ハドソン川の奇跡の紹介:2016年アメリカ映画。英名タイトルは「SULLY」で、これは機長の愛称です。本名をチェスリー・サレンバーガーなので、「サリー」と呼ばれているようです。2009年1月15日、両エンジンの故障によるアクシデントで155人を不時着水によって救った機長と副操縦士が一転して、被告人として描かれる、いわば法廷劇のような映画です。果たして、彼は英雄かペテン師なのか?
監督:クリント・イーストウッド 出演:トム・ハンクス(チェズレイ・“サリー”・サレンバーガー)、アーロン・エッカート(ジェフ・スカイルズ)、ローラ・リニー(ローリー・サレンバーガー)、ほか
映画「ハドソン川の奇跡」ネタバレあらすじ結末と感想
映画「ハドソン川の奇跡」のあらすじをネタバレ解説。予告動画、キャスト紹介、感想、レビューを掲載。ストーリーのラストまで簡単に解説します。
ハドソン川の奇跡の予告編 動画
映画「ハドソン川の奇跡」解説
この解説記事には映画「ハドソン川の奇跡」のネタバレが含まれます。あらすじを結末まで解説していますので映画鑑賞前の方は閲覧をご遠慮ください。
詳細あらすじ解説
「ハドソン川の奇跡」ネタバレあらすじ:1.悪夢
配給元のワーナー・ブラザーズのロゴマークが出ている最中、音が聞こえてきます。どうやら、飛行機のコクピット内の音声で、緊急事態のようです。メーデー・メーデー・メーデー(3回言う必要があります。)プルアップ(機首上げろ)。日航機123便の最後の30分音声の後半によく聞く機械音声声です。映像が出るといきなりジャンボ・ジェット機が落ちていました。しかも市街地に向かってです。2001年の911(アメリカ同時多発テロ)の惨劇のように、飛行機がビルの1つにぶつかり、爆発炎上しました。そこで男が目覚めました。この映画の主人公であるサリー機長です。(PTSD<精神的外傷>はクリント・イーストウッド監督の1つのテーマであったりします。「父親たちの星条旗」「グラントリノ」「アメリカンスナイパー」など戦争経験のある元兵士達は必ず発症し、その克服との戦い<日常>を描いてきました。)彼は、夢であることに気づいて、ホッとしつつも、もう眠れそうにありません。どうやらホテルの一室のようです。寝汗をシャワーで洗い流し、黒いジャージに着替え、外に出ました。ジョギングをするためです。しかし、寝起きから1時間以内は脳も身体も起きていません。そのためか、車が来ているのにも気づかずに横断歩道を渡ろうとして、「バカやろう。どこ見てやがる」と怒鳴られて我に返ります。車が行った後、横断歩道を走って渡ります。ここで少し気になったのは信号がついてなかったこと。まだ夜明け前のため、歩行者信号が点灯していないのかもしれません。日本の地方ではよくあることですが、ニューヨークでもそうなのでしょうか?ここで「SULLY」のタイトルが出ます。ホテルに帰ると、すぐパイロットの制服に着替えて出かけます。それはNTSB(国家運輸安全委員会)の査問会でした。航空会社や保険屋に変わって彼らが事故の原因究明のために、パイロットの人的要因(ヒューマンエラー)を調べるのです。でも、この映画ではかなり失礼な人物として悪意を持って描かれています。本来、この手の人たちは先入観なく、事故調査するために、中立の立場で意見陳述をするのですが。映画を分かりやすくするためかもしれません。何故こうなったか、一番最後に、ネタばらしをします。恐らく彼らの名前は、チャールズ・ポーター、ベン・エドワーズ、エリザベス・デイヴィスと言う名の調査員なのでしょうが、今回の映画では憎まれ役です。1人はスキンヘッド、もう一人は女性、後一人は、ヒゲの男だった気がします(あまり目立たないので覚えてません)。実際、無事、胴体着陸を成功させた名パイロットでも、キロとガロンの計算を間違って、少ない燃料で危機を招いた機長もいました。整備ミスもあります。そーゆーことを調べるのがNTSBの仕事です。
「ハドソン川の奇跡」ネタバレあらすじ:2.戦闘開始
サリー機長とジェフ副機長が一室に招かれ、NTSBの調査員と相対しました。N「で、今回の墜落事故ですが」 サ「墜落事故ではなく、不時着水です」N「世間では、英雄と騒がれているようですが、我々はあくまで事故の原因を調査するのが仕事です。ご協力をお願いします。」 サ「こちらこそ」 N「現在、ブラックボックスを回収し、フライトデータの解析を急いでいます。」 サ「是非立ち会いたい」 N「こちらにお任せください。」よく飛行機事故で耳にするブラックボックスですが、実際はオレンジ色をしています。そして、コクピットの音声を記録したボイスレコーダーと、飛行高度や機体の状況を記録したフライトレコーダーの2種類があり、飛行機後部の天井裏(トイレの上?)辺りに搭載されています。N「で、前日、酒は飲まれましたか?」 サ「飲んでない」 N「麻薬は?」 サ「やったことがない」N「最近、家族と何か問題はありましたか?」 サ「あなた方と同じ程度に良好です」初日の調査は、その程度で済みました。でも、夜遅くなったようです。タクシー(イエローキャブ)の中で、サリー機長は家に電話をかけますが、全米から電話がかかっているようで、通じません。留守電だけを残し、切ります。ジェフ副機長がうんざりしています。ジ「まるで俺達を犯罪者のように扱いやがって」 サ「まー、そー言うな。事故が起きたら徹底的に調べるのが彼らの仕事だ」ラリーは、サリーの同僚で、サリーとジェフのサポートをするために同行しています。ラ「でも、飛行記録が解析されたら、すぐ解放されるんだろ?」 サ「そう願いたい」そこで、タクシーの運転手は言います。「お乗せ出来て光栄です。最近、暗いニュースばかりのアメリカで唯一素晴らしいニュースだ」そう言いながら、サリーの写真が乗った新聞の切り抜きを見せました。丁度信号だったのでしょう。2人は握手をします。「ありがとう、運転手さん」2001年9月11日の同時多発テロに続き、2008年9月15日からはじまったリーマンショックで全世界経済不況のさなか、まだ5カ月しか経過していない時期です。サリー機長は、事故の翌日16日に、ブッシュJr大統領と、4日後に就任予定のオバマ大統領から感謝の電話を贈られ、そして事故5日後の1月20日に、オバマ大統領の就任式に家族と共に出席しています。アメリカ中が、カクタス1549便の救出劇の報道をし続けていました。それは、サリーの家も例外ではありません。報道陣が家を幾重にも取り囲んでいました。そこに電話がかかってきます。サリーの妻・ローリーは慌てて電話に出ます。サ「やっとつながった」 ロ「あなた、大丈夫なの?」 サ「私は元気だよ。でもしばらく帰れそうにない」ロ「どうして?」 サ「事故の原因が判明するまでは、ホテルで拘束される」 ロ「何か、あなたが遠い人になったみたい。愛してるわ」 サ「私もだ。また、明日の朝、電話をかける」
「ハドソン川の奇跡」ネタバレあらすじ:3.英雄とペテン師の挟間
翌日、NTSBの査問会で衝撃的な事実を知らされます。何と、フライトレコーダーの記録では、左エンジンが微力ながら動いていたと言うのです。「そんなはずはない。左エンジンを調べてくれ」でも左エンジンは着水時の衝撃で千切れて沈んでしまい、現在、捜索中で、引きあげはしばらく無理です。NTSBの査問会以外に、サリーとジェフはバラエティー番組や報道番組にも出演しなければいけませんでした。そこでは英雄として、ふるまわなければいけませんでした。そして、行く先々で、マスコミに囲まれ、車に乗るだけでもインタビュアーをかき分けて乗りこまなければいけませんでした。サリーは家に電話をかけます。でもローリーも疲れてました。ロ「あいつら(報道陣)、殺してやりたい。」サ「いいぞ。俺が許すぞ」 ロ「バカいわないで、あなた殺人ほう助罪になるのよ」 サ「しばらく帰れない。」ロ「愛してるわ」 サ「悪い。もう行かなくちゃ」TV出演前に、「母から」といって、いきなり若い女性に抱きつかれます。彼女はテレビのスタイリストでした。さらに「母は離婚していて、シングルなんですの」と続けますが、サリーは断ります。「あいにく、妻と娘がおりまして」。でも、若い女性は気分を悪くした様子ではありません。「素敵な人ですもの、当然ですわね。奥さんと娘さんに幸運がありますように」サリーは1人になり、窓の外を見つめます。ビル群が見えます。そこにジャンボ・ジェット機が落ちてきて、またビルに激突しました。ラ「サリー、どうした?」 サ「いや、何でもない」バラエティー番組では、スチューワデス(キャビン・アテンダント<CA>)のシーラ、ドナ、ドリーンの3人と一緒に出演でした。司会者「で、機長は何と言ったんです?」 CA「衝撃に備えて(ブラス・フォー・インパクト)」 司「今まで聞いたことありましたか?」 CA「いえ、ありません。」司「失礼、質問を間違えました。プライベートで言われたことは?」 場内爆笑。サリーもジェフも笑ってました。NTSBの調査では、コンピュータが、左エンジンが微力に生きていた場合、2つの飛行場に着陸可能だったという計算を出しました。ジ「そりゃ、1回や2回なら成功をする可能性もあるでしょうが」N[いえ20回計算して、20回ともです。説明を続けますか?」 サ「いえ、結構、」サリーは疲れてホテルに帰るなり寝込んでしまいました。でもテレビをつけっぱなしで寝たのでしょうか?女性レポーターが、「今までのチェスリー・サレンバーガー機長の英雄評価を下げるような、彼に不利な新証拠がNTSBで見つかりました」と話しています。「彼は英雄なのか、それともペテン師なのでしょうか?」そこで、サリーは目を覚まします。テレビは消えていました。寝付けなくて、ジェフに電話をかけます。彼も眠れないようです。2人で外に出ました。飲みに行くのかと思いきや、再びジョギングに出かけるのでした。その晩の夢は、はじめて飛行機に乗った時の夢でした。サリーは、16歳の時に、農薬散布機の操縦を教わりました。そして、その時の教官であったクック氏は、飛行機操縦のコツとして最後にいました。「いつも笑顔でいることだ」 翌朝、サリーはローリーに胸の内を打ち明けました。ロ「あなた、銀行が待ってくれないわ」 サ「いざとなれば、家を売って…」 ロ「あなた、どうしたの?事故だったんでしょう?」 サ「左エンジンが、わずかに生きていた可能性が出てきた。そして、コンピュータの計算では、空港に無事つけた可能性があるらしい。クビになれば、解雇され、退職金も出ない。副業も終わりだ。40年間の勤務経験は無視され、たった40秒の判断で疑われる」 ロ「どうして、不時着水なんてしたの?」 サ「高度が低く、あの時は、あれがベストの判断だったんだ。愛してる」 ロ「私もよ」
「ハドソン川の奇跡」ネタバレあらすじ:4.タイミング
いつものようにジョギングに出かけます。そして、走りながら、1度目の事故の時を思い出しました。サリーは18歳で空軍士官学校に入学し、29歳まで空軍に所属しました。そのさ中に、F-4ファントムⅡで、エンジントラブルが発生したのです。緊急着陸しなければいけません。2基編隊のバディ機が周囲を旋回し、被害状況を知らせます。エンジンは火を噴き、黒煙が出ていましたが結局、着陸は無事成功しました。そして、目指していた場所にはファントムが展示されていました。ニューヨークでF-4戦闘機が夜間に見える場所はどこだろうと思って検索してみると、イントレピッド海上航空宇宙博物館のようです。空母の上に、航空機を展示しているほか、艦船も係留しているようです。(スミソニアン航空博物館はワシントンDCにあります。)いつしか夜になっていました。バーに入ります。マスターが注文を聞きますが、顔を覗き込む。「アンタ。もしかして、サリーさん?」 バーのいたるところに、サリー機長の顔写真が張られていました。何でも「サリー」という名前のカクテルまで作ったそうです。「1月15日に乾杯」と常連客も含めて、サリーに賛辞を送ります。「とにかく今日はいい日だ。サリーは来るし、全てタイミングだな」サリーは引っかかりました。「タイミング…」テレビの中でもサリー機長を称える報道が続いていたので、マスターはつい、そっちを見てしまいました。「で、サリー」 マスターが振り向いて呼びかけた時、飲み干したカクテルグラスの下に1ドル札が敷かれてました。サリーは、急いでラリーに電話をかけます。ラリーも終日の査問会とTV出演のつきそいで疲れて、早めに寝ていました。ラ「どうした?」 サ「36時間後に、公開で公聴会が行なわれる。パリで、パイロットによる飛行検証を前倒しに出来ないか?」 ラ「何とかやってみる」 「タイミング、全てはタイミングなんだ」
「ハドソン川の奇跡」ネタバレあらすじ:5.公聴会
翌朝、サリーが電話をかけると、ローリーに謝られました。「あなた、ごめんなさい。あなたも155人の乗員・乗客の1人、被害者だったのよね。もし、あなたが死んでいたらと、今頃になって実感がわいてきた。怖い」 サ「大丈夫。僕は生きている」 ロ「世界中がたとえ敵になっても、私たち家族はあなたの味方よ」サ「ありがとう。愛している。」 ロ「私もよ」公聴会会場の扉前で、ローリーは深呼吸をします。なかなか扉を開けれません。でも、思い切って飛び込みました。中には、百人以上の人間がひしめき合っています。そして、しばらくして公聴会がはじまりました。最初に、「USエアウェイズの方から、他パイロットによる飛行検証の申し出がパリから出ている。何故、こんな時間も費用も賭けたのか分からん。」NTSBの調査員から嫌味を言われますがサリーは涼しい顔をしています。「それでは、はじめます。」画像はパリからの衛星中継です。ラガーディア空港から飛び立ち、元のラガーティア空港に帰るか、ニュージャージ州のテターボロ空港に不時着するかの検証飛行実験です。勿論、シミュレーターの中での実験です。ところが、両方とも成功してしまいます。ジェフ副機長は動揺していますが、サリーは問題点を指摘します。実はサリーも1991年にロサンゼルス空港で起きた飛行機事故の検証に参加したことがあるのです。「実に見事なフライトでした。ですが、見事過ぎました。我々は、1度も練習せずに事故に見舞われた。それに彼らは、何の躊躇もせず、空港に向かった。事故による動揺や、マシンチェックの時間、人的要因を考慮していただきたい。一体、何回練習したのですか?」N「17回だ。」 サ「何ですって?」 「テターボロ空港の着陸を担当したパイロットは17回練習したと言っている」 サ「NTSBの調査員の方々は、公平に審査をされると言っておられたので、是非フェアに調査していただきたい。」 結局、35秒の待機時間が設けられることになりました。ジェフが言います。「35秒では短すぎる」 サリーもいいます。「まー見ていろって」そして、35秒の待機時間の結果、行なわれた飛行シミュレーションですが、ラガーティア空港の方は、滑走路手前の海の誘導灯の上に落ちてしまい、テターボロ空港の方は、サリーが何度も悪夢で見ていたように街中のビルに突っ込んでしまいました。続けて、ボイスレコーダーの音声の再生が始まります。ボイスレコーダーの音声は208秒です。本来30分録音でき、飛行中は、何度も上書きされ、最後の30分間の音声が記録されます。つまり、離陸してから不時着水するまで208秒…3分28秒しかなかったのです。いよいよ真相が明かされます。映画を見ている観客も音声だけなら、サリーの悪夢という形で何度も上映中に聞かされています。
「ハドソン川の奇跡」ネタバレあらすじ:6.1549便の真実と真相
2009年1月15日、サリーは、売店で、店員が進めるツナサンドを買います。その後、車いすの女性が娘に押されて入ってきました。ダイアンとルシールです。母親のダイアンが孫にお土産を買おうとして立ち寄ったのでした。ダ「これなんか、どうかしら。ニューヨーク土産に」それは摩天楼が入ったスノードームでした。ル「まだ1歳よ。何も分からないわ」 ダ「あなたにも買ってあげるから」 ル「もう、仕方ないわね」その横では、まだ搭乗手続きが済んでいない3人の男性が走っていました。父親のロブは足が悪いようで、「待ってくれ」とか言っています。息子のジェフと甥のジミーは仕方なく待ちます。そのせいで、搭乗手続きが終了後に、受付にやってきました。ジ「彼は明日、重要な用事があるんだ」 受付「何ですか?」 ジ「ゴルフだ」受付嬢は笑って言います。「席はバラバラになりますが、構いませんか?」 ジ「構わない。ほら親父行くよ」(ロブの息子もジェフでややこしいですが、事故再現シーンのみの登場ですので、副機長の場合はジェフ副機長と呼ぶことにします。そして、父親のロブは6C、甥のジミーが6A、そして息子のジェフは少し離れた13Bになりました。)ここで疑問に思ったのは、2001年の911で国内線ハイジャックで問題になったはずなのに、アメリカの国内線では未だに、搭乗者の名前の記入がないことです。とはいえ、広いアメリカでは、国内線はバスのような感覚なので、その名前確認を省略したくなる気持ちは分からないでもないのですが。ジェフは後ろの方の席に行く途中で荷物を上のロッカーに仕舞うのに困っていた女性を手伝います。母の車いすをしまおうとしていたルシールかもしれません。でも、車いすって、あのロッカーに入るほど小さく折りたためないよな。普通に荷物だったのかもしれません。さて、コクピットでは、ジェフ副機長が「見ましたよ機長、あなたのHP。大したほら吹きだw」サリー機長は言います。「ホラ吹きと言われたのは、始めてだ。」 ジ「あ、気を悪くしないでください。あのHPなら、私も安全コンサルタント申し込みますよ。全米3州に支社があって、従業員は100人以上。でも実際は、あなた一人。」 サ「会社は軌道に乗るまでが勝負。だから、秘密にしておいてくれ」CA(キャビン・アテンダント)達が話しています。「たまにはラガーティアから定時で出発したいわね。」「いい方法があるわ。JFK空港から出るのよ」(JFK空港は、同じくニューヨーク市にある、アメリカで最大の混雑と事故が多い繁忙空港。要するに「JFK空港よりはマシだから、我慢しましょう」ということなのでしょう。)さて、1549便はノースカロライナ州シャーロットに向かって2時間のフライト予定で、20分遅れで、15時25分56秒に離陸しました。ジェフ副機長が「向こうに着いたら、リブステーキをおごりますよ」と言いますが、サリー機長は「別の店がいい」と言っています。
「ハドソン川の奇跡」ネタバレあらすじ:7.事故発生
そして、離陸から1分25秒後の15時27分11秒にバード・ストライクが起こりました。鳥の衝突です。カナダガンの群れがツッコんできたのです。シミュレーターでは、コツン・コツンと軽い音が2つするだけですが、実際は群れなので、ゴンゴン、ゴンゴン…1分近く、ぶつかり続けます。そして両エンジンのトラブルに気づきます。出力がドンドン下がっていくのでした。サリーは急いでAPUを作動させます。APUとは補助動力装置のことです。これは当時のマニュアルにはない行動でしたが、このおかげで飛行制御コンピューターがパイロットの操作を補助することにより失速を回避することができたそうです。また離陸時からジェフ副機長が操縦していました。これは普通のことです。13秒後、ジェフからサリーに操縦が変わります。ジェフがまずしたのは、QRH(クイック・リファレンス・ハンドブック)を開くことでした。でも、ここでも手順を飛ばして、15ページからエンジン再始動をはじめます。というのも緊急対処マニュアルのQRHは2万フィート(高度6千メートル)で事故が起きた時の対応法です。1549便の現在の高度は、その7分の1の2800フィート(高度850m)しかないのです。順序良く手順を確認している場合ではないのです。ジェフ副機長は、「イグニッション(再点火)」と、エンジンの再起動を試します。サリーはラガーティア空港に連絡します。「メーデーメーデーメーデー。こちら1579便、両エンジントラブルにつき、そちらの空港に緊急着陸したい」 管制官のパトリックは答えます。「どっちのエンジンだって?」 「両方だ。鳥にやられた」ちなみに、緊急事態宣言の「メーデー」の前段階に「パンパン」x3回の準緊急自体を知らせるサインもあります。「パン」はフランス語で「故障」の意味があります。そんなことを言っている場合ではありません。サリーは、どうにかして、自分を含め、155人が生き残る方法を模索します。まず、フォワードスリップと言われる翼に出来るだけ揚力を発生させ、グライダーのように滑空させ、急降下を防ぎますが、それでも高度は下がっていきます。そこで、提案します。「テターボロ空港に降りたい」 航空管制官のパトリックは急いで手配を急ぎます。テターボロに向かうには大きく左回転すれば、いけるのですが、ラガーティアに引き返すには、右に急旋回して10km飛ぶ必要がありました。ハドソン川の上を飛んでいたのですが、高さ184mのジョージ・ワシントン・ブリッジが眼前に迫ります。その時の高度は1640フィート(500m)でした。つまり、マンハッタン島に向かえば、444mのエンパイアステートビルにぶつかることになります。どんどん高度が下がります。都市部に向かえば、マンハッタン島には160万人の人が住んでいます。乗客のみならず、住民の何分の1かを巻き込むだけで911以上の大惨事になります。決断の時は来ました。(とはいえ、テターボロはニュージャージー側にあるんですが)
「ハドソン川の奇跡」ネタバレあらすじ:8.不時着水
2分48秒を過ぎた時点で「川へ。ハドソン川に降りる。」そう宣言して、サリーは客室に放送します。「衝撃に備えて(ブラス・フォー・インパクト。)」CA達は「頭を下げて。姿勢を低くして。(ヘッド・ダウン。ステイ・ダウン)」と連呼し続けます。椅子に切断されなくするためです。厳密には、あぐらをかいて、足も切断されなくした方がいいという意見もありますが、足で踏ん張っていないと、飛ばされやすくなるので、素直にCAの指示に従う方がいいでしょう。乗客は祈るものや、携帯電話に遺書を書く者もいます。赤ん坊を抱いてる女性に男性が「代わりに抱きましょう」と行ったりもしています。(凄まじいGがかかり、万が一、手放して怪我させないようにでしょうか?)パトリックは、何とか思いとどまらせようとします。他の管制官は、サリーの麻薬や前日の飲酒を調べるように指示する者もいました。というのも、成功率が高い不時着と違って、不時着水は難しいのです。どのくらい難しいかというと、1982年1月にポトマック川墜落事故では、凍った川への墜落で乗員乗客79名中、74名が死亡し、橋で走っていた車も巻き込まれて、さらに4名が亡くなっています。これは墜落ですが、不時着水の例もあります。1996年11月、インド洋コモロ諸島の沖に着水したエチオピア航空961便では、ハイジャックされ、燃料切れになったのもありますが、乗員乗客175名中、犯人3名を含む125名が亡くなっています。死亡率71~93%です。みすみす死ぬと分かっているのに、それを止めない航空管制官はいません。でもサリーには勝算がありました。なぜならハドソン川の川幅は1km以上あります。問題は船です。そして、無事着水できても、救助されなければ、飛行機ですが、浮くように出来てないので沈没してしまいます。そのため、船着き場の近くで船がいない場所を選びました。決断から40秒で着水します。15時30分42秒のことでした。離陸から4分48秒のことでした。バードストライクからは3分32秒のことです。つまり、サリーの決断は2分48秒で行なわれたわけです。
「ハドソン川の奇跡」ネタバレあらすじ:9.沈没の危険
偶然にも川の流れに沿って着水したために若干、衝撃を和らげる役目を果たしたものの1549便は着水の衝撃で停電になります。そして、後輪から着水したために、後部座席の方から浸水し始めました。また、オイル漏れ等からの引火による火災も発生する危険がありました。なので、無事着水しても、通常なら90秒で脱出する必要があります。とはいえ、エンジンは止まっているので、しばらくは大丈夫のようです。でも、気温は氷点下6度、水温は2度です。2度の冷水が機内に流れ込んできてパニックになります。サリーとジェフも急いで、客室に向かい、避難誘導を手伝います。CAは乗客に非常扉を開ける支持を出し、乗客は扉を機外に捨て、主翼の上に出るのでした。でも、1人は泳げると判断して、飛びこんでしまいました。どうやらロブの息子ジェフのようです。でも、水温は後部扉は使えないので、全員、前の扉か非常扉から出る必要があります。ゴムボート型のスライダーで、乗客を外に出ます。1人の女性は、オイル漏れに気づき、足を滑らせて、水に落ちてしまいます。サリー・ジェフ副機長・CA達は、乗客に「外は寒いです。服を着て」と、上部ロッカーを開け、乗客に服を着させます。機内にあるだけの毛布を持ち出して、体温が冷えないように氷点下6度の外に出た乗客に配りました。サリーは2回、残っている人がいないか、浸水して沈んだ後部座席まで確認に行っています。ルシールは足の悪い母親ダイアンを乗客に手伝ってもらって、何とか外に出しました。足を怪我したようです。ロブは、息子のジェフがいないことに気づきますが、甥のジミーがなだめます。「きっと、無事でいるよ。乗員が誘導してくれてるし」さて、周囲も1549便の着水に気づいていました。着水の1分前には、管制官の呼びかけで、ハドソン川に落ちかけていることを観光ヘリ2機が報告しており、NYPD(ニューヨーク市警)も水上パトロールが出場準備をしていました。でも、それよりも早く着いたのは通勤フェリーでした。着水の4分20秒に到着しています。それだけではありません。水上タクシーや沿岸警備隊、消防艇もやってきます。ヘリも出場し、水に投げ出された2人も無事救出されました。結局、14隻が救助に参加しました。それだけではありません。子どもや女性、老人の救助が優先され、乗客も我先に助かろうと誰もしなかったのです。全員の救助まで24分です。サリーは機内に誰もいないことを確認して、制服の上着を着て書類ケースを持って最後にスライダーに飛び降り、飛行機から切り離しゴムボートにしました。無事救助されたものの、上陸してからも気が気ではありません。搭乗者全員の無事を確かめようとしましたが、応援に駆け付けた同僚のマイクに止められ休むように言われます。そして彼らが代わりに確認してくれるようになりました。今の自分に出来ることは休んで何かあった時に備えるだけです。サリーは家に電話をかけます。ローリーはまだ事故を知りませんでした。「TVをつけてくれ。今日は帰れない。また電話をする」そう言われてからロ-リーはTVをつけて事故を知るのです。まもなく、救助者人数が判明します。155人です。乗員乗客全員無事です。とはいえ、怪我したものもいました。凍死にならなくても、体温を低下させている者もいました。それでも、全員生きています。その頃サリーは検診を受けていました。脈拍が110です。普段なら55です。でも、全員無事と聞いて漸く安心しました。マスコミ対策で、あるホテルに招かれました。ジェフ副機長はすでにシャワーを浴び、バスローブに着替えていましたが、サリーは未だに制服です。応援に駆け付けた同僚のラリーが「何でまだ制服なんだ?」 そこに、ホテルの女性従業員がきました。「我がホテルでは、お二人のプライバシーを全力でお守りします。そしてこれは、全従業員の気持ちです」サリーはいきなり抱きつかれました。「何でもおっしゃってください。英雄様」サリーはとまどいながらも「この制服しか持っていないから、明日までにクリーニングしてもらえないか?」 従「ドライで構いませんか?」 サ「できるだけ頼む」従「冗談ですよ。何なら、このホテルだって差し上げます」 そう言って、女性従業員は去りました。サ「何だったんだ?」 ラ「言ってたろ。英雄様。明日から忙しくなるぞ」その頃、ロブは息子のジェフを甥のジミーと探していました。その時、電話がかかってきました。ジェフからです。「ニュージャージー側にいる。安心してくれ。生きている」 3人は、お互いの無事を喜びました。ゴルフには行けませんでしたが、生きていてこそです
「ハドソン川の奇跡」結末
ボイスレコーダーの再生は終わりました。サリーは言います。「続けますか?」 NTSBの調査員は首を振ります。「なら少し休憩させてください」サリーとジェフは出て行きました。廊下で、2人はガッチリ握手をします。サ「感想を言っていいか? 私から言おう。俺達はよくやった。実に冷静な声でいいチームワークだった。」 ジ「あなたと組めて光栄です。」公聴会は再開されました。NTSBの方からも報告があるようです。「※引き揚げられた左エンジンは破損しており、フライトレコーダーの記録ミスと判明しました。我々が見落としていたのは、あなたという「X」の存在です。あなたがいたからこそ、不可能な不時着水も可能になったのです。」 でもサリーは否定しました。「あの不時着水は決して奇跡ではないし、自分が英雄であるとも思っていません。私はこれまでの40年間と同様、普段の訓練通りのことをしただけです。全ての乗客、そして乗務員、それに駆けつけてくれた救助の方々の一致団結のおかげで、1人の犠牲者もなく、全員助かったのだと私は思っています」 惜しみない賞賛の拍手が送られました。(※実は機体の引き上げ自体は事故当日に行なわれ、流された左エンジンも3日後に発見されていました。) そして、場面は変わります。2011年にオークションで買い取られた1549便はカロライナズ航空博物館に送られ、この映画のために再度サリー機長ご本人と、奥さんであるローリーご本人が、50人の元乗客と再会を果たしました。2人には毎年バースデーカードやクリスマスカードが数多く送られてきて、感謝の気持ちを伝えられているそうです。そして、それを開封するのは奥さんのローリーさんです。サリー機長も、乗客全員への感謝を伝えました。実際のサリー機長はガッシリしたトム・ハンクスより細いです。それでも鍛え上げられた芯のような強さがある人でした。
以上、「ハドソン川の奇跡」の詳細あらすじ解説でした。
ハドソン川の奇跡:レビュー1
事故後のサリー機長は映画のように3か月間PTSDに悩まされ、現場復帰したのは9カ月後の10月です。もちろんコ・パイロットはジェフ副機長です。そして翌2010年3月に現役引退をします。現在、ジェフは機長として大西洋横断路線を飛んでいます。サリー機長にとって、英雄とは「危険を冒す者」のことであって、そう呼ばれることを望まないそうです。そして奇跡とは必然や人の力の限界を超えた現象のことです。この事故の関係者はイチかバチかに賭けたのではなく、それぞれがベストをつくした結果、全員生存を達成したのです。で、実はNTSB(国家運輸安全委員会)の調査は事故の18カ月(1年半)後に始まっています。つまり、サリー機長の引退後のことなのです。でも、サリー機長が疑われたのは事実です。しかも、コンピュータの間違いのために。機械も人間が入力ミスをおかせば、間違うと言うことを忘れてはいけません。疑うなら全てを疑うべきです。とはいえ、元々離陸から全員救出まで30分足らずのために、NTSBの査問会を前倒しにして劇的にしたようです。だから、何か、NTSBの公聴会に違和感があったようです。イーストウッドの作品にしては、ぬるい気もしてたし。そして、クリント・イーストウッド監督自身も21歳の時(1951年:朝鮮戦争の頃)、海軍の軍用機に乗っている時に、シアトルからカリフォルニア州アラメダに行く途中、レイズ岬で墜落し、数km泳いだ経験も作品に生かされたがそうです。「メーデー~航空機事故の真実と真相」シーズン9の第1話で語られた「ハドソン川の奇跡」ではカナダガンの体重の計測間違いが原因だった気もしますが、別の事故と勘違いしてたのかも。2kgでなく5kgあったような記憶。
ハドソン川の奇跡:レビュー2
監督はクリント・イーストウッド。かつては、ダーティーハリー他を演じた役者ですが最近は、「父親たちの星条旗」「ジャージーボーイズ」や「アメリカン・スナイパー」など、実際に起こった出来事を映画にする監督としても有名になりました。岡田斗司夫さん曰く、「イーストウッドは※ボクサーのような映画監督で、観客にこれでもかと人生の痛みや苦みを押しつけてくる監督」と評していたけれど、この痛みとは人生の挫折。しかも栄光の後に、突然やってきます。だから、ある程度、映画視聴に覚悟がいります。(※勿論、ボクサーも監督も一般人である観客を殴ったりしません。)主役であるサリーを演じるのは、トム・ハンクス。まもなく公開される「インフェルノ」のロバート・ラングトン博士役と比べると、白髪に白ひげで、一見トム・ハンクスに見えない化けっぷりです。トム・ハンクスといえば、「プライベートライアン」「アポロ13」「キャプテン・フィリップス」など、助けたり、助けられたり、主に危険な状況から自力で脱出する役も多い役者さんです。ところで、自分は、この2009年1月15日に起こった着水事故の記憶が全くありません。WIKIを見ると、少なくとも2009年1月16日の朝日新聞の夕刊で報道はされたようです。後年、ナショナル・ジオ・グラフィック・チャンネルの「メーデー~航空機事故の真実と真相」のシーズン9の1話(2011年)で知りました。飛行機事故の検証番組で、上空から落ちることが多いため、生還率がかなり低く、人的要因(ヒューマンエラー)であることが大半です。それだけに、この着水事故はパイロット他の懸命な努力で、乗員・乗客を全員生かした、かなり好きなエピソードです。この事故の搭乗者には日本人も2人(堺商事の社員)乗客として乗り込んでいたそうです。当時の乗客や報道関係者が多く、本人役として出演もしているそうです。勿論サリー機長も。
「ハドソン川の奇跡」感想・レビュー
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実話凄いです。パイロットの状況把握、最善方法を導き数秒で判断 ドキドキしました。
そのあと市民からの英雄の声の後ペテン師疑惑どこでの苦しみ 家に帰れない妻にも会えない精神がどんどん追い込まれ弱って行くところは悲しかったです。155人ものの人を救ったのに…だが公聴会でのボイスレコーダーでのシュミレーションでの真実どんでん返しは好きです。
大好きな映画です。トム・ハンクス、アーロン・エッカートの落ち着いた、滲み出る魅力がたまりません。ずうっと張り詰めた緊張感が続きますが、ラストシーン、アーロン演じるスカイルズ副機長の一言が、何度見ても何度聞いても、スカッとします。クリント・イーストウッド監督の感性とセンス、さすがです。