サラの鍵の紹介:2010年フランス映画。ナチスから弟を守ろうと納戸に隠したサラ。サラの足跡をたどるジュリアによって、三つの家族のかかわりが見え始める。ナチス占領下、パリでのユダヤ人迫害やヴェルディヴ事件を題材として現在と過去を交錯させながらユダヤ人家族に起きた悲劇を描く。
監督:ジル・パケ=ブランネール 出演:クリスティン・スコット・トーマス(ジュリア・ジャーモンド)、メリュジーヌ・マヤンス(サラ・スタルジンスキ)、ニエル・アレストリュプ(ジュール・デ・ユフォール)、エイダン・クイン(ウィリアム・レインズファード)、フレデリック・ピエロ(ベルトラン・テザック)、ほか
映画「サラの鍵」ネタバレあらすじ結末と感想
映画「サラの鍵」のあらすじをネタバレ解説。予告動画、キャスト紹介、感想、レビューを掲載。ストーリーのラストまで簡単に解説します。
サラの鍵の予告編 動画
映画「サラの鍵」解説
この解説記事には映画「サラの鍵」のネタバレが含まれます。あらすじを結末まで解説していますので映画鑑賞前の方は閲覧をご遠慮ください。
サラの鍵のネタバレあらすじ:起・ヴェルディヴ事件
1942年7月、ナチス占領下のパリでユダヤ人の一斉検挙がおこなわた。サラは咄嗟に弟のミシェルを納戸に隠し、鍵を掛けて家族三人で連行された。しかし、サラは弟のミシェルを閉じ込めてしまった事をすぐに後悔した。
時が過ぎ2009年パリ、ジュリアはパートナーの両親が二次大戦中に、空きができてから買って以来長年住んでいたアパートを譲り受けた。義母はこのアパートにことさら思い出があるようだった。
ジャーナリストのジュリアは、同僚の若者たちがヴェルディヴ事件を知らない事に呆れ、逐一記録するナチスと違い、フランス人の警察によって行われた資料が乏しいこの事件の取材を始めた。
ヴェルディヴ事件は、検挙されたユダヤ人たちが劣悪な環境の屋内競輪場に集められ、そこから強制収容所へ送られ、その中には女性や子供が多数含まれていたと言うものだった。
サラの鍵のネタバレあらすじ:承・消えた家族
パートナーのベルトランの子を妊娠したジュリアは、報告をしたけれど、不妊治療と流産の末にやっとできた子供を彼は喜ばないどころか、暗に中絶を乞われた。
仕事では取材が進み、譲り受けたアパート界隈がかつてユダヤ人街で一斉検挙の対象だったことから、自分たちの部屋に住んでいたサラの家族に行き当たった。そして調べてみると、そこに住んでいたスタルジンスキ夫妻の死亡記録はのあったが、サラとミシェルの記録はなかった。
当時サラの一家はボーヌの臨時収容所へ移され、男女、子供と分けられた。サラは一人になっても閉じ込めてきてしまった弟を早く出さなければと鍵を離さず、話しかけてきた女の子と脱走を企て、見張りの警官に逃がしてもらい、近くの村までたどり着いた。
しかし逃亡したユダヤ人を匿う事で警察に捕まることを恐れた村人は少女二人を助けてはくれなかった。そのうち一人が倒れ、見かねたデュフォール夫妻が医者を呼んだが、ジフテリアで手遅れだった。夫人はサラに男の子の服を着せ、警官が脱走者を見分しに来た時も彼女を隠し、事情聴取だけで済んだ。そして、サラは夫妻と共にミシェルを隠したパリのアパートに戻って来た。
サラの鍵のネタバレあらすじ:転・交差する家族
ジュリアがアパートについて調べていると知った義父は、その時義母はいなかったからと彼女を外に呼び、当時の事を話した。アパートにやって来たサラだったが、ミシェルは納戸の中で死んでおり、遺体はデュフォール夫妻が持ち帰った。
以来、サラがどうなったかはわからないとだけ話したが、ベルトランと喧嘩をし一人になったサラが古い手紙を調べると、義父宛てにデュフォール夫妻からサラの様子が手紙で送られてきていた。戦後、成長し美しく野心的になった彼女は遠い国へ行きたいと思っているようだと手紙には書いてあった。
中絶を決めたジュリアが手術を待っていると、デュフォール夫妻の孫から連絡があり、急きょ手術を断り、彼女の元へ行った。しかし50年前に出て行ったサラはブルックリンで結婚したらしいカードを送ったきりで、以来消息が分からなかった。
それでもその名前だけを頼りにニューヨークに飛んだジュリアは、そこでサラが事故で亡くなり、息子のウィリアムが今はイタリアにいると言う事で、フィレンツェへ向かった。しかし、ウィリアムは自分の母がユダヤ人であることをまったく知らず、ジュリアを拒絶した。
真実を求めるあまり、関わる家族の関係をかき乱したことをジュリアは後悔した。
しかし今度はウィリアムが実家へ戻り、病床の父から、母は晩年鬱で薬と酒に浸り、事故ではなく自殺だったと、サラの残した日記を彼に渡した。
サラの鍵の結末:それぞれの結末
二年後、ジュリアは出産し、アメリカで暮らしていた。
ある日、子供を連れウィリアムと昼食をとりに行くと、ウィリアムは母の足跡をたどり、フランスのデュフォール夫妻の元も訪ねていた。ウィリアムの父親はそのおかげか安らかに永眠したと言う。
たぶんパリに帰ると言うジュリアが、生まれてきた娘にサラと名付けたことを知ると、ウィリアムは涙を流した。
以上、映画「サラの鍵」のあらすじと結末でした。
サラの鍵のレビュー・考察:サラの記憶
戦後70年以上が経ち、証言者は減り、記録は残っているもののそこに個人の顔はなく数値だけ。またサラの娘の世代に当たるジュリアと、サラの孫の世代に当たる若い同僚との認識のズレも垣間見える。それでも真実を追い求めたジュリアによって、サラの消息を知りたかったデュフォール夫妻と母の過去を辿り始めたウィリアムをつなげることができた。彼らは単に悲劇を語りたかったのではなく、サラの事を知ろうとし、記憶に刻んだのではないかと最後に流されたウィリアムの涙に思った。
あの時代のフランスは複雑で、単純にナチスの味方をしたと言い切ることはできない。フランスの対独降伏直後、昨日までの味方イギリスは北アフリカのフランス艦隊を攻撃して多数の犠牲を強いた。当然、強い反英感情が巻き起こった。かといって、昨日までの敵ドイツにも肩入れしたくはないけれど占領された身(ヴィシー政権の支配地は自由地域だった)でもある。なら、フランスの利益を守りながら適当に身をかわしておこうというのが主流派だった。
ユダヤ人嫌いが特殊なことではなかったのは、この映画の市民の反応からも看てとれる。そこで、非フランス国籍のユダヤ人(フランス国籍ユダヤ人=フランス人は犠牲にできない)を取締りの対象にしたということになる。
勿論、ユダヤ人街だった場所の空きアパートが訳ありなのは、当時のフランス人なら誰でも知っていたろう。だが、多分、安かった上に、近隣にユダヤ人住民はいない、ある意味優良物件なのだ。同時に後ろめたさも伴ったろう。
また、この事件を若いフランス人記者が知らないのは、自国の近現代に関するただの無知だ。
主人公が真っ当なジャーナリストなら、その辺の事情はわかった上で、取材しなければならないだろうに、ただ真実を知りたいからというだけで、夫の親族や他人の家庭に踏み込んで行くように見える。おまけに口も軽い。夫の父の話から取材した内容は秘密にしなければならないのに、感情的になって喋ってしまう。事情を全く知らないサラの息子がどんな考えの持ち主か分からないのに、サラの16歳の写真も持っていながら無神経に子供時代のダビデの星付きの写真を見せる。ホントにジャーナリストかと不愉快だった。