鬼婆の紹介:1964年日本映画。南北朝時代を舞台にした名匠・新藤兼人監督によるホラー作品で、海外で最も有名な日本映画のひとつ。特にウィリアム・フリードキン監督はこの映画の大ファンとして知られ、自作の「エクソシスト」でもその影響を見せている。
監督:新藤兼人 出演:乙羽信子(中年女)、吉村実子(若い女)、佐藤慶(八)、殿山泰司(牛)、宇野重吉(鬼面の武将)、松本染升(落武者)
映画「鬼婆」ネタバレあらすじ結末と感想
映画「鬼婆」のあらすじをネタバレ解説。予告動画、キャスト紹介、感想、レビューを掲載。ストーリーのラストまで簡単に解説します。
映画「鬼婆」解説
この解説記事には映画「鬼婆」のネタバレが含まれます。あらすじを結末まで解説していますので映画鑑賞前の方は閲覧をご遠慮ください。
鬼婆のネタバレあらすじ:起
南北朝時代、一面のススキの原を刀折れ矢尽きた落武者が2人、おぼつかない足取りで進んできます。そこへ槍が一閃、腹を刺された彼らはあっという間に絶命します。死体の脇に姿を現したのは、意外にも中年の女と若い女の2人でした。彼女たちは死体から鎧と刀を剥ぎ取り、死体を引きずって近くにある深い穴に捨てます。それからススキの原のど真ん中にある掘っ立て小屋に帰り、そのままいびきをかいて寝てしまいます。翌朝、2人は鎧と刀を背中のカゴに載せ、近くの洞窟へ。そこには武器を買い取る商人・牛が居を構えていました。鎧と刀を粟に替え、彼女たちは小屋に戻ります。さっそく粟を炊いて食べているところに突然ある男が入ってきました。それはかつての隣人で、戦争に駆り出されて行方不明になっていたハチという男です。空腹を訴えガツガツと粟をかっ込み始めたハチに、中年女は「息子はどうなった?」と訊ねます。
鬼婆のネタバレあらすじ:承
中年女の息子はハチと一緒に侍たちに連れて行かれたのです。若い女にとっては夫に当たります。期待も虚しく、ハチは息子とは離れ離れになったため、その消息を知りません。「自分の身を守るので精一杯だった」と答えるばかりです。若い女は諦め顔になりますが、中年女はハチの顔を不審げに睨みつけます。翌日、若い女が川で洗濯しているところへハチがやってきます。長い間女と無縁だった彼は彼女にちょっかいをかけようとするのですが、折り悪く中年女がやってきてハチに釘を差します。そこへまた2人の落武者が出現。溺れそうになった彼らを女たちとハチが一緒になって殺し、鎧と刀を剥ぎ取ります。牛のところで武器を売ったあと、ハチと女たちは一緒に食事を摂ります。ハチは「これからも一緒に落武者狩りをしよう」と持ちかけますが、中年女はそれを拒否。しかし、若い女の方は満更でもない様子です。
鬼婆のネタバレあらすじ:転
翌日、水くみをしている若い女に近づいたハチは、夜に自分の小屋へ忍んでくるように誘います。そして中年女が寝てしまったあと、若い女はススキの原を走ってハチの小屋へ。お互いに性欲を持て余していた2人は激しく求め合います。それからというもの、女は毎夜のようにハチの家へ向かうことに。中年女は彼女の行動に勘付きますが、表立って叱りつけると、自分の元を去ってハチと同棲を始めるかもしれません。それでは暮らしが立たないため、何とか2人の逢瀬を妨害しようと頭を捻ります。そして策に窮した彼女は「自分を抱かないか」とハチを誘惑するのですが、鼻であしらわれてしまいます。また若い女がハチの家へ出かけた時でした。中年女がその気配に起き上がった時、小屋の中に新たな落武者が現れます。その侍は顔に鬼の面をつけていました。中年女は脅されて道案内をしますが、策略で落武者を穴へ墜落させます。縄で穴の底へ降りた女は落武者の鬼面を奪いますが、その下にある顔は病のせいで醜く崩れていました。
鬼婆の結末
その次の夜、また若い女がハチのところへ走っていこうとすると、その前に鬼が立ちはだかります。悲鳴を上げて小屋に逃げ帰る女。もちろん、その鬼は中年女が奪った鬼面で変装した姿です。このせいでしばらく若い女は夜中も小屋に閉じこもって出かけなくなります。しかし幾夜かすぎると、性欲に耐えかねて若い女が再び外へ。また中年女は鬼面を付けて若い女を脅しつけます。ところが小屋に帰って面を取ろうとしても、なぜか顔に張り付いたままです。若い女に事情を話し、頼んで取ってもらおうとするのですが、まるで肌と一体になったようでどうしようもありません。中年女に腹を立てていた若い女は鎚で叩いて無理やり面を剥がしますが、その顔はあの落武者のように醜くただれていました。その気味悪さに逃げ出す若い女。中年女は「私を見捨てないでくれ」といいながらその後を追いかけます。その頃、ハチは自分の小屋に入り込んだ落武者に槍で突かれて死んでいました。
ありそうな話だと、思った。戦さ場から戻った男と、戦で亭主を亡くした女が、求め合うのも。落武者を殺して、その鎧刀を売って、喰ひ繫ぐのも。戦乱の世の、民草の実態が描かれている。好きな映画だ。