雄呂血の紹介:1925年日本映画。久利富平三郎こと坂東妻三郎が、堪えに堪えたあげく、最後に刀を振りかざして、敵役を叩き斬る凄まじいラストシーンが用意されています。並みの芸当ではない坂妻の殺陣と運動能力がこの映画の迫力を生み出していますが、のちのチャンバラ時代劇に大きな影響を与えたと言われる殺陣シーンもさることながら、誤解と曲解から道を逸れていく男の哀しい横顔を映して阪東妻三郎の名演が光ります。
監督: 二川 文太郎 出演者:阪東妻三郎(久利富平三郎)、(漢学者・松澄永山)、環歌子(娘・奈美江)、春路謙作(夫・江崎真之丞)、山村桃太郎(浪岡真八郎)、 中村琴之助(二十日鼠の幸吉)、嵐しげ代(にらみの猫八)、安田善一郎(うすばかの三太)、森静子(お千代)ほか
映画「雄呂血」ネタバレあらすじ結末と感想
映画「雄呂血」のあらすじをネタバレ解説。予告動画、キャスト紹介、感想、レビューを掲載。ストーリーのラストまで簡単に解説します。
雄呂血の予告編 動画
映画「雄呂血」解説
この解説記事には映画「雄呂血」のネタバレが含まれます。あらすじを結末まで解説していますので映画鑑賞前の方は閲覧をご遠慮ください。
雄呂血のネタバレあらすじ:起
冒頭、以下のような警世が画面に現れます。
世人・・・。
無頼漢(ならずもの)と称する者、必ずしも真の無頼漢のみに非(あら)ず。
善良高潔なる人格者と称せらるる者、必ずしも真の善良のみに非ず。
表面善良の仮面を被り、裏面に奸悪を行う大偽善者、亦(また)我等の世界に数多く生息する事を知れ・・・。
時代は享保の頃。江戸時代の中期です。さる小藩の城下に、久利富平三郎という名のいささか融通の利かない単細胞がおりました。この若侍、自らを正義感の強い男だと自認しています。が、放っておけば済むことに、済まぬと面子を重んじ、要らぬ諍いへ発展させてしまうのが常でした。
城下の若侍たちの多くがそうであるように、平三郎も、漢学を学ぶために松澄永山という人の塾へ通っています。その日は、師・永山の誕生会でした。会が開け、無礼講に興じていた家老の倅・浪岡が、酔って平三郎にちょっかいを出してきました。怒った平三郎は、浪岡に乱暴を働いてしまいます。
二度とおなじ過ちを犯さないようにと、師・永山がきつく叱責しますが、どうにもこの男、厄介事を招きやすい性格です。その後もまた、城下で師・永山を誹謗していた若侍3人をのしてしまいました。他愛のない中傷と噂ばなしなので、放っておけば済むものを、一本気な性格が見過ごすことを許しません。
乱暴狼藉の絶えぬ男だと、師・永山から破門を言い渡されてしまいました。あげく、かねてから恋情を抱いていた永山の愛娘・奈美江にも袖にされてしまいます。さらに悪いことには、これら騒動の沙汰が城主の耳に入り、看過できぬと主従関係を解かれ、浪人の身となってしまいました。
雄呂血のネタバレあらすじ:承
頼るアテもなく藩を出た平三郎は、山河を超えて街道筋を進みます。藩を出たくて出たわけではありません。また、決して藩を追い出されたわけでもありません。いたたまれずに故郷をあとにしたのでした。柔軟な生き方が不得手な平三郎はどこへ行っても職に就けず、その後、落魄してしまいました。
どのくらいの月日が流れたのでしょうか。江戸へたどり着きました。平三郎の着ている衣服はボロボロ、手にする三度笠も風雨で綻んでいます。旅装束をきちんと整えて故郷を出た頃の面影はなく、見た目はすでに乞食のあり様です。往来をいずこへと先へ行くと、小料理屋の店先へたどり着きました。
「吉の川」と暖簾を掲げる店の前の道を娘がほうきで掃いています。どことなく美奈代に似た面影をもつこの娘はお千代と呼ばれています。「まさか美奈代・・・」と食い入るように見つめる平三郎にお千代は怪訝な面持ちです。無理もありません。平三郎の相貌はやつれ、目ばかりが異様な光を帯びています。
店を離れ、しばらく歩いて行くと、羽目を外した武士に出会いました。平三郎は、よほど武士と相性が悪いのでしょう。ここでも武士に辱めを受けてしまいます。怒った平三郎が暴れだすと収取がつかなくなります。大勢の十手持ちや役人に、お千代の目の前で捕縛され、牢屋へ入れられてしまいました。
雄呂血のネタバレあらすじ:転
平三郎の頭からお千代の面影が離れません。牢屋を出てからも、お千代と生活することを夢見て思案を重ねていると、牢の中で知り合った二十日鼠の幸吉が期せずして現れます。再会を喜ぶ幸吉が「ぜひうちへ」と熱心に招いてくれます。その日から、平三郎は幸吉のもとに草鞋を脱ぐことになりました。
幸吉は、小さいながら泥棒の一家を構えます。いわば町のチンピラですが、この一家の用心棒として迎えられることになりました。ボロのなりから侠客姿に変わった平三郎が、幸吉たちとお千代の店へやって来ます。平三郎は、お千代に夢中ですが、お千代は悪い予感でもするのか、取りつくシマがありません。
案の定、幸吉の子分、うすばかの三太が酔客相手に騒ぎを起こします。割って入った平三郎が喧嘩の勢いに油を注ぎ、騒ぎはいっそう大きくなりました。十手持ちや役人が駆けつけ、またも平三郎は縄に掛けられてしまいます。その一部始終を見ていたお千代は、平三郎を本当の悪党だと思うようになりました。
この日を境に、平三郎を見る町人たちの目が際立って険しくなりました。往来で平三郎を見た母親は子の手を引き寄せ、男は恋人を背中に隠します。年端のいかない子どもから老いた男女まで、町人総出で平三郎を与太者扱いです。お千代もまた、往来で平三郎を見かけると、さっさと逃げ出します。
見かねた幸吉が「女はこう扱うんだよ」とばかりにお千代をさらってきました。驚いた平三郎を尻目に幸吉は「女なんか、テメエ次第だ」とけしかけますが、初心な平三郎はお千代をどう扱っていいか分かりません。そこへ幸吉の罪状を調べに現れた役人と同心たちに、またも縄を掛けられてしまいました。
雄呂血の結末
ある夜、牢を脱してお千代に会いに行ってみると、すでにお千代は人の妻になっていました。脱獄した平三郎を探して多くの追手が迫ります。捕吏を振りきって逃げた先は侠客の次郎三一家の屋敷でした。次郎三は、義侠心の強い男だと世間でも評判の親分です。平三郎は、次郎三に匿われることになりました。
しかし、次郎三には、表の顔と裏の貌とがありました。裏の貌とは、素人娘を籠に乗せてさらってきて、手籠めにかけることです。いくら外道でも、そこまでするかと、まともな人間なら顔をしかめたくなってきます。平三郎は、折に触れ見かけるその光景に、次郎三への不信感を募らせていました。
そんな折、旅の急病人だという男と、その夫に連れ添う若い女房とが次郎三の屋敷に担ぎこまれてきます。女房のほうは、平三郎が故郷にいた頃に恋情を抱いた奈美江です。次郎三は、夫の介抱にかこつけて奈美江を手籠めにかかります。平三郎が「やめてくれ」と何度懇願しても、奈美江を手離そうとしません。
怒り心頭の平三郎は、次郎三一家を刀1本で皆殺しにします。が、すでに与力や同心が次郎三の屋敷を二重に取り囲んでいました。襲いかかる追手を叩き殺しても、蹴倒しても、追手の数は増えるばかりです。いかにも平三郎らしく町内を暴れまわりましたが、最後には手にかけた死体を見て虚無感に陥ります。
町の人たちは、札付きの極悪人が捕らえられたのを見て皆、安堵します。同心たちに引きずられた平三郎がお千代を見つけ、何ともいえない笑みを浮かべます。お千代は恐ろしさに身を竦めました。哀しい恋の終わりの日でした。ただ一組、奈美江とその夫だけが、平三郎に手を合わせ、跪いて感謝の意を表していました。
以上、映画「雄呂血」のあらすじと結末でした。
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