蟻の王の紹介:2023年イタリア映画。同性愛者が異端視されていた1960年代のイタリアを舞台に、実在の詩人で劇作家のアルド・ブライバンティが教え子の若者と恋に落ちたことで教唆罪に問われ、有罪判決を受けた「ブライバンティ事件」をモデルにしたドラマです。
監督:ジャンニ・アメリオ 出演者:ルイジ・ロ・カーショ(アルド・ブライバンティ)、エリオ・ジェルマーノ(エンニオ・スクリバーニ)、レオナルド・マルテーゼ(エットレ・タリアフェッリ)、サラ・セラヨッコ(グラツィエラ)、アンナ・カテリーナ・アントナッチ(マッダレーナ・タリアフェッリ)、ダヴィデ・ヴェッキ(リッカルド・タリアフェッリ)ほか
映画「蟻の王」ネタバレあらすじ結末と感想
映画「蟻の王」のあらすじをネタバレ解説。予告動画、キャスト紹介、感想、レビューを掲載。ストーリーのラストまで簡単に解説します。
映画「蟻の王」解説
この解説記事には映画「蟻の王」のネタバレが含まれます。あらすじを結末まで解説していますので映画鑑賞前の方は閲覧をご遠慮ください。
蟻の王のネタバレあらすじ:起
1959年、イタリア。詩人で劇作家、そしてアリの生態研究者でもあるアルド・ブライバンティはイタリア北東部のエミリア=ロマーニャ州のポー川南部の街ピアチェンツァ静かに文化芸術や学問的探求に勤しんでいました。アルドが主催する芸術サークルには多くの若者が参加していました。
ある日、アルドの芸術サークルに、エットレ・タリアフェッリという若者が兄リッカルドに連れられてやってきました。エットレは羽根が取れたメスのアリを見つけ、アルドと会話を交わしました。元々美術の道を希望していたエットレは親の要望で医学を学んでいることをアルドに話すと、アルドは親に従う必要はないと助言しました。
やがてエットレは学校や両親が教えてくれなかったことを教えてくれるアルドに夢中になっていくようになりましたが、かねてからアルドの教育方針に反対していたリッカルドはエットレに二度とアルドのところに行くなと忠告しました。しかし、エットレはリッカルドの言葉に耳を貸そうとはしませんでした。
アルドは実は同性愛者であり、この街の住民は誰もがこのことを知っていました。リッカルドらエットレの家族は、エットレはアルドにもてあそばれているだけだとして快く思っていませんでした。
蟻の王のネタバレあらすじ:承
1962年。エットレは家族と決別してアルドのもとに走り、アルドとエットレはピアチェンツァを離れてローマで暮らし始めました。ある日、アルドとエットレは一緒に美術館を訪れました。アルドはそこで旧友と再会し、そのまま同性愛者が集うパーティーへと誘われました。アルドは乗り気ではありませんでしたが、とりあえずエットレを連れて参加しました。
エットレは生まれて初めて参加した同性愛者のパーティーの雰囲気に圧倒され、アルドが旧友と言葉を交わしている間に先に会場を出ました。旧友はアルドとエットレがまだ肉体関係をもっていないことに驚きつつも、アルドはエットレに惚れていることを見抜いていました。
その後、一足先に外に出たエットレと合流したアルドは、パーティーの参加者たちは自分とは違うけれど自分と同じであり、安心して自分をさらけ出すことができるとエットレに語りました。
1965年。アルドとエットレはペンションを借りて同棲していました。そんなある日、家主の通報によりエットレの居場所が家族にバレてしまいました。エットレの母・マッダレーナとリッカルドはアルドとエットレが一緒に眠っている部屋に突入し、無理やりエットレを連れ去っていきました。
エットレは精神病院に入れられ、電気ショック療法や薬物療法などを受けさせられて同性愛を“治療”させられました。一方のアルドはエットレを強制的に従属させたとして、今まで殆ど適用されたことのない「教唆罪」によって逮捕されてしまいました。
蟻の王のネタバレあらすじ:転
アルドの裁判が始まりましたが、状況は圧倒的にアルドの不利でした。時を同じくして、スリなど些細な窃盗事件の記事を担当していたイタリア共産党機関紙の記者エンニオ・スクリバーニは突然アルドの事件を担当することになりました。そして事件のついての取材を開始し、裁判も傍聴したエンニオは、次第にどう考えてもおかしい裁判なのに誰も指摘しないことに疑問を抱くようになりました。
裁判ではアルドは一貫して黙秘を貫いていました。エンニオはアルドと面会し、なぜ反論しないのか問うと、アルドは「こんな茶番に付き合えない。そう思うのなら自分で記事にすればいい」と回答しました。しかし、あくまでも共産党の機関紙であるという特性上、エンニオは記事にしたくてもこれ以上踏み込むことができずにいました。
第二次世界大戦時代にイタリアを支配していたファシスト政権は「イタリアには同性愛者は存在しない」としており、同性愛を裁く法律は存在しない代わりに同性愛そのものは完全にタブーとされていたのです。イタリアの司法ではアルドとエットレを同性愛と認めることが事実上できず、仕方なく教唆罪を適用することとなったのです。
アルドは意を決して沈黙を破り、自分に不利益な証言をする証人と同じように自分の言葉にも価値はあるはずだと反論しましたが、誰もアルドの言葉に耳を傾ける者はいませんでした。そしてエットレは証言台に立ち、精神病院での証言は脅されて自白を強要されたものであり、アルドは自分の人生で最も大切な人だと証言しました。しかし、エットレの発言は洗脳されたものだとみなされてしまい、アルドは有罪判決を下されてしまいました。
蟻の王の結末
アルドへの判決を不服として、エンニオの従妹グラツィエラらアルドの支援者たちは裁判への抗議デモを始めました。しかし、アルドは支援者の活動には感謝しながらも、抗議活動はかえって自分への足枷になってしまうのではないかと危惧しました。
一方のエンニオもアルドのために徹底的に闘う決意をしていましたが、機関紙の上層部から担当を外され、自らの無力さに打ちのめされました。
結局アルドの有罪は確定し、アルドは刑務所に収監されました。エットレは精神病院から出ましたが家族のもとに帰ることはなく、一人暮らしを始めて美術関連の仕事に就きました。
裁判から数年後。アルドは母親が亡くなり、一時的に釈放されて母親の葬儀に参列しました。その後、アルドはエットレに会いに行き、二人は固く抱き合って互いの近況を語り合いました。その後、アルドは刑期を終えて出所しましたが、二度とエットレと会うことはありませんでした。
以上、映画「蟻の王」のあらすじと結末でした。
この映画の感想を投稿する