青空娘の紹介:1957年日本映画。高校を卒業して、初めて東京の両親の元で過ごすことになった有子は、満州に渡ってから足取りのわからなくなった実の母の存在を知る。増村保造監督、脚本の白坂依志夫、女優の若尾文子が初めていっしょに仕事をした映画。
監督:増村保造 出演者:若尾文子(小野有子)、菅原謙二(二見桂吉)、川崎敬三(広岡良輔)、信欣三(小野栄一)、沢村貞子(小野達子)、ミヤコ蝶々(八重)
映画「青空娘」ネタバレあらすじ結末と感想
映画「青空娘」のあらすじをネタバレ解説。予告動画、キャスト紹介、感想、レビューを掲載。ストーリーのラストまで簡単に解説します。
映画「青空娘」解説
この解説記事には映画「青空娘」のネタバレが含まれます。あらすじを結末まで解説していますので映画鑑賞前の方は閲覧をご遠慮ください。
青空娘のネタバレあらすじ:起
海の見える町の高校を卒業した小野有子が卒業後のことをクラスメートたちと語らっている。有子は卒業後、東京にいる両親と暮らすことになっていた。そこへ美術教師の二見が現れ、小さい頃から有子を育ててきた祖母が倒れたことを告げる。二見の自転車に乗せられて帰宅した有子に、臨終を前にした祖母は、有子の本当の母は有子の父と別れて別の人と結婚し満州に行ったことを話す。有子は岬で青空に向かって「お母さん」と叫ぶ。二見に東京に青空はあるかしらと問う。二見は、皆の上に青空は一つずつある。皆が見ようとしないだけだと答える。二見も学校をやめて東京の宣伝美術の会社に入ることを決めていた。
青空娘のネタバレあらすじ:承
変な人だらけの東京駅で有子を迎えたのは女中の八重だった。しかし、小野家では初めて会う弟の中学生、引志に野球のボールをぶつけられ「女中のくせに」と言われる。兄も姉も母の達子も彼女を女中並みに扱い、物置におしこめる。「パパの不潔の産物」である有子の味方は八重と、哲学好きな魚屋だった。しかし、引志とは取っ組み合いのけんかの末に仲良くなる。
青空娘のネタバレあらすじ:転
有子は小野家で開かれた卓球大会で長女照子の13番目のボーイフレンド、広岡に試合を申し込まれて広岡を破ってしまう。広岡に引志は、有子が女中をしているけれど本当は彼のお姉さんなのだと教える。
出張から帰った父の栄一は会社に有子を呼ぶ。父のオフィスと同じ建物にある会社に勤める広岡と再会する。父は有子の本当の母、三村町子を愛していたことを話し、銀座を有子と歩き、彼女のために買い物をする。父から行方不明の母の写真をもらった有子は、母を探す決心を父に語る。広岡は有子に求婚する。有子は自分が好きなのは高校時代の先生、二見であることを話すが広岡は意に介さなかった。しかし、広岡の求婚を知った姉の照子は有子を泥棒よばわりし、大切な有子の母の写真をバラバラにしてしまう。有子の母がこの家の人たちの気持ちがバラバラな原因だった。翌朝こっそり家を出た有子は、二見のアパートを訪ねた。出張に旅立つところの二見には帰るまでここにいろと言われる。そして「青空を忘れるなよ」とも。ところが、二見の恋人と自称するファッションモデルが現れたために有子は二見の部屋を出る。広岡に旅費を借りて田舎へ帰る。母親が生きていればきっと田舎に自分を訪ねてくると考えてである。
青空娘の結末
田舎に帰った有子は、三日前に彼女の実の母が東京から訪れて来たことを知る。母は、有子が東京で幸せだと聞き、有子にはもう会うまいと決意していた。有子は友達の信子の銀座のキャバレーのマネージャーになったおばを紹介され、再び上京。キャバレーで皿洗いをしながら母を探すことになった。その職場に弘志がたずねて来る。アルバイトにバンドでトランペットを吹いている兄に有子の勤め先を教わったのだ。有子に去られた父は病気になって家で寝ているという。有子のもつ母の写真を見た二見はその顔に見覚えがある。それは彼の会社の掃除をしている女性とわかった。二見が有子のことを問い詰めたせいで突然会社をやめてしまった三村町子の住所を、二見――有子のことを好きだったが、有子の心が広岡に移っているのを感じて気持ちを伝えられないまま身を引く――に頼まれて広岡が訪れる。そして料理屋での有子と母の対面をお膳立てする。その料理屋に現れた八重と弘志の頼みで有子は小野家に行く。有子は寝込んでいる父に母と会えたことを話し、今日はさよならを言いに来たという。有子はこの家の不幸は父が人を本気で愛することがないことに由来するのだと諭し、達子お母さんを本気で愛するように父にすすめるのだった。そして皆に別れを言う。弘志にはこれから自分は他人だけど仲のいい他人だと言って小野家を去る。
この作品はコンパクトにまとまっていて、昭和中期の時代色に染まった佳作映画である。原作はサラリーマン小説の先駆者でベストセラー作家の源氏鶏太。ヒロインが継母や義姉に虐められ女中扱いと言うのは、差し詰め「源治鶏太版」のシンデレラだと言えよう。映画の佳境に差し掛かる場面では、恋人役の川崎敬三が「いつか僕の前でこの靴を履いて欲しい」と懇願する。このハイヒールを手にして求婚する設定もシンデレラと酷似している。またサディスティックでひねくれた、義姉役の穂高のり子の淫靡でエロティックな雰囲気が私は気にいった。更に継母役の沢村貞子の冷酷さも「どエス(Sサド)」の品格を備えた貫禄充分の怪演であった。これらの一種の戯画(カリカチュア)が、私にはこの映画のサブテーマにさえ思えたくらいである。なのでこの映画を観ながらふと、スピンオフ作品として若尾文子と三宅邦子の母子を苛め抜く【SM映画】「雨空娘」を創作してみたいなどと考えていた。この映画には他にも昭和の魅力に溢れた女優たちがテンコ盛りなので私にはありがたい。またミヤコ蝶々(女中)と南都雄二(魚屋)の「夫婦漫才」の掛け合いがとても懐かしかった。増村保造と若尾文子のその後の長きにわたる師弟関係の原点がここにある。冒頭のシーンでは若尾のセーラー服姿がたっぷりと見れる。若尾文子のファンとしては、これ以上ない最高のご馳走である。更に三宅邦子と若尾文子の母子が抱き合うシーンも超レアで「国宝級」だ。また、若き日の品川隆二(二枚目俳優だった頃)も出ている。この映画は事程左様に、あらゆる面でお買い得感に溢れる「ビックリ箱」(掘り出し物)のような楽しい作品なのである。