ウンベルトDの紹介:1951年イタリア映画。貧しさに喘ぐ老人の苦悩と苛立ち、そして飼い犬との絆を描くドラマ作品。老人ウンベルトは飼い犬フライクと共に、僅かな年金で糊口を凌いでいた。しかし意地の悪いアパートの管理人から家賃を値上げされ、金策の無いウンベルトは途方に暮れてしまう。友人知人はあてにならず、物乞いはプライドが許さない。いよいよ自殺を決意したウンベルトの心残りはフライクだった。彼はせめてフライクが安心して暮らせるところを探してから死のうとするが、それさえも上手くいかない。
監督:ヴィットリオ・デ・シーカ 出演者:カルロ・バティスティ(ウンベルト・D・フェラーリ)、マリア・ピア・カジリオ(マリア)、リナ・ジェナリ(アントニア・ベッローニ)、イレアナ・シモバ(ウンベルトの部屋の女性)、エレナ・レイ(病院の修道女)ほか
映画「ウンベルトD」ネタバレあらすじ結末と感想
映画「ウンベルトD」のあらすじをネタバレ解説。予告動画、キャスト紹介、感想、レビューを掲載。ストーリーのラストまで簡単に解説します。
ウンベルトDの予告編 動画
映画「ウンベルトD」解説
この解説記事には映画「ウンベルトD」のネタバレが含まれます。あらすじを結末まで解説していますので映画鑑賞前の方は閲覧をご遠慮ください。
ウンベルトDのネタバレあらすじ:起・貧しい老人
舞台は戦後間もないイタリア。街道では老人達が集まり、「年金を上げろ」とデモを行っていました。少ない年金で経済的に困窮している男性ウンベルト・D・フェラーリも、いつも一緒の飼い犬フライクと共に参加しています。しかし到着した警察によってすぐに解散させられてしまいました。
ウンベルトは20年住んでいるアパートの家賃を値上げされ、滞納金が溜まっています。意地の悪い管理人アントニア・ベッローニには、今月中に滞納金を払わなければアパートを追い出すと言われていました。ウンベルトは懐中時計を売って金にしようとしますが、なかなか相手にされず、やっと売れた頃には希望額よりずっと下回っていました。
ウンベルトが帰宅すると、部屋に見知らぬ男女がいて驚きます。アントニアはウンベルトの部屋をホテル代わりに貸し出していました。憤慨したウンベルトはアントニアと口論し、出て行け出て行かないの騒ぎを繰り広げます。
アントニアのメイドであるマリアはウンベルトにも親切で、身内のように打ち解け合っていました。そんな彼女から妊娠を明かされ、驚愕するウンベルト。マリアには軍人の恋人が2人いますが、どちらが子どもの父親なのか分からないそうです。
ウンベルトDのネタバレあらすじ:承・アントニアとの攻防
ウンベルトは有り金を全てマリアに託し、アントニアのところへ持って行かせました。しかしアントニアは、全額でなければ意味が無いと言って突き返して来ます。ウンベルトは生活費を浮かせるため、少しの間慈善病院入院することにしました。フライクはアパートに残し、マリアに世話を頼みます。
ところが数日後、ウンベルトがアパートに戻ると部屋が勝手に改装され始めていました。アントニアが婚約者と暮らすために、ウンベルトの許可も無く工事を断行したのです。姿の見えないフライクを心配し、ウンベルトは大慌てで保健所に駆け込みました。やっとの思いで見つけ出したフライクを強く抱きしめます。
ウンベルトDのネタバレあらすじ:転・失意の中で
ウンベルトは友人知人に金を借りようとしますが、誰も応じてくれませんでした。万策尽きて物乞いに立とうとするもプライドが許しません。フライクに帽子を噛ませて金を集めさせようともしましたが、知人と遭遇して慌ててその場を逃げ出しました。
意気消沈したウンベルトが帰宅すると、部屋はめちゃくちゃに荒らされ、壁には大きな穴が空いています。部屋を訪ねて来たマリアに、ウンベルトは全てに疲れてしまったと零しました。マリアは、どこへ行こうとここよりマシだと励まします。
窓の下を走る路面電車を見つめたウンベルトは、ついに自殺を決意しました。しかし気がかりなのはフライクのことです。ウンベルトはフライクが安心して暮らせる場所を見つけてから死ぬことにしました。
ウンベルトDの結末:ウンベルトの決意
翌早朝。ウンベルトは荷物をまとめ、フライクを連れてアパートを出ます。気付いたマリアに行き先はあるのかと尋ねられ、「見つけたよ」と悲しげに答えるウンベルト。マリアにもアパートを出て行くよう勧め、別れを告げました。
路面電車に乗ったウンベルトはアパートを見上げます。窓辺には見送るマリアの姿がありました。ウンベルトはフライクを引き取ってくれる場所を探して歩き回ります。しかし誰も引き受けてくれません。
公園で子ども達と戯れるフライクを見たウンベルトは、そのまま放っていくことも考えました。しかしフライクはすぐに追いかけて来てしまいます。ウンベルトはフライクを抱き上げ、一緒に死ぬことを決意しました。
フライクを強く抱きしめたウンベルトは、警報音が鳴る踏切に侵入します。迫り来る電車を見つめるウンベルト。ところがフライクが悲鳴を上げて暴れ出し、腕の中から逃げてしまいました。
電車がウンベルトの横を轟音と共に通り過ぎ、自殺には失敗します。ウンベルトはフライクを追いかけましたが、怯えているのかなかなか近付いて来ません。松ぼっくりでフライクの機嫌を取る内に、ウンベルトの顔には笑みが浮かんできます。
ウンベルトはフライクと遊びながら道を歩いて行きました。1人と1匹の姿が遠ざかる中、この映画は終わりを迎えます。
以上、映画「ウンベルトD」のあらすじと結末でした。
イタリア・ネオレアリズモは、1950年代に全盛期を迎え、「自転車泥棒」や「靴みがき」などの秀作を生み出してきた。
質素な暮らしを営む市井の人々が、過酷な現実に翻弄されるという基本構図。
素人俳優を大胆に起用し、暴力やロマンスといった劇的要素を抑え、ドキュメンタリーの技を積極的に採用する。
この映画作法が最も生きたのが、ヴィットリオ・デ・シーカ監督の「ウンベルトD」だと思う。
舞台は1950年代のローマだ。元官吏のウンベルト・D・フェッラーリは、愛犬フライクを心の友に、つましい年金生活を送っている。
ところが、下宿屋を連れ込み宿に変えて儲けようと考えた大家は、家賃の滞納を理由に、ウンベルトを貸間から追い出そうとする。
彼は困り果てる。友人に借金を申し込んで断られ、緊急避難した病院からは追い出され、フライクを使って物乞いの真似までする。
ただし、この映画はお涙頂戴には墜ちない。
ウンベルトに扮したカルロ・バッティスティは、”なけなしの品位”を見事に醸し出しているし、監督のヴィットリオ・デ・シーカも感傷を抑えた細部描写で、”主人公の実情”を観る者に伝達する。
部屋の壁を這いまわる蟻の群れ、親切だが愚かなメイド、金を取って犬を預かる強欲な夫婦。
ウンベルトの情感は、時代と世相を反映した、細部の周囲から鮮明に立ち上がってくる。