黒い十人の女の紹介:1961年日本映画。1人の男を巡り、10人の女達が愛憎に塗れた人間模様を見せるサスペンス。風松吉は9人もの愛人を持つ浮気者。ある日愛人の1人から、妻と愛人達の間に松吉の殺害計画が持ち上がっていると聞かされる。焦った松吉は妻双葉と相談し、愛人と手を切るため狂言殺人を行おうとするのだが。90年代に入って高い評価を受け、テレビドラマ等で数度に渡りリメイクされた作品。
監督:市川崑 出演者:船越英二(風松吉)、岸恵子(石ノ下市子)、山本富士子(風双葉)、宮城まり子(三輪子)、中村玉緒(四村塩)ほか
映画「黒い十人の女」ネタバレあらすじ結末と感想
映画「黒い十人の女」のあらすじをネタバレ解説。予告動画、キャスト紹介、感想、レビューを掲載。ストーリーのラストまで簡単に解説します。
黒い十人の女の予告編 動画
映画「黒い十人の女」解説
この解説記事には映画「黒い十人の女」のネタバレが含まれます。あらすじを結末まで解説していますので映画鑑賞前の方は閲覧をご遠慮ください。
黒い十人の女のネタバレあらすじ:妻と8人の愛人
女性の社会進出が始まった時代、東京のとあるアパート。舞台女優石ノ下市子は、愛人のテレビ局プロデューサー風松吉に引退について相談していました。しかし松吉は深刻な話になるといつも逃げてしまいます。この日も逃げられ苛立つ市子のクローゼットから、2人の女が出て来ました。彼女達も市子同様、松吉の愛人です。昨夜市子の部屋に押しかけて来て、一晩中潜んでいたのです。松吉は二枚目の優しい男でしたが、同時に酷い浮気癖を持ち、妻双葉のほかに8人もの女と関係していました。彼女達は互いの存在を知っており、松吉にも呆れていましたが、何故か別れられないでいます。一方、テレビ局ではコマーシャルガールの四村塩と、印刷会社社長の三輪子が取っ組み合いの喧嘩をしていました。彼女達も、それを取り囲む女達も皆松吉の愛人です。冷静になると松吉のことなどどうでもいいと言い捨てる愛人達ですが、彼が他の女と一緒にいるとどうしても腹が立ってしまいます。思いつめた三輪子はレストランを経営する双葉を訪ね離婚を懇願しました。双葉は達観した様子で笑い、「誰かが殺してくれればいいのよ、あの男」と呟きます。
黒い十人の女のネタバレあらすじ:殺害計画
市子は双葉のレストランを訪ね、2階の座敷で松吉を殺害する計画を立てていました。双葉と愛人全員で殺してやろうと企む2人でしたが、本気ではありません。市子から、松吉に10人目の女が出来たと教えられ呆れ返る双葉。10人の女達は着々と冗談の殺害計画を進めます。ところが、松吉と結婚したい三輪子が彼に計画のことを話してしまいました。松吉は真相を確かめるため慌てて自宅に帰りますが、なかなか双葉と話す機会がありません。仕事に忙殺されながら、本当に殺害されるかも知れないと怯える松吉。そこでわざわざ閉店後のレストランに向かい、双葉に「僕を殺す相談してるって?」と尋ねました。双葉はあっさり肯定し、10人の女が協力すれば完全犯罪も可能だと話します。しかしショックを受けつつも全く反省しない松吉に、双葉は冗談だと言うしかありませんでした。すると松吉は、その計画を利用して狂言殺人を行おうと持ちかけます。双葉が殺害する振りを、松吉が殺害された振りをするのです。そうすれば愛人達とは一斉に縁が切れるだろうと言われ、双葉はその提案に乗ることにしました。
黒い十人の女のネタバレあらすじ:狂言殺人
計画決行の日。レストランの2階に、松吉と10人の女達が集まりました。市子達はあくまでも松吉を糾弾する席だと思っています。そこで双葉は松吉が入手したピストルを取り出し、愛人達の前で発砲。倒れた松吉を見て愛人達は我先にと座敷から逃げ出します。双葉は自分1人が責任を負うと告げ、その代わりに今後一切の関わり合いを拒みます。愛人達は同意してレストランを出て行きますが、三輪子は松吉の死に大きなショックを受けていました。市子に促されその場を去る三輪子。座敷に戻った双葉は、起き上がった松吉を前に空砲ではなく実弾なら良かったと泣き崩れるのでした。
黒い十人の女のネタバレあらすじ:それぞれの決断
松吉は病気と偽り仕事を休んでいました。誰にも見つからないよう、双葉の世話を受けながらひっそり暮らす毎日です。ところが半月後、思わぬ事件が起こります。松吉の死を信じた三輪子が後追い自殺をしてしまったのです。塩達は警察の捜査が自分達にも及ぶのではないかと焦り始めました。そしてしばらくして、ついに風夫妻の嘘が愛人達に露見します。愛人達は夜道で双葉を取り囲み一斉に責めました。しかし双葉は、隠遁生活を送る松吉にすっかり愛想を尽かしてしまい、欲しい人が引き取れば良いと言い出します。そこで「私が引き受けるわ」と声を上げたのは市子です。彼女は松吉を、皆の目の届かないところへ閉じ込めておくと約束。双葉達も納得しますが、幽霊になった三輪子だけが、誰にも聞こえない恨み言を連ねていました。
黒い十人の女の結末:再出発と再起不能
市子は女優を引退し、古い家を買って松吉と暮らし始めます。松吉はそろそろ仕事に復帰したいと思っていましたが、テレビ局には市子が既に依願退職の届けを出していました。そして松吉が社会に戻るなら、狂言殺人を明るみに出すと言って脅します。双葉からも離婚されたと知った松吉は頭を抱えました。市子は面白そうに、松吉の生活費は双葉と愛人達が出しているのだと教えます。自分は社会機構の被害者だと泣き崩れる松吉。そんな彼を放って市子は2階へ行ってしまい、残ったのは三輪子の幽霊です。彼女は松吉が死亡したらすぐに迎えに来ると言って消えました。後日、市子の送別会に双葉達が現れ、花束を渡して祝福します。市子は双葉と握手をして車に乗り込みました。市子は反対車線で炎上している事故車には目もくれず、ただ前を見つめています。市子の車が暗い夜道を走る中、この映画も終幕を迎えます。
以上、映画黒い十人の女のあらすじと結末でした。
男(船越英二)は、テレビ局の腕利き社員だ。妻(山本富士子)は、小綺麗なレストランを経営している。
男には愛人が九人もいる。新劇女優(岸恵子)や印刷会社の社長(宮城まり子)やCMモデル(中村玉緒)や演出助手(岸田今日子)など、色とりどりの女たち。
優柔不断だが、こまめで愛想のよい男は、彼女たちの間を漂流している。
だが、互いの存在を知った女たちは、共謀してある計画を立てる。
こんなに私たちを苦しめる男など、この世から消えてもらってしまおう、というのがその結論だ。
まるでセバスチャン・ジャプリゾやパトリシア・ハイスミスのミステリ小説に出てきそうな設定だが、それもそのはず、市川崑監督と脚本の和田夏十の夫婦は、こういうプロットを練り上げ、多彩な技巧を駆使する映画作りを得意としていたのだ。
その才気は、この「黒い十人の女」でも著しい。
市川崑監督が得意とする、表現主義の光と影を思わせるハイコントラストの白黒映画。
あるシーンと次のシーンが溶け合うような転換。
だが、私が特に魅了されたのは、この華麗な技巧の数々よりも、どこか異様で不敵なユーモア感覚を湛えた山本富士子の存在だ。
当時、”美人女優”のレッテルを貼られ続けてきたせいか、この女優のユーモア感覚は、意外に過小評価されていたと思う。
だが、彼女の芝居は観ていて、実に楽しいのだ。楽しいだけでなく、器量を忘れて役に入り込む捨て身の気配も感じられる。
この映画を”才気の浮き上がり”から救ったのは、山本富士子の不敵な存在が放つ、黒い笑いだと思う。