ハムレットの紹介:1948年イギリス映画。ウィリアム・シェイクスピアの代表作である四大悲劇のひとつを、シェイクスピア俳優のローレンス・オリヴィエが自らの製作・監督・主演で原作に忠実に映画化した文芸ドラマの傑作です。後に1996年にもリメイクされています。
監督:ローレンス・オリヴィエ 出演者:ローレンス・オリヴィエ(ハムレット)、ジーン・シモンズ(オフィーリア)、ノーマン・ウーランド(ホレイショー)、テレンス・モーガン(レアティーズ)、アイリーン・ハーリー(ガートルード)、ベイジル・シドニー(クローディアス)、アンソニー・クエイル(マーセラス)、ピーター・カッシング(オズリック)、ジョン・ギールグッド(亡霊の声)、クリストファー・リー(兵士)ほか
映画「ハムレット(1948年)」ネタバレあらすじ結末と感想
映画「ハムレット(1948年)」のあらすじをネタバレ解説。予告動画、キャスト紹介、感想、レビューを掲載。ストーリーのラストまで簡単に解説します。
映画「ハムレット(1948年)」解説
この解説記事には映画「ハムレット(1948年)」のネタバレが含まれます。あらすじを結末まで解説していますので映画鑑賞前の方は閲覧をご遠慮ください。
ハムレットのネタバレあらすじ:起
デンマーク、エルシノア。当時の国王が蛇に噛まれて急死、その後を弟のクローディアス(ベイジル・シドニー)が継ぐことになりました。クローディアスは前国王の王妃ガートルード(アイリーン・ハーリー)と再婚、前国王とガートルートとの子である王子ハムレット(ローレンス・オリヴィエ)にこれからは自分を父だと思って忠誠を誓うよう求めました。しかし、ハムレットの心は未だに深く沈んだままで、なぜ母が父の死からわずか1ヶ月で再婚したのか疑問に思っていました。ハムレットは侍従長ポローニアス(フェリックス・エイルマー)の娘オフィーリア(ジーン・シモンズ)に想いを寄せていましたが、ポローニアスは身分が違うとして二人の交際に反対していました。
その頃、ハムレットの親友ホレイショー(ノーマン・ウーランド)は前国王の亡霊(声:ジョン・ギールグッド)が城壁に現れるという噂を聞き付け、部下たちと共に亡霊の存在を確認、そのことをハムレットに報告しました。
ハムレットのネタバレあらすじ:承
ハムレットはホレイショーと共に亡霊に会いにいき、その亡霊が紛れもなく父王であることを確信しました。亡霊はハムレットを誘って二人きりになり、自分が弟クローディアスに毒殺されたことを明かし、ガートルードに決して危害を加えるなと告げて姿を消しました。ハムレットはクローディアスへの復讐を誓いました。
その頃、ポローニアスは、ハムレットがオフィーリアに宛てた恋文を読み、クローディアスとガートルードにハムレットが狂気の末に起こした行動であることを伝えました。その様子を盗み聞きしていたハムレットはあえて狂気を装い、ポローニアスが探りを入れるために遣わしたオフィーリアを無下に扱いました。そのことを知らぬオフィーリアは泣き崩れました。
ハムレットは城を訪れた旅役者の一座を歓迎、彼らの演目に毒殺された男のエピソードを付け加えるよう指示しました。この芝居を見たクローディアスは激しく動揺、ハムレットは間違いなく彼こそが父を亡き者にしたことを確信しました。
ハムレットのネタバレあらすじ:転
ハムレットは物陰に隠れてクローディアスを待ち伏せていましたが、誤ってポローニアスを殺害してしまいました。ハムレットはガートルードの行いを激しく糾弾しましたが、その時ハムレットに亡霊が母を許すよう告げ、ハムレットが目に見えない何かと会話するように映ったガートルードは、改めて我が子が狂ってしまったと嘆きました。
クローディアスはハムレットを親交のあるイングランド王の元に向かわせようとしていました。しかし、その裏では、クローディアスはイングランド王にハムレットの抹殺を依頼していました。ハムレットはイングランドへ向かう船に乗り込みましたが航海の途中で海賊に襲われて捕虜となり、ホレイショーに手紙を書いて救いを求めました。オフィーリアは父の突然の死に精神を病んでしまい、川に身を投げて自殺してしまいました。フランスから舞い戻って来たポローニアスの息子でオフィーリアの兄レアティーズ(テレンス・モーガン)はハムレットへの復讐を誓いました。
ハムレットの結末
クローディアスは国へ舞い戻って来たハムレットの抹殺を考え、レアティーズにハムレットとの剣術試合を挑むよう命じました。剣にはあらかじめ毒を塗っておき、ハムレットに振舞うための毒入りの酒も用意しておきました。
勝負を受けて立つことにしたハムレットは、クローディアスとガートルードの見守る中レアティーズとの試合に挑み、序盤はハムレットのペースで展開しました。しかし、クローディアスがハムレットに渡した酒が毒入りであることを見抜き、我が子を守るために自ら酒を飲み干して絶命してしまいます。ハムレットとレアティーズはそれぞれ毒の剣で重傷を負い、ハムレットは死にゆくレアティーズから全ての陰謀を聞き付けました。ハムレットは全身に毒が回りながらもクローディアスに襲い掛かって討ち取り、ホレイショーに事の顛末を後世まで語り継いでくれるよう託して息を引き取りました。ホレイショーは生きていれば偉大な王になったであろうハムレットの生涯を称えました。
この映画「ハムレット」は、イギリスを代表するシェイクスピア役者の名優ローレンス・オリヴィエが、製作・監督・主演をし、自身アカデミー主演男優賞も受賞したハムレット映画の決定版だ。
そして、このウィリアム・シェイクスピアの代表的な舞台劇の映画化にあたり、当時、彼が主催する名門オールド・ヴィク座から多数の舞台役者を招聘し、重厚で見応えのある作品に仕上げていると思う。
暗い画面の中に渦巻く霧が割れて、遥か下方に、陰鬱そのものの様なエルノシア城の望楼が、黒々と浮かび上がってくる。
これが、この映画「ハムレット」の全てを象徴しているように思う。
デンマークの王子ハムレットは、亡き父王の亡霊に出会い、父が暗殺されたことを知り、殺害者で、現国王のクローディアスに復讐を誓う。
そのため、ハムレットは狂気を装うが、誤ってオフィーリアの父ポローニアを殺してしまう。
そして、旅芸人一座に暗殺劇を上演させて、クローディアスの犯罪を突き止めたハムレットは、クローディアスに唆されたレアティーズと試合をするが——-。
この映画化作品は、確かに舞台そのものを模倣しているところがあり、アブストラクトな装置やスモーク、ワンショットが非常に長く、カット数も少ないため、まるで舞台そのものを観ているような気になり、映画を観ていることを忘れさせてくれます。
しかし、ここには、オールド・ヴィク座の舞台での歴史的な成功とはまた違う、オリヴィエの映画的欲望といったものが、もう凄まじいまでの重厚さで埋め込まれていると思う。
例えば、亡き父の亡霊に復讐を誓った後、カメラは亡霊の目になって、事の真相を知らされて絶句するハムレットを見つめながら階段を昇って行く。
また、母親ガートルードとのいさかいの場面に、ハムレットを諫るため自ら登場した亡霊は、その後、またしても、もがき苦しむハムレットを見つめながら、部屋の階段を昇って行く。
どちらも、ハムレットを一人残して亡霊、つまりカメラが階段を後ろ向きに引いて行くショットとなっている。
つまり、ここでは観ている側の我々の視点と亡霊の視点が一体化しているのだ。
そのため、亡霊の目で、この復讐劇全体を眺めるという、稀有な「ハムレット」体験を可能にしてくれていると思う。
そして、この後ろに引いて行くショットは、もう一箇所出てくる。
オフィーリアに「尼寺へ行け!」と暴言を吐いた後、舞台劇ではもっと後の場所なのだが、この映画では、そのまま城の上まで一気に昇って、この劇で最も有名な「生きるべきか死ぬべきか」のモノローグになる。
それはあたかも、亡霊に呼び寄せられたかのように、城の上に出て行く印象を与えている。
つまり、ハムレットは、ここで亡霊と一体化するのだ。
そのため「生きるべきか死ぬべきか」というセリフが口をついて出てくるのだ。
まさに生死をさまようハムレットが、この映画的手法によって表現されているのだと思う。
その他にも、黒と白との息詰まるコントラストや、ナレーションによる独白などで、復讐に焦点を絞った、明晰で、理性的なハムレット像を創ったオリヴィエは、ここでは、舞台ではなく、まさしく”映画のハムレット”を生み出しているのだと思う。