取り立ての現場までついていき、家にまでもドカドカと入り込んでいきました。キレたガンドはミソンをレイプしようとしましたが泣きじゃくって抵抗されたため断念、それからガンドとミソンの奇妙な同居生活が始まりました。最初はミソンを邪険に扱っていたガンドでしたが、次第に無償の愛を与えてくれるミソンに心を開き始め、遂にミソンのことを自分の母親として認めました。二人は一緒に買い物に出かけ、“親子”としての日々を楽しんでいましたが、そこに以前ガンドに取り立てられて足の骨を折った男が包丁を持って襲い掛かり、ガンドを殺そうとしましたが、ミソンの機転により命拾いしました。やがてガンドの心境にも変化が訪れ、以前のような過酷な取り立てをもためらうようになっていきました。
嘆きのピエタのネタバレあらすじ:転
ガンドは意を決し、取り立て屋の仕事を辞めようとしたその時、ミソンは忽然と姿を消していました。ミソンの正体はガンドの実母ではなく、かつてガンボから執拗に取り立てられて自殺に追い込まれた青年の母であり、ガンドに復讐のため近づいていたのです。やがてガンドの元に戻って来たミソンでしたが、少しづつガンドに対して冷たく接するようになっていきました。ある日、ミソンは再びガンドの前から姿を消し、何者かに襲われたかのように装ってガンドに助けを求める電話をかけました。消費者金融の社長から、これまでガンドが傷つけてきた債務者の仕業だろうと言われたガンドは、これまで自分が傷つけてきた債務者の元を一人一人訪ねて謝罪して回りましたが、ガンドを待っていたのは想像を絶する彼らからの激しい怒りと憎しみでした。
嘆きのピエタの結末
ミソンは消費者金融の社長の元に押しかけ、そのやり取りを電話でガンドに伝えたあとで社長を殺害してしまいます。ガンドはミソンから呼び出され、かつてガンドが債務者を突き落として障害を負わせた廃墟ビルに向かいました。そこでミソンは今にも飛び降りようとしていましたが、ガンドとの暮らしですっかり情が移っていたミソンはガンドに哀れみの感情も抱くようになっていました。ガンドは泣いてミソンに謝り、自分を殺してくれと懇願しますが、ミソンはそのまま飛び降りて自らの命を絶ってしまいました。ガンドはミソンを埋葬しようと木の根元を掘り起こしたところ、土の中から出てきたのはガンドに追い詰められて自殺したミソンの実の息子の遺体でした。ミソンの埋葬を終えたガンドは、かつて自分に傷つけられた町工場の元経営者の妻が仕事に使うトラックの下にチェーンで自らの身体を括り付け、発進と同時に自分の身体が引きずられていくという自殺方法を選択しました。走っていくトラックの後ろには、ガンドの流す血の線が途切れることなく続いていました。
「嘆きのピエタ」感想・レビュー
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WOWOWの放送で何気なく見始めたら引き込まれ、ラストまであっという間でした。ガンドの心の変化が意外と早く、それだけ愛に飢えてたのかも。韓国映画は「渇き」という作品を最初に見てその迫力と質の高さにビックリしました。日本映画が生ぬるく感じます。本作品も、底無しのやりきれなさが凄い。見るべし。
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なんとも言えない切ない作品でした。残虐から始まって、親と子の現実でもある感情が表現されていて誰も悪くないんだと言う気持ちにさせられました。
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鬼才キム・ギドク監督のサスペンス映画「嘆きのピエタ」は、最後まで手の内を明かさない脚本が、愛憎劇の果てをも描いた作品だ。
キム・ギドク監督の映画は、いつ観ても肩が凝る。
最後まで気の抜けない緊張感の連続に、全身がこわばってくるのだ。特にこの映画はひどい。並みのサスペンス劇では到底及ばない、肺腑を抉るような息詰まる人間ドラマになっているからだ。
題名にある「ピエタ」とは、十字架から降ろされたキリストを、胸に抱く聖母マリアを指している。
つまり母と息子の物語なのだが、ここでは主役は母であり息子でもある。生まれてすぐに捨てられた、30年間天涯孤独に生きてきた借金取りの男(イ・ジョンジン)のもとへ、ある時、母と称する中年女性(チョ・ミンス)が現われる。
執念深い彼女は、とうとう男の家に上がり込み、食事の世話までするようになる。
果たして彼女は、本当に母なのか?ここから物語は次第に核心へと至るのだが、ミステリアスなサスペンス劇という関係上、細部を語るのは御法度だろう。
要するに、母と息子の激しい愛憎劇、それも魂と魂がぶつかり合う復讐劇をはらんだ物語で、そこには男の借金取り立ての現場となる、ソウルの町工場が連なる一画が深く関わってくる。
男の取り立ては残忍そのもので、債務者に重傷を負わせ、その保険金で利子が10倍に膨れ上がった借金を返済させるというあくどさ。
そんな嫌われ者のもとに、突然現れた”母”とはいったい何者なのか?おそろしく良く出来た脚本だ。
これまでにも脚本には定評のあったキム・ギドクだが、この映画ではさらに腕を磨き、最後まで手の内を明かさない。つまり終幕まで二転三転して、ラストシーンが見えないのだ。
そこで描かれるのは、愛憎劇の果ての母性、慈愛と悲哀に引き裂かれた母性の奥深さだ。キム・ギドク監督は10代の頃、この映画の舞台となったソウルの清渓川地区で、工場労働者として働いていたそうだ。
そして青年時代は、夜間の神学校に通って牧師を目指したという。”工場”と”神”が、この傑作に結び付いたことは間違いない。
韓国映画は好きですが、なかなか怖くて手を出せなかったキムギドク監督の本作。CSで放送していたものを観たのですが…韓国映画はこういうバイオレンスでショッキングな映画作りが本当にうまいなと改めて感じました。
想像もつかないストーリー展開。私はガンドと同様にミソンへの不信感を抱きつつも心を開いていき、まんまと…心にしこりの残るラストをみせつけられました。ガンドの最期はとても静かで、すさまじかったです。あのラストの発想力は脱帽です。