アド・アストラの紹介:2019年アメリカ映画。伝説的な宇宙飛行士だった父を目標に宇宙飛行士となったロイ。だが、死んだと思われていた父は海王星付近の宇宙で生きていた。太陽系の運命をかけてロイに極秘任務が課せられる。現代の宇宙開発をベースにしたリアルなSFアドベンチャー映画。監督は『リトル・オデッサ』等のジェームズ・グレイ。主演のブラッド・ピットは製作にも参加。2019年の第76回ベネチア国際映画祭でコンペティション部門に出品された。
監督:ジェームズ・グレイ 出演者:ブラッド・ピット(ロイ・マクブライド)、トミー・リー・ジョーンズ(H・クリフォード・マグブライド)、ルース・ネッガ(ヘレン・ラントス)、リヴ・タイラー(イヴ)、ドナルド・サザーランド(トム・プルイット大佐)ほか
映画「アド・アストラ」ネタバレあらすじ結末と感想
映画「アド・アストラ」のあらすじをネタバレ解説。予告動画、キャスト紹介、感想、レビューを掲載。ストーリーのラストまで簡単に解説します。
アド・アストラの予告編 動画
映画「アド・アストラ」解説
この解説記事には映画「アド・アストラ」のネタバレが含まれます。あらすじを結末まで解説していますので映画鑑賞前の方は閲覧をご遠慮ください。
アド・アストラのネタバレあらすじ:極秘命令
近い未来。人類は月や火星に基地を建て、太陽系の外にも乗り出そうとしていた。そんな時、巨大なサージ=電気嵐が太陽系を襲い多大な被害が出た。国際宇宙アンテナの製造チームの宇宙飛行士であるロイ・マクブライド少佐(ブラッド・ピット)は、作業に外に出たところでサージに遭うが、パラシュートを広げて地球に降り立ち、生き延びる。
ロイはアメリカ宇宙軍の基地に呼び出され、上官から驚くべき極秘情報を告げられる。太陽系外知的生命体探求を目指す、リマ計画の責任者として約30年前に宇宙へ探索に出発して16年後に消息を絶った、ロイの父クリフォード(トミー・リー・ジョーンズ)がどうやら生きていて、しかもサージは海王星付近にある彼のリマ号から発生したらしいのだ。サージは太陽系の全生命を滅ぼしかねない。最も優れた宇宙飛行士だった父に倣って、彼自身冷静沈着で優秀な宇宙飛行士となったロイに軍は、サージの影響を受けない火星地下の基地から父に通信せよという極秘命令を与える。
アド・アストラのネタバレあらすじ:月
クリフォードの旧友で幼いころのロイを覚えているというプルイット大佐(ドナルド・サザーランド)がロイに同行する。大佐にはクリフォードと対立してリマ計画から外された過去があった。
大佐と共に降り立った月の空港は地上の空港と同じようになり、ロイは父がいたらこの俗化を嘆くだろうと思う。しかし、空港を離れると紛争地帯が広がり、資源をめぐって争いが起きていた。ロイとプルイット大佐は月面車で護衛をともなって、火星行きの宇宙船ケフェウス号の発射基地に向かうが、略奪者たちに囲まれて護衛は全滅。大佐も不整脈を起こして手術が必要になり、火星まで同行することができなくなった。別れ際に大佐は「軍は君を信用していない」と警告する。ロイからの通信にクリフォードが応じなければ軍はリマ号を破壊する予定であることもロイは大佐を通じて知る。
アド・アストラのネタバレあらすじ:火星への旅
ケフェウス号が別の宇宙船からの救難信号を受信する。ロイは、船長と共に遭難宇宙船に入る仕事を買って出る。だが、遭難船の中で船長は実験動物の猿に襲われ、ロイも辛うじて船長を運んでケフェウス号に戻るが、船長は死亡する。
この恐怖の体験を通じてロイは、父を喪失した体験により人と親密な関係を築けなくなった自分の問題に向き合うようになる。人に心を閉ざすことにより、冷静な宇宙飛行士にはなれたが、愛し合っていた妻イヴ(リヴ・タイラー)ともうまくいかず離婚してしまっていた。
アド・アストラのネタバレあらすじ:火星
火星に着く直前に再びサージが発生し、ケフェウス号も辛うじて着陸する。地下基地でロイは父に向けて通信するが反応はなかった。「自分は軍に利用されている」と感じたロイは2回目の通信では軍の用意した文章を無視して自分のことばで父に呼びかける。ミュージカル映画を見た思い出や父にあこがれて宇宙飛行士になったことを話す。しかしその結果ロイは極秘任務から外されてしまう。
そんなロイに接触してきたのは火星地下基地の長官ヘレン・ラントス(ルース・ネッガ)だった。火星に生まれ地球には一回しか行ったことがない彼女の心配はサージから火星の住人を守ること。彼女によるとケフェウス号が核爆弾を積んで海王星に向かう。そして彼女は彼女の両親がリマ計画に参加していたために孤児になったこと、クリフォードがリマ号で反乱に遭い犠牲者を出してそれを鎮圧した後、軍が彼を行方不明として処理した事実も明かす。ケフェウス号に乗りこもうとするロイをヘレンは車で送る。
アド・アストラの結末:再会と決断
発射直前にロイはケフェウス号にもぐりこむ。ロイを始末するように命じられた三人の乗組員は不幸にも全員命を落とす。ロイは自分一人で使命を果たすと司令部に連絡して通信を断つ。
ロイは海王星付近でリマ号を発見し、小型探査船でリマ号に近づくが探査船が隕石に衝突してドッキングできず探査船を放棄してリマ号に入る。爆弾を仕掛けたロイについにクリフォードが呼びかける。クリフォードによると最後の反乱者がサージを発生させ、今やたった一人の乗組員になったクリフォードにはそれを止める術がなかった。知的生命体発見の夢を未だに捨てない父は息子に二人でリマ計画を続けようと誘うが、息子は父をリマ号の外に出す。
だが、もはや地球への未練をもたない父は息子に抵抗し、命綱のフックを外すにように言い、息子はそれに従う。リマ号の扉を外して盾にして隕石をよけてケフェウス号に戻ったロイはリマ号を爆発させ、父の遺した研究データと共に地球にたどりつく。ロイは地球で生き、人を愛し続けると決意したのだった。
以上、映画「アド・アストラ」のあらすじと結末でした。
この作品は哲学的で重いテーマを背負っているので鑑賞者によって大きく評価が分かれるであろう。知性を有した地球外生命体を探索するという崇高で壮大なミッション。広大無辺の大宇宙と極小の存在でしかない人類との対比。漆黒の宇宙空間に漂うロケットと乗組員の孤独感。虚しさと諦観が交差する限りある命の時間。宇宙については知り得ても、死のその先の世界については無知な人間。「人が死すればその魂は宇宙に吸収されるのか、それとも天にも見放されるのであろうか」。ブラッド・ピット(ロイ)の目も常にクールで、どこか醒めていて地平の彼方を見ているかのように思えた。緻密で丁寧に作り込まれた映像は派手さはないが完成度が高くとても美しい。「アド・アストラ」は壮大な叙事詩であり、スペースオペラとしての貫禄十分である。逃れ得ぬ宿命と対峙し追い詰めれる悲壮感を見事に演じて見せたブラッド・ピット。ブラピの新たなる境地に達した演技には敬意を表するしかあるまい。我が最愛の「ブルックナーの交響曲第9番ニ短調」の第三楽章(最終楽章)。ブルックナーの遺作で未完成の9番も宇宙と人間を見つめた誠に稀有な作品である。「アド・アストラ」を観ながら、私の中ではずっとブルックナーの旋律が流れていた。