婚期の紹介:1961年日本映画。兄嫁いびりを楽しむ姉妹だが、これは度が過ぎていませんか。水木洋子のオリジナル・シナリオを吉村公三郎が監督したコメディ。若尾文子と野添ひとみのマシンガン・トークが楽しい。
監督:吉村公三郎 出演者:若尾文子(波子)、野添ひとみ(鳩子)、京マチ子(静)、船越英二(唐沢卓夫)、高峰三枝子(冴子)、北林谷栄(ばあや)その他
映画「婚期」ネタバレあらすじ結末と感想
映画「婚期」のあらすじをネタバレ解説。予告動画、キャスト紹介、感想、レビューを掲載。ストーリーのラストまで簡単に解説します。
婚期の予告編 動画
映画「婚期」解説
この解説記事には映画「婚期」のネタバレが含まれます。あらすじを結末まで解説していますので映画鑑賞前の方は閲覧をご遠慮ください。
婚期のネタバレあらすじ:起・謎の手紙
家で子供たちに書道を教えている波子は29歳で婚期を逃しかけて焦っている。妹の鳩子は劇団員だが、彼女もそろそろ結婚した方がいい年ごろである。姉妹は長女の冴子のアパートに遊びに来ている。亡くなった母譲りの料理の腕前の姉に昼ご飯をごちそうになるのが目的である。波子と鳩子は兄卓夫の妻の静が大嫌いだ。財産目当てで結婚した女だと考え、兄嫁いびりを続け、家の中はぎすぎすしていた。一方、静は夫と姉妹に加えてその弟の典二郎の面倒まで、先代から家につかえるばあやと二人でみなければならない。早く波子たちが嫁に行ってくれると助かると思っている。加えてその日は夫に愛人と子供がいるという手紙を受取り悩みが増える。手紙は実は波子と鳩子が書いたものだったのだが。
夜、波子、鳩子、典二郎と彼のガールフレンドの蓮子がマージャンをしている間、静は布団の中の卓夫に手紙の話を切り出す。静が処女でなかった(と卓夫は思った)という理由で夫婦仲は冷え込んでいた。夫婦げんかになる。静が翌日相談に行ったのはやはり冴子だった。冴子は結婚に失敗した後ファッションデザイナーとして成功していた。
婚期のネタバレあらすじ:承・二人の愛人
ファッションショーのリハーサルを見ていた冴子はモデルの一人が卓夫と合図を交わすのを見る。冴子は彼女に卓夫は女たらしだからよしなさいと言う。実際卓夫には息子――実は卓夫の子ではない――のいる愛人がいた。久しぶりに卓夫が行った愛人のアパートには住所を調べてやってきたモデルが来ていた。愛人二人の争いはアパートの他の住人が物音で廊下に出てくるほどの騒ぎになった。一方、鳩子は手紙に加えて、静へのいたずら電話を友人にかけさせる。心配したばあやが交番の警官に相談する。警官が静に話を聞きに来る事態に。
婚期のネタバレあらすじ:転・歯科医とのお見合い
冴子のショーを卓夫夫婦、波子、鳩子が見に行く。その際卓夫は冴子から波子たちがいたずらで手紙を書いたことを知る。夜、兄に説教された波子と鳩子は家を出ると決意する。荷物をまとめて玄関から出ようというところで波子を静が引き留める。料理学校の先生が縁談をもって来たのだ。そのために波子が脱落。鳩子があてにしていた冴子もアパートに不在だったために、家出はなくなった。
静は縁談の相手、大藪を観察するために彼の開業する歯科医院で診療を受ける。30代の評判のいい歯科医。こんないい縁談はないということで、波子も大乗り気で見合いになるが、仕事中は帽子に隠れているものの、大藪の頭はすっかりはげ上がっていた。
波子の怒りは爆発。帰宅してから、はげはしようがないと卓夫が言っても納得しない。波子、鳩子と静は本音をぶつけ合って言い争うことになる。その夜、卓夫がガス中毒になる。命に別状はなかったが、静による殺人未遂であるかのように波子と鳩子に言われて、静はとうとう家を出してしまう。
婚期の結末:仲直り
ばあやの孫娘の雛子が工場の同僚と結婚することになる。ばあやを引き取っていっしょに暮らすということで婚約者と唐沢家に挨拶に来る。これからアパートを探すといって帰っていく二人を見て鳩子たちも気持ちが和む。
静は会社員時代の同僚の玉枝の海の側の家で三日三晩眠り通した。そこへ目論見通り卓夫がやってくる。卓夫は襖の向こうで玉枝と、でも静に聞こえるように話をする。波子と鶴子がアパートを借りることになった。今の家も売るという。静は卓夫の元に戻る気になり、二人で散歩に出かける。
【傑作コメディ/人間ドラマ】
唐沢家では昼夜を問わず「兄嫁夫婦と小姑二人」が、絶え間なく火花を散らしている …「丁々発止のバトル」
兄嫁と小姑の「言説の」どこまでが本音で、どこからが嘘なのかも皆目わからない …「キツネとタヌキの化かし合い」
かくの如く唐沢家の女共はなりふり構わず、見境なしに …「毒を撒き散らす」
この作品の「ミソ」はこのような「人生の修羅場」を、どこまでも 「コメディタッチ」で撮ってゆくという点にある ……
しかし…喜劇とは言いながら、情け容赦なく浴びせられる「罵詈雑言」の数々には 終始 圧倒される…
つまりこの作品は「硬軟自在」の一種の「ラプソディー/狂詩曲」なのだろう ……
水木洋子の脚本は完璧で…周到に計算された「濃厚緻密な」会話がぎっしりとつまっている。
吉村公三郎は、手堅い手法と巧みな演出で「女の本音」を引き出し、人間の残酷な一面(或いは女の正体を)も…見事に炙り出している。
女共は其々の我欲を剝き出しにし、女の恥部まで曝け出して「骨肉の争い」を繰り広げる…「修羅場」
高峰三枝子 京マチ子 若尾文子 野添ひとみ … 豪華で多彩な女優陣を見るだけでも価値がある。
とりわけ印象に残ったのは、京マチ子が演じる「兄嫁 静」の、何とも面妖な「タヌキっぷり」なのである。
このマチ子が演じる「嫁の静」は、一見すると繊細にみえるが、実はしたたかで「ふてぶてしい」役者(タヌキ)なのである。
つまり「がさつで姦しい」小姑二人を向こうに回し、外様の「静」が孤軍奮闘する様子が何とも滑稽なのである。
「難物でオールドミス」の次女の波子(若尾)と、「野心家でじゃじゃ馬」の三女の鳩子(野添)… のコンビは、種々の禁じ手を使って平穏な家庭を引っ掻き回す…
この「アバズレ姉妹」には、他人を思いやる心もなければ、気配りや気遣いなどは微塵もない……
このようにして…アバズレの欲望を丸出しにして「グロテスクな鳥獣戯画」が延々と展開する……
「恋愛と結婚は別よ!」と割り切り、女の身体さえも「武器化」しようとする…唐沢姉妹の生臭い生きざまは、「品性下劣であさましい」限りである。
資産家の唐沢家の子女が甘やかされて、「ワガママいっぱい」に育ったことが手に取るようにわかる。
唯一の例外…?が長女冴子:高峰三枝子なのである。 …冴子は離婚して自立した「奔放な女」として描かれている。
冴子は唐沢家の「しがらみ」に囚われずに、気楽に「高みの見物」を決め込んでいるのだ。
北林谷栄は、タフで老練な「婆や…家政婦にして便利屋」の 役をユーモラスに演じている… 。「婆や」は唐沢家に揉まれて「悟り」を開いたのである。
つまり「諦観の域」に達した「婆や」を、もっぱら「唐沢家の貴重な緩衝材」として描いているのだ。
そして「女性関係」にだらしない一家の当主の卓夫:船越英二は、家庭内では「ことなかれ主義」を貫く「優柔不断」の凡夫である。
卓夫は臆病なくせに次々と女に手を出すのだから始末に悪い。 だから、どこまでいっても卓夫の本心・本音がみえない… 。
いったい「誰を愛していて…誰を愛していないのかが」まったく分からいのである。
この映画の功労者は、この脚本を書いた水木洋子であろう… 。
登場人物ひとり一人の人物像(性格・特徴)が、真にリアルであり、説得力が抜群なのである。
水木の丁寧で緻密な人物描写には、正直言って驚かされた… 。 何しろ、端役の一人一人にまで神経が行き届いてるのだから。
ユニークなコメディにして、シニカルな人間ドラマの「婚期」は、日本映画界の「至宝」と言っても過言ではないだろう… 。