鞍馬天狗の紹介:1928年日本映画。昭和2年(1927年)公開の『鞍馬天狗・角兵衛獅子』でマキノプロダクションから映画デビューした嵐長三郎。翌年には芸名を嵐寛寿郎に変え、自身のプロダクション第一回作品として本作『鞍馬天狗』を発表しました。アラカンの愛称で親しまれた嵐寛寿郎は、生前46本の「鞍馬天狗もの」に主演しています。「アラカンといえば鞍馬天狗」と言われるほど世に知れ渡った代表作でしたが、原作者の大佛次郎とアラカンとの関係は決して良好なものではありませんでした。大衆時代劇のヒーローらしく、覆面の侍が敵をバッタバッタと斬り殺す描写は、アラカン自らが編み出した演出です。しかし、原作にはないヒーロー像が原作者の目には「おもしろくなく」、映画関係者を巻き込んだ確執につながったようです。とはいえ、本作はその波に巻き込まれるまだ以前、覆面のない鞍馬天狗が見られる貴重な作品となっています。
監督: 山口哲平 出演者:出演者:嵐寛寿郎(鞍馬天狗)、中村竹三郎(桂小五郎)、嵐橘右ヱ門(黒姫の吉兵衛)、尾上松緑(隼の長七)、生駒栄子(お露)、嵐佳一(杉作)秋吉薫(佐々木唯三郎)、山本礼三郎(近藤勇)、五味国枝(暗闇のお兼)、市川小文治(西郷吉之助)ほか
映画「鞍馬天狗(1928年)」ネタバレあらすじ結末と感想
映画「鞍馬天狗(1928年)」のあらすじをネタバレ解説。予告動画、キャスト紹介、感想、レビューを掲載。ストーリーのラストまで簡単に解説します。
映画「鞍馬天狗(1928年)」解説
この解説記事には映画「鞍馬天狗(1928年)」のネタバレが含まれます。あらすじを結末まで解説していますので映画鑑賞前の方は閲覧をご遠慮ください。
鞍馬天狗のネタバレあらすじ:起
文久二年、幕末。勤王を掲げる志士たちが時代の火勢を得て京都へ集まっていました。京都は天皇のお膝元。ここで一旗上げようと、海千山千の男たちが、倒幕あるいは佐幕にわかれて咆哮と雄叫びを上げています。鞍馬天狗(嵐寛寿郎)は、倒幕に加担する浪人のひとりです。
京都からやや距離を置く浪花の天満宮境内では、大道の香具師たちが参拝客相手の露店を開いています。なかでも、子ども芸人たちの演じる『角兵衛獅子』は、参道を行く人たちから、やんやの喝采を受けています。その中のひとり、杉作(嵐佳一)は、かつて危険を顧みずに命を救ってくれた鞍馬天狗を命の恩人と慕う少年です。
大道芸を熱演する杉作の目の隅を、参拝客に混ざって、暗闇のお兼(五味国枝)が通り過ぎて行きました。お兼は佐幕派「新撰組」の近藤勇と通じる女スパイです。そのお兼が、人目を避けて境内の奥へ向かって行きました。「何かある」。不穏な空気を感じた杉作は、お兼のあとをつけて行きました。
鞍馬天狗はいま、大坂城の牢の中にいます。新撰組の浪士と偽って忍び込んだ大坂城内で捕まり、消息を絶っていましたが、隠密の侍がお兼にこの事実を知らせに来ました。お兼は驚きます。聞き耳を立てていた杉作はさらに驚きます。なおも侍は、京都の近藤勇へとお兼に密書を託しました。
この様子を見ていたのは杉作だけではありません。佐幕派のお先棒担ぎ、隼(はやぶさ)の長七(尾上松緑)もお兼のあとを追って境内の裏にいました。長七は、早駕籠で京都へ向かうお兼のあとをつけて行くことになりました。
鞍馬天狗のネタバレあらすじ:承
と同時に・・。「あの角兵衛獅子の小僧、鞍馬天狗の子分です」と隼の長七の告げ口によって呼子笛が鳴り、杉作は多くの捕吏に追われる身となります。捕物は界隈を歩く人たちを巻き込み、上から下への大騒ぎです。杉作が逃げ込んだ居酒屋で盃を重ねていたのが黒姫の吉兵衛。怪盗にして鞍馬天狗の一の子分です。懇意の杉作の危機を目にして手助けしないわけにはいきません。
杉作を助け出した吉兵衛は、気がかりだった鞍馬天狗のゆくえを知ることになりました。「そりゃあ、エライことだ」。京都へ向かったお兼を追い越そうと、さっそく早駕籠を飛ばします。吉兵衛のあとに残された杉作もじっとしてはいられません。鞍馬天狗を恋慕うお露と一緒に大坂城内へ忍びこむことになりました。
「鞍馬天狗は明朝までの命らしい」。城内へ忍びこんだ杉作とお露の耳に、幽閉された剣豪を噂する侍たちの声が聞こえてきました。お露の心配をよそに杉作は危険を犯す覚悟です。「水牢」だと知って、単身堀端へ向かいます。すると堀の中に水門が見つかり、城内へ通じる水路だとわかります。潜ってそこを通ると、やはり牢がありました。牢番をこん棒で眠らせて牢の奥へ声をかけると、暗がりから鞍馬天狗が現れ、杉作はみごと再会することができました。
鞍馬天狗のネタバレあらすじ:転
一方、京都の薩摩屋敷では、早駕籠を飛ばした吉兵衛の機転によって、新撰組よりも先に鞍馬天狗の危機を知ることができました。鞍馬天狗を明朝、仕留めるよう、新撰組に命令が下っています。薩摩藩(=倒幕派)にとって容易な相手ではありません。苦慮するのは桂小五郎です。ならばと、淀の千両松で新撰組を待ち伏せ、大坂へ入る前にやっつけてしまおうという算段です。
薩摩藩が待ち伏せる淀の千両松は野中の一本道です。そこへ馬にまたがって現れたのが新撰組隊長の近藤勇です。近藤は、襲い掛かってくる勤王の志士たちを物ともせず、バッタバッタといともたやすく斬り捨てていきました。あとを追って来た桂小五郎の目に入ったのは、もはや虫の息に等しい同志たちの死屍累々たる惨状です。「憎き近藤・・」。
大坂で「鞍馬天狗救出」を思案する杉作のもとへ現れたのが西郷吉之助です。倒幕派の西郷は、鞍馬天狗の味方です。西郷は杉作に知恵を授けます。「あの橋の上で待て」と淀の大橋を指さします。「あそこで?なぜ?」と杉作が問いかけた時、夢から覚めました。「何だ、夢か」。しかし杉作は、西郷の言葉を神のお告げだと信じて橋の上でしばしの時を過ごすことに決めました。
そこへ馬を駆って現れたのが近藤勇です。杉作は「どきり」とします。
「どけ小僧」
「どきません」と杉作は物怖じせずに精一杯勇気を奮います。
そして近藤を諭しにかかります。
「あなたをここで止めるのは日本のためです。天子様のためです。お願いです。帰ってください。鞍馬天狗は日本のために働いています。日本の宝です。その人を殺すのは国賊です。どうか帰ってください」
杉作の訴えを黙って聞いていた近藤勇が口を開きます。
「では小僧、あらためて聞くが大坂へはどう行ったらいいのじゃ?」
「大坂?」と怪訝な面持ちの杉作は、すぐに合点します。
「近藤さん、大坂へ行くにはいま来た道を戻るんだ」
「そうか、おまえは賢い子だな」
近藤勇は杉作の熱烈な思いに負けて身を翻して行きました。
鞍馬天狗の結末
その頃、新撰組の到着に焦れた大坂城では、城主自らが鞍馬天狗を成敗しようと地下牢まで下りてきました。しかし、さすがは鞍馬天狗。牢を開けた隙を見逃しませんでした。大勢の侍たちと大太刀周りを演じて強さを見せつけたあとは一目散に逃げ出します。牢から水道へ、堀へ、堀端へ、そして城下へと逃げる鞍馬天狗を侍が追い、鞍馬天狗は侍たちを蹴り、放り投げ、殴り、斬りまくります。
その強さの甲斐あって、みごと黒姫の吉兵衛の家へ逃げこむことができました。世間では脱獄を境に鞍馬天狗の消息が絶えています。吉兵衛の家では杉作とお露が鞍馬天狗の世話をしています。そこへ暗闇のお兼が訪ねてきます。じつはお兼、吉兵衛のひとり娘です。倒幕派の父親、佐幕派の娘。何の因果か、お兼は実家にお尋ね者を尋ねに来ています。
しかし、いまでは袂を分かつ娘を父親は一歩も家へ入れません。仕方なく実家をあとにしたお兼の前に二人連れの侍が現れます。佐幕派の暗殺隊、京都見廻組、佐々木只三郎の一味です。お兼を脅して鞍馬天狗の行方を尋ねます。さらに、いち早くこれを近藤勇へ伝えて手柄を横取りしたい隼の長七がお兼に絡んできます。ここにいたって鞍馬天狗を巡る争奪戦が見廻組、新撰組の間で繰り広げられることになりました。
まずは見廻組、佐々木只三郎が偽りの書状を鞍馬天狗に回状して、夕闇迫る住吉山の寺へおびき寄せます。佐々木は配下の手下すべてを手配して庵を取り囲みますが、、一斉に打って出てきた敵にも鞍馬天狗はビクともしません。かかってくる侍を斬り捨て、追いすがる侍を斬り捨て、行く手を塞ぐ侍を斬り捨てます。その数百数十名。庵の中にたちまち屍の山が築かれます。
最後に立ち塞がったのが佐々木只三郎です。白刃に火花を散らす佐々木との戦いは両者腕を競い合い、終わりがありません。そこへ不信を感じて現れたのが、鞍馬天狗に味方する桂小五郎。そして、お兼の告げ口で現れたのが、近藤勇率いる新撰組。大坂は住吉山の寺に集結した倒幕に佐幕の両派の争いは。鞍馬天狗と佐々木只三郎との勝負は集結するのか。続きは次回作。
以上、映画「鞍馬天狗」のあらすじと結末でした。
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