『最強のふたり』(原題: Intouchables) は、2011年公開のフランス映画。パリを舞台に、大富豪の障害者フィリップが雇った世話役、スラム街出身のアフリカ系青年ドリスが介護する側、される側という関係を通して、男同士の友情を築いていく心温まるストーリー。実話に基づいており、ユーモアあふれる展開ながらも、貧困、麻薬、移民、病気、死別、養子、障害者のセクシュアリティ、その他さまざまな社会問題について考えさせてくれる秀逸な作品。第24回東京国際映画祭コンペティション部門で上映、最高賞の東京サクラグランプリを受賞。主演の2人は最優秀男優賞受賞。第37回セザール賞で作品・監督・撮影・脚本・編集・音響賞・主演男優・助演女優にノミネート、オマール・シーが主演男優賞を受賞。
監督:エリック・トレダノ、オリヴィエ・ナカシュ 出演:フランソワ・クリュゼ(フィリップ)、オマール・シー(ドリス)、アンヌ・ル・ニ(イヴォンヌ)、オドレイ・フルーロ(マガリー)、クロティルド・モレ(マルセル)、アルバ・ガイア・クラゲード・ベルージ(エリザ)、トマ・ソリヴェレ(バスティアン)、シリル・マンディ(アダマ)、ドロテ・ブリエール・メリット(エレノア)、サリマタ・カマテ、ほか
映画「最強のふたり」ネタバレあらすじ結末と感想
映画「最強のふたり」のあらすじをネタバレ解説。予告動画、キャスト紹介、感想、レビューを掲載。ストーリーのラストまで簡単に解説します。
「最強のふたり」の予告編 動画
映画「最強のふたり」解説
この解説記事には映画「最強のふたり」のネタバレが含まれます。あらすじを結末まで解説していますので映画鑑賞前の方は閲覧をご遠慮ください。
最強のふたりのネタバレあらすじ:起
夜の渋滞する道路をジグザグに猛スピードで抜けていく黒い高級車。運転席には黒人の男性。助手席には白人男性。BGMは悲しげでミステリアスなピアノ曲。パトカーが追いかけてくる。逃げ切るかどうかに200ユーロ賭けようという黒人。賭けに応じる白人。
警察に止められ、2人とも外に出るように、手をボンネットに付けるように言われたが、黒人のみが出て、怒りながら、「助手席の男性は障害者で出られない。車椅子を積んでいる。何のために急いでいたと思うんだ。病院に連れて行くためだ」と説明。助手席の男性は発作を起こした演技をして、口からよだれを垂らしている。「このままだと死んでしまう」と警察を脅す黒人。
警察も慌てて「危険だから病院まで先導する」と言う。病院に着いて、うまい具合に警察に挨拶して別れ、病院からスタッフが出てくる前に病院の救急用ロータリーを車は走り去った。
最強のふたりのネタバレあらすじ:承
由緒ある豪華な大邸宅の廊下に男性がずらりと並んでいる。一人ひとり呼ばれて面接を受けている。大きな机越しになぜこの仕事に就きたいのかと質問をする女性は、この家の主フィリップの秘書のマガリー(オドレイ・フルーロ)だ。その後ろに電動車いすに腰掛けたフィリップ(フランソワ・クリュゼ)がいる。あごを使って車いすを操作している。誰もがもっともらしい志望動機を語る中、唯一黒人のドリス(オマール・シー)はただ就職活動をした証明をもらいに来たという。不採用3件で失業手当をもらえるから、と。ドリスは魅力的なマガリーを気に入り、不採用証明に携帯番号を書いてという。気さくで、飾らず、障害者を障害者として扱わないドリスをフィリップは内心気に入って、明日書類を取りに来るようにと言った。
ドリスはアパートの上階にある家に帰り、弟や妹たちに邪魔されながら風呂を浴びる。家に帰ったのは半年ぶりだった。窓から一番上の弟が悪い仲間と付き合っているのが見える。夜に仕事から帰った母親に、大邸宅から盗んできた卵型の装飾品を渡すが、喜ぶわけもなく、半年も留守にしたことを叱られ、出て行けと言われる。
翌日、フィリップの屋敷に書類を取りに行くと、中に通され、豪華な住み込みの部屋(バストイレ付)をあてがわれ、試用期間を与えたいと言われる。看護師からフィリップの介護方法を教えられるドリス。浮腫み防止のストッキングの履かせ方から、排せつの手助けまで。雑ながらフィリップを一人の人間として介護するドリス。車で外出するときにも、それまで使っていた車いす用のバンは「馬を載せるみたいだ」と言い、隣に駐車されていた黒い乗用車を使う。その高級車のエンジン音に興奮するドリスを、フィリップは温かい目で見つめていた。
フィリップの親類たちはドリスを介護人として雇ったことを心配し、調べたところドリスが宝石を盗んで半年刑務所に入っていたことが分かる。フィリップはそれを伝えられても、彼は身体が大きく健康で頭もよく、自分に同情していないところが良いと言う。その夜、フィリップの苦しそうな呼吸音で隣の部屋で寝ていたドリスは起き、外の空気を吸わせるため朝4時にパリ市街に連れ出す。ドリスは自分のマリファナをフィリップにも吸わせる。まだ暗い中、カフェで語る二人。ドリスはそこでフィリップの身の上話を聞くことになる。
パラグライダーの事故が原因で頸椎を損傷したこと、妻とは大恋愛だったが、不治の病で先立たれたこと、流産が続いて養子を迎えたことなど。その日はちょうど試用期間の終わりで、本採用にするのでファルベルジェの卵を返してほしい、とフィリップは言う。ドリスが盗んだことに気づいていたのだ。妻が毎年贈ってくれたものの1つだ、と。ドリスは学校に妹を迎えに行き、卵はどこかと尋ねるが、知らないと言われる。
最強のふたりのネタバレあらすじ:転
フィリップは半年前から文通をしているエレノア(ドロテ・ブリエール・メリット)という女性がいた。マガリーに口述で手紙を書かせていた。詩的な文章を横で聞いていたドリスはまどろっこしさを感じ、電話するべきだと提案する。フィリップは手紙の方が多くを伝えられると言ったが、内心は障害があることを隠していたかった。これまでの彼女の手紙の中から、手描きの電話番号を見つけたドリスは電話かけ、スピーカーフォンにしてフィリップと彼女だけにする。意気投合したフィリップとエレノアはその後も長電話で話すようになった。彼女に送る写真を探すドリス。障害を隠していない写りの良い写真を送ることを勧めるドリスだが、フィリップは助手のイヴォンヌ(アンヌ・ル・ニ)にこっそり写真をすり替えるように指図する。
また、ドリスはフィリップの16歳の娘の生活態度をしつけ直したいと言う。ドリスが描いていた絵を馬鹿にして笑ったことがきっかけだった。ドリスによって心を開いていくフィリップ。フィリップの親戚が催すフィリップの誕生会で小さな楽団がクラッシック音楽を奏でている。歓談の席で、イヴォンヌにマガリーには誰かいるのか、と訊くドリス。そのうち俺のものになると自信たっぷりだ。片づけをしている楽団の前にスマホでお気に入りの曲を聴かせるドリス。アース・ウィンド・アンド・ファイヤーをかけて、踊り始めた。それを楽しそうに見つめるフィリップ。イヴォンヌはじめ他の使用人たちも踊りの輪に加わり、パーティーは楽しく閉じる。
その夜、エレノアから写真が届いていた。きれいな女性だった。パリに来るから会えないかということだった。パリのカフェでエレノアを待つフィリップ。付き添いはイヴォンヌだ。ドリスはビルの清掃をしている母を陰から見つめている。フィリップは緊張のあまり最後まで待つことができず、ドリスを呼び出す。カフェを出るときにエレノアが入ってきたが、お互いに気づくことはなかった。
最強のふたりの結末
フィリップはドリスとチャーター機で夜の空を楽しむ。その機内で、フィリップはドリスの絵が売れたと言って金を渡す。また数日後にはパラグライダーに乗りに出かける。ドリスは怖がって断り続けたが、気づけばヘルメットをはめ、飛行していた。笑いながら楽しく帰宅すると、ドリスを頼って弟が来ていた。顔に怪我をしていた。フィリップはドリスを訪ねてきた弟を気にして、これは君の一生の仕事じゃないと言って契約を解除してやる。弟にはしつけが必要だろう、と。ドリスは弟と仕事が終わった母を迎えに行き、荷物を持ってやった。
その後に雇われた介護士は全く使い物にならず、フィリップの具合が悪くなり、ドリスが呼ばれる。ひげが伸びたフィリップを車に乗せ夜の道路を走る。これが冒頭のシーンにつながっていたのだ。病院を後にした二人は海辺の町ダンケルクに車を走らせる。海辺のホテルでドリスはフィリップの髭を剃ってやった。海辺のレストランでランチを予約し、テーブルに着いたところでドリスは卵を返し、その場を去る。「デートを楽しんで」と。
そこに現れたのは文通相手のエレノアだった。レストランの外からテーブルを見ているドリスをガラス越しに見てフィリップは苦笑する。ドリスは去っていき、エレノアと会話するフィリップの笑顔で物語は締め括られる。
実話に基づくため、実在のフィリップと介護士のその後が文字で流れる。フィリップが再婚し二人の子どもに恵まれたこと、介護人アブデルも結婚して幸せな家庭を気づいていることが紹介される。
以上、映画「最強のふたり」のあらすじと結末でした。
最強のふたりを繋ぐのはロマンティックな音楽
映画内で使用された楽曲は印象的で素敵な曲ばかりです。フィリップが好むのはクラシックです。誕生日にパリの邸宅に楽団を呼んでバッハの無伴奏チェロ組曲第1番ト長調よりプレリュードなどを演奏させていました。ドリスの好みはアップテンポで体が勝手に動き出して踊ってしまいたくなるような曲です。Earth, Wind&FireのSeptember やboogie wonderlandがドリスの趣味として映画の中で使われています。boogie wonderlandは誕生日にドリスがiPodでフィリップに聞かせ、そのままドリスは誕生日のお祝いだからとフィリップにダンスを披露します。この楽しそうなドリスの姿を見て、硬かったフィリップの表情がゆるみ思わず笑みがこぼれました。
いつまでも見守りあう、実在する二人
この最強のふたりには元になった人物がいます。体が不自由になってしまった主人公であるフィリップ・ポゾ・ディ・ボルゴさんと、その介護人であるアブデル・ヤスミン・セローさんです。フィリップは、2001年に自身とアブデルのことを書いた本を出版し、それがテレビ番組に取り上げられ、ドキュメンタリーが作られました。このドキュメンタリーを見た監督がフィリップに映画にしたいと持ち掛けます。そうして作られた「最強のふたり」のエンドロールでは、ふたりの現在が語られています。切なくて苦しい思いを沢山してきた二人だから、とても芯の強い友情を育めたのだなと思わせてくれるシーンです。笑うことの大切さを考えさせてくれた、二人の姿に感動します。楽しんで生きるという現状を作ることは一朝一夕では成り立ちません。努力を積み重ねていく日々が続いていきます。そんな時にこの映画を見るとホッとして、ふたりの楽しむことを忘れない生き方に勇気づけられるでしょう。
「最強のふたり」感想・レビュー
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人はどう生きるかが大切。
障害があっても楽しく生きる権利は誰にも奪われない。
ドリスのような誰にでも垣根のない大らかな人になりたいと思いました。
心が自由で羨ましい! -
「明るく楽しく人生を生きること」の素晴らしさと、人の心を温かく大事に扱うことの大切さを教えてくれる、きわめてヒューマンな心に満ちたな映画でした。
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他者との遭遇は、多くの優れた物語の源泉となってきた。このフランス映画「最強のふたり」は、生きる目的を見失った白人の障害者と、貧しくとも陽気な黒人青年が出会う物語だ。
二人の化学反応で生まれる”希望の光”を描いた、喜劇風の人間ドラマの秀作だ。
事故で首から下が麻痺した富豪(フランソワ・クリュゼ)が主人公。介護者を選ぶ面接に、スラム街出身の黒人青年(オマール・シー)が訪れる。
気まぐれで採用した彼との生活の中で、奔放な言動に振り回されるうち、次第に人生の喜びを取り戻していく——。ダスティン・ホフマンに少し似たフランソワ・クリュゼは、車椅子に座って首と顔しか動かせない役ながら、理知的な資産家の”虚ろな心”を実にうまく演じていると思う。
もともとコメディアンのオマール・シーは、厳しい生活でも家族を思い、人生を楽しむ青年を元気いっぱいに演じていて、非常に好感がもてる。
人間は不完全だからこそ、自分にないものを他者から受け取ることで、”命の輝き”を増すのだと思う。
移民とのあつれきや経済問題など、欧州の現実を背景にしたこの映画は、ユーモアや思いやりで困難を笑いに変え、観る者を前向きな気持ちにしてくれる。そして、映画は最後に、二人のモデルとなった人物を紹介する。境遇も性格も水と油のように異なり、決して混じり合わないように見える者同士が、互いにかけがえのない存在となった物語は、実話に基づいているのです。
この映画はフランス本国で大ヒットし、アメリカのアカデミー賞で作品賞を受賞した「アーティスト」や、その他の大作を抑え、その年の年間興行収入で1位になったということです。芸術性が喜ばれ支持されるフランス映画ですが、作家性と大衆性とを兼ね備えた、この作品のような秀作が次々と生まれているようだ。
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この映画、結末変えたよね。二種類ありますよね。
実話が元になっているため現実に沿っていてリアリティがあり、ひしひしと生きていくことや人との関係について感じるものがありました。ハッピーエンドや分かりやすい終わり方ではなく、考えさせられるような結末なのも現実味があって良いです。特に映画の中で流れるルドヴィコ・エイナウディのピアノ曲がとても感傷的で、この曲達がなければ映画は成り立たなかったと思いました。