眺めのいい部屋の紹介:1986年イギリス映画。『モーリス』原作のE・M・フォスターの小説を映画化した作品。イギリスで名家の令嬢がフィレンツェへの旅をし、そこで出会ったある男性との恋に落ちる。それを通して内面的にも成長を遂げていく姿を描く。
監督:ジェームズ・アイヴォリー 出演:ヘレナ・ボナム=カーター(ルーシー・ハニーチャーチ)、デンホルム・エリオット(エマソン氏)、マギー・スミス(シャーロット・バートレット)、ジュリアン・サンズ(ジョージ・エマソン)、ジュディ・デンチ(エリナー・ラヴィッシュ)ほか
映画「眺めのいい部屋」ネタバレあらすじ結末と感想
映画「眺めのいい部屋」のあらすじをネタバレ解説。予告動画、キャスト紹介、感想、レビューを掲載。ストーリーのラストまで簡単に解説します。
眺めのいい部屋の予告編
映画「眺めのいい部屋」解説
この解説記事には映画「眺めのいい部屋」のネタバレが含まれます。あらすじを結末まで解説していますので映画鑑賞前の方は閲覧をご遠慮ください。
1980年代イギリス映画
1980年代・・・サブカルチャーの主役はイギリスだったのではないでしょうか。特に音楽と映画。デビッド・ボウイ、カジャグーグー、デビッド・シルビアン、デュランデュラン、カルチャークラブ、スパンダ―バレー、ワム!・・・イギリス人の歌手(バンド)=美形もしくはキュート。今の洋楽ブームとは比較にならないくらい、洋楽・・・イギリスポップスに夢中になる日本女子が大勢いました。
映画の世界にも美しいイギリス人若手俳優たちがいました。代表は今でも大活躍のヒュー・グランド。当時の「スクリーン」「ロードショー」の雑誌にはアメリカ人のトム・クルーズ、マット・ディロン、エミリオ・エスベテス、チャーリー・シーン。もしくはイギリス人のヒュー・グランド、ルパート・エヴェレット、ジェームズ・ウィルビーのグラビアページばかりでした。今ほど音楽でも映画でもアメリカ勢に押されている感はなかったです。
1980年代の日本というとテレビでは派手なネタばかり紹介しますが、確かにディスコブームでした。しかしその裏で、密かに地味だけど美しいイギリス映画が大ヒットし続け小さな映画館は連日大混雑でした。「モーリス」「アナザーカントリー」そして「眺めのいい部屋」は大人気を呼んだ有名なイギリス映画です。これらの映画では「美しい」「麗しい」「繊細」という表現が似合う男優たちが登場し、まさに萩尾望都や武宮恵子のイギリス(ヨーロッパ)舞台の漫画の世界観とぴったり!今回は中でもとりわけロマンチックな映画「眺めのいい部屋」をご紹介したいと思います。
フィレンツェの「眺めのある部屋」「眺めのない部屋」
1986年イギリス公開(日本では翌年の1987年公開)された「眺めのいい部屋」の原作はE.M.フォスター。イギリス文学好きなら誰もが知る作家です。
1900年初頭。うら若き娘のルーシーは、オールドミスの従姉シャーロット同伴(監督)の下、イタリアのフィレンツェに旅行。ルネッサンス時代の芸術作品の数々と美しい自然を堪能できて、彼女たちは大満足。(イタリアの食事を食べてどう感じたのか、という描写はまったくありません。確か原作でもなかったはず。間違いなく美味しかったはずなのですが、イギリス人なのであまり感心がないのか、それとも宗教や時代の関係で食事についてあれこれ批評するのは好ましくなかったのか・・・)
ひとつだけ不満がありました。彼女たちの宿の部屋にはVIEW眺めがなかったのです。We have no view 従姉のシャーロットのほうが大不満。宿の食事の場でブツブツ文句を言っていると、テーブル越しからある初老の紳士がWe have a viewと話しかけてきました。そして「部屋を交換してさしあげましょう」といかにも英国紳士らしい提案を申し出てきます。しかしその紳士の英語を聞くやいなやシャーロットの表情は険しいものになります。理由は簡単。年寄りで同じ宿に宿泊する同国人とはいえども、見知らぬ男性が無礼にもいきなり話かけてきた。また紳士の英語が彼女たちより下の階級のものであるからです。
現代でもイギリス人はやたらと「クラス(階級)」という言葉を使います。「俺たちワーキングクラス(労働階級)の人間にはさあ」「あいつはミドルクラス(中流階級)だから気取っているんだ」。(ちなみにイギリス人が言う「中流」というのは決してなかなかの立派な家柄財力等を指します)「クラス」についての縛りやこだわりは現代のイギリスでも横行しており、ましてやこの映画で描いている時代は1900年初頭。どれだけ階級意識が強く、それが社会的に大きな意味合いを持っていたのか想像するのは難しくありません。
さてその場ではとっさに断ったシャーロットですが、その後の度重なる申し出についに「眺めのある部屋」の誘惑に打ち勝てず部屋交換を受け入れてしまいます。やっとアルノ河を見下ろせ、フィレンツェの街を一望できる部屋に滞在できてシャーロットは大満足。ちなみにまだ若いルーシーの方は部屋の景色には何もこだわっていません。(日本人のベテラン海外添乗員が「部屋の景色にうるさくこだわるのは年寄と新婚さんだけ」と言っていたのを思い出します)。この件で身分が下だと思われる老紳士と知り合いになったわけですが、老紳士には連れがいました。息子のジョージです。
舞台は異国の旅先。芸術とロマンの都フィレンツェ。ルーシーは好奇心旺盛の若い娘。ジョージもハンサムな若い青年。それぞれ年寄の身内と二人きりの旅で、ちょっとうんざりしています。その上、イタリア人の御者は人目もはばからず恋人の女性といちゃいちゃ。ルーシーとジョージもなんだかむらむら(!)してしまって互いを気にならずにはいられません。遂にその時がやって来ました。二人きりになった時、ジョージは突然ルーシーにキスをしたのです。生まれて初めての情熱的で甘美なキスに、まだ少女から脱皮していないルーシーは戸惑います。姪のただならぬ状況を知った従姉シャーロットは青ざめてしまい、慌ててルーシーを連れてフィレンツェを後にします。
舞台はイギリスの田園風景
打って変わって今度はイギリスの田園風景。セシルという、見るからに神経質でつまらなさそうな青年が登場します。まるで野菜のきゅうり、ごぼうのような風貌の青年で実際にフェロモンもなければ面白みもまったくありません。しかしセシルはいい「階級」出身らしく、上品で教養があり夫にするには非常に申し分のない相手。
セシルのような、自分とつり合いがとれる異性と結婚するものだ、と頭から思っていたルーシーは彼から求婚されると当然のようにそれを受け入れます。しかしセシルとキスを交わした時、何か非常に物足りない、つまらないものを感じます。
どちらの青年を選ぶ?ルーシーの決断
フィレンツェの宿で出会った共通の知人を通して、例の「父子」が近所の住まいに暮らすことになりました。まさかジョージと再会することになろうとは思っていなかったルーシーはすっかりパニックになります。
ところがジョージの情熱と深い愛情により、ルーシーのかたくな心も溶けていき、ついに自分は親も認めたちゃんとした相手と結婚しなければならない、という風習の縛りから気持ちが解放されていきます。セシルを振りジョージの元へ飛び込みます。二人の関係を良く思っていなかった従姉のシャーロットも最終的にはそれに理解を示します。
自分の感情に従って真の愛する人を手に入れたルーシーは世の中薔薇色になり、彼女の眺めは最高の物になったのです!
豪華俳優陣
ヒロインのルーシー役を務めたのは、若きヘレナ・ボナム・カーター。イギリス首相のひ孫で、上流階級の英語を話すということでこの役に抜擢された、という記事が何かの映画雑誌に出ていたような記憶があります。美人ではないのだけど、可憐な御嬢さんという雰囲気がぴったりでした!(そもそもイギリスの女優は美人が少ない気がします)ちなみに後年になり、このサラブレットの御嬢さん女優のヘレナ・ボナム・カーターが「猿の惑星」のリメイク版でサル役を演じようとは・・・。「ルーシー」がサルに!仰天しました(苦笑)。オールドミスの従姉のシャーロット役はマギー・スミス。「ハリーポッター」シリーズでは校長先生役を演じた大御所女優。セシル役はダニエル・デイ・ルイス。「眺め」では見事に唐変木の青年になりきっており、本当にこういうパッとしない男優ななんだろうと思ったほどです。それが「存在の耐えられない軽さ」ではプレイボーイ医師の役になりきっており、「天才」とはこういう俳優のことを指すのだろうと思ったもの。
「眺めのいい部屋」の思い出
「眺めのいい部屋」ではプッチーニのオペラをBGMに、100年前の衣装に身を包み上品なパラソルを差すルーシーが芸術の都フィレンツェを歩き、緑と花々に囲まれた田園にある美しい屋敷で紅茶を飲んでいます。まさに一昔前の少女漫画やローラ・アシュレイ好きの女性にはたまらないメルヘンの情緒詩をうっとりと堪能することができます。
私が最初にこの映画を見たのは、13,4歳くらいの時でした。恋愛とヨーロッパに憧れていた年頃。「眺め」はまさにストライクゾーンで、女子校の友人たちと夢中になって映画館に2回も足を運びました。映画のパンフレットもサントラ盤も購入。「眺め」のおかげでフィレンツェとイギリスの田舎に夢を抱き、大きくなってからわくわくドキドキして渡航しました。
ところが実際のフィレンツェには「泥棒」(スリ)だらけで、イギリスの田舎にはジャージ姿でスキンヘッド、タトゥーを腕に入れた無職の男ばかり!「眺め」の世界とはあまりにも違っており、大いに幻滅をしました。(苦笑)
映画のみどころと見方
「眺めのいい部屋」では正統派であろう美しい英語を聞くことができるので、まず英語の勉強教材としておすすめです。また全編に流れるプッチーニ―の音楽と映像がひたすら綺麗なので、ヒーリングビデオの役目にもなります。そして清楚な恋愛ものを好きな女の子や女性にはうってつけの映画です。ベッドシーンもなく、せいぜい激しいキスシーンくらい(激しいといっても他の映画に比べれば可愛いもの・・・)で家族と一緒でも安心して鑑賞できます。
アドバイスとして最後に言いたいのは「まず10代のうちに見ましょう」。10代が見れば「ああなんてロマンチックな恋!」とため息が出てなんともいえない温かい気持ちになってうっとりできるからです。
「今度は30過ぎてからまた見ましょう」。愛と夢のファンタジーのようなこの映画に対する感想がまったく別のものになるはずです。「育ちも身分もあまりにも違うルーシーとジョージ。最初はいいけれど、キスし続けることに飽きたら二人の関係もうまくいかなくなるんじゃないかしら。子どもが生まれても子育て方針も違うはず。絶対にルーシーは『セシルだったら価値観が合ったはずなのに』と自分の男選びの選択を後悔し、従姉のシャーロットに『ジョージと一緒になることをどうしてもっと強く反対してくれなかったのよっ!』と逆ギレするかも」
そう、かつて眩しく輝いて見えた主役の二人が、愚かで可哀そうに見えてきてしまうのです!そしてそう感じる自分自身にも驚き「年を取るというのは、若い時に感動した映画に対してまったく異なる見解を抱くことでもあるのか!」となんだか妙な「発見」をしてしまいます。
何はともあれ、スラングだらけの英語(米語)で小汚いファッションに身を包み暴力的シーンとセックスシーンの多い映画にうんざりしているあなたには、品行方正で清らかで美しい恋愛模様を展開してくれる「眺めのいい部屋」をぜひおすすめします。
蛇足ですがぜひ原作も読むことをおすすめします。映画ではひたすら脇役に徹していた大人たちのキャラクターを非常に生き生きと描いており、主役の二人の恋愛以外の人間関係など楽しむことができるからです。
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