母を恋はずやの紹介:1934年日本映画。小学生の時に父親を亡くした貞夫は、青年になると、母が実の母親でないことを知ります。実の子である弟への母の親しみとは違い、貞夫に対する母は、どこかに他人行儀を隠せないよそよそしさがあります。母に反発した貞夫は家を出ますが…。サイレント映画の本作は、最初の巻と最終の巻のフィルムが紛失しています。現存する作品のオープニング、エンディングは残念ながら共に鑑賞が不可能になっています。
監督: 小津安二郎 出演者:吉川満子(母)、大日方傳(長男貞夫)、加藤精一(少年時代)、三井秀雄(次男幸作)、野村秋生(少年時代)、奈良真養(岡崎)、青木しのぶ(岡崎夫人)、笠智衆(服部)、逢初夢子(光子)、飯田蝶子(チャブ屋の掃除婦)ほか
映画「母を恋はずや」ネタバレあらすじ結末と感想
映画「母を恋はずや」のあらすじをネタバレ解説。予告動画、キャスト紹介、感想、レビューを掲載。ストーリーのラストまで簡単に解説します。
母を恋はずやの予告編 動画
映画「母を恋はずや」解説
この解説記事には映画「母を恋はずや」のネタバレが含まれます。あらすじを結末まで解説していますので映画鑑賞前の方は閲覧をご遠慮ください。
母を恋はずやのネタバレあらすじ:起
瀟洒な洋館に一家4人で暮らす小学6年の貞夫には、2年生になる弟の幸作がいます。今朝も両親と一緒に朝食をとったあと、貞夫は幸作と手をつないで学校へ向かいました。やがて授業が始まると、間もなく父親が脳溢血で倒れたと連絡が入ります。
不安な面持ちを隠せない貞夫と幸作。用務員の声に押されて人気のない校庭をあとにしますが、ふたりを待っていたのは父親の訃報です。今朝、出がけに「日曜日にはみんなで七里ヶ浜へ行こうよ」と言っていた父。出がけに見た父の晴れやかな笑顔が貞夫と幸作への別れの挨拶になりました。
兄弟はその後、母千恵子に連れられて表通りにあった洋館から、裏通りの借家へと引っ越します。千恵子はふたりの子を女手ひとつで育てあげますが、青年になった貞夫は、母と自分とに血のつながりがないこと、幸作とも異母兄弟であることを知ります。自分たち家族は幸せな家族を装ってきたが、じつはアカの他人にすぎなかった。それが真実であるにせよ、貞夫のかたよった思いこみは、一家のその後に暗い影を落とします。
母を恋はずやのネタバレあらすじ:承
母千恵子にも、どこかで遠慮があったのかもしれません。実の子と先妻から預かった子。あるいは貞夫と幸作の性格の違い。親子とはいえ相手が変われば接し方も異なります。夫という強い支えを喪ったあと、千恵子なりに生まれた配慮が兄弟のそれぞれに加わったことは否定できません。
大学に入った幸作が「伊豆へ友だちと遊びに行きたい」と千恵子に切りだします。千恵子は「うちにはいまお金がないから我慢しなさい」と言ってなだめます。そこへ貞夫が帰ってきて「困っている友だちに金を貸してあげたいんだけど」と千恵子にねだります。千恵子は「いくらいるの?」と言って、貞夫が必要な分だけを用立てます。そうなると幸作は黙っていません。
「大体、母さんは兄さんにばかり良くする」と幸作は不満を口にします。
「僕もそう思うんです」と貞夫も幸作に頷いて千恵子の顔を伺います。
「叱られるのはいつも僕ばかりだ」と、さらに幸作は食ってかかってきます。
また別の日に「母さんは幸作と僕とを区別している」と貞夫は訴えます。「うちの暮らしのことだって、幸作には打ち明けて、なぜ僕には黙っているんですか?」
大人の声になり、上背もある貞夫に気圧されて、千恵子は一言も口をはさめません。さらに貞夫は重ねます。「母さんは肉親としてのわがままを、僕にすこしも見せてくれないんですね」。肉親を持たない寂しさを訴えているのか、貞夫は辛く千恵子に当たります。
母を恋はずやのネタバレあらすじ:転
「母さんの気兼ねが気に喰わない」とある日、貞夫は言い出します。「僕の言うことが気に入らないのだったら、なぜ頬でもぶってくれないのですか」と千恵子を問いつめます。「母さんはわが子のように僕を扱っていない」。貞夫は一度機嫌を損ねると駄々っ子のような言い分を口にして千恵子を困らせます。
悶々とひとり思い悩む貞夫は、女を置いて酒を飲ませる店、チャブ屋へ足を踏み入れます。カウンター席に手を置く貞夫の荒れた指先を見た女給が言います。「おまえさんは『親不孝』だね、ささくれのできる人は親不孝だっていうじゃないか」。女給のちょっとした軽口さえ真に受けてしまう貞夫。ここでもまた腹を立て、席を蹴ってしまいます。
「母さんのことを悪くいう奴は許せない」。家へ戻った貞雄を、待ち構えていた幸作がそう言って叱ります。「なんだって母さんを泣かせたんだ」。幸作ははじめて兄に盾を突きます。そして貞雄の顔を平手打ちします。つぎには握りこぶしで数回。「母さんを悪く言うヤツを黙って見ちゃいられない」。殴られた貞夫は1度も抵抗せず、家を出て行きました。
母を恋はずやの結末
「兄さんがああ悪くちゃ、母さんが可哀想だ」という幸作に、千恵子ははじめて、本当の兄弟の関係を打ち明けます。驚く幸作に、千恵子は「兄さんが家を出ていったのも、おまえを立てて、身を引くつもりなんだよ」と、母親だからこそ気づくことができた貞夫の思いを代弁します。貞夫は、幸作に対して真実を伝えることができずに悩んでいたようです。
貞夫はチャブ屋で数日、頭を冷やしていましたが、訪ねてきた千恵子に向かって、またも「母さんはもう何も言わないでください」と言って拒否します。その様子を女給たちのうしろから見ていたチャブ屋の掃除婦が、世の母親のひとりとして貞雄に声をかけてきます。
「悪いことは言いません、親は泣かせるもんじゃありませんよ」哀しい訴えをこめた言葉でした。
さらに「あたしにも、あんたぐらいの年齢の息子があるんですけどね」と言ってため息を吐きました。
「俺よりマシだって言うのかい」と貞雄が笑顔で問いかけます。
「よけりゃあ、こんなことはしていませんよ」と掃除婦が応じて、ふたりは打ち解けます。
掃除婦とのやりとりで、貞夫の頑なな心が解けだしたのかもしれません。その夜になって貞夫は千恵子のもとへ帰ってきます。泣いて親不孝を詫びる貞夫を千恵子は安堵の思いで慰めます。
一家は、それまでの不穏な影を払拭するかのように郊外の借家へ引っ越します。引っ越しのあと片づけをする貞雄と幸作を頼もしく思いながら、千恵子は兄弟の幼い日を思い浮かべます。さらに亡父の写真の前に進み出て、幸福が戻ってきたことを報告するのでした。
以上、映画「母を恋はずや」のあらすじと結末でした。
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