最前線物語の紹介:1980年アメリカ映画。肩章にちなみ「ザ・ビッグ・レッド・ワン」というあだ名をもつ、伝統あるアメリカ陸軍第1歩兵師団。その師団に属する古参軍曹とその部下4人の若者たちの北アフリカ上陸からドイツ降伏までの戦い。第1歩兵師団の一兵士として第2次世界大戦を戦ったサミュエル・フラー監督(映画の中でナレーションをするザブがフラーその人を最も彷彿させる)にとって長年実現を切望していた企画だったが、興行上の理由で編集作業は最終的に監督のコントロールを離れ、多くのシーンが削られて上映時間113分の作品になった。
監督:サミュエル・フラー 出演者:リー・マーヴィン(軍曹)、マーク・ハミル(グリフ)、ロバート・キャラディン(ザブ)、ボビー・ディ・シッコ(ヴィンチ)、ケリー・ウォード(ジョンソン)、ジークフリート・ラウフ(シュローダー)そのほか
映画「最前線物語」ネタバレあらすじ結末と感想
映画「最前線物語」のあらすじをネタバレ解説。予告動画、キャスト紹介、感想、レビューを掲載。ストーリーのラストまで簡単に解説します。
最前線物語の予告編 動画
映画「最前線物語」解説
この解説記事には映画「最前線物語」のネタバレが含まれます。あらすじを結末まで解説していますので映画鑑賞前の方は閲覧をご遠慮ください。
最前線物語のネタバレあらすじ:四半世紀を経て
1918年11月、フランス。はりつけのイエス像を彫った巨大な木製の十字架の立つ荒野で、斥候に立ったアメリカ陸軍第1歩兵師団の兵士が、両手を挙げてドイツ語で「戦争は終わった」と話す一人のドイツ兵を殺す。
塹壕に戻った兵士を待っているのは上官が一人だけ。皆は4時間前の終戦を祝って外に出てしまった。兵士は無用の殺人をしてしまったことを知る。
1942年、その兵士(リー・マーヴィン)は今も第1歩兵師団の軍曹である。第16連隊I中隊第1小隊第1分隊を率いて北アフリカに上陸しようとしていた。彼の、新兵ばかりの狙撃兵分隊には、射撃の腕は抜群でいつも漫画を描いているグリフ(マーク・ハミル)、農民出身のジョンソン(ケリー・ウォード)、イタリア系でサクソフォン奏者の都会っ子ヴィンチ(ボビー・ディ・シッコ)、そしてこの物語の語り手で、未公刊の小説の原稿を母親に託し、将来戦争物の小説を書くために兵士になった葉巻好きのザブ(ロバート・キャラディン)たちがいた。
最前線物語のネタバレあらすじ:殺人ではない、ただ殺すだけだ
北アフリカ上陸直後、フランス・ヴィシー政権の軍隊と戦闘を交えるが、フランス軍兵士にはアメリカ人と戦う気はなく、戦闘は早く終わる。初めての実戦にショックを受けて「殺人はできない」と言うグリフに、軍曹は「自分たちは殺人(murder)はしない、ただ殺す(kill)だけだ」と諭さなければならない。
第1分隊はカセリン峠を守備するが、軍首脳部の予想に反してロンメル将軍の戦車隊が峠を通過する。シュローダー(ジークフリート・ラウフ)という、第1分隊で軍曹が言うのと同様に敵を殺すのは殺人ではないと言う古参兵も歩兵として戦車につきしたがっていた。
第1分隊の兵士たちは穴を掘って隠れたが、穴は次々とドイツ軍の戦車につぶされていき、それを見て他の兵士たちは穴から逃げ出す。
軍曹は重傷を負って捕虜になり、チュニスにあるドイツ軍の病院に収容される。シュローダーも同じ場所に入院していた。
チュニスの解放後、軍曹はアラブ人の身なりをして、グリフ、ザブ、ヴィンチ、ジョンソンのたった4人だけなった第一分隊に帰ってくる。
最前線物語のネタバレあらすじ:シチリアからノルマンディーへ
戦いの場はシチリア島に移る。補充兵が名前も覚えないうちに死んでいくのに、グリフ、ザブ、ヴィンチ、ジョンソンは生きて戦い続け、いつしか軍曹の「四騎士」と呼ばれるようになった。
敵の大砲を捜す任務を与えられた第一分隊は、廃墟で母親の遺体を運ぶ少年に出会う。ヴィンチが通訳をし、母親の亡骸を墓地に運び棺をくれるという条件と引き換えに、少年は分隊にドイツ軍砲撃陣地の場所を教える。ドイツ軍は丘の上の民家の中に自走砲を隠し、家の前で女性たちに農作業をさせ、陣地を偽装していた。
分隊はドイツ兵を一挙に射殺して陣地を制圧する。解放されたおばさんたちからご馳走の歓迎を受ける。少年には上質な棺が用意されることになった。軍曹は女の子が花で飾ったヘルメットをかぶって去っていく。
岩と砂ばかりの北アフリカやシチリアと違って緑濃いイングランドで7カ月準備した後、第1分隊は1944年6月、ノルマンディー上陸作戦に参加するが、海からオマハ・ビーチ上がったところで連隊は立ち往生する。第1分隊は鉄条網を突破するためにパイプ爆弾を使うしかなくなる。
一人ずつ順番に兵士が敵の銃弾にさらされながら前に進んで、パイプをつないで延ばしては戦死していく。そしてグリフの番が来て、ついに彼は生きて鉄条網を爆破する。
最前線物語のネタバレあらすじ:戦場の出産
分隊はフランスの町で一息つく。ザブは出版された自著『ダーク・デッドライン』を補充兵カイザーが読んでいるのを見る。でもカイザーは目の前にいる男が自分の読んでいる本の著者であるとは信じない。
第1分隊は偵察隊として巨大な十字架のある、軍曹の第一次大戦の苦い思い出のある荒野に来た。そこには今は第1歩兵師団の記念碑も立っていた。
ドイツ軍のシュローターは部下に、死体に混ざって死んだふりをして米兵を待ち伏せすることを指示する。一見すると敵は全滅しているように思われたが軍曹はだまされず、ドイツ兵は十字架の上で指示を出していたシュローターを除き全滅する。
ところがその時、分隊の前にサイドカーに乗った夫婦がやってくる。夫はすぐ死んでしまうが妻は出産寸前だった。軍曹は負傷兵の手当てに衛生兵並みの手際のよさを見せるジョンソンに赤ん坊を取り上げることを命じ、戦車の中に妊婦を運び込む。
グリフが妊婦の体を押さえ、軍曹がいきむように彼女に言い、細菌対策に指にコンドームをつけたジョンソンが無事に赤ん坊を取り出した。暗くなるころ、シュローターは戦場から脱出する。
最前線物語のネタバレあらすじ:ベルギーからドイツへ
1944年9月、第1分隊はアメリカ軍本隊に先だってベルギー領内に入る。敵が接収している、今は精神科の療養所として使われている修道院を攻め落とさなければならない。患者がいるので爆撃はできなかった。
レジスタンスの女性ワルーンが精神病者としてしのびこんでいて、軍曹が庭に入るのを見ると彼女は次々とドイツ兵ののどを掻き切って、軍曹たちを施設内へ手引きする。銃撃戦になるが患者たちは気にせず食事を続ける。一人だけ銃をとって乱射する患者がいたが、修道院は制圧される。
12月、ドイツ領で母からの手紙を読んだザブは自分の小説が映画会社に原作として売れたことを知る。しかし小説読者のカイザーは仲間に名前を覚えられないまま、霧のたちこめる森の中で戦死する。
最前線物語の結末:強制収容所の解放、そして戦争終結
ドイツ軍の反攻によって一冬を戦場で過ごした後、第1分隊はベルギーで休息する。ザブが手にした金で盛大なパーティをした後、もう戦わなくてすむのではという期待は裏切られ、第1分隊は最後に1945年5月、チェコスロバキアのファルケナウで戦う。
強制収容所で死を待つばかりの人々、焼却炉の人骨を見てショックを受けたグリフは、焼却炉に隠れていたドイツ兵を見つけると、撃ち返せない敵兵をいつまでも撃ち続ける。一方、軍曹は衰弱した少年の世話をするが、少年は軍曹の背中で息を引き取った。
夜、軍曹が少年を埋葬していると、ドイツ軍のシュローダーが両手を挙げて「戦争は終わった」と言いながら投降しようとするが、軍曹はナイフで彼を刺す。そのとき軍曹を捜しに来た四騎士から戦争が終わったことを告げられる。
軍曹はまた同じ失敗をしたかと思われたが、シュローダーがまだ生きていることにグリフが気付き、皆で彼を運んで命を救う。
この物語の語り手として、ザブは彼の物語を生き残った者たちに捧げる。戦争では生き残ることが唯一の栄光だからだ。
以上、映画「最前線物語」のあらすじと結末でした。
この映画「最前線物語」は、サミュエル・フラー監督の最も野心的な作品で、彼自身が第二次世界大戦で経験した第一歩兵部隊での年代記となっている。
カルト映画で有名な異才サミュエル・フラーのこと、とにかく雄大なスケールの風変わりな戦争大作で、素晴らしく詩的なアイディアと強い感情と形而上的な意味が含まれている異色作だ。
1918年、終戦を知らず一人のドイツ兵を殺した男がいた。そして、第二次世界大戦中の1942年、激戦の北アフリカで、その男”軍曹”は、4人の新兵を含む歩兵隊16中隊第一狙撃兵分隊を指揮していた。
「僕には殺人はできない」という新兵に、「殺人じゃない、ただ殺すだけだ」と答える彼。やがてシシリー島からノルマンディー上陸作戦、そしてチェコのユダヤ人強制収容所の解放へと歴戦、”戦場で生きること”をモットーとする軍曹の教えのもと、若者たちは一人前の男に成長していく——。
エネルギーと鋭い観察が詰まった作品で、魔法の瞬間とシュールで記憶に焼き付くイメージに満ちている。精神病院の患者が、マシンガンをぶっ放しながら、戦争への意気込みを宣言したり、ノルマンディー上陸の場面では、死体がはめている腕時計に長くカメラを向けたりと、サミュエル・フラー監督の演出にはドキリとさせられる。
スティーヴン・スピルバーグ監督が「プライベート・ライアン」で、この作品に触発されたことは有名だ。
また、強制収容所のひとつが解放された後、兵士が死んだ子供を抱えている神秘的な場面は、我が日本の溝口健二監督の「雨月物語」で、主人公が幽霊のもとへ帰って来るシーンを想起させますね。
とにかく、この映画を観終えて思うのは、全体を貫く明るさとヒューマンな感情、戦車の中の出産などのギャグというように、従来の戦争映画にはない、不思議な感動を味わえた作品でしたね。