ノマドランドの紹介:2020年アメリカ映画。2021年の第93回アカデミー賞で最優秀賞である作品賞・監督賞・主演女優賞の3部門最多受賞。リーマンショック後、企業の倒産とともになくなったネバダ州の企業城下町エンパイア。ここに暮らしていた60代の女性ファーンは長年住み慣れた家を失ってしまう。途方に暮れたファーンだったが、キャンピングカーに最低限の生活必需品を積み込み車上生活『現代のノマド』として生活をはじめる。日雇いの職を求め往く先々で出会うノマドたちとの交流とともに、誇りを持って自由を生きる彼女の旅は続いていく。2020年ベネチア国際映画祭で金獅子賞を受賞。トロント国際映画祭でも最高賞の観客賞を受賞した。
監督:クロエ・ジャオ 出演:フランシス・マクドーマンド(ファーン)、デヴィッド(デヴィッド・ストラザーン)、リンダ・メイ(リンダ・メイ)、シャーリーン・スワンキー(スワンキー)、ボブ・ウェルズ(ボブ)ほか
映画「ノマドランド」ネタバレあらすじ結末と感想
映画「ノマドランド」のあらすじをネタバレ解説。予告動画、キャスト紹介、感想、レビューを掲載。ストーリーのラストまで簡単に解説します。
ノマドランドの予告編 動画
映画「ノマドランド」解説
この解説記事には映画「ノマドランド」のネタバレが含まれます。あらすじを結末まで解説していますので映画鑑賞前の方は閲覧をご遠慮ください。
ノマドランドのネタバレあらすじ:起
リーマンショックに端を発する未曾有の経済危機が全米を襲い、ネバダ州エンパイアのUSジプシム社で成り立つ企業城下町は工場が閉鎖されたことで、町は死に住民は退去を迫られました。やがて郵便番号も消されてしまいます。
ここで長年働いていた夫を最近亡くした60代のファーンは、家財道具を売り払ってキャンピングカーを買い、車上生活をはじめました。
季節労働のない冬の間はAmazonの倉庫で仕事をして生活費を稼いでいました。倉庫での仕事は決して楽ではありませんでしたが、先輩キャンパーのリンダ・メイをはじめとして多くのノマド仲間と楽しく仕事ができる環境でした。
ある日、ファーンはリンダに誘われノマド生活者のイベント「砂漠の集い」に参加しました。このイベントは著名なノマド生活者で作家や、ユーチューバーとして活躍しているボブ・ウェルズがノマド生活者を支援する目的のために催されているイベントでした。
最初は参加に乗り気ではなかったファーンでしたが、たくさんのノマド生活者と知り合うことができ、車上生活をする上での知恵や技術を学ぶ機会にもなり、充実した時間になりました。
ノマドランドのネタバレあらすじ:承
イベントは終了し、ほとんどの人が砂漠を出て行きましたが、ファーンはしばらく残っていました。すると車のタイヤがパンクしていることに気付きます。近くに停車していた70代のノマド生活者スワンキーに助けを求めました。スワンキーは疎ましそうにこの生活の基本を知らないファーンをとがめつつも、彼女を助けてくれました。
共に時間を過ごすうちに2人の仲は深まりました。
スワンキーは末期の癌に侵されていました。しかし彼女は言います。「病室で残された人生をすごすより、ノマドとして旅して再びカヌーの旅をしたい」と。しばらくして、スワンキーは旅発ちました。
ファーンはリンダとサウスダコタ州にあるバッドランズ国立公園のキャンプ場で仕事を始めました。そこでは「砂漠の集い」で知り合ったデヴィッドとの嬉しい再会もありました。
3人は共に仕事をし、友情を深めていきました。
しばらくすると、リンダは次の地を求めキャンプ場を後にしました。ファーンは寂しさからデヴィッドに当たることもありましたが、そんな彼女をデヴィッドは優しく受け止めるのでした。
その後、2人は公園に併設されたレストランで働くことになりました。そこへ、突然デヴィッドの息子が現れました。息子はもうすぐ子供が生まれることを機に父親に帰ってきてほしいというのです。長らく親をしてこなかったデヴィッドは困惑し、迷います。しかしファーンはそんなデヴィッドを勇気づけ、家族の元へ行くことを勧めました。
ノマドランドのネタバレあらすじ:転
ファーンは次に食品の加工工場で働くことにしました。
順調に仕事をこなしていた矢先、ファーンの車が故障してしまい、修理費が必要となってしまいました。ファーンにはとても払える金額ではなく、妹に借りるためカルフォルニアへ向かいました。
妹は嫌がる様子もなくお金を貸してくれましたが、長年疑問だったことをファーンにぶつけます。「なぜ家族と一緒にいなかったのか?」と。頼られたかったし一緒にいてほしかったと言う妹でしたが、それと同時に、この生活を選択し自立して生活を送っているファーンを尊敬しているとも告げるのでした。
ファーンは妹に別れを告げ、デヴィッドが家族と住む家を訪ねることにしました。生まれたばかりの孫をあやすデヴィッドに、ノマド生活をしていたときの影がありませんでした。デヴィッドの好意でしばらくゲストルームに滞在させてもらうことにしたファーンでしたが、ベッドより車内で寝ることを好み、ここに自分の居場所はないと感じます。
そして数日後、朝早くファーンはそっと旅立ちました。
ノマドランドの結末
時は過ぎ、再びAmazonの倉庫での仕事に戻ってきたファーン。また今年も行われる「砂漠の集い」に参加し、そこでスワンキーの死を知りました。仲間と火を囲み、炎に石を投げ入れて彼女を弔いました。スワンキーが亡くなる前に目的の地へ行けことは少なからずファーンを慰めました。
イベントが終わったところへ、主催者のボブがファーンに声をかけてきました。2人は互いの話をしました。ファーンはいつまでも亡き夫との思い出から離れることができないと話すと、ボブは5年前に息子が自殺をしたことを話しました。そして今日は息子が生きていれば33歳となる誕生日でした。
ボブは続けます。「ノマドのいいところは”さよなら”がないことだ。別れる時はいつも”またね”と言い、決してさよならとは言わない」と。そして、必ず夫とまた会える、と伝えました。
この言葉に癒されたファーンは、ゴーストタウンと化したエンパイアへ向かいました。倉庫に入れていた荷物を処分すると、夫が勤めていた工場や夫と長年暮らした家を訪れ、ここに生活があった日々を想います。広大な自然を前に、気持ちが吹っ切れたかのように町を発つファーンでした。
以上、映画「ノマドランド」のあらすじと結末でした。
「ノマドランド」感想・レビュー
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愛する誰かを失ったひと、自分の余命を悟ったひと…「自分の力ではどうにもならない何か」を抱えなければ、なかなか共感できないストーリーかもしれません…。わたしにとっては、忘れられない映画になりました。
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こんな生き方もある、普通を窮屈と考える人もいる、家族より仲間の人もいる、それぞれ価値観が違うと、改めて考えさせられます。私は安定を求めますが…動かない家がいいです。
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「ノマドランド」という映画の感想をまとめることは非常に難しい。この映画に関して語りたいことが余りにも多過ぎて中々うまくまとまらないからだ。この作品の中には様々な要素が点在している。それらを拾い上げて一つ一つのパーツを繋ぎ合わせることには無理があるのだ。しかしその一方で、この画期的な映画について沈黙を貫くことが賢明だとも思えない。まとまりのない「駄文拙文」は覚悟の上で、この映画についての感想を思いつく限り列挙してみたい。「ノマドランド」は極めてスピリチュアルな作品だと思う。人間に宿る「魂」が抜け出して、その純粋な「魂」が自動車に乗って旅をする。「ノマドランド」は人に宿る純粋な「魂」の旅の物語なのである。「ロードムービー」という分野では、人生のプロセスを描くドキュメンタリータッチの佳作を多く見受ける。ところがこの映画はドキュメンタリータッチではなく、ドキュメンタリーそのものなのである。一部を除き、ほぼ全員が本物の「ノマド」であり「車上生活者」なのである。「ノマドワーカー」或いは「季節労働者」と呼ばれる社会の底辺で生きる人々の素朴な暮らし。この、或る種の人々にとっては過酷でしかない車上生活も、「ノマド」にとっては自由気ままな楽園にも成り得る。部外者(他人)には決して解らない「幸福」がそこにある。「幸福感」や「至福感」は人によってそれぞれ違うものなのだ。なぜなら、人生の「意味」や「価値」は、金品や財産だけで論じることができないからである。「人生の悲哀」など酸いも甘いも知り尽くした老人たちが、合宿キャンプで絶妙の距離を保ちながら共に助け合って生きている。この作品は人間の本質を見極め、人生の意味などを達観している「真の大人」たちが奏でる「コンチェルト」なのだ。高齢者にとってはキャンピングカーやバンなどが、そのまま「終の棲家」(ついのすみか)となる。そう、ここ「ノマドランド」は人生の終着駅でもあるのだ。それでもここの老人たちは、「人間の尊厳」や「個人の価値観」を重んじ、「自己流の生き方」を貫き、何物にも束縛されず誰からも干渉されない「真の自由」を謳歌しょうとする。「ノマド」と言う究極の生き方を選択した、健気で勇気ある人々の「人間ドラマ」でもある。この作品の脚本を手掛け監督をしたクロエ・ジャオは、「お涙頂戴」の安易な「センチメンタリズム」を持ち込まず、映画の流れを優先してスムーズに淡々と描き切っている。映像の美しさと共に、このナチュラルでスムーズなタッチが実に心地よい。主役を務めるフランシス・マクドーマンドも完全にこの映画の世界に溶け込んでいた。映画化権を手に入れたのも、クロエ・ジャオを監督に起用したのも、制作者に名を連ねるマクドーマンドの功績である。だからこそマクドーマンドは空気や水のように映画に溶け込んでいたのである。フランシス・マクドーマンドの非凡な才能はコンパクトには語り尽くせない。その非凡なマクドーマンドが主演を務めた映画の中で特に印象に残っている作品は、「ファーゴ」、「ペティグルーさんの運命の1日」、「スリー・ビルボード」の3本だ。ところで、この作品のサブテーマは昨今の行き過ぎた管理システムや、過干渉へのアンチテーゼではないだろうかとも考えている。「ノマドランド」と言う作品は派手なパフォーマンスやこれ見よがしのスタンドプレーとは無縁だが、「人生と言う壮大な作品」のプロットを把握してその行間を丁寧に読み込むことで「金字塔」を打ち立たのである。60代半ばの初老の男には、この作品で描かれている「世界の隅々」までが痛いほど解る。若い世代の人々が鑑賞しても、今ひとつ「ピン」と来ないのではなかろうか。今20代、30代の人も、拙速に結果を出さずにこの映画を寝かせておいて、齢を重ねてから何十年後にでもまた鑑賞して欲しいと切に願っている。
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この映画は40歳代だとあまり共感出来ない映画かも知れません。還暦を過ぎて一人になると自分自身のストーリーになります。最後に自分がいた町に帰ってきた時は涙無くしては見られません。久しぶりのアカデミー賞らしい映画です。
感情移入も、共感も難しく、??でした
人には多様な生き方があるとは思いますが・・・