イキガミの紹介:2008年日本映画。間瀬元朗の原作による同名漫画を松田翔太の主演で実写映画化したヒューマンサスペンス作品です。国の法律により24時間以内の死を宣告された若者たちの顛末を、若者に死を告げる「逝紙(イキガミ)」を届ける配達人の視点から描きます。
監督:瀧本智行 出演者:松田翔太(藤本賢吾)、塚本高史(森尾秀和)、成海璃子(飯塚さくら)、山田孝之(飯塚さとし)、金井勇太(田辺翼)、りりィ(田辺美奈子)、山崎裕太(達彦)、風吹ジュン(滝沢和子)、佐野和真(滝沢直樹)、塩見三省(滝沢信利)、井川遥(近藤医師)、笹野高史(石井課長)、柄本明(参事官)、劇団ひとり(島田)、浅利陽介(鴨井洋介)、鈴之助(下山)、徳井優(神波)、ヒロシ(ウェイター)、伊津野亮(司会者)ほか
映画「イキガミ」ネタバレあらすじ結末と感想
映画「イキガミ」のあらすじをネタバレ解説。予告動画、キャスト紹介、感想、レビューを掲載。ストーリーのラストまで簡単に解説します。
イキガミの予告編 動画
映画「イキガミ」解説
この解説記事には映画「イキガミ」のネタバレが含まれます。あらすじを結末まで解説していますので映画鑑賞前の方は閲覧をご遠慮ください。
イキガミのネタバレあらすじ:起
鴨井洋介(浅利陽介)という男がディスコに向かって雨の中を走っていました。広場の大時計が指し示した時間は午後10時、洋介の命の期限まであと1時間でした。
ディスコに着いた洋介は、かつて自分を執拗にいじめてきたDJの下山徹(鈴之助)を連れ出し、ナイフを突き付けて復讐を敢行しようとしましたが、無情にも死亡予定時刻を迎え、洋介は復讐を果たせぬまま絶命してしまいました。その足元には、洋介に届けられた死亡予定証、通称“逝紙(イキガミ)”が落ちていました。
この国には「国家繁栄維持法」という法律が施行されていました。この法律は国民に死の恐怖を植え付けることで生命の価値を再認識させ、結果的に国民の健全な国家意識・倫理観・生産意欲を向上させる目的で導入されたのです。
全ての国民は小学校入学時に注射を受けることが義務付けられており、注射される薬剤には1000人に1人の割合で特殊なナノカプセルが混入されているのです。運悪くナノカプセルを打ち込まれてしまった18歳から24歳までの若者はあらかじめ設定された日時に体内のナノカプセルが肺動脈内で破裂して死に至るのです。
イキガミは対象者が死亡する24時間前に告知されるものであり、死亡予定者は死までの24時間は交通費や食費など全ての公共サービスが無料となる特典がついています。
この法律が施行されてからは自殺者数や犯罪件数は大幅に減少し、出生率は飛躍的に向上したとされていますが、この法律に反対する者は退廃思想を持つ国賊とみなされて弾圧されていました。
イキガミのネタバレあらすじ:承
運良くナノカプセルを引き当てることなく、無事に25歳を迎えた藤本賢吾(松田翔太)は厚生保健省に就職が決まりました。入省の日、藤本ら新人公務員は新人研修を受け、参事官(柄本明)から国家繁栄維持法についての説明を受けるのですが、藤本の同期であり、この法律で恋人を奪われた島田(劇団ひとり)が「国繁制度は狂っている」と法律を猛烈に批判し、退廃思想家としてすかさず連行されていきました。
藤本はイキガミを配達する役目を担うことになり、上司の石井課長(笹野高史)から死亡予定者の住所などが記された書類を渡されました。
藤本の初仕事は、23歳のミュージシャン・田辺翼(金井勇太)にイキガミを渡すことでした。翼のアパートに向かった藤本は、翼の母・美奈子(りりィ)に彼が死亡予定者に選ばれたことなどを説明、翼の死はこの国の繁栄のためだと事務的に応対しましたが、美奈子は取り乱して「息子を殺さないでくれ」と懇願しました。
翼は元々フォークデュオ「コマツナ」のメンバーとして、相方の森尾秀和(塚本高史)と共にストリートミュージシャンとして活動していました。やがてメジャーのレコード会社からスカウトを受けますが、メジャーデビューを果たしたのは翼ひとりだけであり、翼のために夢を諦めた秀和と仲違いして喧嘩別れしてしまったのです。
翼は売れっ子シンガーの達彦(山崎裕太)とユニットを組まされてデビューしましたが、実際には本当にやりたい音楽を全て封印され、非常に傲慢で軽薄な達彦の引き立て役にさせられていたのです。帰宅した翼は美奈子の様子がおかしいことに気付き、自分にイキガミが届いたことを知りました。
翌日、翼は音楽番組に生出演する予定でした。失意の翼は一睡もできずに街をさまよい歩き、高級レストランで特典を使って無料で高級料理を食べましたが、どんな料理を食べても味気なく感じてしまいます。レストランを飛び出した翼は、音楽の道を諦めた秀和がアルバイトをしている産業廃棄物処理場を訪れ、仲違いしてしまったことを謝罪しました。
翼は秀和に今夜の歌番組に出演することを伝えてその場を後にし、帰宅した秀和はテレビをつけようとしましたが、リモコンの電池が切れてしまっていました。そこに美奈子から電話があり、秀和は翼のイキガミの件を知ることとなりました。
翼は生放送直前にスタジオに到着し、そのまま放送はスタートしました。司会者(伊津野亮)と達彦のトークの後、いよいよ演奏が始まりましたが、翼は全ての段取りを無視してかつて「コマツナ」時代に秀和と路上で歌っていた曲「みちしるべ」を歌い始めました。達彦やスタッフは騒然とし、マネジャーは演奏を止めさせようとしましたが、曲の良さと翼の魂の歌唱に心を打たれたプロデューサーは演奏の続行を支持しました。
美奈子は涙を流し、秀和もいつしかテレビを見ながらギターをかき鳴らしていました。そして死亡予定時刻の午後8時を迎え、歌い終えた翼はその場に倒れ込んでそのまま帰らぬ人となりました。
イキガミのネタバレあらすじ:転
翌日、街頭演説に立った国会議員の滝沢和子(風吹ジュン)は、翼の死を美談のように語っていました。一方、翼の死を確認した藤本の胸中にはこの法律に対する疑問が生じていましたが、このことを口に出すことは非常に危険なことであり、藤本は気持ちを胸にしまっておくことにしました。
とある養護施設では、全盲の少女・飯塚さくら(成海璃子)が悪夢にうなされていました。さくらの両親は彼女がまだ幼かった頃に交通事故死し、さくらも事故に巻き込まれて視力を失ったのです。視力を取り戻すためには角膜移植手術が必要であり、さくらはドナーが現れるのを待ち続けていました。
そんなある日、さくらの元に兄のさとし(山田孝之)が現れ、仕事も軌道に乗ったので一緒に暮らそうと呼びかけ、さくらの名前の由来となった桜の花の美しさについて語りました。さとしはさくらには自分がエリートサラリーマンであるかのように振る舞っていましたが、実際は犯罪者集団の一員として振り込め詐欺に手を染めていました。
藤本が次にイキガミを届ける相手は、和子の息子で引きこもり生活を送っている20歳の直樹(佐野和真)でした。藤本は直樹が自室で首吊り自殺を図ろうとしていることに気付き、「死亡対象者への過度な干渉」は重大な規律違反だと知りつつも家の中に突入、直樹の自殺を阻止しました。
藤本が直樹にイキガミを渡したところに和子と、和子の夫・直樹の父で秘書の信利(塩見三省)が帰宅してきました。イキガミの件を知った和子は涙を流しながら直樹を抱き寄せますが、次に和子が発した言葉は、明日に応援演説してほしいということでした。和子は直樹の死を選挙戦に利用することしか考えておらず、激怒した直樹は和子と信利を部屋から追い出しました。
その夜、テレビを見ていた直樹は、和子がテレビ番組で直樹の死を美談のように語っていることに怒りを爆発させ、家を飛び出していきました。直樹が引きこもりになったのは、幼い頃から和子から過度の期待をかけられてきたことにあり、親の期待に応えられなかったことが発端でした。鉄パイプを手にした直樹は交番を襲撃、警官を殺して拳銃を奪いました。警察はすぐに直樹の行方を追いますが、信利は今回の件は和子や世間に公にしないよう警察に懇願しました。
翌日、藤本は次の死亡予定者にイキガミを届けに向かいました。死亡予定者の名は「飯塚さとし」でした。さとしは不在だったため、藤本は不在票を残してその場を後にしました。帰宅したさとしは不在票を見て自分の運命を悟り、なぜ自分が死ななければならないのか呆然となりましたが、自分がドナーになってさくらに角膜を提供しようと思い立ちました。
通常、角膜提供者は移植待ちの人々の順番を飛ばして特定の者への提供は認められないことでしたが、国家繁栄維持法では特例としてそれが認められているのです。
さくらは入院し、手術は午後11時、さとしの死亡予定時刻である午後10時の1時間後と決まりました。さとしの元に藤本がイキガミを届けに訪れ、さとしは自分の死を決してさくらに悟られてはならないと必死で遮ろうとしましたが、二人のやり取りはさくらに聞かれてしまっていました。
藤本はさとしが対象者になったのは手違いだったとさくらに嘘をつきますが、自暴自棄になったさくらは午後10時になってもさとしが生きていたら手術を受けると言い出しました。藤本は怒り狂うさとしに必死で謝罪し、失意の中職場に引き上げようとしました。
帰りの電車を待つ藤本は向かいのホームに直樹がいることに気付き、声をかけましたが直樹は逃げ出してしまいました。直樹が向かった先は、和子が大勢の支持者を前に演説している広場でした。
イキガミの結末
直樹の事件を知らない和子は、直樹の姿を見るや「息子が応援演説に駆け付けてくれました」と嬉しそうに支持者に語りました。次の瞬間、直樹は和子に向かって発砲、銃弾は和子を逸れて背後の看板に命中しました。広場は騒然となり、支持者たちは蜘蛛の子を散らしたように逃げ惑いましたが、その中に逃げ遅れて取り残された子供の姿がありました。子供はすぐに母親に助けられましたが、この光景を見た直樹は昔のことを思い出しました…。
…小学校入学を控えた直樹は、他の子供たちと同様に注射を受けられそうになりましたが、この時は国家繁栄維持法に反対していた和子が必死に直樹を庇い、注射を受けさせまいと逃げ出したのです。しかし、和子と直樹は程なく捕まり、直樹は注射を打たれ、“再教育”を受けた和子はまるで人が変わったかのように法律支持者へと変貌していたのです…。
…全てを思い出した直樹は和子を撃つことができず、駆け付けた警官に射殺されました。それは死亡予定時刻より1時間も早い死でした。直樹を追って広場に駆け付けた藤本は呆然としますが、直樹が予定よりも1時間早く死んだことである作戦を思いつきました。
それは病院内の時間を1時間早めることで、あたかもさとしが午後10時を過ぎても生きているかのように装うことでした。さとしに作戦を伝えた藤本は、石井課長からの電話も無視してまで病院の職員や入院患者一人ひとりに協力を求めていきました。かくして藤本やさとしの奮闘もあって病院内の全員が作戦に協力し、さくらは疑うことなく手術を迎えることとなりました。
手術室に向かうさくらに、さとしは「俺、お前に嘘をついてたわ…俺、本当は大したイケメンではないんだわ…」と声をかけました。これはこれまでずっとさくらに嘘をつき続けてきたさとしの精一杯できることでした。その直後、さとしはなぜ自分が死ななければならないのかと涙を流しながら呟き、本来の死亡予定時刻を迎えて死んでいきました。さくらの手術は無事に成功し、藤本は病院の廊下で涙を堪えながら一部始終を見守っていました。
藤本は死亡対象者に深く干渉しすぎたとして、1年間の給与カット、賞与の取り消し、研修の再受講という処分を受けました。石井課長が手を尽くしたおかげで処分は比較的軽い方で済みましたが、藤本は石井課長にこの法律は間違っていると本心を打ち明けようとしました。
石井課長は藤本を制すると、部屋に仕掛けられた監視カメラに背を向けながら「胸の中に秘めておきなさい。時が来るまで…」と藤本の耳元に語りかけました。実は石井課長も藤本と同じ気持ちを抱えているのです。
秀和は一人で「コマツナ」の名を背負い、あの頃のように路上でライブ活動をしていました。そこにかつて翼をスカウトしたレコード会社の者が現れ、秀和をスカウトしようとしましたが、金儲けのことしか頭にないレコード会社の狙いを見破った秀和は誘いをキッパリと断りました。
直樹の事件は当局の報道規制によりマスコミで報じられることはありませんでしたが、和子は選挙に大差で敗北していました。信利はいつか必ずこの国家繁栄維持法を廃止に追い込むために自ら政界に進出することを決意、和子に自分の市議会議員選挙出馬を手伝ってくれるよう頼みました。
視力を取り戻したさくらは、さとしが遺してくれたマンションで新しい暮らしを始めていました。
そしてさくらは視力が回復し、新居で兄からのプレゼントを開けていました。さとしはさくらにプレゼントを遺しており、中には「さくら、嘘じゃなかっただろ。お前は最高にかわいい」との手紙が添えられていました。さくらは兄の手紙を読んで涙を流し、ベランダから咲き乱れる満開の桜を眺めていました。
藤本は思いを胸に秘めたまま、この日もイキガミを配達していました。
とある小学校の前を通りがかった藤本は、“再教育”を受けて子供たちに注射を打つ仕事に従事していた島田の姿を見かけました。藤本は監視カメラを睨みながら、ほんの一握りの人々が容赦なく国家に切り捨てられる現状への憤りを感じていました。
以上、映画「イキガミ」のあらすじと結末でした。
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