黒の試走車(テストカー)の紹介:1962年日本映画。同じ年に発表された梶山季之のベストセラー小説を原作として製作される。サスペンスタッチで描かれる、しのぎを削る二つの自動車会社の産業スパイ戦争。その中で人間性をすり減らされる男。
監督:増村保造 出演者:田宮二郎(朝比奈豊)、叶順子(宇佐美昌子)、高松英郎(小野田透)、船越英二(平木公男)、菅井一郎(馬渡久)
映画「黒の試走車」ネタバレあらすじ結末と感想
映画「黒の試走車」のあらすじをネタバレ解説。予告動画、キャスト紹介、感想、レビューを掲載。ストーリーのラストまで簡単に解説します。
映画「黒の試走車」解説
この解説記事には映画「黒の試走車」のネタバレが含まれます。あらすじを結末まで解説していますので映画鑑賞前の方は閲覧をご遠慮ください。
黒の試走車のネタバレあらすじ:起・黒いシートのテストカー
タイガー自動車の小野田や朝比奈たちは新型車パイオニアのテスト走行を行っている。ライバル会社のスパイがいないことを確認してから、黒いシートに包まれたテストカーのスピードを上げさせる。ところがテストカーは事故を起こし炎上してしまう。この事故はテストカーの事故としてマスコミに報じられる。テスト走行について知っていたのは限られた幹部だけ。スパイ活動のために作られた企画一課はライバルであるヤマト自動車のスパイをあぶりだそうとする。企画一課の朝比奈は、恋人の昌子をヤマト自動車幹部で元関東軍特務機関に属していた馬渡がよく通うパンドラというバーに勤めさせる。企画部長の小野田の信頼が篤い彼は、パイオニアが成功すれば課長に昇格するはずだった。
黒の試走車のネタバレあらすじ:承・盗まれていたデザイン
朝比奈は偽名を使って馬渡に接触して新車パイオニアの偽情報を売り込もうとする。しかし馬渡は朝比奈の名もパイオニアがスポーツカーであることも既にお見通しだった。ヤマト自動車が新製品を開発していることが明らかになる。タイガーの企画一課はあらゆるつてを使ってヤマトの新製品の情報を盗み出そうとする。最後は、コピー機業者からのリベートの着服という弱みを握られたヤマトのデザイン課長が設計図を流す。ヤマトの新車マイペットはパイオニアのデザインを盗んだスポーツカーとわかる。
黒の試走車のネタバレあらすじ:転・昌子の犠牲
両社の新車の競争は価格の勝負となった。朝比奈たちはヤマトの会議室の向かいのビルのトイレからヤマトの会議を8ミリフィルムで撮影し、映写したフィルムの中の馬渡の口の動きを読み取る。しかし、パイオニアの予定価格は既に馬渡に知られていたことがわかった。そしてマイペットの価格は100万まではわかったが端数の金額は馬渡がもつ封筒を見るしかない。朝比奈は小野田に頼まれ、昌子を利用する。昌子を公園に呼び出し、前々から宝石をやるからホテルに来いと馬渡に言われていた昌子に馬渡と寝たらいいと朝比奈は言う。昌子は朝比奈の態度を軽蔑しながらも仕事を引き受ける。馬渡がシャワーを浴びるすきにカバンの中の封筒の中身を盗み読む。昌子は朝比奈のベッドに口紅で「X=8」と描いてから朝比奈をぶつ。つぐないはすると朝比奈は言うが、昌子は「私の思い出に」と言って馬渡からもらった宝石を置いて去っていく。
黒の試走車の結末:真っ黒い自動車
マイペットを108万円で売り出したヤマトに対してタイガーはパイオニアを99万円で売り出す。企画一課の勝利かと思われたが、売り出し初日にパイオニアの一号車が東海道本線の踏切で急行列車に衝突する。パイオニアに乗っていて衝突前に逃げ出した、材木会社社長で市会議員である芳野は自動車が故障したと主張しパイオニア生産中止キャンペーンを始める。彼は関東軍特務機関で馬渡の部下だった。芳野に一号車を売って鉄道事故を引き起こした、馬渡のスパイは誰か。最初は専務秘書だった島本をスパイと考えて小野田は彼を問い詰める。しかし、タイガー自動車社長の病室を盗聴していた看護婦に金を積んで、小野田は彼女の本当の雇い主を言わせる。結局、社長の娘婿の平木企画第二課長がスパイであることがわかる。彼はパンドラのママ加津子とのセックスを盗撮されて馬渡におどされていたのだった。秘密を守ると小野田に約束されて、平木はパイオニアを芳野に売ったことを話すが、小野田は警察にもちこむ予定で平木との会話を企画一課員に録音させていた。絶望した平木はその場で飛び降り自殺する。朝比奈は平木に嘘をついた小野田を非難し、「あんたや馬渡にはなりたくない」と小野田に言って会社を辞める。朝比奈と昌子は誰もいない海に行く。小さな商店に就職した朝比奈と、昌子は結婚することにする。道で二人の横を猛スピードでパイオニアが走り去る。「きれいなクルマね」と言う昌子に対して、朝比奈は「汚いクルマだよ、汚れている、真っ黒だ」と言う。
タイガー自動車のテストカーは、事故を起こし、その様子が写真に撮られてしまった。
テスト走行の時間や場所を知っているのは、会社でも幹部の数少ない人間。
もちろんライバル会社、ヤマト自動車の産業スパイがいるのだ。
一体誰がスパイなのか?
また、ヤマト自動車もタイガー自動車と同様のスポーツカーを企画しているらしいのだ。
果たしてタイガー自動車は、ヤマト自動車を出し抜くことが出来るのか!?
かなり、恐ろしい映画だった。
スパイを炙り出す罠を仕掛けて成功したと思ったら、相手に見抜かれ、スパイを探り出したと思って左遷させても、まだ秘密が漏れる。
タイガー自動車側(高松英郎、田宮二郎ら)も負けじとヤマト自動車から情報を得ようと必死になる。
田宮二郎は、恋人をヤマトの事実上のスパイチームのリーダー、馬渡企画部長(菅井一郎)が通うバーに働きに行かせ、馬渡と寝るように指示し、新発売の車の価格を探り出させる。
逆転逆転で、実に面白い。大映は白黒のスリラー風な映画が得意でしたね。
同じ増村保増監督の「陸軍中野学校」も恐かった。
どうしても出し抜かれ続けるタイガー自動車だが、新車の発売日が発表された新聞の朝刊に、ヤマト自動車より低い価格が発表された時は、
観ながら、こっちも思わず「やった!!」と心の中で叫んでしまった。
しかし、まだまだ続くヤマト自動車の嫌がらせ。
タイガーの新車を踏み切り事故に見せかけ、欠陥車の評判を立てようとする。
やっとの思いでスパイを見つけ出す高松英郎部長。
だが、追求していくうちに、遂にスパイだった社員は飛び降り自殺をしてしまう。
このスパイだった男が、追求された時の「殺したければ殺せ!!」
と叫ぶあたりの狂気は最高。
普段冷静な役が多い俳優だけに、こういった切れた演技は初めてみた。
でも最後に田宮が、最後に自殺者まで出してしまった自分の仕事に嫌気がさして退社してしまうところは、少しガッカリした。
田宮二郎は、冷徹なエリートが似合うんだから、最後までそれを通して欲しかった。
一応、田宮が主演の扱いだが、出番が多いのはむしろ高松英郎の部長の方。
若すぎるかも知れないが、田宮がこっちの役を演じ、最後は改心する若手社員は、別の俳優でやって欲しかったなと思う。
白黒のコントラストの聞いた照明も、実に効果的だった。
でも、”この会社のため”には何でもしてしまうのは、日本人特有のものなのだろうか?
なんとなく解らなくもないんですよね。この会社のために何でもしてしまう感覚。
何かのために自分を犠牲にするというのが、実は結構楽しいものなんですよ、男にとっては。
そうなんですよね、仕事に夢中になる男って、なんだかんだ言っても仕事が楽しいんですよ。
勝った負けたの勝負も楽しいし、目標を達成するというのもゲーム的で、実は楽しいものなんですね。
高松英郎も田宮二郎も、実に楽しそうに演じていましたね。
楽しいあまりに他人を犠牲にしても、”会社のため”という大義名分があるからこそ、熱中できる。
このゲーム的に仕事が楽しいという感覚があればこその日本の戦後の発展だったはず。
そのあたりの麻薬的な仕事の楽しさが、この映画の根底にあるような気がします。
そう、時に仕事は麻薬的な恐ろしさがあるものなのだ。