巨人と玩具の紹介:1958年日本映画。増村保造の初期の代表作。広告業界の熾烈な競争ぶりを通し、文明社会の疎外感を鮮やかに描いている。公開当時好評を博し、キネ旬のベストテンで10位に入選した。原作は開高健の短編。
監督:増村保造 出演:川口浩(西洋介)、高松英郎(合田竜次)、野添ひとみ(島京子)、山茶花究(東隆三)、藤山浩一(横山忠夫)、信欣三(矢代光平)
映画「巨人と玩具」ネタバレあらすじ結末と感想
映画「巨人と玩具」のあらすじをネタバレ解説。予告動画、キャスト紹介、感想、レビューを掲載。ストーリーのラストまで簡単に解説します。
映画「巨人と玩具」解説
この解説記事には映画「巨人と玩具」のネタバレが含まれます。あらすじを結末まで解説していますので映画鑑賞前の方は閲覧をご遠慮ください。
巨人と玩具のネタバレあらすじ:起
背広姿の勤め人たちが、ワールド製菓のビルの前を歩いていきます。その様子を上階の部屋から眺めているのは、専務である東隆三。壁には主力製品であるキャラメルの売上がグラフとなって記されています。右肩下がりで、東の機嫌もよくありません。宣伝部部長である矢代は「宣伝が良くないからだ」と責められますが、実質的に宣伝部を牛耳っているのは課長の合田でした。ライバル社とクツワを並べての特売キャンペーンが迫る時期になって、合田は新入社員の西洋介を抜擢。自分の右腕としてキャンペーンの実務に当たらせることにします。合田は今までにない宣伝プランを思いつこうと苦慮していましたが、ちょうど西と一緒に喫茶店に入った時、そこにいた野生児のような女の子を見てアイデアが閃きます。
巨人と玩具のネタバレあらすじ:承
彼女の名前は島京子。下町のタクシー会社の事務員でした。合田は有名カメラマンの春川に彼女の写真を撮らせ、それを週刊誌のグラビアにすることで京子をタレントとして売り出します。これまでにない個性を持った女の子として京子はたちまちマスコミの注目の的に。やがて女優、ファッションモデルとしても活動するようになります。合田としては彼女の人気が盛り上がった時にワールド製菓のキャンペーンガールとして起用し、キャラメル宣伝の起爆剤とするつもりでした。西は合田の言いつけで京子のマネージャー仕事もやらされます。西に恋心を抱く京子は彼といつも一緒にいられて上機嫌ですが、仕事と割り切っている西にとってはただ迷惑なだけです。
巨人と玩具のネタバレあらすじ:転
やがて特売キャンペーンが始まります。京子は宇宙服を着せられ、宣伝のために町中を行脚。ジャイアンツやアポロ製菓といったライバル会社も、プロレスラーを起用したり、子供のための生活資金を提供するなど、それぞれ特色ある宣伝を打ってきました。ジャイアンツ・キャラメルの宣伝マンは、よりによって西の大学時代の親友である横山。友情をそっちのけに2人はキャンペーンに奔走します。特売が進むにつれ、売上はアポロが優勢だということが判明。疲労の溜まっている合田は覚せい剤とトランキライザーに頼りながらさらに次の手を模索しますが、なかなか売上は伸びません。しかしそんな最中、アポロの川崎工場が全焼。ここで逆転しようとワールドはキャラメルを増産します。しかし、あまりに多忙な合田の精神は徐々におかしくなっていきます。
巨人と玩具の結末
一方、京子はさらにタレントとしての人気が急上昇。合田や西へも契約について厳しいことを言ってきます。背後に誰か入れ知恵する男がいると察した西はその身辺を探索しますが、その正体は何と親友の横山でした。彼は京子と男女の仲になり、ジャイアンツを辞めてそのマネージャーに転身していたのです。すっかり利潤を追いかける俗物となった横山を西は責めますが、西の方こそ組織の歯車としていいように使われているだけです。ショックを抱えて会社へ戻った西に対し、合田は色仕掛けで京子をいいなりにさせろと命令します。しかし西はもう宣伝仕事にウンザリし、言いなりにはなりません。西を責めていた合田はやがて半狂乱となり、血を吐いて笑い始めます。会社を出た西は虚しさを感じながら京子の着ていた宇宙服を着ると、サラリーマンであふれた街中を歩いていくのです。
「巨人と玩具」は増村保造の徹底した批判精神とアイロニカルな本質に貫かれた一種の戯画(カリカチュア)である。原作者の開高健は、後の売れっ子作家山口瞳と共にサントリーの宣伝部にいた。なので、本作で描かれる「製菓メーカー」宣伝部の猛烈社員の描写が殊の外リアルなのである。頃は正に高度成長期(神武景気)の真っ只中で、猫も杓子も「あすなろ」(明日はもっと良くなる:上昇志向)を「是」としていた頃の話である。何事も「意気込み」は良いGoodだが、「行き過ぎ」は禁物Badなのである。課長役の高松英郎のエネルギッシュな熱量と、専務役の山茶花究の硬軟自在の変則振りには終始圧倒された。昭和の映画界は芸達者な役者に恵まれていたものだなと再認識させられたのである。準主役の野添ひとみは、不気味なくらいの野生児ぶりを発揮していてセクシーであり面白くもあった。野添ひとみ(島京子)の原始人の迫力と天真爛漫な少女の魅力が複雑に交差して弾けていたのである。昭和という時代の猥雑な喧騒(騒乱)と、デモーニッシュな「経済原理主義」をマンガ(カリカチュア)にして笑い飛ばした増村保造の眼力と胆力と才能には敬服するしかあるまい。「巨人と玩具」は極上のエンターテイメントであり、シュールでキッチュな風刺喜劇(或いはトラジコメディー)なのである。