限りなき舗道の紹介:1934年日本映画。家格に縛られて生きる女性の執着が、対する側の女性の人生を不幸にしてしまう物語です。前近代的なテーマのようでいて、いまだ日本社会の諸方で絶えることなく続いている確執です。女性心理の深層に根づく意識の反映なのかもしれません。映画会社のスカウトからも声がかかる美貌の杉子は銀座で女給をしています。あるきっかけで知り合った御曹司の山内弘とやがて結ばれますが、上流階級を誇る家柄を理由に、義母と義姉とが杉子をぞんざいに扱います。しかし、杉子はけっして「耐え忍ぶ女」ではありませんでした。
監督: 成瀬巳喜男 出演者:忍節子(島杉子)、香取千代子(中根袈裟子)、日守新一(山村真吉)、結城一朗(原田町夫)、笠智衆(映画会社のスカウト)、磯野秋雄(杉子の弟)、山内光(山内弘)、葛城文子(山内の母)、若葉信子(山内の姉)、ほか
映画「限りなき舗道」ネタバレあらすじ結末と感想
映画「限りなき舗道」のあらすじをネタバレ解説。予告動画、キャスト紹介、感想、レビューを掲載。ストーリーのラストまで簡単に解説します。
映画「限りなき舗道」解説
この解説記事には映画「限りなき舗道」のネタバレが含まれます。あらすじを結末まで解説していますので映画鑑賞前の方は閲覧をご遠慮ください。
限りなき舗道のネタバレあらすじ:起
昭和十年代初頭。東京銀座。表通りは日本一を誇る近代的な商店街ですが、裏通りへ一歩入るとまだまだ江戸情緒を残した庶民の町角です。その裏通りの道ばたに腰かけ、通行人相手に似顔絵を描いているのが貧乏画家の山村真吉(日守新一)です。真吉は近くの喫茶店をよく利用します。喫茶店の女給、中根袈裟子(香取千代子)が真吉のお目当てです。
袈裟子とおなじ店で働く女給の島杉子(忍節子)のもとへ恋人の原田町夫(結城一朗)から電話がかかってきます。今日は遅番だという杉子をつかまえて、今晩どうしても逢いたいのだと、営業時間中の杉子を困らせます。町夫の切羽詰まった心中を察した杉子が足を運ぶと、どうやら町夫に縁談の話があるようです。杉子をつなぎとめておきたい町夫は「結婚」の二文字を口にします。
若い杉子と袈裟子は、互いの生活費を補うために共同でアパートの一室を借りています。ふたりの部屋の隣に住んでいるのが画家の真吉です。真吉は何かにつけて袈裟子を自室へ招こうとしますが、袈裟子は貧乏画家に魅力を感じません。しかし、利用するだけは利用しようと、日常生活で生じる面倒は真吉を頼みにして、上手に使いまわす術を心得ています。
限りなき舗道のネタバレあらすじ:承
銀座の店へ向かう途上、杉子と袈裟子の前に映画会社のスカウト(笠智衆)が現れます。「女優になりませんか?」と声をかけられたのは杉子です。給料をはずむというスカウトの話に、しかし杉子はあまり積極的ではありません。むしろ脇で聞いていた袈裟子が杉子をけしかけます。若くして引退していった大スターの後釜にという話に、袈裟子は主演級の配役と見たこともない金額の給料が用意されているはずだと囁きます。
その日、早番の杉子は勤務を終えるとすぐに映画会社へ向かいます。袈裟子に促されて約束の場所へ急ぐ杉子は、左右をよく見ずに表通りへ出てしまいます。その瞬間、走ってきた車にぶつかってしまいます。幸いに車を運転していた青年が、大きな動揺も見せずにタクシーを拾い、杉子を病院へ搬送してくれました。しかし途中、タクシーの後部座席で杉子を介抱する青年の姿を、町夫が目撃してしまいます。
ことの経緯を知らない町夫にとって、男に身をあずけて目を閉じた杉子の姿はショックの一語に尽きます。町夫は、真偽を確かめることもせず、見たままの杉子に妄想と疑念を深めてしまいました。さらにショックに心を乱したのか、杉子の消息を確かめもせずに故郷へ帰ってしまいます。杉子への見せしめの思いもあったのかもしれません、町夫は以前から持ち上がっていた縁談へ臨む思いを強くします。
限りなき舗道のネタバレあらすじ:転
杉子のケガは大事にいたらず、一晩で元気を取り戻しましたが、杉子はその後、町夫と連絡が取れません。会社へも出勤していないことが分かり、気掛かりです。一方では、事故で遭遇した青年・山内弘(日守新一)から、杉子は交際を申し込まれます。上流社会でも名のある家の御曹司・弘と杉子はのちに結婚しますが、弘の母親(葛城文子)と姉(若葉信子)とが家格の違いを理由に杉子を受け付けません。
袈裟子は、杉子が断念した映画会社へ女優として入社します。真吉も袈裟子の紹介で映画会社の美術部へ転がりこみました。好調な滑り出しかと思えた袈裟子の女優業も、人気商売であるがゆえに浮き沈みを味わいます。仕事の量が少なくなる袈裟子とは反対に、下積みに耐えた経験を持つ真吉の仕事は映画会社で認めれ、ふたりの立場は微妙な位置を持つようになりました。
限りなき舗道の結末
杉子と真吉が偶然、銀座の街角で再開したのは、そんな折でした。お互いの消息を知ってはしゃぐふたりの様子は、傍から見れば仲のいい恋人たちです。その様子を弘の姉に見られてしまいました。ことさらにスキャンダルを煽る姉に感化された義母が息子夫婦の仲を引き裂きます。義母は山内家の家格に泥を塗ったと言って、理由も聞き入れずに杉子を非難します。
母親に追い詰められた弘は、嫉妬心から妄想が生じ、杉子を避けるようになってきます。杉子は仕方なく家を出ます。弘は外に女をつくり憂さを晴らそうとしますが、ドライブに行った先で崖から転落してしまいます。大ケガを負った弘の容態が杉子の耳にも入ります。意を決した杉子は弘の入院先の病床を見舞います。
杉子は、ベッドに身を横たえた弘と見舞いに来ていた義母、義姉に対して宣言します。まずは弘です。「私たち夫婦の関係は、愛だけではどうにもならなかった。あなたは弱かった」と。そして義母です。「お母さまが愛しているのは家名です。私を少しも愛してくれなかった」。義姉は、ひがみだと言って反論しますが、杉子にとってはすでにどうでもいいことでした。杉子が病室を出たあとに弘は息を引き取ります。
銀座の裏通りでは、真吉がまた似顔絵の絵描きを始めています。昼時になると、そこへ弁当を持ってやってくるのが、袈裟子です。ふたりは起き伏しを共にするようになり、新たな一歩を踏み出しています。杉子も、かつて世話になった喫茶店へ戻り、ふたたび女給として生活を出直すことになりました。
以上、映画「限りなき舗道」のあらすじと結末でした。
「限りなき舗道」感想・レビュー
-
「限りなき舗道」は、成瀬巳喜男監督作品の中でも特に好きな映画に入ります。ストーリーはあまり関心がなく、それよりも細かい描写が素晴らしい。最後の場面。バスの後部座席にいた男性が、最初に求婚していた男とは気づきませんでした。ほんのちょっとしか映らなかたから。もう一つ分からなかったのは、(元)夫が病室で「死んだ」と連絡を受けたヒロインは廊下にいましたが、突然走り出しましたよね。どっちに向かって走ったのでしょうか? 病室
に向かってですか? それとも病院の出口に向かってですか? 私は前者だとは思うのですが。
成瀬ワールドの原型ですね‼️「加山雄三さんと司葉子さんの作品」にも「自動車事故」が、出てきます‼️「哀惜感」「やるせなさ」が、本作、将に「限りなき舗道」です❕