事件の紹介:1978年日本映画。大岡昇平の同名推理小説を映画化した法廷サスペンス劇です。未成年の男が犯した殺人事件の裁判。その裏側には犯人と被害者の女性、そして女性の妹との三角関係があり、やがて裁判は思わぬ展開に進んでいきます…。
監督:野村芳太郎 出演者:丹波哲郎(菊地弁護士)、永島敏行(上田宏)、大竹しのぶ(坂井ヨシ子)、芦田伸介(岡部検事)、渡瀬恒彦(宮内辰造)、松坂慶子(坂井ハツ子)ほか
映画「事件」ネタバレあらすじ結末と感想
映画「事件」のあらすじをネタバレ解説。予告動画、キャスト紹介、感想、レビューを掲載。ストーリーのラストまで簡単に解説します。
映画「事件」解説
この解説記事には映画「事件」のネタバレが含まれます。あらすじを結末まで解説していますので映画鑑賞前の方は閲覧をご遠慮ください。
事件のネタバレあらすじ:起
神奈川県・厚木の雑木林で、若い女性の刺殺された死体が発見されました。被害者はこの町で小さなスナック「カトレア」のママをしていた23歳の坂井ハツ子(松坂慶子)です。その数日後、警察は19歳の造船所工員・上田宏(永島敏行)をハツ子殺害容疑で逮捕しました。ハツ子の死亡推定時刻に宏らしき男が現場付近の山道を自転車を押しながら下っていく姿が目撃されていたほか、その後の調べにより、宏はハツ子の妹・ヨシ子(大竹しのぶ)と同棲中であり、ヨシ子は宏の子を身籠っており既に妊娠3ヵ月であったことが明らかになりました。宏は取調べに対し、妊娠を機にヨシ子と駆け落ちしようとしたところをハツ子に未成年だという理由で猛反対され、カッとなって登山ナイフで刺し、遺体を雑木林に捨てたのだと供述しました。
事件のネタバレあらすじ:承
谷本裁判長(佐分利信)の元で宏の初公判が始まりました。これまでに100件もの事件を担当してきたベテランの菊地弁護士(丹波哲郎)が宏の弁護人を務め、原告側の岡部検事(芦田伸介)と争うことになります。菊池は知人であり、宏の中学校時代の担任だった教師の花井(山本圭)に被害者・加害者両方の家庭環境の実態の調査および、証人として出廷予定のハツ子のヒモだったやくざの宮内辰造(渡瀬恒彦)の調査を依頼しました。裁判には宮内の他にも証人として、ハツ子の死体を発見した現場の土地所有者・大村吾一(西村晃)、事件直前に宏がハツ子と自転車二人乗りをしているところを目撃した青果店店主・篠崎かね(北林谷栄)、宏が凶器のナイフを購入した金物屋の主人・清川民蔵(森繁久彌)らが招かれました。やがて、裁判が進むうちに、事件の鍵を握る宏とハツ子、そしてヨシ子の知られざる過去が浮かび上がってきました。
事件のネタバレあらすじ:転
元々、宏とハツ子・ヨシ子姉妹は仲の良い幼馴染みでした。しかし、ハツ子は母・すみ江(乙羽信子)の再婚相手・房次(浜田寅彦)から折檻を受けたことから逃げるようにして一人東京に去っていったのです。それからハツ子は新宿でホステルとなり、その頃から宮内と出逢ったのですが、やがて宮内との日々にも疲れ切ったハツ子は人生をやり直そうと故郷に戻り、スナック「カトレア」を開いたのです。元来根が真面目な宏はハツ子に本気で惚れこみ、ハツ子もまた宏との結婚を考えていたその時、かねてから宏に好意を抱いていたヨシ子が決死の覚悟で宏を奪い取り、宏の子を宿すに至ったのです。宮内はハツ子と別れたあとは別の女をカモにしていましたが、やがて「カトレア」に入り浸るようになり、「カトレア」の経営も上手くいかず借金ばかりがかさんでいきました。
事件の結末
宏とヨシ子の関係を知ったハツ子は宏を呼び出して中絶を迫り、親に言いつけると詰め寄ったところ、宏はたまたま保持していた登山ナイフを手にしてハツ子を威嚇、全てに絶望したハツ子は自ら宏のナイフに飛び込んでいきました…。気が付くとハツ子は血まみれで倒れており、気が動転した宏はハツ子の死体を雑木林に隠すと、何も知らないヨシ子を連れて町から逃げ出しました。宮内は実は事件の一部始終を目撃していたのですが、自分は関わりたくないと逃げ、宏と姉の関係を知っていたはずのヨシ子もそれを全面的に否定しました。やがて判決が下り、宏は「故意による殺人では無い傷害致死」とされて懲役2年~4年の不定期刑となり、少年刑務所へ収監されました。宏は面会に来たヨシ子に、花井先生に苦しい胸の内を打ち明け、たとえ刑期を終えたとしても人を殺めた事実に変わりはなく、死ぬまでこの手はハツ子の血にまみれるのだ、と語りました。その後、すっかりお腹の大きくなったヨシ子は、宏の出所をしたたかに心待ちにしていました。
「事件」感想・レビュー
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この映画「事件」は、原作が大岡昇平の日本推理作家協会賞受賞の同名小説で、一つの殺人事件の公判廷を舞台に、裁判官、弁護士、検事、そして被告自身と、それにまつわる証人たちの思惑を絡ませながら、”裁判の真実”を浮き彫りにしていく小説だった。
この映画では、新藤兼人のシナリオ、野村芳太郎監督の演出のもと、一般には難解な法廷技術論はさらりと流し、都市化する首都圏近郊の農村部に住む若者たちの青春像にポイントを置いてドラマが描かれている。
都市化の進む神奈川県厚木市に近い町の山林で、小さなスナックの経営者、坂井ハツ子(松坂慶子)の刺殺死体が発見される。
殺人現場近くに居合わせた老人の証言などにより、19歳の工員、上田宏が容疑者として逮捕される。宏は、被害者ハツ子の妹で妊娠中のヨシ子(大竹しのぶ)と同棲中だった。
宏は、殺人と死体遺棄の罪に問われて起訴され、殺しの事実は認めたのだった。裁判の争点は、宏の殺意である。
検事(芦田伸介)、弁護士(丹波哲郎)は、激しく対峙し、弁護士は被害者ハツ子のヒモだった宮内(渡瀬恒彦)らの証言の矛盾を巧みにつきながら、検事が主張する宏の殺意を覆していく。6割以上が法廷シーンなのですが、裁判劇が陥りがちな単調さを救ったのは、宮内をはじめとする証人の個人の生活まで深く突っ込み、証人のドラマをたっぷりと展開させたからだと思う。
そして、裁判の主役とともに、”事件”の主役たちも、うまく描き出されていると思う。
ハツ子とヨシ子、宏は幼馴染みだ。
ハツ子は、母(乙羽信子)が再婚した義父に犯され、家を飛び出し、安キャバレーを転々としたあげく、小金をためて郷里に小さなスナックを開く。ホステス時代に知り合った宮内との関係も切れぬまま、妹のヨシ子と親密な宏に思いを寄せ、妹の妊娠に強い嫉妬を感じるのだった。
そして、事件は、ヨシ子と同棲を決意した宏を責めた時に起きたのだった——-。
環境の急激な変化と共に、揺れる若者たちの不安定な心情、生活もうまく表現されていると思う。
自分の恋人に思いを寄せていた姉との関係を頑ななまでに隠し通し、自身の愛を守り通そうとするヨシ子を大竹しのぶが、実にうまく演じていたと思う。また、松坂慶子も野村芳太郎監督の指導で、映画界に入って以来とも思える熱のこもった演技をみせたのが印象的だった。
地味な作品ながら、”青春の罪と罰”にも迫った裁判劇の秀作だと思う。
私は、宏には同情できません。どちらかときちんとケリをつけないまま、ハツ子とヨシ子を同時に交際し、ヨシ子を妊娠までさせた。妊娠はヨシ子の計画だったとはいえ、やはり宏がしっかりするべきでした。まして、3人は幼馴染だったんですから。私はハツ子が本当にかわいそうです。つらい過去があり、幸せになる権利があったはずです。それを、責任感のない男二人と出会ったばかりに・・・。
しかし、証拠などに基づいてでしか、判決を下すので、あまりにも軽い刑でしたね。
また、宏の判決が下った時の、ヨシ子の勝ち誇ったような表情。
好きな男とは言え、実の姉が死んだことは、そんなに気に留めないのでしょうか。