天城越えの紹介:1983年日本映画。松本清張の短編小説を題材にしたサスペンス映画。家出した孤独な少年は道中で出会った美しい女性に心惹かれていきますが、二人にはある悲劇が待ち受けていました。運命に翻弄される娼婦を熱演した田中裕子の演技が高く評価され、1983年のモントリオール世界映画祭において主演女優賞を受賞をしました。
監督:三村晴彦 出演者:渡瀬恒彦(田島松之丞)、田中裕子(大塚ハナ)、平幹二朗(小野寺建造)、吉行和子(建造の母)、山谷初男(山田警部補)ほか
映画「天城越え(1983年)」ネタバレあらすじ結末と感想
映画「天城越え(1983年)」のあらすじをネタバレ解説。予告動画、キャスト紹介、感想、レビューを掲載。ストーリーのラストまで簡単に解説します。
天城越えの予告編 動画
映画「天城越え(1983年)」解説
この解説記事には映画「天城越え(1983年)」のネタバレが含まれます。あらすじを結末まで解説していますので映画鑑賞前の方は閲覧をご遠慮ください。
天城越えのネタバレあらすじ:起
繁華街の中を年老いた男が足を引きずりながら歩いています。老人の名は田島松之丞、凄腕の刑事だった男です。過去の捜査資料の印刷を依頼するため、静岡にある港印刷所を訪ねてきたのでした。同じ頃港印刷所の社長小野寺建造は医師の診察を受けていましたが、詳しい検査が必要だと知り、漠然とした不安に襲われていました。会社へ戻ってきた建造は田島が置いていったという資料を見て愕然とします。天城山の土工殺し事件と記載された資料は彼に少年期の悲しき思い出を呼び起こさせていきます。戦時中の昭和15年のこと、14歳だった建造は下田で鍛冶屋を営む生家を飛びだし、静岡を目指していました。兄が働いている印刷所で世話になろうと考えているのです。しかし彼が家出をした本当の理由は、母と叔父の情交を目にすることが耐えられなくなったからなのです。川端康成の名小説に出てくる天城越えに憧れていた建造でしたが、現実には金もなく、頼る者もない過酷な旅路が待っていました。途中行商人の男達から声を掛けられ親切にしてもらったものの、土工風の男とすれ違えば鋭く睨みつけられ、人気のない暗闇には何かが潜んでいるような恐怖を感じます。心細さから先に進むのが恐ろしくなった建造は、下田へ引き返そうかと考え始めます。
天城越えのネタバレあらすじ:承
天城トンネルの近くの山中で男の衣類や鞄、傘などの遺留品が散乱した状態で発見されます。衣類には血痕が付着していたことなどから、事件性があると考えられ、警察が動き出します。刑事の田島と山田は遺留品の持主を捜しだそうと聞き込みをしているうちに、土工風の男が天城峠に向かっていたという情報を得ます。男を泊めたという宿屋の主人は、男の身の上を案じ、宿を出る際にはこの人よろしくと書き添えた一円札を施し与えたと田島達に話します。さらに男の腕には刺青があったと証言します。捜査を進めるうちに天城峠付近で男が若い女と一緒だったこと、さらにその女が少年とも一緒に歩いていたところが目撃されていました。田島はその少年が建造であることを突き止めると、事情を聞こうと下田の鍛冶屋へやってきます。建造は湯ヶ島で大塚ハナという女と出会ったものの、天城トンネルの近くで別れたことを田島に話し始めます。やがて天城トンネルから少し離れた川の中から腐乱した男の死体が発見されます。腕の刺青から土工風の男の遺体と断定され、ハナは警察から事情聴取を受けます。面通しのため入ってきた建造を見たハナは懐かしそうに話しかけます。しかし建造は硬い表情を浮かべたまま、ハナが天城で会った女で間違いないことを証言して帰っていくのでした。事件現場の近くにある製氷所にはハナのものと思われる九文半ほどの足跡が残されていたことから、男を殺害した後に製氷所で一夜を明かそうとしたのではないかと田島達はハナを追及していきます。さらに酌婦として働いていた店を飛び出したハナが金に困窮していたことから、金銭目当てで男を殺したのではないかと疑いがかけられていきます。ハナが旅館に泊まった時に支払った一円札が、土工の男が宿屋で恵んで貰った一円札だったからです。しかしハナは金を得るため男と寝たものの、断じて殺人には関わっていないと強く訴えます。しかし次第に厳しい取り調べに疲れ果てていき、警察は決して自分の話を信じないだろうと思いはじめるようになるのでした。ハナは短刀で男を刺し、谷に突き落とした後、凶器を捨てて逃走したと自白します。建造は刑務所へ輸送されていくハナを見つめ、必死に何かを訴えかけようとしますが、ハナはサヨナラとだけ呟き去っていくのでした。
天城越えのネタバレあらすじ:転
捜査資料の冊子が刷り上がり、田島が港印刷所を訪ねてきます。冊子を受け取った田島は担当した天城の土工殺し事件の捜査が失敗に終わったことを建造に話し始めます。結局土工殺しの凶器となった短刀は発見されることがなく、証拠不十分で容疑者の大塚ハナは無罪となったと言います。しかし田島はこの事件で自分が犯した過ちを今も深く悔やんでいました。まだ刑事として経験の浅かった田島は、ハナの言い分も聞かず最初から彼女を犯人と決めつけてしまったと建造に語り出します。さらに強引なやり方でハナに自供させたものの、彼女は売春目的で男に近づいただけであり、殺害には関わっていなかったことが後になって分かったと続けます。田島は製氷所に残された九文半の小さな足跡をハナのもとと断定したのが間違いで、あれはハナと一緒にいた少年の足跡だったのではないかと考えているのです。あの少年からもっと深く事情を聴き出せば、事件は別の解決を迎えたのではないかと今も深く悔やんでいるのでした。建造は田島の鋭い指摘に激しく動揺しますが、努めて冷静を装います。しかし田島はそんな彼の心の内を見透かすように、事件が時効をむかえようとも罪そのものに時効などないのだと告げるのでした。建造はその後ハナがどうなったか尋ねますが、無罪が確定したものの肺炎を患って刑務所の中で死んだと知らされ、ショックを受けます。別れ際田島は仮に少年が男を殺したとして、その殺害の動機が一体なんだったのかが未だに分らないと建造に言い残して帰っていくのでした。田島を見送った建造は発作を起こして倒れこんでしまいます。薄れゆく意識の中で、建造の胸にハナとともに歩いた天城の旅路がよみがえってくるのでした。
天城越えの結末
家出をした建造は下田へ引き返そうかと悩んでいるところハナに声をかけられました。どこまで行くのかと尋ねられ、咄嗟に下田へ行くと答えた建造にハナも付いていくと言います。やがて日が暮れていきますが、足の指を怪我している建造が歩けなくなってしまいます。ハナは怪我の状態を見るためマッチで手元を照らそうとしますが、なかなか火が付きません。建造は持っていたマッチ箱を差し出し、代わりにハナのマッチ箱を欲しがります。ハナは使い物にならないマッチをどうするのかと不思議がりながらも、優しく足の手当てをしてくれるのでした。建造はハナのような美しい女と一緒に歩けることに幸福を感じ、彼女に淡い恋心を抱いていました。二人が天城トンネルの近くまでやってくると、土工風の男が前を歩いていくのが見えました。建造は男への警戒を強めますが、ハナは男に用事があるから先に行って欲しいと言い出します。話が済んだら追い掛けると言うハナの言葉を信じ、渋々トンネルの中へと進んだ建造でしたが、振りかえればハナと男が身体を寄せ合って話をしています。ハナと男の行方が気になって引き返してみると、遠くから女のうめき声が聞こえてきます。建造が暗闇に目を凝らすと、山の中で激しく抱き合うハナと男の姿がありました。ハナは金銭目的で男と寝ただけでしたが、建造は男に強い殺意を抱いていきます。母と叔父の情交を思い出した建造は、またしても愛する人を奪われたことに激しい怒りを感じたのです。建造は持っていた短刀で男を突き刺し、山の中を転がり落ちていく男を川まで追い込んで殺害したのでした。印刷所で倒れた建造は病院に運ばれます。緊急手術に立ち会うことになった田島は建造の手に握られていたお守りを預かります。その中にはあの日ハナから貰ったマッチ箱が今も大切にしまってあるのでした。
以上、映画「天城越え」のあらすじと結末でした。
「天城越え(1983年)」感想・レビュー
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とにかく田中裕子の演技が素晴らしい。冤罪のまま引き立てられてゆき、雨の中、笠を振り落として、建造少年に声なきまま呟くシーンは、日本映画史上に残る名シーンだと思います。田中さん演じるハナは、取り調べを受けるうちにきっと、建造が犯人である事に気が付いたのでしょう。同時に彼の彼女に対するほのかな恋心も。それで将来など望めない娼婦の彼女は、未来ある少年のために罪をかぶった。そう思うと、田中さんの薄幸そうな演技がまた切なさを誘います。
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おしんよりなにより、私は天城越え。
美しすぎる。はかなすぎる。重力から解き放たれたような、田中裕子の純でなまめかしい演技。
観ている者は、少年と共にそれを賞賛し、つかめば消えるような、シャボン玉のようなあえかさに、思わず現実の醜さを忘れます。
何年かに一度は、必ず観たくなる作品。
その度に、こんな宝石のような映画が作れる日本という国に生まれたことを誇りに思います。 -
田中裕子良い役者です。
典型的な美人ではありませんが、知的な顔立ち、抜群の演技力。
この映画の全てを分かって、少年に微笑むシーン最高です。
渡瀬恒彦がトイレに行かせないでその場で放尿するシーンに、渡瀬は好きな役者ですし、映画のワンシーンなんだと分かっていても渡瀬に腹が立ちました。
それだけ田中裕子の演技が抜群でした。
あとは深夜食堂での演技。
「カチ割り如何っすかー」の声、顔、最高でした。 -
何度か見ましたが、印象に残る映画です。
少年の淡い初恋、姉のような憧れ、複雑な心境だと思います。
時代背景が昭和15年で大戦突入前ですね。
と思うと現代(1983年の下田?)少年は小さい印刷会社の社長で50代後半?少年がハナに貰ったマッチ箱(銘酒と書かれている)を終生お守り袋に入れて大切にしていたものを手術室で手から落ちそれを老刑事に渡すと中を見て意味深な表情の渡瀬恒彦演じる老刑事
ラストシーンで旧天城トンネルを駆け抜ける暴走族風のバイクの群れは遥か彼方の時代の面影を見る影もなく怖し、もはや少年の淡い情緒もなにもない現代の象徴を表してる何とも言えない場面でした。 -
本当に素晴らしい映画です。特に、田中裕子さんの魅力と美しさが、永遠に残ります。
刑事の執念。少年の恋心と嫉妬、そして殺してしまうほどの愛の深さ。少年は、若いからこそ、殺してしまうという表現しかできなかったのでしょう。14歳でも、人を深く愛することができることをせつなく悲しく描いています。この映画を観て、皆、田中裕子さんに恋をし、少年時代を思い出し、少年に同化していきます。人間の生々しさを悲しさと美しさをもって描いた最高傑作です。
皆、少年のように、本当は、死ぬ時まで好きな人を思いながら生きているのではないでしょうか。何度観ても、再発見・再感動がある悲しく美しい最高傑作です。 -
田中裕子が少年に向かって声にならない言葉をささやくシーン。
この時の田中裕子の表情は作ろうと思ってできるものではない、「やったのはあんたでしょ。でも安心してあんたには未来がある、だから未来のない私が罪をかぶることにした…!」と言ってるような気がしました。
これは日本映画のベストです
松本清張の「天城越え」は幾度かテレビ放送され(確か3度か?)どれも強く印象に残るシーンがいくつもあります。土工役の佐藤慶さんが少年に刺された時「あ~やっと終わった」と呟く場面と刑事役の宇野重吉さんが印刷工の後ろでそっぽを向いて訥々と喋るシーンは未だに脳裏に浮かびます。