飢餓海峡の紹介:1965年日本映画。テレビドラマ化や舞台化もされた水上勉の代表作のひとつである同名推理小説を初めて映像化したサスペンスドラマです。戦後の混乱の最中に発生した強盗殺人事件と青函連絡船遭難事故。10年の歳月をかけた捜査から浮かんできたのは、貧困にあえぐ者たちの悲哀の人生でした…。
監督:内田吐夢 出演者:三國連太郎(犬飼多吉/樽見京一郎)、左幸子(杉戸八重)、伴淳三郎(弓坂吉太郎)、高倉健(味村時雄)、加藤嘉(杉戸長左衛門)、三井弘次(本島進市)、沢村貞子(本島妙子)、藤田進(荻村利吉)、風見章子(樽見敏子)、亀石征一郎(小川)、曽根秀介(朝日館主人)、安藤三男(木島忠吉)、ほか
映画「飢餓海峡」ネタバレあらすじ結末と感想
映画「飢餓海峡」のあらすじをネタバレ解説。予告動画、キャスト紹介、感想、レビューを掲載。ストーリーのラストまで簡単に解説します。
飢餓海峡の予告編 動画
映画「飢餓海峡」解説
この解説記事には映画「飢餓海峡」のネタバレが含まれます。あらすじを結末まで解説していますので映画鑑賞前の方は閲覧をご遠慮ください。
飢餓海峡のネタバレあらすじ:起
1947年(昭和22年)9月20日、北海道岩内町。強盗の沼田八郎(最上逸馬)と木島忠吉(安藤三男)はこの町の「佐々田質屋」を襲い、一家全員を惨殺すると金庫から大金を奪い、質屋に火を放って逃走しました。沼田と木島は岩内駅で仲間の犬飼多吉(三國連太郎)と合流、汽車に乗って函館へ逃げますが、彼らの放った火は町の八割を焼き付くす大火となりました。
その頃、函館港を出港した青函連絡船「層雲丸」は折からの台風の直撃を受けて沈没、死者530名を出す大惨事となりました。函館署の主任刑事・弓坂吉太郎(伴淳三郎)が陣頭指揮を執って七重浜で遺体の収容を開始するなか、犬飼ら三人は混乱に紛れて船で津軽海峡を渡る計画を立てました。
弓坂は収容した遺体の中から発見された、引き取り手のない二名の遺体に疑問を感じました。いずれの遺体も頭に殴られた形跡があり、二名とも乗船名簿に記載がありませんでした。
一方、岩内の事件を捜査するうち、網走刑務所を仮出所した木島と沼田が行方不明になっていること、この二人が過去に起こした事件と今回の事件の手口が酷似していることが明らかになりました。事件の3日前には被害者一家は温泉宿「朝日閣」に宿泊しており、宿の主人(曽根秀介)の証言によると同じ日に木島と沼田らしき人物の他にも札幌在住の犬飼という男が泊まっていたということでした。更には事件当日に犬飼らしき人物が消防団員を騙って漁師から船を借りていたことも明らかになり、警察は犬飼が共犯者だと断定、沼田や木島と共に指名手配しました。
弓坂は事件の3日後に青森県の仏が浦で何かが燃やされていたという下北の漁師からの証言を受け、部下の戸波刑事(岡野耕作)と共に現地に向かいました。そこで弓坂らは証言通りに焚火の痕を見つけ、犬飼ら三人がここで船を燃やしたと断定して目撃者を探し始めました。
飢餓海峡のネタバレあらすじ:承
その頃、一人で逃走していた犬飼は、汽車の車中で娼婦の杉戸八重(左幸子)と知り合いました。大湊で汽車を降りた八重の後をつけた犬飼は、地元の売春宿で八重に爪を切ってもらい、そのまま彼女を抱きました。八重は母と死に別れ、父の長左衛門(加藤嘉)も老いて思うように働けなくなったことから、生活費を稼ぐために娼婦になったのです。八重の身の上話を聞いた犬飼は新聞に包んだいくらかの金を彼女に渡して姿を消しました。
その後、八重の働く売春宿に弓坂が現れましたが、既に八重は帰った後でした。八重は長左衛門に娼婦を辞めると告げ、犬飼からもらった金で借金を返すと東京に行きたいと伝えました。翌日、八重に会った弓坂は犬飼についての証言を求めましたが、八重は犬飼を庇って嘘の証言をしました。
函館に戻った弓坂は、先日七重浜に上がった身元不明の二人の遺体が木島と沼田であることを知り、こう推理しました。岩内から七重浜に逃げてきた三人は「層雲丸」遭難の混乱に紛れて北海道からの脱出を図ったものの、犬飼は船から沼田と木島を海に突き落として殺害し、「層雲丸」の遭難者に紛れ込ませたのではないかと。
しかし、ならば犬飼は海を渡った後どうやって船を浜辺で燃やすため引き上げたのかと疑問に思った弓坂は、他に協力者がいたのではと考え、八重がそうではないかと思い当たりました。弓坂は八重を探すため東京に向かいましたが、結局見つけることができませんでした。
飢餓海峡のネタバレあらすじ:転
それから10年後。
東京で娼妓として働いていた八重は、とある新聞記事を見て驚きました。それは、舞鶴の食品会社社長・樽見京一郎(三國連太郎)が刑余者更生事業に私財3千万円を寄贈したというものでした。一目で樽見の正体があの犬飼であることを見破った八重は、早速舞鶴に飛び、樽見と対面しました。
樽見は八重について心当たりがないようでしたが、八重は樽見の親指の傷が犬飼のものと同一だったことから彼こそが犬飼だと確信、10年前に金をくれたお礼がしたいと彼に抱きつきましたが、樽見は八重を絞め殺してしまいました。樽見はその場に居合わせた書生の竹中(高須準之助)をも殺害、二人の遺体をあたかも心中したかのように装いました。
事件を担当する舞鶴署の主任刑事・味村時雄(高倉健)は二人とも首の骨が不自然に折れていることに疑問を抱きました。八重のポケットからは樽見の新聞記事の切り抜きが見つかり、味村は樽見に事情を聞いてみましたが、樽見は竹中のことは知っているが女は知らないと言い放ちました。八重の身元を知った味村は、なぜ東京の娼妓がわざわざ貧しい書生を訪ねてきたのか疑問に思いました。
舞鶴署署長の荻村利吉(藤田進)は八重の雇い主から事情を聞くと、今まで一生懸命に金を貯めてきた八重が心中したとはとても思えず彼女は殺されたのではという答えが返ってきました。八重が竹中と一緒にいるのを目撃したのは樽見しかなく、樽見が八重を知らなくても八重が樽見を知っているのではと考えた萩村と味村は長左衛門からも話を聞くことにしました。
長左衛門は樽見や竹中について心当たりは全くありませんでしたが、10年前に函館署の弓坂刑事が八重探しに来たこと、弓坂は体格の大きな男(犬飼)を探していたという証言を得ました。荻村は弓坂から事情を聞くため、味村を函館に向かわせました。
弓坂は警察を辞めて函館少年刑務所の看守をしていました。味村から事情を聞いた弓坂は樽見こそが探し求めていた犬飼に間違いないと断定、自分も捜査に協力したいと味村と共に舞鶴へ向かいました。
舞鶴署に呼ばれた樽見は八重や木島、沼田については知らないとの主張を崩しませんでした。しかし、八重の家から10年前の新聞(犬飼が八重に金を渡した時に包んだもの)と犬飼の爪が発見され、更には犬飼が10年前に記した朝日閣の宿帳の筆跡が動かぬ証拠となったことから、味村は10年前の岩内での強盗放火殺人ならびに共犯者殺し、今回の八重と竹中殺しの罪で樽見こと犬飼を逮捕することにしました。証拠を突き付けられ、追い詰められた犬飼は味村たちに「あなたたちは本当のことを知らない」と言うと重い口を開き始めました。
飢餓海峡の結末
10年前、犬飼は沼田と木島とは札幌で知り合い、共に肥料運搬の仕事に就いていました。犬飼は二人が前科者だと知ったのは事件直前に朝日閣に泊まった時であり、木島と沼田は温泉で知り合った被害者の佐々田はいい人なのでこれから就職を頼みに行くと犬飼に告げたのです。事件当時、犬飼は一人岩内駅で待っており、木島と沼田が事件を起こしたことに気付いたのは汽車が動き出してからだったのです。
犬飼は味村に、自分は木島も沼田も殺していないと語りました。船で津軽海峡を渡っていた時、木島と沼田は同士討ちを始め、巻き込まれそうになった犬飼は正当防衛で二人をはねのけたというのです。下北半島の仏が浦に流れ着いた犬飼はバッグの中から大金を発見、この時初めて自分は全ての罪を背負わされていることに気付いたのです。犬飼は故郷で自分の仕送りを待つ老いた母のためにも、たとえ自分が悪に染まろうともこの大金でもう一度人生をやり直そうと決意したのです。
犬飼は八重についての証言をする前に留置所に入り、休憩に入った弓坂や萩村らは今回のケースは難しいと語り合いました。同じ大金を掴んだ者でも犬飼は加害者、八重は被害者となったことから、萩村らは貧乏人の金に対する恐ろしいほどの執念を痛感しました。弓坂は萩村に、犬飼と二人きりで話がしたいと申し出ました。
弓坂は犬飼に、10年前に仏が浦で拾った船の灰を見せました。言葉を失った犬飼に、弓坂は「お答えがないと言うことは信じられないようですね。あなたが私を信じないように、あなたが二人を殺さないと言っても信じることができないです。誠に悲しいことです。人間と人間が信じられないなんて。あんたは八重さんさえも信じなかった…」と語りかけました。八重を殺してしまったことを深く後悔した犬飼は自分を北海道に連れて行ってほしいと頼み、萩村や味村らは犬飼の足取りを辿るため同行することにしました。
弓坂と犬飼は函館行きのフェリーから八重の故郷の下北の山を眺めていました。弓坂は犬飼に花を渡し、「八重さんの生前を知ってるのはあんたと私だけだ。私も投げますから、あんたもな」と言うと津軽海峡に花を投げて念仏を唱えました。犬飼は自らの身を津軽海峡に投げました。
以上、映画「飢餓海峡」のあらすじと結末でした。
「飢餓海峡」感想・レビュー
-
特に後半、高倉健が出てきてからが一気に引き込まれます。流石です。
また、高倉健と三國連太郎の取り調べのシーンも、迫力があります。
最後の身投げは、「私も本来ならば、あの時死んでいたんだ」という意味も含まっていますよね。 -
「飢餓海峡」.DVDを買って本当に良かった。2回見たけど涙があふれて、、
最後の方で、汽車に乗った犬飼さんが目をつむっている処で、「目から涙がにじんできたシーン」素晴らしいです。そしてラストの青函連絡船から飛び降りるシーン。あれは、八重さんの傍にいこう。八重さんすまなかった」という気持ちであったんでしょう。 -
この映画「飢餓海峡」は、映像実験もあり、力量観あふれる運命劇で、壮大なスケールの人間ドラマの秀作だ。
水上勉の同名小説を、鈴木尚之がシナリオ化し、内田吐夢監督が映画化したものだが、内田吐夢監督は、その持てる力をフルに発揮し、16ミリフィルムを拡大して、実感を強調するなどの映像的な実験も試みて、力量観あふれる運命劇を作り上げている。
物語は、1946年、台風が青函海峡を通過中、一瞬の晴れ間を台風の通過と間違えたため、青函連絡船が転覆し、500人余りの人が死亡した”洞爺丸事件”から幕を開ける。
台風が吹き荒れる中、函館に近い岩内町では大火が発生し、質屋一家が殺害される。
犯人は、洞爺丸事件のごたごたに紛れて、内地へと逃亡したのではとみられた。執拗に犯人を追う刑事を通して、物語は推理ドラマ風に展開していく。
そして、事件発生から犯人逮捕までには7年の歳月が流れる。その間に、人間の在り様は大きく変わっていく。
その変わり様と変わらぬ人間の心を、内田吐夢監督はじっくりと凝視していく。犯人と思しき男は、京都の舞鶴で事業家として成功している。
だが、名前は違っているし、犯行を実証するものもない。
どうやって、犯人を暴いていくのか——-。
そこがクライマックスとなる。事件は、犯人が下北半島に上陸して一夜を共にした女の出現で、解決へと向かう。
女はその時、犯人から大金をもらったことに恩義を感じ、その時の礼を言おうとして、犯人に近づき殺される。女の一途な純な心は、自らを守ろうとする男のエゴで消されていく。
のっぴきならないところに追い詰められていく男と女の関係を、内田吐夢監督はダイナミックに描いていく。犯人は逮捕される。悪は憎むが、悪人の中にも人間の善なる心の一片を知りたいと、事件を追い続けてきた刑事に、犯人はその心情を吐露する。
犯人を演ずる三國連太郎の凄まじいまでの迫力を持った告白の熱演が展開される。
まさに日本映画史に残る、圧倒的な熱演に唸らされる。執念の刑事を演ずる伴淳三郎もいぶし銀のような演技で、一世一代の好演だと思う。
そして、恩を忘れなかった哀しき娼婦役の左幸子も、したたかな演技を繰り広げており、芸達者たちの演技合戦も実に見ものだ。また、伴淳三郎とコンビを組む、若き刑事に高倉健が扮しているが、東映で任侠の男を演じていた頃、健さんは自分の代表作はと問われ、この作品を挙げていたそうだ。
重量感たっぷり、見応えもたっぷりの、日本映画史に残る秀作だと思う。
八重さんがとにかく健気でしたね。
辛い時にも明るく笑顔を忘れずに生きているなんてすごいなあと思いました。
八重さんの心というのは東京の店の主人や様々な人に強く印象に残る者でしたね。
太陽のような存在の彼女が悲惨な目に遭うのは辛かったです。